第十三話 「嘘」
すでに入り口には大勢の兵士が控えている。中からこっそりとその様子を見ている千宙達は、さすがにあの包囲網を抜けるのは不可能だろう。
この地区に侵入した時は特に何も調査等はなく、バレたとすれば千宙達と接触した人間による密告。
まさか、遥実の逮捕に共に心を痛めた店主が裏切るとは想像もできなかった。やはり信じたのは間違いだったと千宙は後悔を後に立たせる。
すると店主の様子がおかしかった。
「あいつ、昨日話したのに......!」
「昨日話した?」
「今だから話すがな、あいつは昨日の夜お前達が寝た後に政府に通報しようって俺に相談してきたんだ」
なるほど、と納得した四人。政府に通報したのは店主ではなく店主の奥さんだったのか。
だが店主の様子を見る限りだとーー
「止めて......くれたんですか?」
「何の因果なんだろうな。今までの俺だったらとも考えたし、遥実の知り合いじゃなかったらとも考えた。でも、俺たちは引き合っちまったんだもんな」
店主は家の奥に行って、パンパンに小銭が詰まったがま口財布と地区間の通行許可証を持ってきてそれらを千宙に渡した。
「俺のへそくりだ、少ないが持って行け。いいか?俺が事情を説明するから、その間に勝手口から外に出ろ。そこまでだったら俺が匿ってやる。その先は景色が抜けてるし、インタリュードを出るとこまでは流石に面倒見切れんが、どうする?」
こうなってしまっては仕方がない。選択の余地は無く、千宙は財布を受け取り礼を述べて立ち去る。
しかし未巴琉は最後まで店主の事を心配していた。
「ありがとな、俺はまた地上人が好きになったぜ。いつかお前達が地上に上がれたらよ、俺にも伝わるくらいデカい声でお前達の成功を教えてくれよな」
そう言い残して店主はその場を立ち去ろうとするが、千宙がそれを飛び止めた。
「待って。紙とペンありますか?」
玄関では、ちょうど奥さんが家に入る事を承諾して兵士たちが屋内に侵入するところだった。
「どうした?朝から騒々しいな」
「あなた、ごめんなさいね。私はどうしてもあなたと穏やかに過ごしたいの。犯罪者をうちに置いておくことはできないわ」
「貴方が通報のあった地上人をインタリュードに招き入れた方ですね。地底法に則って、貴方にもお話を聞かなければならないのですが、検問所までご同行願えますか?」
しかし店主はまるで昨晩の話し合いなんてなく、あくまで自分も犯罪者の逮捕を望んでいたかのように振る舞う。
「別に謝ることはねぇだろ。俺だってあいつらが犯罪者だって知ってたら、こいつらに突き出したんだがな......ほら、これ」
そして手に持っていた紙切れを見せた。その紙にはこうある。
『苺のおじさんへ、騙していてごめんなさい。お世話になりました。地底政府へ、この夫婦に手を出したら報復へ向かう。地上人』
これを見て兵士たちは、夫婦の潔白と犯罪者の取り逃しを悟った。
(こんなことしなくても良かったのによ、ますます俺を惚れ込ませるな。負けんなよ、お前ら!)
そして勝手口ではお尋ね者になった四人が逃走の準備を整えていた。
「【本魔法・脱獄囚の涙】」
未巴琉の魔法で四人は姿を消した。
「流石に四人に魔法をかけ続けるのは長くもたないので、急いでくださいね!」
四人は一先ず走って障害物の多い街の方へ向かうことにした。
移動中も四人は店主の懐の広さに感服していた。最初に出会ったのが彼で良かった。
「一応あの人たちの迷惑にならないように出てきたつもりだけど、もし何かあったら私たちが捨て身で助けないとね」
四人は街の方へ走っていく。
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同刻、地底政府ロストラムの第一層拠点にある会議室前では一人の兵士がうろうろしている。
少しして会議が終了したのか、会議室から参加者がぞろぞろと退室する。
その兵士は「失礼します!」と声を張り上げ入室した。
「二点、ご報告いたします。先日捕獲した地上人ですが、第二審の日程が決定しました。キリア様にもご出席頂きたく、期日までに審問書の提出をお願いいたします」
兵士は封筒を、目の前にいる椅子に腰掛けた男に渡した。
「わかった」
「それともう一つ。件の地上人ですが、関係者と思われる地上人がこのUnderworldに侵入、潜伏中と先程通報がありました。現地兵による捕獲作戦は失敗したようですが、まだ第一層にはいるかと」
少し間が空いて、男は聞く。
「ヒョウは?」
「ヒョウ様は昨日の公務終了後、先に第二層へ戻られています」
男は机に立てかけてあった剣を手に取り、椅子から立ち上がった。
「わかった、私が行こう」
その男の名はキリア・シュタイン。ロストラムを支える地底政府幹部で、剣王の称号を持つ地底四天王の一人だ。




