第17話 もう少し考えてみるといいね
悠真とさくらは、海カフェのチラシを制作することにした。
「せっかくだから他のお店も一緒に掲載しようよ」
海辺の路線である潮凪線の沿線には、海を感じる飲食店が何軒もあった。
悠真はさくらと電車でそれらの店を巡ってみた。
「わぁ、このお店も美味しそうだよ!」
美味しそうな料理が大好きなさくらにとって、取材は幸せだった。
海カフェ以外にも、海鮮料理が看板の和食店や、地中海風のレストランもあった。
「悠くん!うなぎだよ!!」
「この辺りはうなぎの産地だからね。
うなぎが食べられるお店も多いよね」
駅から近い場所に絞っても、個性的なお店が多かった。
「朝ゆっくり本宮を出ても、昼前にはこのエリアに着ける。
昼食を食べて、どこか観光して、夕食も食べて帰れるといいよね」
「観光かぁ。向こうにある家族向けの公園なら知っているけど……」
さくらの提案に、悠真はあまり気乗りしていないようだった。
「ううん。この辺りは温泉も多いし、海と温泉だけでも大丈夫だよ。
お昼ご飯食べて、海辺を歩いてカフェに入って、温泉に浸かって」
「晩御飯を食べたら早めに帰宅。何か女子旅って感じがするな」
悠真は急にやる気が出たようだ。
「そうそう。旅行の目的は遊ぶことだけじゃないの。
のんびり自分を整えることも素敵なプランだと思うな」
「いいね。その方向でいこう!」
悠真は撮った写真を見直してさくらに転送した。
さくらはその写真を集めて、すぐに潮凪沿線観光マップを作った。
「すげぇ!これ業者に頼んだら、時間もかかるし費用も高いよな」
「これでも良いんだけどね。家族向けの公園にも行ってみない?」
悠真は1日取材してクタクタだった。
「まだ行くのか?さくらは元気だなぁ」
「あたしは第3世代だからね。長時間運用が得意なの。
あと、もう1か所だから頑張ろ!」
さくらに言われた悠真は、仕方がなく公園にも足を運んだ。
まさか広い公園の隅から隅まで散策することになるとは……。
最後に海の見えるスポットに着いた時には夕陽が沈む頃だった。
碧海湾の海面にはサンロードができて、幻想的な瞬間だった。
「わぁ、ジャストタイムだよ!」
「これは凄いな。よし!」
それを見た悠真は手早くカバンから高そうなカメラを取り出した。
その風景を1枚撮ると、トラベル三脚も取り出して組み立てた。
「さくら!こっちこっち!!」
セルフタイマーで悠真とさくらは記念写真を撮った。
慌てて撮ったはずなのに、その写真のクオリティは高かった。
「凄いね。悠くん写真撮るの上手だね」
「女の子との思い出はキレイに残したいよね」
さくらは、追及してはいけない気がしてそっとしておくことにした。
「じゃあ、あとは温泉に入って帰ろうか?」
「えぇ、ここが最後じゃなかったの!?」
週明けに、架流とのぞみが碧海駅に来た。
さくらは公園の夕景も加えた観光マップを2人に披露した。
「おぉ、この僅かな期間に凄いな」
得意げなさくらと悠真をよそに、のぞみの表情は険しかった。
「で?これをどうするんだ?」
「駅に置いて配って、みんなに見て貰うの」
さくらは、嬉しそうに話した。
「弱いな」
のぞみがそう言い放つと、さくらの目が涙で揺れた。
それを見た悠真がのぞみに反論した。
「ちょっと待て!この観光マップのどこがダメなんだ!?」
さくらと同じく温厚な悠真だったが、架流も初めて見る剣幕だった。
「すまん。言い方が悪かった。
これは確かに素晴らしい。この短期間でここまで進めたことは凄い」
「だったら!」
悠真が食い掛かったが、さくらはのぞみの真意に気付いたようだった。
「これだけじゃ、ダメってことね?」
「そうだ。せっかくここまで作り上げたんだから、雑に扱うべきじゃねぇ。
こいつを生かす方法を、もう少し詰めるべきだと思うんだ」
さくらは目に涙を溜めてはいたが、納得していた。
悠真にも意図は分かったが、その方法に心当たりはなかった。
「じゃあ、どうすれば……」
その悠真の疑問にのぞみも首をひねっていた。
しばらくして、架流が目を見開いて勢いよく顔を上げた。
「企画乗車券を作って、この地図を渡したらどうだろう?
沿線で乗り降り自由。食事券もセットにしたら、お店への流れも作れる」
「いいな、それ!この地図を、車でだけ使われたらと心配してたんだ。
乗車券を買ってくれたらウチのためにもなるし、利用状況も把握できる」
架流の案に、悠真とさくらも納得した。
「せっかくだから、お店と交渉して帰ろうぜ」
「いや、会社に相談もせずに、いきなり切り出すわけにはいかないよ。
悠真とさくらがこれだけ調査してくれたんだ。当面はこれで十分だよ」
そう言われたのぞみは頬を膨らませていた。
「旨いものを堪能できると思ったのに。さくらばっかりズルいな」
「さくらが悠真と頑張ってくれたんだからな。
あ、でも。あそこなら」
◇
架流がのぞみを連れて訪れたのは、あの海カフェだった。
「あら、架流ちゃん。お久しぶり。
架流ちゃんも可愛い子を連れちゃって」
「あいつもさくらを連れて来たんですね。ところで……」
会社に相談する前に知らないお店と話はできなかったが、ここなら相談することもできる。
架流は、さくらの作った地図を見せて企画乗車券の話をした。
店主は、架流の話を聞いて、さくらの作った地図を見た。
「いいわね。実現したらサンドウィッチで協力させて貰うわ。
でも、付いてくる食事券が共通だと鰻屋さんはどうする?」
確かに、1000円の食事券だと鰻屋では満腹にならない。
2000円に変えるとサンドウィッチでは量が多過ぎる。
「貴重な意見をありがとうございます。社内で相談してみます」
「そうだね。良い案だと思うから、もう少し考えてみるといいね」
お読みいただきありがとうございます。
海辺の公園で悠真とさくらが記念写真を撮るイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/stella_bridge_/status/2090892879355154568
よろしければ、ご覧ください。




