第7話 スマン……それも本物だ
「お待たせしました」
会議室に滑り込んできた架流は、見慣れない5人組を前に足を止めた。
さらに、テーブルの上には、のぞみに似た小さなアンドロイドが4体。
架流は、安藤やアルカディアメンバーに頭を下げた。
「不在にしており、失礼しました」
「いや、こちらこそ突然押しかけてしまって申し訳ない」
この男が、例のレイン博士だろう。
この空間にあっても、彼の周囲の空気は異質なものだった。
空気が違うといえば……。
架流はのぞみの方を見た。
テーブルの上では、4体のアンドロイドが凛とした姿勢で並んでいた。
その前で、のぞみだけがあぐらをかいている。
「どうかしたか?」
この件は気にしないでおこう……。
架流が着席するとレインが口を開いた。
「当初は、自動車分野で進める案もあった。
だが日本法人としては、日本の高度な鉄道システムを題材にしたかった」
「お褒めに預かり恐縮です。
ただ、他に大きな会社もあるのに、なぜ我々ですか?」
そんな安藤の疑問に、レインの答えは予想外だった。
「非常に多くの路線のハブとなり、多忙をきわめる星宮中央駅。
ここに集中する列車の運行を効率化できれば、我々の研究の価値を証明できる」
安藤と架流は顔を見合わせた。
中央駅に関わる運行管理担当者は、猫の手も借りたいほどであった。
まさか……レインの思惑というのは?
架流はのぞみの方を見たが、のぞみは目を逸らした。
「緻密な仕事は無理だから、もっと楽しい仕事がしたい。
そんな彼女のわがままを受け入れてくれるとはね」
本来なら総合指令所への依頼だったとは……。
しかも、のぞみが握り潰したということか。
「のぞみ……?」
「そんな昔のこと、忘れちまったよ!」
のぞみはどこ吹く風だ。
「今からでも遅くない!
総合指令所の所長に声をかけて……」
そう言いかけた安藤の言葉を遮ったのはレインだった。
「いや、交通格差の解消を目指すあなた方の思いには感服した。
我々アルカディアの企業理念そのもの。ぜひ協力させていただきたい」
安藤は総合指令所に、この話を振りたい様子だった。
しかし、もう軌道修正が困難になってしまったことは架流も理解した。
ただ、1つ疑問があった。
「しかし、方針が決まったのは今日の午後。
なぜ、そこまでご存じなのですか?」
「彼女からレポートが送られてきてね。興味深く拝見させてもらったよ」
会話を続けたのは伊吹だった。
「のぞみという名前をもらったそうですね。
しかも、こののぞみにバディとまで呼ばせたとか」
何という手際の良さだ。
全てが筒抜けだったことに驚いた。
ただ、それ以上に驚いたのは「こののぞみに」って……
その辺りを詳しく聞かせてほしい。
レインが話を続けた。
「本来、性格調整は白石の領域なのだがね。
のぞみに関しては、黒鉄の希望がかなり反映されている」
「大人しく作ったら、こいつの良さが死ぬだろ?」
のぞみと黒鉄は互いにグーサインを交わした。
黒鉄の肝いりだったのか……。それなら仕方がないのかもしれない。
しかし、黒鉄とかいう男……
アンドロイドにこんな攻撃的なチューニングをして、機動歩兵でも作るつもりなのか。
架流の嫌な予感を打ち消したのは白石だった。
「確かに黒鉄博士の発案ではあります。
ただ、彼女の潜在能力を引き出すには、これが最適でした」
不思議と、その言葉には説得力があった。
この方が言うのなら、間違いないだろう……
白石は説明を続けた。
「こまちたち4体は、第1期計画で開発されました。
のぞみたちは、今回の第2期計画で研究しています」
え!?のぞみ……たち?
「この第2期計画は、第5世代まであります。のぞみは第1世代です。
第2世代以降も本社の基本設計に対し、日本法人としてのチューニングを終えたら、順次お届けします」
のぞみみたいなのが、あと4体も来るのか!?
想像しただけで、架流は胸焼けがした。
白石の言葉を伊吹が補足した。
「安心してください。
各世代はその特徴を最大限に活かせる性格にチューニングしております」
「それは、個性豊かで楽しみですね」
架流は笑いながら返したが、内心は笑えなかった。
安心してくださいということは……不安材料と知って送り付けたのか?
この優しそうな女性が、一番の曲者なのかもしれない……。
穏やかに会議は進んでいった。
四絃が会議室に掲げられていたアストラ電鉄のロゴに目を付けた。
「君たちのロゴの星はイイね。どういう意味が込められているんだい?」
「星宮を拠点にしたアストラ電鉄の星ですが、むかし星は航路の道標でした。
航海の成功を見守ってきた星は、我々の安全運行の道標でもあるんですよ」
安藤が答えると、四絃が叫んだ。
「マーベラス!そこまでの意味が込められているとはサプライズだよ」
あなた日本人ですよね。
架流は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
それを聞いていたレインが呟いた。
「なるほど。5つの世代と、五芒星。相性がいい……」
レインは思考を深めるように、静かにロゴを見つめていた。
「第2期アンドロイド計画は、社会を大きく変えるものになるだろう。
彼女たちを今まで通り、アンドロイドと呼ぶことに疑問があった」
レインの強い思いが感じられた。
「友好の証として、貴社のロゴの星になぞらえて、彼女たちをステラノイドと呼ぶことにしよう」
第2期アンドロイド計画は、レインの一声で、日本法人と関係者の間ではステラノイド計画と呼ばれることになった。
挨拶を終えると、アルカディアのメンバーは引き上げていった。
嵐のような一団だった。
去っていった後の会議室は、妙に広く感じた。
安藤はまだ、総合指令所にこの仕事を渡したいようだった。
「諦めろ課長!こうなってしまったんだ、まずはやってみようぜ。
俺より凄い奴が来るから、運行管理をさせたいならそいつに任せようぜ」
「のぞみより凄い奴が来るのか!?」
安藤は驚いたように聞き返した。
「性能の話だからな……性格じゃないぞ?」
「そうか!それなら良かった……」
確かにのぞみがあと4人来たら身が持たない。
安藤は胸を撫で下ろした。
「しかし、お前には本当にうまいこと踊らされたな」
「交通格差に悩む地方を何とかしたい気持ちだけは本物だぜ」
安藤は、のぞみを見た。
その言葉に嘘はなさそうだった。
架流は、1つだけ確認しておきたかった。
「細かい仕事をしたくないって気持ちは?」
のぞみはしばらく考えた後、申し訳なさそうに答えた。
「スマン……それも本物だ」
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そんな昔のこと、忘れちまったのぞみのイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/stella_bridge_/status/2078342148005699717?s=20
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