第16話 もう少し待ってみようかしらね
架流がのぞみと出会った1か月後、4月末のことだった。
潮凪線の碧海駅は、架流が昨年度まで勤務していた駅。
ルナメトロとの共同駅で、コンコースを挟んで両者の改札があった。
今年度から架流と交代となった南波悠真は、案内をしている最中だった。
金髪の軽そうな印象だった。
だが、人当たりの良い丁寧な接客をしていた。
「器用な男は違うな!」
「不器用な男がいるみたいな言い方だな?」
のぞみは悪戯な目で架流の方を見て笑った。
「ちょっと待て。それが誰のことか、詳しく説明して貰おうか」
「そんな残酷なこと、俺に言わせるなよ」
悠真の接客が終わると、架流と悠真とのぞみはアストラの駅員室に入った。
「久しぶりだな。
おっ、どうしたんだ?可愛らしい子を連れて」
「いやぁ、分かる奴には分かるんだな!
どうもコイツらは、俺の扱いが雑なんだよな……」
架流は、よく言うよと思ったが、あえて言葉にはしなかった。
「架流に女性の扱いを期待するのが間違いだからな」
「違いないな」
悠真とのぞみは、さっそく意気投合して笑っていた。
初対面の女性に声をかけて、楽しく話している姿を架流は何度も見てきていた。
こののぞみでさえも、もう懐いていた。
架流は今回のプロジェクトが、ステラノイドと協力して地方路線を変えることだと説明した。
そして、パートナーとなるステラノイドを預かってきたことも伝えた。
「この箱がそうか!」
悠真は嬉しそうに箱を開けた。
箱の中には緑色の髪のステラノイドが眠っていた。
「うわぁ~!超カワイイ!!」
悠真の叫び声に、緑髪のステラは目を覚ます。
目を擦りながら、辺りを見回すと悠真に微笑みかけた。
「おはようございます。うちは情報処理……」
困った笑顔で架流の肩にいるのぞみを見上げた。
「何だったっけ?」
「俺に聞くなよ!」
そう言うと、のぞみは腕と足を組んだまま、深いため息をこぼした。
あの長い正式名のことを言いたかったようだ。
「まぁ、いいか。これからよろしくね」
「よろしく!よろしく!!」
明るくて大らかな雰囲気だった。
大きな瞳と柔らかい表情で悠真を見上げていた。
「名前はまだ無いみたいだから、悠真が付けてあげるといいよ」
架流がそう言うと、悠真は期待するような表情をしている緑色のステラを見た。
緑色の髪によく映える桜の髪飾りが悠真の目をひいた。
「その髪飾りカワイイ!さくら!!さくらでどうだ?」
「素敵!ありがとうね、バディさん」
さくらの言葉に、架流は眉を上げて動きを止めた。
「パートナーとして認めたら、バディと呼ばれるんじゃなかったのか?」
「さくらは人を信じやすいからな。悪い男につかまった俺みたいにならないか心配だよ」
架流は頬をかきながらのぞみから目をそらし、幸せそうな悠真を見て言った。
「悠真も乱暴なパートナーと組まされるのかと思って、俺も心配してたよ」
◇
次の休みの日、海の見えるカフェのテラス席に、悠真とさくらは一緒に座っていた。
さくらはテーブルの上に腰かけて、目を輝かせて海を眺めていた。
寄せては返す波がキラキラと太陽の光を散らし、静かな砂浜に音を響かせていた。
「凄く素敵な海だね」
「海も砂浜も最高なんだけどね」
カフェの雰囲気は最高で、映える写真も撮り放題だった。
星宮の中心から遠く離れていたが、ここを目当てに来る人もいそうなお店だった。
「はい。お待ちどうさん。
おや、今日は可愛いお連れさんだね」
「わぁ。ありがとうございます!」
店主はさくらを見ると嬉しそうに声を弾ませた。
さくらも嬉しそうに、店主の持ってきたサンドウィッチを覗き込んだ。
「スモークサーモンだね!クリームチーズも美味しそう!
海辺で食べるシーフードって、それだけで素敵ですよね」
「分かってるじゃない」
「うちは食べられないんだけど、美味しそうな料理見るのは大好き」
「そうかいそうかい。ゆっくりしていってね」
店主は嬉しそうに笑っていたが、悠真は悩んでいる様子だった。
「おやおや、誰を探しているんだい?」
「え?何のこと?」
架流と引継ぎをする時に、2人でここに来た。
架流が常連だったらしい。
そのときに美人な2人組の女性を見かけた。
声をかけようとしたが、架流に仕事の話があるからと言って止められた。
また来るかもしれないからと通っていた。
「あの2人なら、時々来るよ」
「えっ、本当に?」
悠真は少し身を乗り出していた。
そして、頭をかいて愛想笑いをした。
「そんなこったろうと思ったよ」
店主は口元を押さえながら、悠真の目を見ていた。
悠真はばつが悪そうに、店の外の海に目をやった。
「隠さなくてもいいわよ。若い男なんだからそれくらい元気がないと。
むしろあの堅い架流ちゃんの方が心配なくらい」
「じゃあ、隠すのやめた。
あの子たちじゃなくても、可愛い子が来ないか待ってたんだ」
悠真の無邪気な目を見た店主は、豪快に笑った。
今度は、海の方へ視線を移した。
ただ、笑顔が消えて、さみしそうな表情だった。
「キレイな海と砂浜。ここなら絶対成功する。
今は人が少なくても、絶対に人を集めることができる。
私も若かったわね……」
「やっぱりこのお店には?」
「若い子は、ほとんど来てくれないわね」
店主と悠真は海を見ると、深々とため息をついて黙り込んでしまった。
「そろそろ潮時かもしれないね……」
「僕も潮時かもしれない……」
2人が落胆していると、温厚なさくらが険しい顔で立ち上がった。
「ダメだよ!こんな素敵なお店が無くなったらやだよ!!
それにうちらの目的を忘れたの!?」
「この町を、若い女の子たちでいっぱいにすること?」
悠真の言葉に、さくらは一瞬固まった。
苦笑して小さく息を吐くと、悠真の方に一歩踏み出した。
「そうそう!この町を観光客でいっぱいにすることだよ。
そしたら、潮凪線のお客さんも増えるし、みんなが幸せになれるから」
「そっか、架流もそんなようなことを言ってたな」
さくらはきょとんとした表情で悠真を見た。
しばらくすると、満面の笑みで両手を広げた。
「素敵な海水浴場に、素敵なカフェ。人の流れを作ろうよ!
絶対、お客さんでいっぱいにできるよ」
さくらの言葉を聞いた店主は、嬉しそうに微笑んだ。
「あなたたちが、この町を変えてくれるのかい。
それなら、もう少し待ってみようかしらね」
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海カフェで店主と話す悠真とさくらのイメージイラストをXで公開中です。
https://x.com/stella_bridge_/status/2090030871256719617
よろしければ、ご覧ください。




