第8話 このままじゃ死んでしまうぞ!!
架流とのぞみは、神谷町に向かっていた。
「何で駅にバスが来ないのか、その理由を何としても聞き出してやるぞ!
鉄道がいらないから、切り捨てたに違いない」
「いや、何か理由があると思うから、頼むから喧嘩だけはしないでくれよ」
架流は、のぞみが強制尋問でもしないかと冷や冷やしていた。
脳裏には、会議室で自白を強要しているのぞみの姿が浮かんだ。
乗換駅の駅前で昼食を食べることにした。
「おっ!旨そうな店がある!カツ丼にしようぜ!」
「取り調べ室で、か?」
のぞみは目を丸くして、架流の方を見た。
そして、笑い声に遮られながら、息も絶え絶えに言葉をつないだ。
「何だよそれ?刑事ドラマの見過ぎだろ……
あ!さてはお前、何か悪いことしたか?」
「いや。のぞみが、役場の職員を問い詰める姿を想像して」
「お前、最高だな!鉄道会社辞めて小説家になれよ」
架流は席に着くとメニューを見てカツ丼を頼んだ。
注文した後も、のぞみはメニューを見ていた。
デザートのプリンをじっと見ていた。
「どうした?プリンが気になるのか?」
「いや。昨日、俺も一緒に楽しみたいって言って駅前で買ったプリン。
朝、起きたらなくなっていた。どういうことだろうか?」
そういえば夜中に起きて、寝ぼけ眼で冷蔵庫の何かを食べた気がする。
のぞみの目を見ると、とても1人で食べましたなんて言えない。
「あの家には、俺とお前しかいない。犯人はおのずと絞られる」
「カツ丼、お待たせしました」
架流はカツ丼を持ってきた店員を呼び止めた。
「あ、スミマセン。追加でプリンを!」
今日のランチは、まるで刑事ドラマのワンシーンのようだった。
神谷駅から役場までは町営バスに乗った。
役場に着くと、駐車場の片隅にはバス停があった。
何台ものバスが止まっていて、待合室まである。
「役場には、こんな立派なバス停があるのに……。
納得できる理由を聞くまで帰らないからな!」
2人は会議室に案内されて席に着いた。
しばらく座っていると、職員がやってきた。
「本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。
私はアストラ電鉄の高橋、こちらは共に担当するのぞみです」
「アルカディアで開発された、アンドロイドののぞみです」
2人が自己紹介をすると、スポーツマン風の男性が自己紹介をした。
「遠いところまでお越しいただきありがとうございます。
建設課の山村です。よろしくお願いします」
もう1人は、明るい髪色の都会的な女性だった。
「地域振興課の谷川です。よろしくお願いします。
可愛らしいパートナーですね」
「恐れ入ります」
のぞみは粛々と挨拶を返した。
頼むから、そのまま大人しくしていてくれ。
架流がそう祈っていた矢先、のぞみが口を開いた。
「単刀直入に聞きます。
6路線あるバスのほとんどが、役場発着で駅を通らないのはなぜですか?」
突然の質問に山村も谷川も戸惑っていた。
「おい!のぞみ?」
「事前に大枠は話している。遠回りする時間がもったいないだろ」
谷川は突然の展開に驚いたものの、回答は冷静だった。
「バスは電車の発車前に町民を駅に送り、電車で帰ってきた町民を乗せるために駅前で待つ。
1時間に1本の電車に合わせて駅前へ行くことになります」
「すべてのバスを駅経由にすると、電車の時間に6台のバスが駅前に集合します。
失礼ですが、あの狭い駅前ロータリーでは、6台のバスを待機させられません」
山村の補足で、のぞみもすべてのバスが駅を経由しない理由に気付いた。
町が駅を切り捨てたというより、ロータリーが狭く電車の本数が少ないことが原因だった。
今でさえ厳しい神谷線を、増便することはできない。
「駅まで行く方は役場で乗り換えてもらっています。
ですので、役場を基点とした運行になっています」
谷川が補足すると、のぞみは顔を赤くしてうつむいていた。
「6台のバスのうち、1台だけがお客を乗せて駅に行きます。
駅で電車から降りたお客を乗せて帰ってきます。
役場まで戻ってきたら、待っていたバスに乗り換える形ですね」
役場には多くのバスが止まっていて、立派なバス停があったのはそのためだった。
町は、アストラ電鉄を切り捨てるどころか、協力的だった。
「そんな事情があったんですね。ありがとうございます」
そう言ったのぞみは、机の上で正座をしていた。
両手の拳を膝の上で握りしめて、下を向いて小刻みに震えていた。
架流は、職員と打ち合わせを続けていた。
時々、のぞみのことも話題になっていた。
だが、その話が全く耳に入っていない様子だった。
話が終わった架流は、そんなのぞみに優しく声をかけた。
「じゃあ、話も終わったから、帰ろうか?」
「俺の勘違いで騒がせてしまい、申し訳なかったです」
のぞみはしおらしく頭を下げた。
「いや、今日はこの町の問題点を整理できて良かったよ」
「のぞみさん。また来てくださいね」
役場の2人は笑顔でのぞみに声をかけた。
のぞみと架流は会議室を出ると、外に向かって歩きだした。
見送りしてくれていた山村と谷川が見えなくなると、のぞみは架流に聞いた。
「失礼な質問をしたのに、2人とも笑って見送ってくれたな。
なぁ、さっき何の話をしてたんだ?」
「やっぱり、まったく聞いていなかったんだな。
観光客を増やして、路線を支えてもらう方向で検討してたよ」
のぞみはハッとしたように架流の方を見た。
「前に、自分で言ってただろ?お前が案内するバスツアー。
課題は山積みだから、できても来年度になるけどな」
「そんなことまで、覚えていてくれてたんだ。さすがだな……」
そのとき、のぞみの瞳が赤い光を帯びたように見えた。
今までは黒かったような気がするが、気のせいかもしれない。
2人は、しばらく歩くと駅の前に着いた。
今日は役場との打ち合わせ以外にも大事な用事があった。
駅舎が見えると、のぞみは、何かを見付けたように、突然駅に向かって駆け出した。
駅舎の前で止まり、架流の方を振り返ると、のぞみは叫んだ。
「おい、こいつ!このままじゃ死んでしまうぞ!!」
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役場の前のバス停で疑問を抱くのぞみのイメージイラストをXで公開中です。
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