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第5話 今日はエイプリルフールだったな……

 のぞみの言っていた気になることって何だろう。

 架流は次のバス停近くの安全な場所に車を停めた。


「ちょっと、見てくる」


 のぞみはパワーウインドウを開けて、窓から歩道に飛び降りた。

 バス停の看板に走り寄り、看板の前で腕を組んで立っていた。


 架流も車を降りて、のぞみを追いかけた。


「何か分かったか?」

「何も分からん……」

 いったい、のぞみは何を知りたかったんだ?

 

「俺の身長じゃ、何も読めない。悪いが肩を貸してくれ」


 だから立ち止まっていたのか。

 架流は、のぞみを肩に乗せて看板の内容を見せた。


「予想通りだったよ」


 町営バスの看板には、路線図と時刻表が書かれていた。

 

「バス路線は6コースあるだろ?

 でも、駅まで来るコースはたった1つ」


 確かに残りの5コースは役場から出て役場に戻り、駅は通らないようだった。


「あの駅前は狭いから、小さいバスは入れるけど、大きなバスが入れないからじゃないのか。

 また今度、ゆっくり話を聞きに来よう」

「そうだな。時間もないし、目的地に行くか。

 まずは俺たちが楽しんで、この町の良さを知らないとな」

 


 架流とのぞみが訪れたのは、美しい湖の畔にある公園だった。


 湖の周囲には、キレイな遊歩道が整備されていた。

 釣りができそうなスポットや、バーベキュー場もあった。


 奥の山々と太陽が映り込んだ湖面は、キラキラと光を散らしていた。

 のぞみは湖の周囲の柵に駆け上がった。


「見ろよ!湖も山も、めちゃくちゃキレイだぜ」


 泳ぐ小魚が見えるほど、水は透き通っていた。

 小さな魚たちの黒い影が、白い砂の湖底を泳いでいるように見えた。


「おい!何か古臭い建物があるぞ」


 改修されたばかりの公園に合わない古い木造の建物があった。

 その建物まで近付くと、入口の看板にはからくり研究所と書かれていた。


「めっちゃ面白そうじゃねぇか!!」

「そうだな!入ってみよう」



 架流は木製の扉を開けると、ホールになっていた。

 そのホールの奥には、展示室があった。


 架流が展示室まで進み、扉を開けたときだった。

「何してやがる!?」


 突然大きな声が、館内に響き渡った。

 架流は慌てて周囲を見渡したが誰もいなかった。


 よく見ると目の前にはからくり人形がいた。

 その傍らには看板が掲げられていた。


「なになに……自動門衛機(おこり門番)。

 扉を開けると自動で侵入者を威嚇します。だとよ」



 確かに展示室内には、何体ものからくり人形がいた。

 

「おい。こいつ見てみろよ!面白そうだぜ」

「なになに……自動問答機(おしゃべり君)。

 質問してボタンを押すと、表情を変えて返事をしてくれます」


「よし!今日の俺は絶好調」

 のぞみがそう言ってボタンを押すと、人形の顔は笑顔に変わる。


「ハイ。ソウデス」


「やっぱりな。それなら、隣のコイツは絶不調」

「何だそれ?」

 呆れる架流に構わず、のぞみがまたボタンを押すと、人形は笑顔を崩さず返答した。


「ハイ。ソウデス」


 大笑いするのぞみをよそに、架流は仮説を立てた。


「お前は用意してあった答えをランダムに返すだけ。

 適当に返事してるよな?」


 そう言ってボタンを押すと、人形の顔は不機嫌になった。

「イイエ……チガイマス!」


 のぞみは架流の肩の上で大笑いしていた。

「お前、初対面の相手に失礼な奴だな!」

「それを、のぞみには言われたくなかった……」


 笑いがおさまると、のぞみは話を続けた。


「何かこれ、昭和のアンドロイドって感じだよな」

「昔は、かなり適当だったんだな……」


「今も大して変わらねぇぞ。AIの答えが合ってるとは限らねぇ。

 だから最後に判断する。お前が大切なんだぜ」


 架流はのぞみが初めに言った言葉を思い出した。

 あのときは、素直にいい関係だなと思った。


 だが、ちょっと待て!

 うまいこと、責任だけ押し付けられたんじゃないだろうな?




 展示を楽しんだのぞみと架流はからくり研究所を出て、駐車場へ戻っていた。


 2人が駐車場に着く頃、ちょうど公園のバス停に町営のバスが来た。

 15人乗りのマイクロバスだった。


 バスから乗客が降りる気配はなく、運転手が降りて車体を点検していた。


「待てよ!あのバスなら駅にも来れるんじゃねぇか?」

「確かに。でもあれが駅に来るバスかもしれないぞ」


 架流は後日ゆっくり調べればいいと思った。

 だが、のぞみは、納得できない様子だった。


「バスを貸してくれたら、俺がガイドやって賑やかにできるのに」


 のぞみがそう呟いたとき、架流の電話が鳴った。

 事業改革課の事務員からだった。


 アルカディアのレイン博士が来ている。

 すぐに戻るように、安藤から伝言を預かったという。


 のぞみは、ほとんどのコースが駅を通らないことに納得していない様子だった。

 だが、架流は見落としていることがあるような気がしていた。

 


 それは後から考えればいい。今はただ、帰社するしかなかった。




 その少し前。

 事業改革課では、受付からの内線が鳴っていた。


「レイン博士が?分かった。すぐに行く。応接室に通してもらってくれ。

 高橋にも連絡を。すぐ戻るように伝えてくれ」


 急な来訪には違和感があった。

 ただ、新年度初日だ。挨拶回りのついでかもしれない。


 それでも、相手はレインだ。何もなければそれでいい。



 安藤は、受付に確認した。


「レイン様はどちらに案内しましたか?」

「会議室Bへご案内しました」

「応接室ではなく?」

「はい、会議室Bです」


 年度初めだから応接室は満室だったのか……。


 そう思い込んで会議室まで進み、扉を開けた安藤は目の前の光景に絶句した。


 会議室には、研究者らしき人物が5人。

 さらに、のぞみに似た小さなアンドロイドが4体並んでいた。


 中央に座っている眼光の鋭い男には見覚えがあった。

 安藤の入室に気付いたその男は、不気味に口角を上げた。


 安藤は心の中で呟いた。

 今日はエイプリルフールだったな……。

お読みいただきありがとうございます。


安藤がアルカディア研究チームと対面したシーンのイメージイラストをXで公開中です。

https://x.com/stella_bridge_/status/2075883305044767145?s=20


よろしければ、ご覧ください。

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