第12話 だからそれ、ハンバーグ
真澄のところにみずほが来てから約1ヶ月。
あれからもみずほは、にぼしの映え写真の撮り方を真澄に教えていた。
にぼしは人の言葉や気持ちが分かるのではないかと思う程の賢さと愛嬌で真澄のカメラに反応してくれていた。
特に両前足で挟む様にして煮干しを取る動画は大人気だった。
「煮干しは猫の体には良くないので、別のものをあげましょう」
煮干しを減塩のペット用に変えたり、みずほの勧めるフリーズドライの無添加おやつも取り入れた。
そういう配慮が好評で、猫好きなフォロワーが増えていった。
5月連休を終える頃には、フォロワーは1000人を突破した。
「みずほ!やったよ。フォロワー1000人達成だよ」
「おめでとうございます。これは早かったです。にぼしに感謝ですね」
「うん。みずほにも感謝だよ」
そんな中、架流とのぞみが神谷駅を訪れた。
架流とのぞみは別の町でも同じ様なプロジェクトを進めているらしい。
もう1つのプロジェクトと競争になるのかな。
でも、みずほがいれば、私達のプロジェクトは負けない気がする。
「みずほ、負けないように頑張ろうね」
「勿論です。頑張りましょうね」
みずほがそう返事すると、のぞみが反応した。
「おっ、みずほって名前を貰ったのか?」
「そうなの。この町の風景に因んでつけてもらったの」
真澄がスマホを開いて、みずほと撮った写真をのぞみに見せた。
のぞみが反応したのは、川向こうから撮ったこの町の写真だった。
「この風景写真を載せたら、にぼしを見にお客が来てくれる様になるんじゃないか?」
真澄は、のぞみの提案にハッとした。
確かに、これを見てお客さんが来てくれれば乗客が増える。
だが、それを遮ったのはみずほだった。
「私はまだ、時期尚早な気がします。慎重に動くべきかと思います」
「じゃあ、何でこの写真を撮ったんだよ」
「それは、いつか使えると思ったからです。
素材は撮れる時に集めておいた方がいいからです」
のぞみの主張も正しいと思うが、真澄にはみずほが心配する気持ちも分かる。
「なぁ、真澄。この路線を活性化させたいんだろ?
いつまでにぼしブームが続くかは分からないし、今この写真を載せない手はないぜ」
のぞみの圧が凄い。
確かに、慎重に進める事も大事だけど、このブームが続くとは限らない。
真澄は、みずほの方に目をやった。
みずほは目が合うと軽く息を吐いた。
「でも、何があるか分からないから怖いんです。
起きたときに対処できるなら、本来の目的を考えると良いと思いますが」
「じゃあ、そのときに私たちで対処できれば、この写真をSNSに投稿しても良いの?」
みずほは、不安そうに頷いた。
真澄にも不安が無いわけではなかった。
でも、フォロワーが増えた事で、自分の周りが好転している実感があった。
今回もきっとうまくいくだろう。
楽観的に考えて『にぼしの住む町』として、川向こうからの神谷町の風景を投稿した。
車両が写っていたので、場所の特定は早く、その週末から人の動きが変わった。
星宮圏に住む何人かが電車に乗ってにぼしを見に来た。
屋根の上にいるにぼしは、名前を呼ぶと下りて来る。
こんな猫はまずいない。
感動する観光客が煮干しをあげると、あの写真と同じ様に両前足で挟んで煮干しを受け取る。
SNSに投稿された動画で見たにぼしと同じ動作をしてくれる。
2週間もすると、明らかに乗客数は増えていた。
架流とのぞみも、神谷町までの車内で乗客が増えている実感があった。
「真澄たち、凄いな。2ヶ月足らずで人の流れを変えたな」
「正直驚きだな。休日を中心に乗客が増えているからな」
神谷町を訪れたのぞみは胸を張った。
「ほら、俺の言った通りだっただろ?」
「何があるか分からないけど、みずほがいれば大丈夫だよ。
これから一緒に乗客を増やしていこうね」
真澄は、みずほと出会った時の様な頼りない表情ではなかった。
SNSのフォロワーが増えたことで自信につながった。
その様子を見たみずほも表情が明るくなった。
「そうですね。バディ、一緒に頑張りましょうね。」
「パティ……?ハンバーグ?」
真澄の勘違いを、みずほは笑いながら訂正した。
「いえいえ。ハンバーグではなく、最高のコンビを表す言葉ですよ。
私たちは、信頼できるパートナーのことをバディと呼ぶのです」
みずほから説明を受けた真澄は、みずほにそう呼んで貰える事が誇らしかった。
そんなとき、女性観光客が声をかけてきた。
「あの…一緒に写真撮って貰っても良いですか?」
のぞみは目を輝かせて、真澄に言った。
「有難い申し出じゃねぇか。一緒に写ってやれよ。
運転士が家族連れと一緒に写ってるのは珍しくないだろ」
「運転士と駅員を一緒に考えてよいものか。
でも、公開されなければ、問題にはならないでしょう」
2人からそう言われた真澄は、写真撮影を承諾した。
「個人的な思い出として扱って、SNSへの投稿は控えて頂けますか?」
「はい、もちろんです」
架流は女性観光客の同意を確認すると、女性観光客とにぼしを抱く真澄の写真を撮った。
女性観光客は、駅前の和菓子屋でお土産を買うと、次の列車で帰っていった。
架流達が帰って、1日の業務が終わり、真澄とみずほは駅を後にした。
今日1日で、真澄はみずほとの距離が更に縮まった気がした。
「これからもよろしくね、パティ」
「だからそれ、ハンバーグ……」
お読みいただきありがとうございます。
真澄にパティと呼ばれてハンバーグを思い浮かべるみずほのイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/i/status/2084936828394901898
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