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第14話 実は凄く苦手なんです……

 通報があった翌日、架流とのぞみがやってきた。


「すっかり有名人だな真澄。今や時の人だな!」

「おい、元々の火種をまいたのはのぞみだろ?」


 架流に指摘されたのぞみは、ばつが悪そうに頭をかきながら答えた。


「そんな昔のこと、忘れちまったよ……

 で、真澄が写ってた投稿を片っ端から削除させた訳か?」

「のぞみじゃないから、そこまでしないわよ。悪質な投稿に絞ってます。

 真澄さん、例の投稿見せて貰えますか?」


 去年の冬だろうか。神谷駅から車両を撮影した写真だった。

 運転士と話をしている、真澄とはっきり分かる駅員が写っていた。


「解析すると真澄さんが写っている部分を切り出しています」

「そうか?こういう写真とも思えるけど……」


「いや、みずほの言う通りだ。この写真には、切り出した形跡がある」

「今は、車両を撮った写真だと書かれていますが、初めに見たときには違っていました。

 その時は、真澄さんの写真であると投稿文に明記されていました」


 架流も、真澄を狙って切り出した写真を投稿したと感じた。

 

「今回は我々が公開を提案して、それを実践して貰っています。

 軽率な発言が、このような事態に発展してしまい申し訳ありませんでした」

「いえ。投稿を決めたのは私で、投稿削除を依頼したのも私です。

 会社にも迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」


「無断投稿を削除してくれない人に対しては、会社が対応してくれるそうです。

 ただ、リスク管理室の聞き取りがあるので、本日はその打合せに来ました」


 話は驚くほどの速さで広がっていたようだ。

 まさか自分が会社から聞き取りを受けることになるなんて。


「これ、始末書ものですか?」

「事情を丁寧に説明すれば、そこまでのことにはならないと思います」


「そうなんですか。良かった」

「当たり前だろ!乗客も増えて、成果は出ているんだしな。

 ……でも真澄、悪かった」


 架流は、真澄とみずほから事情を聞くとメモを取った。

 

「この内容なら、責められることはないでしょう。

 明後日の午後4時からだと、清水さんと駅長も出席できますか?」

「明後日なら、私も清水さんも参加できるだろう」


「承知しました。よろしくお願いいたします」



 真澄は不安と戦いながら、聞き取り当日を迎えた。


 本社のリフレッシュルームで、真澄は架流と最終の打ち合わせをしていた。

 安藤も別の業務で手が離せない。深谷も業務を終えて本社に向かっている最中だった。


「何としても今日は守りに徹して、無傷で逃げ切りましょう。

 では、清水さんも想定問答は頭に入れておいて下さいね」

「はい。指摘されないように気を付けます」


「そういえば、みずほのことが噂になっているらしいな。

 無断投稿を見逃さない優秀なアンドロイドがいるって」

「いえ。投稿削除してもらえず、力不足でした。

 リスク管理室がうまく交渉をまとめてくれて良かったです」


 みずほは寂しげに笑い、天井を眺めていた。


 色んなことを知っていても、他人を相手に交渉するのは経験も必要みたい。


 でも、助けてくれた社内のプロが、今度は自分たちの相手になる。

 大丈夫なのだろうか。聞き取りの時間が近づくと真澄は緊張した。


 緊張すればするほど、近付いてくる別のものがあった。


「少し、席を外しますね」


「お、真澄。トイレか?」

「ちょっと、のぞみ。真澄さんに向かってなんてことを」


 真澄は眉を下げ、控えめに笑って席を立った。



 リフレッシュルームを出るときにアンドロイドを肩に乗せた1人の男性とすれ違った。


 架流が異動した初日に嫌味を言ってきた白翔だった。

 そのやり取りを知らない真澄が気になったのは、彼の肩に乗ったアンドロイド。


 のぞみやみずほと似た制服を着ているので、恐らくステラノイドだろう。

 長いウェーブのかかった金髪が目に留まった。


 親しみやすいのぞみやみずほとはかけ離れた存在だった。

 迂闊に話しかけることができない雰囲気を纏っていた。


 よく見れば、ジャケットのボタンがダブルで装飾も多く、格の違いを感じるほどだった。


 真澄はステラノイドと目が合った。

 真澄が会釈をすると、そのステラノイドも静かに頭を下げた。



 真澄がリフレッシュルームに戻ってきた頃、架流たちと白翔たちは何か話しているようだった。


 金髪のステラノイドが、誰かに対して指摘をしている。

「あの報告書をどう解釈したら、そんな結論に至るのか……」


 それは、白翔に向けての言葉だった。

 だが、白翔はそれを気にしないような表情でニヤニヤと笑っていた。

 

 彼女の指摘は、架流たちへ移された。

「とは言え、リスク管理が甘かったのも事実ね。

 十分なリスク対策を取った上で、周囲に相談しながら進めるべきだったようね」


 みずほも架流も、のぞみさえも口を開こうとしない。


 途中から話を聞いた真澄だったが、その一言は耳が痛かった。

 駅長にも架流にも相談せず、みずほと2人で進めていた。


 しばらくの沈黙の後、架流が口を開いた。

「忠告ありがとう。次のプランはもう少し検討してから進めるようにするよ」

「優秀な企画でも、個人に頼る形では脆くなる。そうあるべきね」


 そう言った彼女は、静かに目を閉じた。


「行こうか、つるぎ。

 あ、僕もステラノイドを預かる身でね。今後の参考に今回の顛末を聞かせて貰うよ」


 白翔とつるぎは、リフレッシュルームを後にした。



「か〜っ、やっぱりアイツ手強いな。あのニヤケ顔とは大違いだぜ」


 のぞみは顔をしかめていた。

 やっぱりあのステラノイド、ただ者ではないみたい。


 真澄は苦笑して、架流たちに話しかけた。


「ごめんなさい。大切なときに席を外していて。

 あの子もステラノイド?」

「いや、俺たちの仲間が驚かせてしまって済まないな。アイツが第4世代なんだ。

 電装部品の全てが最高級だから、悔しいけど処理能力が桁違いなんだよ……」


 真澄には、むやみに誰かを責めるタイプには見えなかった。

 だが周りを見渡したとき、みずほは頭を抱えてその場に縮こまっていた。


「どうしたの!?みずほ?」

「実は、つるぎのこと凄く苦手なんです……」

お読みいただきありがとうございます。


つるぎとすれ違う真澄のイメージイラストをXで公開中です。

https://x.com/i/status/2087359795804463547


よろしければ、ご覧ください。

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