第十一話 「いちご狩り」
四人は作業着を着て、ビニールハウスの前で仁王立ちする店主の話を聞いていた。
実は4人とも苺狩りは校外活動で経験済みなので、特に詳しい説明が無くても所作を理解していた。
「やり方は知ってるみたいだし、普通の苺を採るのと何ら変わらん!果肉さえ潰さなければ、お前さんらのやりやすい様に赤くなってるやつを取ってくれ!」
雅博と成未はぷつぷつと苺を狩る中、畝と畝の間を歩き抜ける千宙と全く動かない未巴琉に店主は注目した。
千宙は手に白い紐のようなものを持っている。それを引っ張ると、さっき千宙が通った畝から出ている苺の葉が一気に千宙の方に傾き、その畝に実っていた苺が千宙の持っていたバスケットにまるで釣り上げられるように入れられる。
これには店主も「おぉ!」と驚きの様子だ。
千宙の結合魔法は物と物を結合させる。その対象はある物とある物を繋げることができるが、一つずつではなく一気に幾つもの物体を繋げることも可能だ。
その分の質量は徐々に加算され、魔力によって接続できる総質量が決まる。更に魔力と総質量によって接続時間と強度が変わってくるが、一つ20g程の苺なら100個繋げても引っ張るくらいなら造作もない。
「ずるい!魔法陣展開してました!?」
「さっき足元でしたもーん!」
そしてさっきまで動いていなかった未巴琉も、ようやく動いたかと思えば右手を自分の前に上向きに出す。
すると掌に、桃色に光り輝く魔法陣が展開されてそこから本が出現した。その本はパラパラと勝手に捲れていって、ある頁を開いた所で動きが止まる。
「【本魔法・壮大でちっぽけな捜し物 (エピックタイニー)】」
すると本の上で魔法陣が開き、未巴琉の前の畝にある苺が一気にバスケットに集まっていく。
未巴琉は特別な物語が記されている魔導書を召喚する【召喚魔法】と、その本に書かれた物語に因んだ効果を及ぼす【本魔法】が使える。
さっき使用した魔法(物語)は、少年が夜空に浮かぶ星を集めるよう父に頼む物語だ。少年の父親は魔法を使って星空を集めるように見せるが、実際は幻影を見せただけ。手元には金平糖を携えて、星を美味しく食べたという無邪気な物語だ。
「お前もかよ、白砂山!」
「ちっちや未巴琉ちゃんと違って、私たちの魔法は採取向きじゃないもんねー」
「下手したら僕の魔法なんて、このビニールハウスごとひっくり返しちゃいますよ」
千宙と未巴琉の魔法を使えば手早く簡単に採取できることが分かったので、二人の魔法を駆使して苺を採取する。雅博と成未は、めちゃくちゃサボっていた。
魔法の恩恵でものの十分もしないうちに明後日までの販売分を採取した四人は、店主宅の縁側で休息を取っていた。
「麦茶ですよ、どうぞー」
店主の奥さんが麦茶を持って来てくれた。四人が礼を言うのとほぼ同時に店主も縁側にやってきた。
店主は封筒を持っており、それを千宙に手渡した。
「今日の給料だ。みんな、ありがとな」
ほとんど働いたのは千宙と未巴琉だが、千宙はその主張をグッと飲み込んで店主にも礼を述べた。
今日の仕事ぶりを見て、店主は魔法にいたく感心している様子だった。
「それにしても本当に魔法ってすげぇんだな!俺が半日かけてやることが、クソするよりも早く終わっちまったぜ!」
下品なおっさんだなという率直な感想をさっきよりも強くグッと飲み込んでハハハと渇いた笑いがその場に響く。
「あなた、そういえば今朝の朝刊が届いてましたよ。今日は少し早めに出たから読んで行かなかったでしょう」
時刻は午後二時を少し回ったところで、朝刊を読むにはあまりに遅すぎる時間だ。
「おぉ。お前達、もう二時だから遅くなったが飯食ってけ!今日の飯はーー」
そう言いながら朝刊を広げた店主は、見開き一面の大々的な記事を見て言葉を止めた。
そこに書かれていた記事を横から千宙達も見て店主と同じリアクションになる。頭から足にかけて一気に血の気が引いていくのが分かる。そしてその後発汗、急激に体が熱くなる感覚に襲われた。
その見出しにはこうあった。
『地底国家法違反により、地上人・御光遥実 捕獲』




