第26話 そういうものなのですね……
「翔子ちゃん、怜人さんに家庭教師をお願いされたけど、今いいかな?」
「はい。お願いします」
ひかりが扉をノックすると翔子は自室の扉を開けた。
「数学とか理科とか、ホントわけ分からないから助かります」
「翔子ちゃん、今1年生だもんね。スタートダッシュが大事よね」
「うん、そうなんです。よろしくお願いします」
そう言うと、翔子は鞄から教科書と筆箱を取り出した。
筆箱は100円均一で買ったプラスチックのケースだったが、シールで可愛くデコレーションされていた。
「あら。ジェルグラムシールとクリアトレースシールじゃない」
「わぁ、分かるんですか?お店に並んで買ったんです」
「手に入れるの大変みたいだよね。100均のペンケースもデコると別物みたいね」
「売ってる筆箱だと何か違うんです。でも、ハデにデコるのは学校で禁止されてて……」
確かにシールは筆箱の1面だけに貼られていた。
「ハデとは言えないからいいと思うけど、何か言う教師もいるかもね」
「だから、こっそり友達と見せあいしているんです。
禁止されてるんだから絶対ダメって言ってくる子もいるんです」
「確かに正論だけど……最近どこかで聞いたような話ね……
シールが完全に禁止されてはいないんだから、それも言い過ぎな気がするね」
翔子は、ホッとしたように笑っていた。
それから、ひかりと翔子は楽しく話しながら勉強した。
「教えてくれて、ありがとうございます。分かりやすくて話しやすかったです」
「どういたしまして。そう言えば、何で敬語なの?」
「え?頼りになるし、先輩だと思っていました。
話しやすいし年も近そうだけど、実際何年生ですか?」
「先輩!?」
そう呼ばれたひかりの表情は緩んだ。
ステラたちの中では1番背が低く、幼く見られていたので純粋に嬉しかった。
「あたしは何年生とかないけど……そういうことなら2年生にしましょう。
1つしか違わないから、敬語はなしでいいからね」
勉強を終えた翔子とひかりはリビングに下りた。
翔子はテレビをつけてネット動画を見た。
インフルエンサーが自作シールを作り、公開する内容だった。
有名なキャラクターのイラストを使ったものだった。
「いいなぁ。ねえ、ひかりちゃんって、ああいうの作れる?」
「簡単に作れるけど、それだけじゃつまんないよね」
「え、どういうこと?」
「実際に見せた方が早いわね。ラボに来てくれる?」
ウォークインクローゼットの奥には、ひかりのラボがあった。
「前に見た人形の家みたいで可愛いけど、研究室っぽいね。
将輝が秘密基地だとか言って、ロボットを飾ろうとしてたよ」
「確かに、可愛くはないけど。でも、色々できるのよ」
「じゃあ、翔子ちゃん。好きな動物はなに?」
「ウサギかなぁ?」
「ウサギね。じゃあ、部活は手芸部だったよね?
将来なりたい職業は決まってる?」
「ハンドクラフトのお店を開きたいな」
ひかりはメガネの中央に指を添えて、翔子の話をじっくり聞いていた。
「微妙に被ってるなぁ。じゃあ、好きなスポーツは?」
「バスケかなぁ?」
「では、これで十分ですね。ちょっと待ってて」
ひかりが端末を操作すると、画面には擬人化したウサギが表示された。
翔子の学校の制服を着ていて、翔子がウサギになった姿に見えた。
「わぁ!すごく可愛い。こんな子がウチの学校にいたらいいな」
「いえ、これは翔子ちゃん本人だよ」
「えぇ!?これ私?凄く可愛いんだけど」
「気に入ってくれましたか?じゃあ、これをシールにしましょう」
ひかりが再び端末を操作すると、そのウサギのキャラが、シール台紙のような縦長の画面に表示された。
自転車に乗って通学している姿、手芸をしている姿、バスケをしている姿。
翔子が答えた内容で、何パターンかアレンジして台紙いっぱいに表示された。
「凄い!これってプリントアウトして、シールになるの?」
「もちろん。もうちょっと待ってて」
今度はかなり時間がかかったが、奥の機械から出力された台紙には、立体的なシールが貼られていた。
樹脂で立体化されたハードなものから、シリコンで立体化されたソフトなもの、中には液体が入っているものまであった。
「はい、どうぞ。世界にひとつだけの翔子ちゃんのイメージシール」
「すごい、ジェルポップやレイヤードだけじゃなくて流行のシールが色々入ってる」
「そう。流行りのタイプを全部詰め込んでみたの」
「きっと、これで全部だよ。本物がお店に並ぶとすぐ完売しちゃうのに。これ私にくれるの?」
そんなことを話している間に、もう1シートが出力された。
「そちらは翔子ちゃんの自分用、もう1枚は交換用だよ。
まだ材料が少ないので、たくさんは作れませんがシール交換楽しんで来てね」
「ありがとう。全部1枚だったから、交換できないなって思ってたけど、2シートあれば交換もできる」
ひかりは気付いたように目を見開いた。
「あ、ネットで市販品を見てたら、同じシールが何枚かあったのはそういう意味だったんだね」
「うん、そうだよ。自分の分も欲しいけど、交換するのも楽しいしね」
「この呪符が、かほど無限の可能性を秘めし魔導具であったとは」
翔子は目を丸くしてひかりを見てつぶやいた。
「えっと、ひかりちゃん?」
「これは、失礼。是非、お友達と交換してきてくださいね」
「呪われるとか、ないよね?」
次の日、翔子は友達と交換したシールが貼ってあるシール帳のページを見せてきた。
「昨日、作って貰ったシール、早速、友達と交換したんだ。
みんな、かなり大切にしていたシールと交換してくれたんだ」
確かに、そのページには最新のシールが沢山貼られていた。
その中で、ひかりの目を惹いたのは、キラキラとデコられたシールだった。
「何かこの辺り、ちょっと古臭い感じがしますね」
そのひかりの言葉に反応したのは円香だった。
「あぁ、それ私が若い頃に流行ったカルチャーやトレンドね。
それをデザインしたシールも流行っているみたいね」
「古いものでも、また流行るんですね」
「古くなったものがまた流行るって珍しくないよ」
翔子がそう言うと、ひかりは呟いた。
「そういうものなのですね……」
お読みいただきありがとうございます。
翔子に勉強を教えるひかりのイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/stella_bridge_/status/2102623743092961538?s=20
よろしければ、ご覧ください。




