第19話 絶対に怒らないから
さくらたちの書いたコードで、アプリのデバッグも完了した。
そして、印刷屋に発注していたさくらの作った地図やパンフレット、ポスターも配達された。
「わぁ、素敵な仕上がりですよ!」
さくらとのぞみは、配達された地図やパンフレットを嬉しそうに眺めていた。
悠真とさくらは碧海駅のパンフレット置き場に並べた。
「よし、架流。さっそくポスターを貼りに行こうぜ!」
「いや、俺はいいよ。
悠真の企画だし、駅の業務は代わってやるから悠真が貼りに行った方がいい」
「えっ!そうなのか?」
「駅長が、俺が留守番をして、ポスターは企画者の悠真が貼るべきだってさ。
俺がここを離れてまだ数カ月だからって、安藤さんにまで話を通してくれたよ」
悠真も駅長からそのことを聞いていたらしい。
悠真の帽子を預かると、架流は3人を見送った。
駅長の言う通り、現場を離れて数カ月だから問題はないだろう。
そう思って改札口に立っていた。
そんな架流に2人の女性が話しかけてきた。
「こんにちは。悠真くんは今日、不在ですか?」
「はい。南波は別の仕事で別の駅に出ておりまして」
2人の女性は顔を見合わせた。
「そうですか。また、後で来ますね」
「はい。申し訳ございません」
どういうことだ?
駅員目当てに乗客が来るなんて初めて聞いたぞ!?
だが、架流は真澄目当てに神谷駅を訪れた客がいたことを思い出した。
流行ってるのかな?そういうの。
◇
その頃、悠真はのぞみとさくらと電車で各駅を回っていた。
駅で迷っている人に声をかけられると丁寧に応対していた。
悠真は車内で困っているような人を見かけると声をかけていた。
「ほんとマメだよな。お前のバディ」
「そうだね。困っている人を見かけると、放っておけない性格みたい」
若い女性客に声をかける悠真は嬉しそうだった。
だが、それ以外のお客に対しても変わらず声をかけて案内をしていた。
そして、届いたばかりのチラシを配って企画の案内もしていた。
何人かはその場でアプリをインストールしたように見えた。
「すげぇな。あの勢いでいったい何人の彼女がいることやら……」
「悠くんはね。みんなに勘違いされるけど、そういう相手は1人もいないよ」
のぞみは目を見開いてさくらに聞いた。
「マジかよ!?あの甘いマスクでお人よしだろ?
女の方が放っておかないんじゃないのか?」
「確かに遊びに誘われることもあるんだけど、断ってるね」
のぞみは両手を上げて、身をのけぞらせた。
「なんだよ、それ?
それなのにみんなに声かけて、何を考えてるんだ?」
「人と楽しく話すのが好きなんだろうね。
確かに女の人のことは好きだけどね」
◇
3人は各駅にチラシを置いてポスターを掲出して戻ってきた。
20分に1本の電車で各駅を回っていた。
戻ってきた頃には、夕方になっていた。
「おう、帰ったぞ!」
「お疲れ様。どうだった?」
架流が聞くと悠真は嬉しそうに返した。
「ポスターもチラシも完璧だぜ!
それより5人くらいアプリ入れてくれたんじゃないかな」
「本当か!?それは凄いな」
しばらくすると、先程の2人組の女性が戻ってきた。
「あ、悠真くん。お帰り~」
「さくらちゃんもお疲れさま」
悠真とさくらは、この2人と知り合いらしい。
さくらも笑顔で手を振っていた。
「ねぇねぇ。今日は何時に終わるの?」
「終わったら今日こそご飯に行こうよ~」
架流とのぞみは顔を見合わせた。
これがここの日常なのだろうか。
「南国って、奔放だよな……」
「いや、ここはまだ県内だぞ……」
架流とのぞみが呆れて様子を伺っていると、悠真は2人の誘いを断ったようだ。
2人は寂しそうに帰っていった。
架流はてっきり悠真が2人と食事に行くものだと思っていた。
だが、会話の流れからいつも断っているようだった。
「せっかくだから食事くらい一緒に行ったらよかったのに」
「お前行きたかったのか?それなら今度みんなで行くか?」
「いやいや!俺は別にいいけど、お前は行きたいんじゃないのか?」
架流にそう言われた悠真は、架流から目を離して少し考えた。
そして、再び架流の顔を見て話を始めた。
「行きたいか?と聞かれたら、そりゃ行きたいさ。
でも、あの子たちは、また遊びに来てくれて楽しく話ができる」
「それで満足なのか?」
悠真はまた架流から視線を外した。
「満足か?と聞かれたら、そりゃ満足ではないね。
でも、あの子たちが、また遊びに来てくれればそれで充分さ」
「だったら……」
架流が言い終わる前に、悠真は続きを話しだした。
「少なくとも今は駅員だ。駅で会った女性はお客さんでしかない。
業務の範囲内で、楽しく話ができればそれで満足だよ」
帰りの車内でのぞみは架流に聞いてみた。
「すげぇよな。アイツ見た目によらず真面目だな」
「真面目かどうかは別にして、考えてはいるよな。
普通に知らない女性に声かけて、楽しそうに話している姿はよく見るな」
のぞみは目を丸くしていた。
「羨ましいとか思わないのか?
お前も面は悪くないんだし、その気になれば」
「純粋に羨ましいとは思うよ。
でも、真似をしたいかと聞かれればそうは思わない」
のぞみは不思議そうに架流の顔を見ていた。
「俺が真似をしてもロクな結果になるとは思えないしな」
「お前も恋人とかいないよな?欲しいとか思わないのか」
架流は苦笑して答えた。
「秘密だ」
「ズルいぞ!詳しく教えろよ!絶対に誰にも言わないから」
のぞみは顔を真っ赤にして怒っていた。
そんなのぞみの姿を見た架流は、悪戯っぽく笑ってみせた。
「不器用な男がいるみたいなこと言ってた時あったよな?
それが誰のことか教えろよ。絶対に怒らないから」
お読みいただきありがとうございます。
車内で困っている人に声をかけて案内し、ついでにアプリをアピールしている悠真のイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/stella_bridge_/status/2093525549796999462?s=20
よろしければ、ご覧ください。




