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Departures ― さくら

本編では描かれなかった、ステラたちの「出発」を描く短いエピソードです。

「じゃあ、これで準備は終わりね。

 この国で過ごす最後の日になるから心残り無いようにね」


 ステラノイド達が派遣される前日、本国で伊吹が5人への最後の説明と確認を終えた。


「なぁ、伊吹さん。やっぱり俺たちは貨物室で荷物扱いなのか?」

「そうね。第2期は認証が取れてないから、貨物輸送が原則ね」


 のぞみが頬を膨らませていると、つるぎが静かに申し出た。


「確か、アンドロイドも搭乗員の補助として同乗できる規程もあったと思うけど」

「えぇ、あるにはあるわね。でも、乗客1人に対して1体。

 私たちは残務があるから後日出国だけど、レイン博士と誰が客室に乗る?」


 伊吹がそう告げると、5人は様々な表情でお互いを見合っていた。

 その姿を見た伊吹は深く息を吐き出した。


「だから、この規程は使えないの。みんな平等に貨物室がいいと思うけど」


 落胆する5人をよそに、レインが口を開いた。


「それは人間大のヒューマノイドに関する規程だったよね。

 ウチのアンドロイドは人形大だから、申請すれば手荷物品扱いにできたはず」

「確かにそうですね。それを、主任が手続きしてくれると?」


 伊吹がそう言うと、レインはコーヒーをすすりながら言った。


「いや、僕は明日の出発に備えて色々と忙しいんだよ。伊吹君よろしく頼むよ」

「コーヒー美味しそうですね。私もご一緒させて頂こうかしら」


 伊吹も断ろうとしていたが、ステラたちの視線が鋭く突き刺さる。


「分かったわよ。空港に行ってこればいいんでしょ」

「伊吹さん、ありがとな~」


 根負けした伊吹は荷物をまとめて空港に出発した。


「そういえばチェリートレイルの桜が満開だったな。

 向こうでも桜は見えると思うけど、この国の桜も中々良いもんだぞ」

「そうですね。最後にみんなで見に行ってきます」


 つるぎがそう言うと、5人は河畔の遊歩道、チェリートレイルに向かって出発した。



 チェリートレイルに着くと、河畔の桜の木は満開だった。

 想像していたより、赤みを帯びた桜は、風に揺られてざわめいていた。


「凄くキレイね。川の両岸が見事なピンク色」

「でも、桜の色ってもっと白に近い大人しい色合いじゃなかったかしら」


 感激するみずほをよそに、ひかりは不思議そうに桜並木を眺めていた。

 黒鉄は、缶ビールを片手に、干物を片手に遊歩道を歩いていた。


「まったく、雰囲気が台無しだぞ……」

「これはこれで、お花見という意味ではぴったりかも」


 のぞみが呆れたように呟くが、みずほがフォローした。

 黒鉄はひとくちビールを飲むと、桜を見上げた。


「コヒガンザクラだな。ソメイヨシノより幾分か赤みを帯びている」

「詳しいわね」


 黒鉄は、ふっと息を吐き出した。


 静かに桜を見上げる4人とは対照的に、さくらは一際目を輝かせて桜を見上げていた。

 両手を胸の前で握り合わせて、感激している様子だった。


「そんなに桜が気に入ったか?」

「うん。想像していたより素敵で好きになっちゃった」


 黒鉄は目を細め、軽く頷いた。


「夕方、ラボに寄ってくれ。渡したいものがある」

「わぁ、何かくれるの?後から寄るね」



 5人は、ラボに戻ると研究チームのデスクに向かった。


 黒鉄は自分のデスクに腰かけていた。

 ルーペの様なもので何かを見ながら加工を加えていた。


「黒鉄さん。お待たせ~」

「おっ、ちょうど良かった。できたぞ」


 黒鉄は、手に桜の髪飾りを持っていた。


「うわぁ、素敵。これうちにくれるの?」

「かなり上手くできたと思う。自信作だ」


「おい、ズルいぞ。なぁ黒鉄さん俺にもくれよ!」


 のぞみが頼み込むと、黒鉄は静かに笑っていた。


「こういうのはワンオフだから価値があるんだ。

 桜の価値を一番感じてくれたやつに持っていて欲しい」


 黒鉄がそう言うと、のぞみは渋々と黙り込んでいた。


「意外ね。こういうの白石さんや四絃さんのイメージに近いけど」

「あいつらはシステム屋だからな。こういう技は俺の分野だぞ」


 黒鉄は、繊細な桜の花が一瞬で散ってしまいそうな勢いで豪快に笑った。


「それは知ってるし、そういう意味じゃないんだけどね……」

 つるぎは、得意そうな表情の黒鉄を呆れたように眺めていた。


「じゃあ、万能な伊吹さんだって……」


「伊吹が花か……」

 黒鉄はそう呟くと豪快に噴き出した。


「冗談がキツイな。いや、植物は案外図太いからな、ぴったりかもしれないな」

「確かに怖いからな伊吹さん。コンクリートも突き破って根を張りそうだしな」


 のぞみも黒鉄と一緒に笑っていたが、他の4人は笑っていなかった。

 2人の後ろを見上げて、怯えているような表情だった。


 のぞみは4人が見上げる先に目を向けると、そこには伊吹がいた。


 驚愕の表情ののぞみとは裏腹に、黒鉄は涼しい表情で伊吹に声をかけた。


「おう、伊吹。戻っていたのか?」

「そうね。手荷物品として申請して許可をもらってきたけど、貨物室の方がいいみたいね」

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