第10話 頼りになるのかな……
真澄は、駅務室で架流の持ってきた箱を開けた。
中には高級コスメが入っていそうな、白い厚紙で作られた化粧箱があった。
のぞみちゃんみたいな子がこの中にいるのかな。
箱の側面に貼られたシールを剥がすと何か音がした。
「今、音がしましたよね?」
「気を付けて!のぞみみたいなのが、飛び出してくるから」
架流の言葉に真澄が驚くと、頬を膨らませたのぞみが言い放った。
「話がややこしくなるから、ちょっと黙ってろ。開けてみろよ」
化粧箱の蓋を開けると、青く長い髪に優しそうな瞳のステラがいた。
ゆっくり起き上がると、やさしく微笑んだ。
「情理演算式自律機動ユニットの第2世代です。よろしくお願いします」
のぞみとはまた違う。
奥ゆかしい雰囲気のステラは、真澄と相性が良さそうだった。
それを見た架流は、真澄に問いかけた。
「清水さん、君が落としたステラは青い子か赤い子かどっちかな?」
「え!?どちらも落としてないですが……」
どういう意味だろう。
「そうだね。正直な君には青いステラと、おまけに赤いステラも……痛ッ!」
そこまで話した架流は、のぞみに蹴飛ばされた。
「誰がおまけだ!!」
のぞみは、足と腕を組んで偉そうに業務内容の説明を始めた。
新しいステラと一緒に、この神谷線の乗客を増やすこと。
しかも、これが国際プロジェクトなのだということ。
真澄はステラに目を落とした。
のぞみとは違い、ふわっとしたこの子は、何となく頼りにならない。
猫を助けたときののぞみのような、牽引力がこの子にはあるのだろうか。
のぞみは不安そうな真澄の顔を見てフォローを入れた。
「大船に乗ったつもりでいていいぜ。この子は俺より新しくて優秀だから」
でも、頼りなさそう……。
そんな真澄の不安をよそに、架流とのぞみは本社へ帰っていってしまった。
真澄の仕事が終わるのは23時。
戸締りをして駅舎の外に出ると、上から猫の鳴き声が聞こえた。
屋根の上を見上げると、昼間の猫がいた。
猫は真澄を見付けると、傍に下りてきた。
「あら?屋根に上って、すっかり元気になったみたいね」
「どうしたんですか?こちらの猫は」
真澄はステラにのぞみと猫を助けた経緯を話した。
「そうですか。ちょっと待っててくださいね」
ステラはそう言うと、猫の意識や呼吸を観察して、体温や脈を測っていた。
架流からは逃げた猫も、ステラの状態確認を嫌がっている様子はなかった。
しばらくすると、猫はまた屋根に上ってしまった。
「断定はできませんが、差し迫った危険は無いようです。
今日はもう遅いですし、明日以降、何かあれば獣医に診てもらいましょう」
この子、こんなこともできたんだ。
真澄はステラのことを少し見直して安心した。
だが、家に帰って冷静に考えると気が重い。
この路線を改善するだけでなく、国際プロジェクトの担当者になったなんて。
不安になった真澄はステラに尋ねてみた。
「この路線を活性化するためには、どうしたら良いと思う?」
「そうですね……まずは状況を整理してみましょう」
えっ?この子、のぞみちゃんより性能良いんだよね?
「答を教えてくれるんじゃないの?」
「今、結論を出すのは危険です。まずは一緒に考えましょう」
今の客層はどんな感じか。
どんな層の利用者を増やせば良いのか。
その層は何を求めているのか。
それに応えるためにどうすれば良いか。
ステラとの話は長かった。
これだけ話したのに、真澄には何かを得た実感がなかった。
「遅くまで話し込んでしまいましたね。今日はもう休みましょう」
「そうだね。また明日、よろしくね」
「はい。では9時に起動します。おやすみなさい」
「うん。おやすみ……」
ステラは、目を閉じると動かなくなった。
スリープモードって言うのかな。一瞬で寝てしまったようだ。
「便利な体だなぁ……」
真澄はなかなか寝付けなかった。
どんなに不安な夜でも一瞬で寝て、決めた時間に目が覚めることが羨ましかった。
今日撮った野良猫の写真をアップしながら真澄は思った。
凄くいい子で、真剣に考えてくれていることは分かった。
だが、真澄が欲しかったのは、こうすれば成功するって強く言ってくれること。
のぞみなら、どんなことでも即決してくれそうで頼れる気がした。
真澄は不安を拭うことはできなかった。
「この子、頼りになるのかな……」
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真澄のパートナーとなるステラノイドのイメージイラストをXで公開中です。
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