第18話 今から勉強しておかないといけないね
後日、架流と悠真、のぞみとさくらは企画を考え直していた。
架流は、きっぷと同時に共通食事券を渡すつもりだった。
「アプリ決済にすれば、食事したお店に合わせて精算できるね」
さくらの提案で、アプリで運用する方向になった。
5月下旬、他部署への頭出しは安藤が行った。
悠真は通常業務に従事していたので、架流がのぞみとさくらを両肩に乗せて同行していた。
アプリを担当しているシステム企画課の課長は安藤と仲が良かった。
「利用者増になるなら、是非協力させて貰うよ。
ただ、アプリのアップデートが大変そうだね」
「こちらでソースコードを作るので、デバッグなどをお願いする分担でどうでしょう」
「それは嬉しいですね。デバッグやテストとかなら社内でできますし」
システム企画課長が嬉しそうに返事をすると、のぞみが落胆していた。
「アンドロイドが作ったコードなんて使えるか!って切り捨てる流れじゃねぇのか……」
「もう。うちがコードを書くから、のぞみがチェックだからね」
「はいはい」
のぞみは、肩を落として長く息を吐いた。
決済端末についても、初回のテスト期間は無料貸出しとなった。
「テストが終わっても、有料で使ってくれると有難いね。
企画が大きくなったら、端末の契約数が増えそうだよ」
システム企画課長は満面の笑みで安藤と話していた。
「協力してくれるのは嬉しいけど、商売上手だよな」
「そんなこと言わない。うちらの企画がみんなのためになるってことだよ」
「そっか……そうだよな」
架流たちは企画を練り直し、店舗とも交渉した。
6月下旬に企画案が固まり、社内会議に提出することとなった。
架流はのぞみとさくらを連れて、安藤と会議室に向かっていた。
架流は、着席すると向かいのテーブルを見た。
つるぎを連れた白翔も出席している。
「また、アイツらか」
のぞみは2人を見かけると舌打ちをした。
「確かに何を言われるか分からないが、この前も味方してくれた。
今回も助けてくれるかもしれないから、そう言うなよ」
架流はのぞみをなだめていた。
だが、のぞみはつるぎを完全に信じてはいない様子だった。
さくらは、そんなのぞみを見て首を傾げた。
「正しいことを曲げるようなことはしないと信じてる。
だから、つるぎに止められたら、素直に考え直すべきかもしれないよ」
そんなことを話しているうちに会議は始まり、架流が企画を説明した。
「アプリを用いることで各店舗の価格差を事後精算にできます。
各店舗は制約なく自慢のメニューを提供してくれます」
「承知した。それでは、参加者で本件に意見があれば発言して欲しい」
司会者がそう言うと、何人かから質問があった。
「5店舗に絞った理由は?」
「まずは試験的に始めて、成果があれば公募して拡大できればと思います」
「では、その5店舗はどの様に選定されたのですか?」
「駅の近くや観光地の動線にある店舗を優先して企画との親和性を考慮しました」
「5店舗は決済端末を契約してくれるのですか?」
「各店舗からも、試験期間は電子決済を導入することに同意を得ています」
ここまでは想定内の質問だった。
説明内容を絞った分が質問となり、質疑応答の時間は想定問答で流れていった。
あと少しで会議時間が終わる。
架流が気を緩めそうになった瞬間、その流れを断ち切ったのはつるぎだった。
「その内容は、決済端末ではなく二次元コードで実現できますよね?」
その質問は想定外だった。
二次元コードを読み込み、金額を入力して電子決済したことがあった。
それなのに、その決済方法を思い出せていなかった。
「各店舗には、限定メニュー専用の二次元コードを掲示して貰えば良いですね。
企画乗車券の有効期間内にアプリでしか利用できないようにすればよろしいかと」
確かにその方法なら決済端末は不要となり、店舗側もユーザ側も金額の入力が不要になる。
メニューが決まっているなら、間違いが起きる可能性も、操作時間も削減できる。
「勝負あったな!」
つるぎの隣にいた白翔は、勝ち誇った様に架流を嘲笑した。
何故、誰も気付かなかったんだろう。
架流たちに、不穏な空気が流れ込んでいた。
架流が両手の拳を強く握りしめた時、さくらが呟いた。
「架流さん?」
その一言で、架流は会議前のさくらの言葉を思い出した。
架流は両手を広げて、目の前のテーブルの上に置いた。
「ご提案ありがとうございます。
二次元コードの方が合理的ですので、その案で再考致します」
「それが賢明ね。この場は勝ち負けを決める場じゃない。
そちらの案がよりよい形になれば、それはここにいる全員の勝ちですから」
決済方法を二次元コードに変えることで、架流たちの案は満場一致となった。
数日後、5店舗の加盟店を対象に説明会が開催された。
金額に制限がなく、メニューを設定できること。
決済端末ではないが、決済サービスの利用料が優遇されることを伝えた。
反対を受けることもなく、説明会は無事に終わった。
「ごめんね。決済端末も貸してあげれると思ったんだけど」
「いや、確かに二次元コードを読み取った方が楽だからね。
正直、あの機械の使い方を勉強するのも心配だったんだよね」
海カフェの店主は、ホッとしたように笑っていた。
店主が不満に思っていないことで架流も安心できた。
「でも、この企画が成功してお客が増えたら、色んな決済方法が必要になるわね」
「そうかもね。きっとこの町は観光客でいっぱいになると思う」
店主は笑いながら呟いた。
「今から勉強しておかないといけないね」
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海カフェのテラスで店主と話す架流とのぞみとさくらのイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/stella_bridge_/status/2092540236022853927
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