第20話 つながることがないといいんだけど……
ポスターを貼ってチラシを配布するようになってから利用者は増加傾向にあった。
さくらは会社が依頼したライターと、企画に協力してくれた店舗や観光名所を取材した。
潮凪線のアカウントは、神谷駅のアカウントからの流入で多くのフォロワーを獲得した。
8月を迎える頃には、アプリ登録者数と企画乗車券の利用者数は顕著に増加した。
悠真とさくらの成果を関係者の誰もが認めていた。
「お~い、サクラ。絶好調みたいだな」
「今、すごく失礼な呼び方していなかった?
イントネーションが怪しかったんだけど……」
のぞみは笑って否定していたが、恐らくさくらの予感は的中していたのだろう。
「今やこの路線のアンバサダーのようなものだからな。
さくら目当てに遊びに来てくれる人も出てきたし」
「それなら悠くんも、お節介な優しい駅員さんとして有名になったよね」
確かに、悠真のきめ細かな対応は一部で話題になっていた。
潮凪線のスポットから、碧海駅周辺のスポットまでの丁寧な案内。
これは悠真だからできることだと架流は思っていた。
「確かに悠真の案内は社内でも評判だよ。
潮凪線のスポットを紹介して、碧海駅周辺はそこそこにしろとの声もあってな」
「何だよ。それ!」
「碧海にいる乗客は、ルナの利用者が大半だからそれを案内すべきはルナだ。
ルナで碧海に来て観光案内だけお前に頼むのであれば、それはおかしいと」
アストラ電鉄は星宮圏の小さな町もつなぐ地元密着型の営業をしていた。
後から参入したルナメトロは、大都市に限定して直線で結ぶ速達営業を看板にしていた。
星宮中央から碧海まで半分の時間で到着できるため、観光客はルナメトロで訪れていた。
「確かにそれには気付いているけど、それを言ったらおしまいだろ?」
架流の指摘は、企業としては正論だったが、悠真は納得できない様子だった。
ただ、正論だけでは悠真やアストラのイメージダウンを避けられないのも事実だった。
「でも、実際に僅かながら、潮凪線の乗客数も増えてはいる。
それ以上にルナの乗客数の方が増えているのではと指摘する声もある」
「なら、どうしろと?」
「今は特定の数人が騒いでいるだけだ。ウチの乗客数も増えてるし問題にはなっていない。
ただ、そういう人間も何人かいるという事を心に留めて欲しくて伝えた」
「分かった。注意するよ」
ただ、それより重大な話を持ってきたのはのぞみの方だった。
「でな、さくら。申し訳ないけど、お前を潮凪駅に常駐させるという案もあるんだ」
「え!?悠くんとは離れて?」
のぞみは黙ったまま、首を縦に振った。
「さくらに会いに来る層がいるのであれば、さくらをアストラの単独駅に置こうと。
碧海駅まで来た客を、潮凪線に誘導する目的が本音だろう」
「……本音?」
さくらは、呆然とのぞみの言葉の核心を繰り返した。
「潮凪線が無人駅なのは知っているだろ?
俺たちが駅員の代わりに乗客の案内をするという実証実験の案が上がったんだ」
「えぇ!?レイン博士は何て言ってるの?」
「わたしは反対しない。
自分で考えて答えを出せる子たちだから、当人の意思を尊重して欲しいと」
「そっか……信用されてるんだね。あたしたち」
さくらは嬉しいとも悲しいとも読み取れない表情で潮凪線の路線図を見ていた。
「悠くんが碧海駅周辺も案内していることを問題にしている人と、この案を出した人は同じ人?」
「想像通り同じ人間だ。正論だけで人を振り回す悲しいやつだよ……」
架流の話を聞いたさくらは、不安そうに言った。
「それならつるぎがあの人を止めてくれなかったのかな?」
「つるぎも否定しようとしてくれたとは思う。
ただ、お前を潮凪駅に移動させることを止める理由が無かったんだろうな」
それをのぞみから聞いたさくらは諦めた。
「現場から、それが合理的でない理由を提起できれば、反論できるとは思うけど」
「特にありません。アストラとしてもアルカディアとしてもそれが1番いいと思います。
悠くんと仕事できないのは寂しいけど、会えないわけじゃないですからね」
架流がそう反論の余地を提案したが、さくらは笑って首を横に振った。
「悠真。お前の意見はどうだ?」
「僕だってさみしいよ。
でも、さくらが従うなら僕も従うしかないよね」
架流とのぞみは、さくらと一緒に潮凪駅の現場確認に行った。
さくらを含めて駅の環境を確認して、問題なければ異動することになるだろう。
のぞみだけでなく、さくらも同行させてくれたことには安心している。
単純な機械として扱うだけでなく、さくらの意思に配慮してくれてのことだろう。
だが、悠真の気分は最悪だった。
短い期間ではあったが、当然のように一緒に働いた仲間。
急に離れることになり、調査に出かけてしまった。
そんな悠真が駅の構内を見ていると、悠真に会いにきた2人組がいた。
2人は同じ場所に長時間いたので、男性2人組に目を付けられたようだった。
「いいじゃん。暇してるならカラオケ行こうよ」
「人を待っているんで、遠慮しておきます」
「だったらその間だけでも、そこのカフェに座って待とうよ」
女性2人が必死に断るも、男たちはしつこく言い寄っていた。
あの2人が絡まれたのは、自分を待っていたからでもあった。
悠真の頭には血が上っていたこともあり、4人の間に割って入った。
「ゴメンね。今日は仕事遅くなるから、またゆっくり遊びにきてね」
悠真が声をかけると、女性2人はすぐにルナの改札へと消えていった。
2人が改札に消えるのを見届けると、悠真は男性2人に目をやった。
「おい。駅員がこんなことをしていいと思っているのか!?」
「お客さま、困りますね。嫌がる女性に無理に声をかける行為は。
駅の治安を守るのも駅員の務め。失礼ですが迷惑行為と判断しました」
短い言葉をつなげる悠真の口調には凄みがあった。
毅然とした悠真の態度に、2人組は争っても分が悪いと判断したようだった。
「お、覚えてろよ!!」
そんな捨て台詞を吐いた2人組もルナの改札に逃げるように入っていった。
悠真はしまった!と思ったが、男性2人は女性2人が向かったホームとは別の階段を上った。
これならホームで鉢合わせることもないだろう。
「この先、つながることがないといいんだけど……」
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さくらの異動について相談するの架流たちのイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/stella_bridge_/status/2095077313352262117
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