第11話 ゴメンね……
起きたら既に10時だった。
アラームもいつの間にか止めていたらしい。
普通の会社だったら遅刻してたな……。
「おはようございます」
真澄が起きたことに気付くと、ステラが笑顔で言った。
「あ、おはよう」
朝ご飯を食べている頃、真澄は昨夜SNSへ投稿していたことに気付いた。
「あ、沢山いいね付いてる。しかもフォロワーさんも増えてる」
「SNSやっていらっしゃるのですか?」
「うん…フォロワー100人ちょっとのアカウントだけどね」
「良いですね。よろしければアカウント教えて貰っても良いですか?」
「え?いいけど……」
真澄はアカウントを教えると、ステラは目を閉じた。
「真澄さんらしいほのぼのとした内容ですね。
この子が昨日の野良猫さんですね」
「えっ?スマホも無くてどうやって見たの?」
「わたしは通信して、ネットを見ることができるんですよ」
さすが国際プロジェクトの最新アンドロイド。
でも、のぞみちゃんでもこれくらいはできるんだよね。
「ところで、真澄さんはこのアカウントをどうしたいですか?」
「フォロワー1000人超えにしたいけど……何か方法はあるの!?」
真澄は食いつくように聞き返した。
「真澄さんらしい方法を考えて、フォロワーを獲得しましょう」
また質問されるだけで、何も答は出ないのかな。
「じゃあ、どんな方法で増やすことができるの?」
「まずは、昨日助けたあの子を見に行きませんか?」
真澄はステラに言われるがまま、煮干しを持って駅に向かった。
屋根の上で日向ぼっこをしていた猫は、真澄の姿に気付くと嬉しそうに屋根の上から下りてきた。
真澄が手に持っているにぼしを見ると、真澄を見上げて鳴いた。
「食欲はありそうですね。かなり状態はよくみえます」
真澄はホッとして、猫ににぼしをあげようとしていた。
「あ、煮干しをあげるのはちょっと待ってくださいね。
カメラを構えて、にぼしを食べる瞬間を撮ってみましょう」
真澄は言われるがままに、左手に煮干しを持って右手でカメラを構えた。
真澄が煮干しを差し出した瞬間に、猫は両手で挟み込む様に煮干しを取った。
シャッターを切ったタイミングは完璧だった。恐らく最高の瞬間が撮れたと思えた。
「すごい。この子、両手でにぼしを取った」
真澄とステラは、ドキドキしながらプレビューを見た。
猫が煮干しを両手で掴む決定的瞬間が写っていた。
でも、慌てて撮ったからか、手ブレした写真になっていた。
「ナイスです!最高の瞬間ですよ!!」
「でも、慌てたからかな……手ブレしちゃった」
「いえ、問題ありません」
ステラは真澄にペアリングの手順を説明した。
ペアリングが完了すると、真澄はステラに写真を共有した。
ステラが、手ブレを除去して鮮明に処理してくれた。
「す、凄い!あの手ブレ写真が!!」
「早速、SNSにアップしましょう」
真澄は嬉しそうにSNSの投稿文を作っていた。
ステラはそんな真澄に提案した。
「この子に名前を付けてあげましょうか。
名前があった方が親近感が増しますしね」
そうだった。この子に名前を付けてあげないと。
でも、いざ考えてもすぐに良い名前は思い付かない。
でも、早く投稿したい。
そんな焦りから、真澄はアンドロイドに問いかけた。
「何か良い名前無いかな?」
「では……『にぼし』はどうでしょう?
ストレートですが、この1枚にピッタリの名前だと思います」
「確かに、ちょっとコミカルで可愛いかも……。にぼし?」
真澄がそう呼ぶと、猫は振り返った。
「決まりですね。早速、名付けエピソードも添えて投稿しましょう」
真澄は投稿文を書き上げるとSNSに投稿した。
嬉しそうに煮干しを食べる猫を見て真澄は言った。
「君の名前はにぼしだよ」
「まだお昼ご飯まで時間がありますね。
折角なので、川向こうにも行ってみましょう」
真澄は、駅前から線路橋と並んで架かる道路橋を渡った。
橋の下には、広い川が流れていて、川を覗き込むと吸い込まれそうで怖い。
橋を渡り切って、振り返ると神谷駅周辺の町が見えた。
「にぼしの住む街として、ここからの1枚を撮りましょう」
「え、それも載せるの?身バレしちゃわないかな?」
「載せるか載せないかは、後から考えれば良いです。
丁度もうすぐ列車が来ます。撮るだけ撮って、後から考えましょう」
真澄はステラに構図のアドバイスを貰ってカメラを構えた。
そして、列車が橋を通過する間に、何枚も撮影した。
今度は手ブレしていなかった。
「5枚目の写真が良いですね。
美しい川を越える列車が、1番魅力的に写っています」
旅情溢れるその1枚は、旅行雑誌に載せても恥ずかしくない出来栄えだった。
「ありがとう。今度は、自分でいい写真が撮れた。……えっと」
その続きを切り出そうとした真澄は、大切なことに気付いた。
このステラの名前を、まだ知らなかった……。
「そういえば、まだ名前聞いていなかったね。
あなたの名前は何ていうの?」
「わたしの名前ですか?無いですよ。
パートナーが名付けることになっています」
「そうだったの!?」
「そう言えば、それを伝えていませんでしたね」
猫の名前まで考えてくれたのに、この子にはまだ名前がない。
そのことにも気付けなかった自分が恥ずかしくなった。
このままではいけないと思う真澄は必死に考えた。
目の前には、川が流れる町の風景が広がっていた。
田植え前の水田には、昨秋に黄金色の稲穂が波打っていた。
SNSのアカウント名は、その景色を見て付けた名前だった。
「それなら、あなたの名前『みずほ』ってどうかな。
私の好きなこの町をイメージした名前でもあるんだけど」
みずほは、弾んだ笑顔で両手を合わせた。
「わぁ!真澄さんのSNSのアカウント名と同じ、素敵な名前ですね。
ありがとうございます」
真澄は、指先を合わせて小さく俯いた。
「ううん。名前がないことに全然気付かなくてゴメンね……」
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