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原作ってご存知?  作者: safu
1章

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03.

アルルは一度下がり、すぐに副執事長(タマス)を連れて戻ってきた。近くで見ると執事長とよく似ているわ。タマスのが少し体格はいいようだけれど。


「待たせましたね。来てくれてありがとう」


「勿体ないお言葉です。この度の不始末、いかなご裁断であれ謹んでお受けいたします」


お礼を言ったら、すでにタマスの覚悟が決まりきっていた。不始末って言っても、タマスからしたら思慮の足りない執事が1人いただけよね。責任者はあっちにいる人だし。執事長(責任者)を横目で見ると、こちらに向かって深々と頭を下げた。


ジグムントと同じ先制パンチを食らわせてから、執事長は姿勢を直し名乗った。タマスのパパスはトマスという名前よ。もちろん知ってた。


すごく丁寧な言葉遣いで、不始末ってなんの事?と聞いてくる。私が説明してもいいけれど、タマスが意を決したような顔でいるからお願いした。そんな覚悟で言う程の話じゃないと思うわ?



「昨日、ザッカリー夫人から "お嬢様が癇癪を起こし部屋に籠もっている" と聞いておりましたが、実際には高熱で意識を失っておられました。夫人のレッスン中にお倒れになったようでございます」


さっそく知らない情報だった。でも想像できちゃう。いつもの手口だもの。


「侍女の話では、体調が優れないと伝えたにも関わらず夫人は強行したようで」


ちらりと見れば、目顔で頷くアルル。


「夫人と侍女が言い争っていると報告があった為、私が駆けつけますとちょうどお嬢様の部屋から呼び鈴が鳴りました。夫人は興奮しておられたので押し留め、彼女と一緒にご様子を確認させていただいたのです」


あら、あの時にタマスもいたのね。


「熱も高く、呼吸もままならぬご様子で。また意識を失われ、朝までそのままであったと聞いております」


そこで心苦しそうに顔を伏せた。顔を上げてタマスが続ける。


「私から馳せ参じるべきでございました。ですがその前に、お嬢様が執事をお呼びになっていると。そして彼女が… "まず自分が声がけ可能な執事を呼ぶので、聞いていてほしい"と… 」



どおりで。タマスを過大評価してたかも。聞いてたならあの厳しさも納得だわ。アルルが有能すぎない?


そしてドゴールとかいう執事とのやり取りを完璧再現。全部聞いてたのか。よく覚えてるわね、と感心して聞いていたら ガンッ!と壁が鳴った。


音がした辺りを見ると、壁にめり込む重厚なペーパーウエイト。残像から推測するに、投げたのがお父様で標的はトマス(執事長)だろう。ご自身も重厚な飾りみたいになっていた当主が動いたので、皆が固唾をのんで待つ。待つ。…。



…え、喋らないの?



「タマス。執事の処遇はトマスに預けます」



話を戻す私に皆が便乗。壁の穴は見えない事に。

タマスは私に視線を戻し、痛ましげに顔を歪めた。


「今朝、お部屋に夫人がいらっしゃいましたね。よくご一緒だと伺っておりました。"余人を交えず過ごすのがお嬢様の望み" だと、夫人がそう言われるのを私も聞いたことがあります。これまでも、いつもあのような…いえ、愚問でございました」


おっといけない。イラッとしちゃった。



「…なんだ」


お父様が自発的にしゃべった!

目付きが凶悪である。


「なんだと聞いている。()()()()()とはどういう意味だっ」


タマスが言い淀んでいる。言いにくいよねえ。聞くに堪えない罵詈雑言、伝えただけで無礼討ちされても文句言えないレベルだもの。まして立ち聞きだけして放置とか。


「閣下。どうかご容赦ください。タマスはわたくしを慮っております。お耳汚しになりますわ」



お父様が納得できなさそうにこちらを見ている。でも本題はそっちじゃないから細かい事はいいのよ。



「トマス、そしてジグムント。答えなさい。お前たちは侯爵家の嫡女たるわたくしを潰すために、夫人の言動を支持しているのですか」


「な…にを…そのような事はけして!!」


「お嬢様。至らぬ私共にさぞご不快かと思います。が、そのような物言いは信を損ねますよ。夫人もきっとお嬢様のそのような面を心配なされて…」


驚愕を表すジグムントと、冷静なタマス。決まりね。


「分かりました。もういいわ」


先にジグムントへ。しっかりと身体を向けて頭を下げる。


「ジグムント。失礼な対応をしてしまったわ。謝罪させてくださいね」


慌てるジグムントには申し訳ないけど、続きを。



「閣下。夫人はわたくしのみならず、お母様の事も侮辱しておりました。そして(くだん)の執事が後継の事に言及したのも、普段から夫人がそのように触れ回っているからですわ。体調を崩して寝込む事をどう言い換えても、 "癇癪を起こし部屋に立て籠もる" にはなりません。意図的にこちらを貶める目的としか考えられないでしょう」


能力面は他の先生だっているから誤魔化せない。だから "近しい立場" から見た情緒面での問題点を浸透させていたんだろう。


「アルル。閣下にお見せしたいの。服を緩めてくださる?」


なんかおじさん達が騒いでる。はしたなくても、見えないところしか叩かないんだもの。仕方ないでしょ。


肩や背中の傷痕を示せるくらいに脱がせてもらってお父様に見せ、また振り向いて尋ねる。


「新しい学びはなく、所以(ゆえん)のない暴力と主家への不敬を繰り返す夫人を、誰が雇っているのですか?」



お父様は答えない。当主が話さないので誰も動けず、私は肩が寒い。アルルーちょっと服直すから手伝ってー。



服を着直しても、お父様は握りこぶしをプルプルしているだけで何も言わない。じゃあ、伝えたかった事を先に言い切らせてもらおうかな。


お父様、と呼びかけると大きな身体がビクッと震えた。


「話が長くなってしまって申し訳ございません。お伝えしたかったのは夫人のなさりようではないのです」


話を聞いてもらう為に、臣下の間合いで説明した。でもここからは娘としてのお願い。


「ご覧いただいたとおり、わたくしの唯一の味方、それがアルルです。これまでもわたくしに尽くしてくれました。わたくしを潰したい者にとっては、彼女はさぞかし目障りでしょう」


軽く部屋を見回す。トマスはどんな顔してるかしら。


「昨日、アルルはとうとう声を荒げてまでわたくしを守ってくれました。しかし、夫人はそれを(もっ)て "侍女に相応しくない" と諫言するでしょう。アルルさえいなければ、味方のいない小娘1人どうとでもなると考えて。夫人を(そその)している誰かがいるならば、諫言はもっともだと言うはずで…あぁ、もうそういったお話を聞かされましたか」


お父様がさらに凶悪な顔で執事長を睨みつけている。



()()の思惑には興味がありません。そういった謀略も含めて貴族であり、この恵まれた暮らしに付随するものとして受け入れます。ですが、主人に忠義を尽くした者が不当に扱われるのは我慢なりません」


貴族同士なら日常茶飯時。弱ければ喰われるし隙を見せれば足を引っ張られるのが当たり前だ。個人的にはね、子ども相手にどうかと思うけど。


「わたくしから離すというだけならば何も申しません。どうかアルルに寛大なご処置をお願いしたく」



「お嬢様っ!私などのためにそのような…!」


「いいえ、アルル。聞いていなさい」


お父様を見据える。


「お父様。どうか教えてくださいませ。()()はアルルをどうせよと言いましたか」


「…嫡女を甘やかし、癇性を宥めることもせず便乗し増長している。とうとう凶暴な本性を現したゆえ…生家から縁切りをさせて下町に放逐せよと…」


「…ありがとうございます」


想像通り…いえ原作通りだわ。アルルは驚きのあまり声もないようだ。数歩の距離を詰めて、アルルの手を取る。目を見開いて私を見下ろすアルルに、口の端だけで微笑む。


「分かったでしょう。良家で育ったあなたが身一つで下町に放り出されて、どうなるか…死刑宣告より残酷だわ」


わたくしの心が泣いている。次の言葉だけ、下を向かせてね。


「わたくしもあなたにそばにいてもらいたい」


もう下は見ない。物語の為にアルルを死なせるなんて許さない。



「敵は幼子をいたぶり、罪のないあなたを死に追いやろうする化け物です。わたくしが引き際を見誤ったの。夫人の暴力に物申すあなたが異動させられそうになった時、そのまま手を離していれば…無理を言ってごめんなさい。一緒に耐えてくれて、本当にありがとう」


わたくしの気持ちが伝わるかしら。

あなたを想うわたくしが見えるかしら。


「あなたは唯一の家族だわ。離れてしまってもね。幸せに暮らせるように、きっとわたくしが守るから」



ダガン!ガゴ!!バキイッ!!!



涙目のアルルと微笑んだ私が見つめ合っていたら、粉塵が立ち込めた。


「どういうことだ…どういうことだ!!!!」


デスクが吹っ飛び、トマスが吹っ飛び、ジグムントがタマスを受け止めている。みんな一瞬で動きすぎじゃない?



「答えろトマス!!!!」


ビリビリと空気が震え、肌が粟立つ。鼓膜が痛い。

トマスはそこに…意識ある?殴り飛ばす前に聞いた方がよかったと思うわお父様。



「お父様。最後によろしいでしょうか?」



怒りに燃えたクリスタルブルーの瞳が、私を見ると悲しみに揺れた。あぁ、やっぱり…そうなのね。

わたくしも胸が痛い。それでも言わなければ。



「トマスや夫人がどのような心積もりであれ わたくしのあずかり知らぬ事です。ですがアルルに手を出すというのであれば、わたくしは戦います。たとえ相手がお父様の腹心であろうとも、お父様であろうとも、です」


● 目顔【めがお】

 目の表情

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