13.
高さの違う2つの塔が、天に向かって伸びていた。
ラリューシュカ侯爵領で一番大きな聖ククフス教会だ。
塔に挟まれた真ん中部分が聖堂らしく、中央扉の上には彫刻が、屋根の上には八角形の籠目のシンボルが掲げられいる。よく見ると左右の塔も、先端の階だけは八角形になっているようだ。
レンガ造りの赤茶の外壁が素朴な印象を与えていたのに、聖堂内部はまさに豪華絢爛 ―― 色とりどりのステンドグラスが、人の何倍も高い天窓にはめ込まれ、祭壇までの通路を煌めかせている。
通路脇には塔5階分はあろう柱が立ち並び、施された美しい彫刻が天井画へと視線を誘う。
―― 神を想って建てられたはずなのに
建物の美しさにこそ、むしろ神を感じるようで。
人というのは不思議なものだ。
馬車を待ち構えていた教会関係者の男女に、聖堂を通って左の塔へ案内された。低い方の塔だろう。高い右側の塔は見張り台があり、低い方は儀典が執り行われる為、外部の者を入れるようにはなっていないと言う。
普段は閉ざされた扉の向こうへ入れるというのは、不謹慎ながら胸躍るもので。密かに胸を高鳴らせながら踏み入れる ―― つもりだった足は、何も踏みしめられなかった。
護衛が私を抱き上げたからだ。
何故だ。どういう結論が出たらそうなるんだ。
抱っこしてくれているのは前に喋った人で、あの時は偉い人だと思ったのに違うんだろうか。近くで見ると意外と若い。
―― 私も9歳にしては小柄なんでしょうけど
それでも、抱っこで連れていくほど小さな子どもには見えまい。"失礼します" といきなり抱き上げられた事にびっくりして、何も言えなかった。
「あの…騎士様、お名前を伺っても?」
「ノウス・バイデントと申します」
「まぁ、バイデント子爵家の」
"はい" と言葉少なく返事をした。侯爵領で騎士を多く輩出する重厚な家門だ。
「バイデント卿…聞いてもいいかしら?」
「ノウスと。もちろんです お嬢様」
「ではノウス…。あの、なぜ、私を抱き上げてらっしゃるの…?」
「警護の都合上、これが一番安全で、確実だと思われるからです」
確実…何が…?
私には分からないが、プロが何がしかを考慮してこれなのだから仕方ないのだろう、たぶん…
「重いのにありがとう…?」
疑問符を隠しきれていないお礼を言うと、小さく笑い声を洩らした。落ち着いた声とは裏腹に、無表情が剥がれるとさらに若く見える。横目で私を見ながら不敵に笑って "喜んで" と応えた。
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結局、抱き上げられたまま主教様がお待ちの部屋までたどり着いてしまった。この先はどうするつもりなのか。私だけ、面会に臨むのとは違う緊張感に包まれている。
いざ入室の段となり、お父様を先頭に動き出す。 自立して教主様に対面するならここが最後のチャンスだ。
どうなんだ? ――― ダメか……
降ろしてもらえるのではないか、と一瞬期待していたからこそ静かに落胆した私を、ノウスが笑った気がした。私の被害妄想だろうけど。
恐ろしいことに、このままお会いするようだ。なぜ誰も止めないんだろうか。疑問を抱えたまま室内へ入る。
赤い絨毯が敷き詰められた床、装飾は白と金を基調としており、華々しい雰囲気の部屋だった。四方を固めているのは聖騎士だと思われる。
いくつかあるソファのうち、大きな花柄をモチーフにしたビロードソファに腰掛けている人が3人。1人はタチアナ様だ。あと、女史よりも年上に見えるご婦人と、そのご婦人と同年代であろう年嵩の男性。こちらが主教様かなと思う。私達が見えると、3人とも立ち上がって迎えてくれた。
「ジュゼリア王太后陛下にご挨拶申し上げます」
お父様が会釈で礼を取ってそう言うと、私を抱える護衛以外、全員が膝をついた。
―― この方が 愛し子として王家に嫁いだという…
え、おみえになるって聞いてたの?聞いてて抱っこで来たの?嘘でしょう?
ノウスに視線で訴える。降ろして。今すぐ地面に足を付けたい。
私の視線に気付かないわけがないのに、頑なにこちらを見ないノウス。目を伏せ最低限の敬意は示しているつもりのようだが、直立はダメだと思う。話し掛けられてないのに私が声を出すわけにもいかず――
せめて会釈を…と、力を入れて前傾になろうとしたが、太い腕が要所を押さえていて微動だにできなかった。
「楽になさって」
何一つ礼を尽くす事は出来ないまま、王太后陛下からのお声掛けとなった。小声で降ろしてと言えばよかった。せめて理性のある子どもである事を伝えたくて、アルカイックスマイルを貼り付けておく。ものすごくアルカイックになったと思う。
「よく来てくれました。さぁ」
次に主教様が、朗らかにそう仰る。
諧謔なご様子は、温かな人柄を連想させた。お声もお話好きな先生みたいに、なんだか楽しげな雰囲気がする。お喋りしてみたいな、と思った。
こちらの護衛も部屋の隅へと移動する。
ソファにお父様が腰を下ろすと、王太后陛下と主教様も対面に座られた。
タチアナ様は陛下の後ろに立たれたまま。私も宙に浮いたままである。
●諧謔な【かいぎゃく-な】
上品ながらおどけた滑稽味がある様子




