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第9話 どういう意味だよ?

 朝の通勤時間を終えた町は、静けさを取り戻していた。


 山に囲まれた神谷町の駅で働く真澄は、10時のアラームで目を覚ました。

 昨日はSNSの投稿文を考えていたら寝るのが遅くなった。


「どれぐらい、反応あったかな?」


 花を中心にした写真のアカウント。

 美しい棚田の広がるこの町をイメージして、アカウント名は『みずほ』だった。

 

 桜の写真をアップした昨日の反応には期待していた。

 

「あれ、8いいね?

 もっと反応あると思ったんだけどな……」


 桜の写真には自信があった。

 文章を何度も書き直して投稿した。


 それでも多くの評価をもらうには、全然足りなかったようだ。



 真澄の始業時間は14時。

 午前中はのんびり過ごすことができる。


 昼食を食べ終えたあと、身支度を整えた。

 職場の駅までは徒歩2分。それでも家を出たのは、始業30分前だった。



「深谷駅長。おはようございます」


 彼女の名前は、清水真澄。


 肩まで届く黒髪は、まっすぐに整えられていた。

 柔らかく優しい瞳で、控えめな印象だった。


 神谷駅に常勤する彼女は、駅長の深谷ともう1人と交代で勤務していた。


「今日は、本社から新しい業務の説明のために、誰か来る日でしたよね」

「あぁ、高橋君とのぞみちゃんというアンドロイドが来ることになっているよ」


 彼女は不安そうな表情で深谷に尋ねた。


「優しい人でしょうか?」

「あぁ、心配しなくても高橋君は礼儀正しい好青年だよ。

 のぞみちゃんは……個性的だけど、いい子だよ」


 人見知りな彼女にとって、新しい出会いは期待よりも不安の方が大きいようだった。



 そんな矢先、外から怒ったような女性の声が聞こえてきた。


「おい!このままじゃ死んでしまうぞ!!」


 真澄と深谷は、驚いて目を合わせた。


「高橋君とのぞみちゃんだ。

 時間には早いけど、少しの間だけ駅を任せてもいいかな?」

「はい。承知しました!」


 深谷は真澄に駅番を任せると、駅舎の外に飛び出していった。

 えっと。好青年と、いい子。だったっけ……?


 真澄が迷っていると、すぐに深谷が戻ってきた。


「清水さん、家に戻って、ガムシロップを持ってきてくれないかな?

 いらないお皿と、ぬるま湯もコップか何かに入れて。あと混ぜる棒」

「どうしたんですか?」


 珍しく慌てた深谷の様子に、真澄もただごとではないことに気付いた。


「衰弱した野良猫がいてね。このままじゃ危ないかもしれない」

「え!?分かりました。すぐに持ってきます」

 

 真澄は、駅を深谷に任せて、慌てて駅舎の外に飛び出した。

 社員らしき男性と、赤い髪の少女のようなアンドロイドがいた。


 そして、弱ったように見えるグレーの猫もいた。

 死にそうなのは、この子のことだったんだ。


「すまない。頼んだぞ!」

「分かりました!!」



 真澄は、頼まれたものを持って戻ってきた。


「お待たせしました」

「さんきゅ!お湯の温度も適温みたいだな。

 シロップを皿に移して、お湯を少しずつ足してくれ!」


 真澄は皿に移したシロップに、少しずつお湯を足していく。


「ストップ!よく混ぜたら、この子にあげてくれ」


 真澄は、シロップを混ぜると野良猫の前に置いた。

 興味を示してはいたようだが、警戒して動かなかった。


「混ぜ棒をシロップに浸して、鼻の前に差し出してくれ!」

「はい、分かりました」


 野良猫は匂いをかぐと、恐る恐るひと舐めした。

 

 その後の勢いは凄かった。

 混ぜ棒のシロップを舐め尽くすと、皿のシロップも舐め尽くしてしまった。


「良かった。少なくとも、かなり持ち直したかな」


 のぞみの言うとおり、野良猫は元気を取り戻したように見えた。

 野良猫は立ち上がり真澄の足元に近寄ると、すり寄るように体をこすりつけていた。


「かわいい」


 そう呟いた真澄は戸惑いながらも、嬉しそうに猫の様子を見ていた。

 猫は真澄から離れたが、じっと真澄の方を見ていた。

 

「そうだ!」


 真澄は鞄からスマホを取り出して、カメラを猫の方に向けた。


「はい、チーズ!」


 真澄がそう言うと、確かに猫は首をかしげて、右の前足を上げた。


「おい!今、ポーズ取らなかったか?」

「絶対招き猫みたいなポーズしてくれた!」


 のぞみと真澄は嬉しそうに話していた。

 確かに、プレビューを見たら、猫は招き猫のようなポーズをしていた。


「こいつ、凄いな。よし俺も!」


 架流もスマホを出してカメラを起動すると、猫はサッと走り去ってしまった。

 その姿を見たのぞみは、両手を腹に当てて、大きな声で笑った。


「シロップくれなかった薄情者には、猫も冷たいな!

 マジで賢いよ、アイツ」


 のぞみは肩を揺らして楽しそうに笑っていた。

 ようやく、息を整えたのぞみは真剣な表情だった。


「本当は獣医に診てもらった方がいいけどな。

 お前がカメラ向けるから逃げてしまったんだぞ」

「俺のせいか?」


 架流は納得できない様子だった。


「まったく。

 あ、挨拶遅くなってごめんなさい。事業改革課の高橋架流です」

「あ、こちらこそ失礼しました。神谷駅員の清水真澄です」


 架流は、のぞみの方に目をやった。


「こちらは、情報処理……何だっけ?」

「お前、覚える気ないだろ?

 情理演算式自律機動ユニット、ステラノイドののぞみです」


 真澄はぽかんと口を開けていた。

「早口言葉……ですか?」


「いや、正式名だけど、こいつですら忘れてるんだ。

 遠慮なく忘れてステラノイドと呼んでくれ……」


 真澄は申し訳なさそうに、のぞみの方を見ていた。

 よく見ると、架流は箱の入った紙袋を持っていた。


「深谷駅長から説明は受けていると思うけど、清水さんのステラを連れてきたよ」


 真澄は、架流の持っていた紙袋に目を落とした。


「その箱の中に?のぞみちゃんみたいな子がいるんですね!

 私にもステラノイドを預けてくれるんですか?」

「そうだぜ、俺の仲間と一緒に神谷線のために頑張って欲しくてさ」


 真澄は目を輝かせて紙袋を見ていた。

 だが、のぞみのその言葉を聞いた架流は不安になった。


「また、のぞみみたいなのが、飛び出してくるとか無いよな?」

「どういう意味だよ?」

お読みいただきありがとうございます。


神谷駅の前で野良猫を助けた真澄のイメージイラストをXで公開中です。

https://x.com/stella_bridge_/status/2080865648788603249?s=20


よろしければ、ご覧ください。

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