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第23話 どっちも、無理ね

 リスク管理室は、投稿者とニュースサイトに削除を要請した。


ニュースサイトからは、投稿者に確認して事実と判断したので掲載しているとの回答があった。

投稿者に至っては、DMで接触を試みるも回答が返ってくることはなかった。


 架流とのぞみは、デスクで頭を抱えていた。


「どうしたもんかな?何かいい案は無いか?」

「残念だが俺たちに出来ることは何も思い浮かばねぇ。

 動けば動くほど、深みにハマりそうで迂闊に手は出せないな」


 その時、安藤がやってきた。

「おい、これを見てみろ」


 安藤が見せたのは、SNSに投稿された動画だった。

 再生すると、悠真に会いに来ていた2人組の女性が映っていた。


「これは今、話題になっている投稿の1つです。

 私たちの写真を使って投稿をしていますが、これは全て嘘です」

「私たちも自分の顔なんて晒したくなかった。

 でも、他人に晒されて偽の投稿に使われるなら断固抗議します」


 投稿画面の写真と自分の顔が比較できるように撮影されていた。


「私たちは、この駅員さんの対応に辟易していませんし、馴れ馴れしくもされていません。

 それに、このニュースサイトは、事実を調査せず投稿者の意見を鵜呑みにして掲載しています」

「無理やり声をかけられた事はありません。

 むしろ無理やり声をかけてきた2人組から私たちを助けてくれました」


 2人の女性は胸に手を当てて、カメラに一歩近付いた。


「それに、彼は男女関係なく丁寧な対応をしていました。

 彼を助けたいと思う人は、ぜひ声をあげて力を貸して下さい」


 彼女たちの投稿した動画は、記事の捏造を指摘するものだった。

 ネットニュースになっていたこともあり、この動画は一瞬で拡散された。



 次々に、本来の悠真の丁寧な対応を裏付ける投稿や、デマを批判する投稿でSNSは溢れかえった。


 投稿者は、動画を投稿した2人を使った部分だけを削除した。

 もちろん、それで批判は収まらなかった。


「ほかの記事も裏付ける証言はないのか?」


 そういう批判があると、投稿者の投稿を裏付けるような投稿もあった。

 その投稿は本当か?という空気もあったが、批判は更に続いた。


「そこまで言うなら本人出て来い!」

「あの2人は自分たちの姿を晒して抗議したんだぞ!」


 その後、写真に写っている女性の鞄が投稿された。

 顔は出せないが、持ち物なら投稿できるということだった。


 鞄に付けているアクセサリーは、投稿に使われた写真と同じ物だった。

 だが、この鞄そのものが問題になった。


「あの写真のような使い込まれた形跡もないし、これ新品だろ?

 せめて、ネットオークションで中古品を買えよ」

「証言者はもういいから、投稿者本人出て来いよ!!」


 これにより、投稿者側を擁護する反論は止まった。



 そして、この一連の騒動が、複数の大手ニュースサイトで取り上げられた。


 大手ニュースサイトは、掲載前に会社や悠真への取材も行った。

 あの2人の女性へのインタビューも行い、これらを掲載すると大きな反響を呼んだ。


 ある日、偽情報を投稿したアカウントは削除されていた。

 初めのニュースサイトからも、この件に関する記事が削除された。


 皮肉にも、この騒動の解決を以って、潮凪線プロジェクトへの注目が高まった。



 騒動がおさまった頃、架流と悠真と真澄は、ステラたちと海カフェで食事をしていた。


「今回は大変だったわね。あの2人には感動しちゃったわ」

「そうだね。正直あの2人が助けてくれたようなものだったな。

 俺たちだけではどうする事もできなかったかも」


「それにね。悠真ちゃんの日頃の行いの積み重ねが救ってくれたと思うわ。

 騒動が大きくなってしまったのも、日頃の行いの積み重ねだけど……」

「ちょっと、それは言わないでよ」


 悠真が慌てると、店主が豪快に笑った。

「今度、お礼も兼ねてウチで一緒に食事しなよ。サービスするよ」

「いや、何か色々言われそうだから、遠慮しとくよ」


「あらあら。話したいことがたくさんあるのにね」

 そう言った店主がテーブルを離れた後、架流が口にした。

「このプロジェクトが始まって、わずか半年で潮凪線と神谷線の収支が改善された。

 のぞみたちにはホント感謝だよ」

「馬鹿言え。お前たちもしっかりやってくれたから成果につながったんだよ。

 これならアルカディアの国際コンクールでもいい線を狙えそうだぜ」


「何だそれ?」

 架流にとっても、真澄や悠真にとっても初めて聞く内容だった。


「毎年9月までの実績を評価されて、優秀な国の研究チームが表彰されるんだ。

 12月に受賞式が行われるから、入賞すれば本国で表彰して貰えるよ」

「パーティー形式で、素敵な御馳走がいっぱい出てくるんだよ。

 でも、まだ半年しか活動していないし、第5世代が活躍してないから今年は無理かな」


 さくらは、遠い目で海の向こうを見ていた。


「これでいいんだよ。神谷駅も潮凪線もまだまだ良くなっていく。

 それに来年の4月からは、俺のガイドツアーも始まるからな」

「あ、そう言えばそんな企画もあったな」


 架流にそう言われたのぞみは、目を見開いて架流の方を見ていた。


「おいおい!まさか、何もしていないわけじゃないだろうな。

 俺、実現するのを凄く楽しみにしているんだからな」

「半年前にそんなこと言ってたもんな。そんな昔のこと、忘れちまったよ」


 架流はそう言うと、のぞみが怒ってくると思い身構えていた。

 だが、のぞみは深く考える様な表情で架流の方を見ていた。


「それ、自分で言うのは楽しいんだけど、人に言われると腹が立つな」


 のぞみは頭をかきながら笑顔で言い放った。

 そして、実際に怒ったのは、のぞみではなく架流だった。


「おい、ちょっと待て!あれ全部、分かってて言ってたのか?」

「当たり前だろ。何言ってるんだ?」


 のぞみがそう言うと、架流以外の誰もが笑っていた。

 ここで怒ったらのぞみの思う壺だ。そう思った架流は話を変えた。


「これで9月も終わるし、来月からは来年度の入賞を目指して頑張ろうぜ。

 ところで、第5世代ってどんな性格なんだ」

「第5世代か……アイツ俺よりもキャラが濃いぞ」


「ちょっと待て、それどれだけ強烈なキャラなんだ」

「待て待て、そこまで言われるとさすがの俺でも傷付くぞ。

 ホントお前は俺の扱いが雑だよな」


 のぞみは架流に笑いながら話していた。


「強烈なのは性能だな。

 つるぎは、バランス良く高性能だけど、そいつは特殊用途特化型だな」

「へぇ、何に特化しているんだ?」


 そう聞かれたのぞみは、悪戯な表情で架流を見ていた。


「内緒だ!」



 海カフェで会食を終えると、真澄とみずほは神谷に帰っていた。


「ココいいかな?」

「え?あ、安藤さん」


 車内で振り返ると、そこには安藤とその家族らしい3人がいた。

 安藤もプライベートで同じ方向に来ていた。


「ウチの子たちがステラノイドを見たいと言うんだ。

 ちょっと見せてやってくれないか?」

「はい。勿論です」


「やった~」

 そう言うと、中学生位の姉と、小学生位の弟が座席を向かい合わせにして座った。


「じゃあ、お前たち、お姉さんに迷惑をかけるんじゃないぞ?」

「は~い」


 そう言うと安藤は、妻と思われる女性と、離れた席に座ってしまった。


 え?子供たちを任されて、夫婦水入らず?

 真澄がそう考えている間に子供たちから嵐のような質問攻めが始まった。


 真澄もみずほも、返事をするのに精いっぱいだった。

 何を話したか、細かい部分までは覚えきれなかった。


 姉の翔子ちゃんは中1で手芸などが好き。将来は自分のお店を持ちたいらしい。

 弟の将輝くんは小4でサッカーとロボットが好き。将来はサッカー選手になりたいらしい。


「ねぇ、空飛べる?ビーム出せる?」

「どっちも、無理ね」

お読みいただきありがとうございます。


投稿された女性2人の動画のイメージイラストをXで公開中です。

https://x.com/stella_bridge_/status/2098638737391698198


よろしければ、ご覧ください。

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