第22話 信じて見届けます
「ナンパ駅員が節度を越えた客対応」
SNSに投稿された、接客中の悠真の姿が記事になっていた。
しまりのない顔で女性客の対応をする姿と、男性客に一見普通に対応をする姿が投稿されていた。
執拗な対応で辟易としている女性から苦情が出ていること。
冷淡な対応をされた男性客から苦情が出ていること。
悠真を知っている2人には、信じがたい記事が掲載されていた。
「目を疑うような見出しだが、お前たちに心当たりはないか?」
安藤は、静かに腕を組んで、架流とのぞみを見据えていた。
「心当たり……しかねぇな」
「おい、のぞみ!安藤さん、本文は捏造されたものです」
腕を組んだまま、静かに首を振った。
「本文か……画像は?」
「恐らく画像は実写で、偽造されたものではないでしょう。
女性だけでなく、男性にも同様に丁寧な接客をしていました」
「高橋が言うのなら、それが真実だろう。
だが、こうやって記事になってしまった以上、タダでは済まないだろうな」
架流たちは、悠真が女性客と個人的な関係を持たないことで油断していた。
だが、こんな形で投稿されれば、世間には真実が伝わるとは思えなかった。
「引用元の投稿も見ていたが1件や2件だけじゃなかった。
それに掲載されたサイトはマイナーだが、話が大きくなるのは時間の問題だな」
悠真を嗅ぎまわる男たちが、何かすることは予想できていた。
だが、勤務中という状況が切り取られることで、会社の問題にも発展していた。
「安藤さん、すぐに碧海まで行って悠真に確認してきます」
「そうだな。せっかくいい流れになってきたタイミングだ。
まずは状況を確認してきてくれ」
「悠真、この投稿のことを知っていたか?」
「何だこれ!まったく知らなかったぞ。
最近、乗客の雰囲気がおかしいなとは感じていたんだが」
「お前、心当たりがあるだろう?お前のことを嗅ぎまわっていた奴らに」
悠真は苦い表情で架流から視線を外していた。
しばらく沈黙が続いたあと、女性にしつこく言い寄っていた2人組との経緯を話した。
「本当に何もないんだなって聞いたよな?何でそのときに教えてくれなかったんだ?」
「いや、大事になるとも思えなかったし、こんな手に出てくるとも思わなかったんだ」
架流には、言いたいことがいくつもあった。
だが、どれも今この場面で、うまく言葉にすることができなかった。
「そのときのことを今更言っても仕方ねぇよな、その2人組をとっ捕まえて……」
「いや、ネットニュースにまでなったんだ。もうここには来ないだろう」
その時、架流の携帯に着信があった。安藤からだ。
架流は安藤と短い会話を交わし、承知した旨を伝えて電話を切った。
「今から安藤課長と安田室長がここに来るそうだ」
「安田室長?」
その名前を口にした悠真は、軽く身を引いていた。
「リスク管理室の安田さんだ。事情聴取に来るそうだ」
午後一番で、安藤と安田室長が碧海駅を訪れた。
悠真は、これまでの経緯を正確に証言した。
磯辺駅長もこのことは把握していないようだった。
悠真に注意された2人組の仕業であることは予想できた。
「駅で迷惑行為をする乗客への対応としては正解だ。
女性客に対する接客態度も、大きな問題とは言えない」
安田が口にした言葉は、予想以上に軽いものだった。
だが、その鋭い目が悠真を見据えていた。
「それでも、こういう形で記事にされてしまった以上、
我々もそれなりの対応を取らないといけない」
安堵していた悠真は、青ざめて身を縮めていた。
それを見たさくらが立ち上がり、慌てて両手を振った。
「信じて下さい!
悠くんは、誰に対しても平等に丁寧な対応をしていました」
「我々もそこを疑うつもりはない。
だが、それを客観的に証明してくれないと手を打てないんだ」
安田の言葉に、さくらは肩をすくめて悠真の方を振り返った。
悠真はさくらと目が合うと、首を横に振った。
「じゃあ、帰って今後の対応を検討させて貰うよ。外部有識者も交えて」
安田はそう言うと1人で本社に帰ってしまった。
同席していた駅長の磯辺は、静かに話を始めた。
「この度はこちらの不手際で、業務改革課さんに迷惑をかけて申し訳なかった。
ただ、南波ばかりを責めないでいただきたい」
「はい、高橋から聞いた通り、誰に対しても丁寧な接客をしていたのでしょう。
だが、安田さんも言っていた通り、客観的に証明できるといいのですが」
安藤も悠真を庇おうとしてくれていた。
だが、誰もそれを証明する方法に心当たりは無かった。
「やっぱり、その2人を捕まえて、謝罪させるしかねぇな」
「頼むから、問題を大きくする事はしないでくれ……」
しばらく全員で知恵を絞ったが、誰にも打開策は思い浮かばなかった。
「ここで考えていても仕方ない。
磯辺さん、今日は我々もこれで失礼させて貰います」
◇
安藤と架流とのぞみが引き上げると、悠真は駅務室で事務処理をしていた。
さくらには、深く俯いて拳を握りしめている悠真を見ていることができなかった。
「ちょっと外の様子を見てくるね」
「あぁ、気を付けてな」
さくらがコンコースを歩いていると、悠真を待つ2人組の女性がいた。
「やっほ~さくらちゃん。また来ちゃった」
「どうしたの?元気ないじゃん」
「実は今、大変なことになってて。これ……」
さくらは2人にニュースサイトを教えて今の状況を伝えた。
ニュースサイトやSNSへの投稿を見た2人の表情は変わっていった。
「この服、先々週に来たときじゃん。私たち勝手に投稿されてるし」
「慣れ慣れしい対応に辟易しているなんて書かれてるじゃん」
投稿された1枚は、笑顔で2人に接する悠真の写真だった。
もう1枚は、悠真に食事を断られて不機嫌そうにしている2人の写真だった。
悠真の表情の分かる写真には2人の後姿が、2人の表情が分かる写真には悠真の後姿が写っていた。
そんな2枚を組み合わせれば、捏造された投稿文をもっともらしく見せる材料になっていた。
「どれだけ汚い手を使うのよ。それで、悠真くんは大丈夫なの?」
「さっき本社の偉い人が来て、悠くんタダでは済まないみたい……」
それを聞いた2人の女性は後を向いて相談を始めた。
だが、さくらにはその内容を聞き取ることができなかった。
ただ、辛うじて聞き取れた「晒すしかないね」という単語だけが、さくらの耳に残った。
2人は相談を終えてさくらの方に振り向くと、眉をつり上げて1歩踏み出した。
「有り得ない!私たちに任せて!!」
2人の圧に押されたさくらは1歩身を引いた。
「でも、本社が対策を考えているから、勝手に動いたら」
「それを待っていたら、悠真くんは会社をクビになっちゃうよ?」
会社の看板を背負うさくらにとって、2人の気持ちはありがたかった。
でも、晒すという言葉だけが胸を締め付けていた。
「大丈夫、私たちはアストラ電鉄の関係者じゃないし、止められる理由がないわ」
「勝手に写真使われて怒ってるんだし、自分たちの問題として戦うから」
さくらはしばらく悩んだあと、口元を緩めて2人に優しく微笑んだ。
「よろしくお願いします。あとは、信じて見届けます」
お読みいただきありがとうございます。
碧海駅のコンコースで2人の女性と話すさくらのイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/stella_bridge_/status/2097613264045944952?s=20
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