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原作ってご存知?  作者: safu
3章

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21.

妖精であれ精霊であれ。尊重すべき超常の存在だと思うが、我々とは同じ地上に住まうモノ同士でもある。



しかし聖獣は、存在意義が根本から異なる。



―― 聖なる御使いは 神の眷属 ――



不浄な人間が近付くなど赦されるだろうか。



「わたっ、わたくし…!…手をふれてっ!!」



なんてことを――!!

衝動的に立ち上がり膝をついたつもりだったが、実際は腰が抜けてへたりこんだだけだったかもしれない。


「申し訳ございませんっ…!!」


籠に向かって、何度も頭を下げる。


ヒロインの猫ちゃんと似たような子ね、なんて――!少し知ってる気がするからって調子に乗ってたんだわ…!!


「泣くな泣くな。大丈夫だ ヴァネッサ」


しゃくり上げる私にそっと手を伸ばすと、膝に乗せた。私の頬に手を添えて苦笑している。


「俺はな、力を持つ生き物を人が聖獣だと言っただけだと思うよ」


背中を撫でたり、髪を耳にかけたり涙を拭ったり。手は忙しく私を慰めてくれているが、声は落ち着いていて優しい。


「教会で話を聞いてから色々調べたんだがな。古く神子と呼ばれた者達は、確かに神の子だったようだ」


寝かしつけるみたいな声音で語りかける。


そして、"どこまで史実か分からんが" と前置いてから話してくれた。『それは神話では?』と思うくらい隔世の感がある、神子と聖獣の物語を。



*******



「――いろいろ話したが、要は『神子のそばにいる聖獣は触れる事も叶わない』が共通した伝承だな」


すごく要約された。まぁ確かに今大事なのはそこなんだけど。神子が『それはもう、ほぼ神なんじゃ?』ってなってたし、さすがに盛られた言い伝えだと思う。


きっと私を落ち着かせるために、信憑性の薄い事まで話してくれたんだろう。


「ありがとうございます。お父様のおかげで落ち着きましたわ…。取り乱してごめんなさい」


「いや、俺が端的に言ったからだ。不信心で悪いな」


信心深い、というより、八百万(やおよろず)の神々に対する畏怖だと思うけど…『敬して遠ざけるものだ』みたいな感覚ってこちらにはないのかしら。


「触れられるのは、これ(白貂)がそれを許しているからだろう。なら君の近くにいた方がいい。部屋に置いて構わないが、あまり人目には(さら)さんようにな」


"弱っているなら人の気配は毒だろう" と優しく笑う。


「でしたら、あの…護衛の件も…。申し出はとても有難いのですが…」


「あぁそれな。そっちはベンゴッタの倅のせいだろ?」


思い出したようにお父様が言う。そうか、元はランドルフ対策で提案されたんだった。


「あれが君を煩わせているのなら止めてやるが」


前も聞かれたが、困ってはいないのだ。私は選り好みできるような身体じゃないし。ランドルフが良いなら構わない、というか原作通りなら結婚相手だ。


都会的で整った容姿のランドルフは、気さくで会話も上手い。それゆえ熱を上げている使用人もいる。

そんな彼女たちからいろいろ聞き出し、なんとか私を動揺させようとあれこれ言うものだから、私の周りの人に警戒されてしまった。仕事熱心なのが裏目に出てるよ。


「わたくしは問題ありませんわ。ただ、彼が望まぬ行動を強いられているのでしたら、こちらから断った方が良いのかとも思いますけれど…」


「古狸か?今の当主はそう野心のある奴じゃないから、紐を付けているとしたらそうだろうがな」


大叔父は私を排斥して孫を当主にしたいのか、婿でいいのかどっちなんだろう。


「もう子どもじゃない。従いたくないなら家を出ればいいだけだ」


貴族の(しがらみ)が嫌なら平民になればいい、と。継ぐ爵位がなければ、もとより将来は平民だ。なら一応本人の意思でもあるのかも。


「目的如何(いかん)によっては排除しますわ。縁組であれば、有難い話ですもの」


様子見でいいよ、と伝える。

あ、忘れてた。


「そうですわ。お父様に差し上げたいものが…」


アルルに視線をやると、アイロンのかかったハンカチを出してくれた。さほど上等な布ではない。


教会へ通うようになった最初の頃、主教様が護符の書き損じを "内緒ですよ" とくださったのだ。本来は焼却処分すべきなのだが。


"売りつけたりしなければバレませんから" と、聖職者のお顔で言うから笑ってしまった。


でも、護符をそのまま使うのは良くない気がした。まかり間違って何かあったら、主教様に迷惑がかかるかもしれない。だから紋様を少しだけ真似させてもらって、籠目を刺繍したハンカチに祈りを籠めた。


「護符のような効果はありませんが、お父様をお守りくださるように祈りました。あの…刺繍は(つたな)いのですけれど…」


ハンカチを持ったまま、お父様が顔を上げない。

まじまじ見られると粗が…。


「紋章を入れるべきだったでしょうか…?」


入れるか迷ったんだ。でも紋章は難しくて、どうやってもみっともなくて、練習してたらいつになるか…


「トマスも、もっと上等な布を準備すると言ってくれたんです。でも、帆を作ってくれている工房に布をお願いしたくて。いい風が吹くように、水のご加護がありますようにと…」


そう思ったのだけど…違和感がすごいな…。

あの生地感、上位貴族は持たない…そして、お父様には圧倒的に似合わない…!


「その…もう少し練習してから、またトマスに生地を頼みますわ?」


作る時はいいと思ってたのに、渡してみると的外れだった。今すごく恥ずかしい…!!


渡された粗品になんと言っていいのか分からないようで。動かなくなったお父様の、手に持たれたハンカチを見るほどになんともいたたまれない。



―― いったん…! いったん回収しよう…!!



そろりと体勢を崩して手を伸ばす。

パッと取っちゃって、これは練習のやつでしたって言えばいいわ ――


気配を消して伸ばした()()()の私の手はあと一歩ハンカチには届かず、グイッと引っ張られて空を切った。お父様が、ふわりと握って抱き寄せたからだ。


気付いた時にはもう抱き締められている。

いつものように、優しく包み込むような抱っこではなく。私の頬に当たるお父様の髪が冷たい。腕もきつく背にまわされていて、ちょっと反ってしまう。


「…おとうさ…」


「―― ありがとうヴァネッサ…大事にするよ」


耳元に小さく聞こえた声は、震えているみたいだった。



「ヴァネッサ様。旦那様はお喜びですから」


ハンカチを抜き取ろうとしているのを目撃したジグムントが言う。そうは言っても、やっぱりお持ちいただくには粗末すぎた気がする。差し上げた物を取り返すのも良くないけど…


「あの、お父様。もっと上達しましたら、刺繍し直します。そちらをまたお渡ししてもよろしいですか…?」


やり直すから、それはぜひ隠しておいてほしいです。


「これは肌見放さず持ち歩こう。いや…それでは汚してしまうか…ならば額縁に…」


「お父様っ!ぜひお持ちいただきたいですわっ」


飾るのはちょっと…!!

なんとか壁に掛けられるのは阻止できたが、喜んでもらえるかしら、とウキウキしてたのが嘘みたいに疲れた ――



「あ…」


「どうしたヴァネッサ」


「先程お聞かせくださった聖獣の伝承に、歌を捧げるようなものはないでしょうか?」


"ふむ" と少し考えるように腕を組んだお父様が、ちらりと籠に目をやった。


「バラク祭で奉唱するキルタンがあるだろう。あれを聞くと聖獣がご機嫌だった、といった些末なものならあったが…」


バラク祭は実りの季節を迎える前に行われるもので、厳かというより庶民の宴がメインになっている。明け方と宵にキルタンを皆で(うた)い、日中は菜食で過ごすのだ。


「そうなのですか…ええと、こういう節で合ってますでしょうか」


バラク祭に参加した事がないので自信がない。だがキルタンは単調なので、メロディは何となく覚えていた。


十数秒、意味をなさない文字を口ずさんでいると、籠からカサリと音がして、白いオコジョみたいな聖獣と目が合った。


う、動いた…?


呆気に取られて見ていると、ピョンと飛び上がってお父様に向かっていく。バイデント子爵がそれを庇うが、聖獣はハンカチを咥えてヒラリと着地した。


「ハ、ハンカチが…」


誰かがそう言った。

皆が呆然と聖獣を見る。

ハンカチに刺繍された籠目が、かすかに光を放っていた。

刺繍ハンカチ→みてみん

https://52413.mitemin.net/i1234168/


キルタン→活動報告

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3692557/

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