第27話 お前の子供でもあるんだけどな……
「ピンマイク、完成しました」
「あら、早かったわね」
つるぎはひかりの作ったピンマイクをテストした。
スピーカーとの接続も良好で、駅で使用しても問題ない出来だった。
「それでは、これをみずほとさくらに届けないとね」
「あたし、現場労働はちょっと苦手で……そうだ、のぞみに行って貰いましょう」
「ちょっと待て!誰が、現場労働者だって?」
のぞみが反論すると、ひかりは鼻から息を吐き出した。
「まったく、これだから旧式は考えが古いのね。
デスクワークがAIに取って代わられる時代、現場作業が見直されているの」
「た、確かにそういう風潮はあるな」
ひかりはあざ笑うかのように、のぞみに顔を近づけた。
「そんな最前線の仕事、旧式には荷が重たかったかしら?」
「馬鹿いうな、それぐらい簡単だ。貸せよ、俺が行ってくるから」
のぞみは得意気にひかりからピンマイクを受け取ると、緩衝材で梱包していた。
「安藤さん、現場作業もアンドロイドに任せる時代ですかね」
「そうだな。だが、保線作業をのぞみに任せるのは不安だな……」
◇
ひかりは、ラボに籠って考えごとをする日が増えてきた。
将輝の希望を形にしようと、その開発にかなり時間を要していた。
そんな姿を見兼ねて、安藤がひかりに声をかけた。
「おい、ひかり。何をそんなに根詰めてるんだ?
今日は、将輝のサッカーの試合があるけど見に行かないか?」
「そんな暇はないのですが……」
「気分転換をするのも大事だぞ。
ずっと籠っていても、新しいアイデアは生まれないぞ」
「そうですね。ありがとうございます」
ひかりはニコッと笑うと、安藤たちと一緒に将輝の試合を見に行くことにした。
グラウンドに着くと将輝はチームメイトと合流し、アップを始めた。
「将輝は今4年生だからな……試合には出れないかもしれんがな」
「古参の序列が昏い闇としてこれ程までに……」
円香は目を丸くしていた。
ひかりのキャラは理解できても、意味は分からないようだった。
「年功序列の厳しい世界だよな……
負けが確定したら、出して貰えるかもな」
「それ、どういうことなんですか?」
安藤の端的な言葉を理解できないひかりに、円香はやさしく補足した。
「競った試合では、控えは使って貰えないんだけどね。
勝ち負けが決まると、最後にちょっと出して貰えるわよ」
「そういうことなんですね。じゃあ、今日は出番がありそうですね」
ひかりは嬉しそうな表情で安藤達に言った。
「流石ステラノイドだな。相手の力量と試合の行方が分かるんだな」
安藤の言葉を聞くと、円香が深く息を吐いた。
「いえ、この機敏なアップの様子を見てれば、私でも分かるわ。
何で、この実力差が分からないのかしら……」
「球体を追いし狂騒、此者の魂を揺さぶるに足らず……」
円香とひかりに指摘された安藤は、眉を上げて首を傾げていた。
試合が始まると、円香やひかりが言うように一方的な展開となった。
相手は格上のチームだったが、1点目が入るまではそれなりに粘っていた。
だが、点を入れられると集中力が切れて、そこからは失点を重ねていった。
「違う!6番、そこカバーに入って!」
「詳しいわね。でもそういう声援は、サイドコーチングと見なされて怒られるわよ」
円香に注意されたひかりは、息を飲んで両手を固めた。
「無限を立てし宿命を背負う者よ!世界の端を解き放ち結界を外より打ち破るのだ!」
「それじゃあ、何言ってるかさっぱり分からないわね……」
みるみるうちに点差は開き、早々に結果は見えていた。
しかも、時間が経てば経つほど、選手たちの集中力も切れて、何点開くか予想不可能な状況だった。
「初めは出来てたプレーも、もう出来ていないわね。
集中力が切れなければ、こんなに点差は開かないのに」
「そうね。そろそろ将輝も出して貰えるかしら」
残り時間も少なくなった頃、将輝がピッチに立った。
だが、将輝は右ウィングに駆け出すと、大きな声を上げた。
他にも何人か交代したが、諦めていないのは将輝だけだった。
「みんな諦めてるな……」
「この点差なら仕方ないわよね。
いくら活躍しても、どうにもならない状況だしね」
安藤と円香の言葉を聞いたひかりが言った。
「控え選手なんだから、ここで結果を残さないと次の出番は遠くなる。
勝てない局面だけど、その危機感があるのはあの子だけね」
試合も終盤、通しで出場していたキャプテンから、将輝にパスが通った。
パスを受けた将輝はゴールに向かってドリブルで進むも、すぐに2人にマークされた。
パスを出せる位置に味方はおらず、突破するのも厳しい状況だった。
意を決した将輝は、かなり遠かったがシュートを放った。
「もう、将輝。早いわよ」
「いえ、この状況なら仕方ありませんね」
ボールはゴールを目指して飛び込んでいった。
だが、遠くから放ったため、簡単にキーパーにキャッチされていた。
そこで、試合終了のホイッスルが鳴った。
「やっぱりダメだったか……」
「いえ、将輝くんは最後のこの場面で健闘したと思います。
それに4年生であのシュート力。期待の新人だと思いますよ」
ひかりはメガネを押し上げて言った。
帰りの車の中、将輝はひかりと後席に座っていた。
落ち込んでいる将輝にひかりは優しく話しかけた。
「よく頑張ったわね」
「いや、まだまだだよ……
なぁ、凄いシュートが打てる様になる道具作れない?」
ひかりは暫く考えた。
「……理論上は可能ね」
「マジかよ!それ、作ってよ」
将輝は目を輝かせてひかりを見るが、ひかりは窓の外を見ていた。
「でもね、機動歩兵みたいな道具を付けて試合に出たら1発退場ね。
それに体を鍛えないと、あなたの体が壊れちゃうわよ」
「だよな……。練習して強くなったら頼むよ」
将輝も肩を落として下を見ていた。
「そうね。まずはいっぱい練習して強くなりなさい。何をすれば良いか分かる?」
「シュートとドリブルとパスとディフェンス?」
「それは欲張り過ぎ。まずは、自分の強みを最大限に生かすことが大事。
シュートと足元を、あたしの轟天の煉獄で鍛えれば、魂が覚醒する日も遠くないわ」
「マジかよ!?やる気出てきた。俺も強くなれるのか?」
ひかりは口角を上げて、グーサインで応えた。
将輝の目は輝き、腕を組んで座っているひかりを見据えていた。
「さすが、あなたの子供ね」
「お前の子供でもあるんだけどな……」
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将輝の試合を応援する安藤と円香とひかりのイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/stella_bridge_/status/2103711184369467647?s=20
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