表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/13

第6話 最速で帰ってこい!

「やぁ、安藤さん。久しぶりですね」


 中央に座っている白衣姿の男はトラヴィス・レイン。

 この計画の責任者にして、アルカディア・モビリティ・ラボ・ジャパンの代表者。


 研究チーム内では、主任と呼ばれているらしい。


「そうですね。本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございます」


 安藤は平静を装って挨拶を返したが、内心では突然の出来事に混乱していた。

 よく見ると、他の研究者たちも、一筋縄ではいかない面々に見えた。


 レイン博士は安藤にチームメンバーの紹介を始めた。

「彼女は伊吹詩織、このチームのサブリーダーだ」


 立ち上がった女性は、この曲者たちの中では珍しく穏やかな印象だった。


「伊吹と申します。

 このプロジェクトの進捗管理をしています。どうぞよろしくお願いいたします」

「安藤と申します。私が責任者です。

 こちらこそ、よろしくお願いします」


 伊吹の所作は美しかった。

 この研究チームの他のメンバーとは、別の世界の住人のようだった。


 安藤の前に、アンドロイドの1体がやってきた。


「こまちと申します。新人アンドロイドの育成を担っております。

 どうぞよろしくお願いいたします」

「この子には、貴社に派遣したアンドロイドの教育も任せるつもりです」


 伊吹の補足に、安藤はのぞみのことを思い出した。

 この気品あるアンドロイドに、あののぞみを教育できるのだろうか。


 いや、できるかどうかではない。

「ぜひ、みっちり教育してください!!」



「次は、黒鉄くろがね。アンドロイドのハード面を担当している」

 分厚い胸板と、丸太のような腕を持つ色黒の男だった。


 この男もアンドロイド……いや、巨大ロボットではなかろうか?

 安藤は無意識のうちに、右足を半歩後方に下げていた。


「黒鉄だ。よろしくな!」

 何と豪放な男だろう。

 研究者ではなく、実は格闘家なのかもしれない。



「次は白石。ソフト面、人工知能や思考回路を担当している」

 反応したのは、メガネをかけたソフトな雰囲気の男性だった。

 この優しそうな人が思考回路を研究しているのに、何故のぞみが乱暴になってしまったのか。



「最後は四絃しげん。アンドロイドたちの神経伝達を担当している」

 ミュージシャンかと思うほどに、アーティスティックな風貌の男だった。


 彼の指先には硬いタコのようなものが見えた。

 弦の押さえ過ぎだろうか……これでは、タッチパネルが反応するか心配だ。



「このプロジェクトを担当している高橋は外出中です。

 お預かりしているアンドロイドと、調査のため外出しておりまして……」

「それは熱心で良いことだね」


 レインは担当者が不在ということを、気にしていない様子だった。


「事前に聞いていれば、待機させたのですが、申し訳ありません」


 安藤はそう言ってレインの方を見た。


 そこで、目を疑った。

 あの温厚そうな伊吹が鬼のような形相だった。


 しかも、レインの肩に手を置いているではないか。


「主任……あれだけ言いましたよね。

 ちゃんと事前に話を通しておくようにと……」

「いいじゃないか、急に現れた方が驚くだろ?」


 いや、その発言が一番の驚きだ。


「不測の事態が起こったとき、どういう対処ができるか知りたかったんだ。

 見なよ、彼はこの突然の訪問に慌てている様子もない」


 いや……。パニックですよ?私。


 伊吹は諦めたようにため息をついた。

 先ほどまでの柔らかい表情に戻り、申し訳なさそうに頭を下げた。


「誠に申し訳ございませんでした。

 私が確認すべきだったのですが、やはりそちらに連絡がいってなかったのですね」


 今、やはりとか言わなかったか?


 ちゃんと確認してくれよ、と安藤が心の中で突っ込んでいる間にも話は続いた。


「私たちが研究を進めている環境は、確かに特殊です。

 しかも、日本法人は事務員を置かず、我々5人と4体のアンドロイドで運営しています」


 さすがにそれで大丈夫なのか?

 レインには秘書を付けてほしいと思ったが、それを言えるはずもない。


 社長と奥さん、職人3人、弟子4人。

 安藤は現場時代に見た工事会社を思い出した。


「なるほど。機密性を保つために、あえて少数精鋭で回しているわけですね」

「はい、ご名答です。ご理解いただけて嬉しい限りです」

 伊吹は驚いたような笑顔で安藤を見た。


 いや、驚いたのは安藤の方だった。

 適当に褒めたら、模範回答だったようだ。


「こまちをはじめ、4体のアンドロイドが共通事務を担当しております」


 安藤は自分の常識を覆すような研究体制に不安を覚えた。

 だが、狙ってアンドロイドに事務を任せているように見えた。


「人と機械が対等に仕事をする。

 アンドロイドとの共存の形を実験されているということでしょうか」


 安藤の言葉を聞いたレインは、大きく頷いた。


「確かに、人と機械が共存できる未来を目指している。

 だが、主役は我々人間、その補助を機械に任せる。

 対等というより、そういう形での共存が理想だと考えている」


 そういえば、のぞみも似たようなことを言っていた気がする。

 大きく外れてはいなかったが、考えが及ばなかったようだ。



「高橋たちが戻るまで、まだ時間があります。

 本日はここまでにして、後日あらためてご挨拶に伺います」

「そうなんだ。このまま待たせてもらってもいいかな?」


 安藤は一瞬、言葉に詰まった。


「ご多忙かと思いますので、後日こちらからお伺いしますよ」


「我々はこのプロジェクト1本で動いている。他に用事はなくてね。

 安藤さんは他の業務があるなら、中座してもらって構わないよ」


 年度初めの多忙な中だが、そんなことを言われて中座できるものではない。


「奇遇ですね。私も今年度は、このプロジェクトが最優先でして」

「その気持ちは嬉しいが……安藤さん、あなたは嘘が下手なようだ」


 そりゃ、そうだよ。


 中座するわけにもいかなくなり、安藤は架流の帰社を待つしかなかった。

 とりあえず、安藤は架流の携帯にメッセージを送信した。


『事故らない程度に、最速で帰ってこい!』

お読みいただきありがとうございます。


アルカディア研究チームのイメージイラストをXにて公開中です。

https://x.com/stella_bridge_/status/2077342706230280337?s=20


よろしければ、ご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ