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第15話 みずほとにぼしのおかげです

「みずほ、大丈夫?」

「ゴメンなさい。取り乱してしまいました。

 わたしの思い込みのようなものです。気にしないで下さい」


 真澄が見ると、みずほは両手を合わせて穏やかに笑った。


 2人の間に何かあったのだろうか。

 気にはなったが、会議の時間が迫っていたので、架流たちと会議室へ向かった。


 真澄たちが会議室に入室すると、そこには白翔とつるぎもいた。

 架流は、白翔を無視して着席し、真澄も続いて架流の隣に着席した。


 白翔の隣にいたのは、リスク管理室の安田室長と、デジタル戦略課の光永係長だった。


 安田は、気難しい男性という印象で油断ならない。

 光永は、システムやデジタル運用に詳しいことで知られている。


 安藤や深谷にも同席して貰っているが、架流は2人の力は借りず自分の力で乗り切りたいようだった。

 真澄も上司の手を借りず、自分たちで解決したいと感じていた。


「参加者が揃ったようなので、時間には早いが始めよう。

 今回の事案は、事業改革課からの依頼がきっかけでいいかな」

「はい、安田室長。私、高橋から説明させて頂きます」


 架流は、これまでの経緯を説明した。

 安田からの質問に対し、準備していた回答を返した。


 想定外の事態にはならず、質疑応答に綻びはないように思えた。

 絡みつくような視線を送る白翔とは対照的に、つるぎは腕を組んで目を閉じていた。


 真澄にも質問がいくつかあったが、これも想定内だった。

 安田の表情から、ボロは出さなかっただろうと真澄は思えた。


「今回の件で、事業改革課にも神谷駅にも、問題が無かったとは言えない。

 ウチで解決できたので、問題を大きくするつもりはない」


 良かった。無事に乗り切ったみたい。


「今後は、どのように対策を取る計画ですか?」

「しばらくは更新を休止して、安全に運営できる対策を講じたら慎重に再開するつもりです」


 架流がそう答えて、今日を無事に終えることができるはずだった。

 しかし、それを聞いた安田は大きくため息を漏らした。


「高橋くん、対策はそれだけですか?」

「はい、様子を見ながら、対策を考えて慎重に進めます」


 安田は、呆れたような表情で、架流を見ていた。


「今日は、我々があなたたちの責任を追及する場と考えていたのかもしれませんが、それは違いますよ」


 架流は絶句した。

 そのとき、真澄の目には、ホワイトボードの会議名が飛び込んできた。


 『神谷駅のSNSのあり方について』と記載されていた。

 今日の本当の目的は別のところにあったことに真澄は気付いた。


「我々は罰を下すこともあるが、それだけが仕事ではない。

 今の会社の状況であれば、何もしないこともリスクと感じている」


 架流は、黙って安田の言葉に耳を傾けていた。

 真澄は、隣でこれからの展開を考えていた。


「可能性の芽を摘むのが仕事じゃない。

 その可能性に対するリスクを想定して、対策を考えることこそが仕事だと思っている」


 架流は、一言も言葉を返せずにいた。

 恐らく会社は、今後の運営について相談したかったと真澄は感じた。


「ここまで成功しているのに、根拠もなく縮小させたいわけではない。

 だからデジタル戦略課の光永さんにも出席してもらっている」


 架流には、安田の矛先が向いているので、考える余裕はないだろう。

 でも、注視されていない真澄には、この間に考えをまとめることができた。


 せっかくみずほと積み上げてきたのに、リセットされるのは嫌だ。

 真澄が立ち上がった瞬間、全員の視線が真澄に集まった。


 これまで目を閉じて、静かな聞き役だったつるぎの目が開いた。

 真澄は、大きく息を吸い込むと、ゆっくりと話を始めた。


「相談もなく進めてしまったことは、大変申し訳ないと思っています。

 個人で始めた投稿が、気付かないうちに広がってしまいました」


 これまで、黙って話を聞いていた光永が真澄の方を見た。


「投稿を続けて、駅に多くの人が来てくれるようになりました。

 集客という観点では、成功する兆しが見えています」


 光永が、何かを言いたそうに考えをまとめているように見えた。

 何か言われたら言い返せないかもしれない。


 言われる前が勝負だ。そう思った真澄は、発言を続けた。


「個人で進める企画は脆いと思います。

 神谷駅のアカウントとして、これからは会社と一緒に進めたいです。

 わたしもみずほも、神谷の町と路線を盛り上げていきたいと思っています」


 そこまで話すと真澄は席に着いた。

 みずほは、目を丸くして真澄を見ていた。


「バディ、素敵なお話でした」

「ありがとう、みずほ」


 そう言った真澄はみずほの目が青い光を帯びていることに気付いた。

 今までは黒い目だった様な気がした。 



 真澄の話を静かに聞いていた安田は、隣の光永に目を移した。


「なるほど。光永さん、どう考えますか?」

「アカウントを会社に預けていただければ、戦略的に運営します。

 清水さんが良ければ、会社管理とさせて頂きたいです」


 そう言った光永は、真澄ではなくみずほの方を見た。


「ただ、駅員が表に立つと、今回のようなトラブルのリスクが増えてしまいます。

 どうでしょう?みずほさん。神谷駅のアンバサダーとして活躍してみませんか?」

「え!?わたし……ですか?」


 予想外の展開に驚くみずほ。

 しばらく考えると、口元に手を添えて瞬きをした。


「承りました。微力ながらお手伝いさせて頂きます」


 白翔は何も言わず、退席しようとしていた。

 つるぎは、肩の上から振り返り、みずほを見た。


「楽しみにしてるから」


 その一言だけを残して、白翔とともに退室した。

 


 その後で、光永と安田と方針を打合せした。

 後日、何度か社内会議を経て、神谷駅の公式アカウントに変更されることが決まった。



 それから、確実に人の流れを作っていった。


 真澄とみずほは、駅前のお店や団体を取り上げて、知られていなかった町の魅力を伝えていった。

 ゴミ問題は、会社が注意喚起する投稿をしてくれたおかげで沈静化していった。


 この企画にカメラマンが付くようになり、ライターまで付くようになった。

 日を重ねる毎に多くの人が町に足を運ぶようになった。


 会社管理になり、真澄のSNSでの役割は減っていった。

 無断投稿に辟易していた真澄は、寂しいけどこれで良かったと感じていた。



 真澄は駅の周囲を巡回するため、駅舎を後にした。


 駅の隣の和菓子屋の前には、和菓子屋の店員と定食屋の店主、工芸品屋の娘がいた。

 3人は、真澄を見かけると声をかけてきた。


「この間、初めて全品売り切れになったよ」

「ウチも観光客が食事してくれるようになって助かってるよ」

「私の作った雑貨もSNSで紹介して貰っていたんだ。

 町が変わったの、真澄さんのおかげだね」


 真澄は、笑顔で首を横に振った。

「いいえ、私だけの力ではありません。

 きっかけをくれた、みずほとにぼしのおかげです」

お読みいただきありがとうございます。


社内会議で発言する真澄のイメージイラストをXで公開中です。

https://x.com/i/status/2088469453428421101


よろしければ、ご覧ください。

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