↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/31

第16話 もう少し待ってみようかしらね

 架流がのぞみと出会った1か月後、4月末のことだった。


 潮凪線の碧海駅は、架流が昨年度まで勤務していた駅。

 ルナメトロとの共同駅で、コンコースを挟んで両者の改札があった。


 今年度から架流と交代となった南波悠真は、案内をしている最中だった。


 金髪の軽そうな印象だった。

 だが、人当たりの良い丁寧な接客をしていた。


「器用な男は違うな!」

「不器用な男がいるみたいな言い方だな?」


 のぞみは悪戯な目で架流の方を見て笑った。


「ちょっと待て。それが誰のことか、詳しく説明して貰おうか」

「そんな残酷なこと、俺に言わせるなよ」



 悠真の接客が終わると、架流と悠真とのぞみはアストラの駅員室に入った。


「久しぶりだな。

 おっ、どうしたんだ?可愛らしい子を連れて」

「いやぁ、分かる奴には分かるんだな!

 どうもコイツらは、俺の扱いが雑なんだよな……」


 架流は、よく言うよと思ったが、あえて言葉にはしなかった。


「架流に女性の扱いを期待するのが間違いだからな」

「違いないな」


 悠真とのぞみは、さっそく意気投合して笑っていた。


 初対面の女性に声をかけて、楽しく話している姿を架流は何度も見てきていた。

 こののぞみでさえも、もう懐いていた。



 架流は今回のプロジェクトが、ステラノイドと協力して地方路線を変えることだと説明した。

 そして、パートナーとなるステラノイドを預かってきたことも伝えた。


「この箱がそうか!」


 悠真は嬉しそうに箱を開けた。

 箱の中には緑色の髪のステラノイドが眠っていた。


「うわぁ~!超カワイイ!!」


 悠真の叫び声に、緑髪のステラは目を覚ます。

 目を擦りながら、辺りを見回すと悠真に微笑みかけた。


「おはようございます。うちは情報処理……」


 困った笑顔で架流の肩にいるのぞみを見上げた。


「何だったっけ?」

「俺に聞くなよ!」


 そう言うと、のぞみは腕と足を組んだまま、深いため息をこぼした。

 あの長い正式名のことを言いたかったようだ。


「まぁ、いいか。これからよろしくね」

「よろしく!よろしく!!」


 明るくて大らかな雰囲気だった。

 大きな瞳と柔らかい表情で悠真を見上げていた。


「名前はまだ無いみたいだから、悠真が付けてあげるといいよ」


 架流がそう言うと、悠真は期待するような表情をしている緑色のステラを見た。

 緑色の髪によく映える桜の髪飾りが悠真の目をひいた。


「その髪飾りカワイイ!さくら!!さくらでどうだ?」

「素敵!ありがとうね、バディさん」


 さくらの言葉に、架流は眉を上げて動きを止めた。


「パートナーとして認めたら、バディと呼ばれるんじゃなかったのか?」

「さくらは人を信じやすいからな。悪い男につかまった俺みたいにならないか心配だよ」


 架流は頬をかきながらのぞみから目をそらし、幸せそうな悠真を見て言った。


「悠真も乱暴なパートナーと組まされるのかと思って、俺も心配してたよ」


◇


 次の休みの日、海の見えるカフェのテラス席に、悠真とさくらは一緒に座っていた。


 さくらはテーブルの上に腰かけて、目を輝かせて海を眺めていた。

 寄せては返す波がキラキラと太陽の光を散らし、静かな砂浜に音を響かせていた。


「凄く素敵な海だね」

「海も砂浜も最高なんだけどね」


 カフェの雰囲気は最高で、映える写真も撮り放題だった。

 星宮の中心から遠く離れていたが、ここを目当てに来る人もいそうなお店だった。


「はい。お待ちどうさん。

 おや、今日は可愛いお連れさんだね」

「わぁ。ありがとうございます!」


 店主はさくらを見ると嬉しそうに声を弾ませた。

 さくらも嬉しそうに、店主の持ってきたサンドウィッチを覗き込んだ。


「スモークサーモンだね!クリームチーズも美味しそう!

 海辺で食べるシーフードって、それだけで素敵ですよね」

「分かってるじゃない」


「うちは食べられないんだけど、美味しそうな料理見るのは大好き」

「そうかいそうかい。ゆっくりしていってね」


 店主は嬉しそうに笑っていたが、悠真は悩んでいる様子だった。


「おやおや、誰を探しているんだい?」

「え?何のこと?」


 架流と引継ぎをする時に、2人でここに来た。

 架流が常連だったらしい。


 そのときに美人な2人組の女性を見かけた。


 声をかけようとしたが、架流に仕事の話があるからと言って止められた。

 また来るかもしれないからと通っていた。


「あの2人なら、時々来るよ」

「えっ、本当に?」


 悠真は少し身を乗り出していた。

 そして、頭をかいて愛想笑いをした。


「そんなこったろうと思ったよ」


 店主は口元を押さえながら、悠真の目を見ていた。

 悠真はばつが悪そうに、店の外の海に目をやった。


「隠さなくてもいいわよ。若い男なんだからそれくらい元気がないと。

 むしろあの堅い架流ちゃんの方が心配なくらい」

「じゃあ、隠すのやめた。

 あの子たちじゃなくても、可愛い子が来ないか待ってたんだ」


 悠真の無邪気な目を見た店主は、豪快に笑った。


 今度は、海の方へ視線を移した。

 ただ、笑顔が消えて、さみしそうな表情だった。


「キレイな海と砂浜。ここなら絶対成功する。

 今は人が少なくても、絶対に人を集めることができる。

 私も若かったわね……」


「やっぱりこのお店には?」

「若い子は、ほとんど来てくれないわね」


 店主と悠真は海を見ると、深々とため息をついて黙り込んでしまった。


「そろそろ潮時かもしれないね……」

「僕も潮時かもしれない……」


 2人が落胆していると、温厚なさくらが険しい顔で立ち上がった。


「ダメだよ!こんな素敵なお店が無くなったらやだよ!!

 それにうちらの目的を忘れたの!?」

「この町を、若い女の子たちでいっぱいにすること?」


 悠真の言葉に、さくらは一瞬固まった。

 苦笑して小さく息を吐くと、悠真の方に一歩踏み出した。


「そうそう!この町を観光客でいっぱいにすることだよ。

 そしたら、潮凪線のお客さんも増えるし、みんなが幸せになれるから」

「そっか、架流もそんなようなことを言ってたな」


 さくらはきょとんとした表情で悠真を見た。

 しばらくすると、満面の笑みで両手を広げた。


「素敵な海水浴場に、素敵なカフェ。人の流れを作ろうよ!

 絶対、お客さんでいっぱいにできるよ」


 さくらの言葉を聞いた店主は、嬉しそうに微笑んだ。


「あなたたちが、この町を変えてくれるのかい。

 それなら、もう少し待ってみようかしらね」

お読みいただきありがとうございます。


海カフェで店主と話す悠真とさくらのイメージイラストをXで公開中です。

https://x.com/stella_bridge_/status/2090030871256719617


よろしければ、ご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。