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新しい自分がやるべき事  作者: かもめ
第六章
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~詮索~後編

勉強部屋となる場所をミューレンに連れられ、長い廊下を移動する。移動中は聖堂の中での決まりなのか会話はしない様にとの事で、お互い口を開く事ない。

今朝、メルリに連れられ本堂を通り、先程の勉強部屋に入るまでは、たいして移動してない為に本堂以外の所がどんな様子なのか、確認する事は出来なかった。そうは言っても現在、廊下を歩いているだけなので、様子の確認もへったくれもない。

日差しを取り込む窓が並ぶ廊下をしばらく歩いた後に、また一つの扉の前でミューレンは立ち止まった。

「次はこの部屋です」

その一言で、扉を開ける。やっぱり双子だからなのだろうか、メルリも同じ様な感じだった気がする。

「この部屋は…衣装部屋?」

「そうです。一応、聖堂にいる間は、聖堂用の衣装を着ていただきます」

まぁ、なんとなく言いたい事が解る気がする。東区や南区の様な最下層の住民の子供が、聖堂に何で居るのか?と、思われるだろう。中流以上の人達、東区や南区の商人等が立ち入る聖堂では、貧相なボロい服着ている子供を見かけたら、間違いなく疑問に思うはず。対策の為か、聖堂の衣装を着ていれば、聖堂神官や、修道院からの見習いとか、思わせる事が出来る。

「大きさは…これくらいでいいかしら?」

ミューレンは数ある子供用の衣装の中から、一番サイズの合う物を選んでくれた。

「子供用でも沢山あるんだ…」

「今はほとんど使っていません。神童と呼ばれる様な、子供は今は存在しないに等しいので…。リュウイチさん、そちらで着替えてください。この後は先程の勉強部屋に戻り、メルリと私以外の講師を紹介します」

衣装部屋の片隅を指差し、着替える様に指示された。その片隅は着替え用のスペースになっていた。ポンチョの様な作りなので、上から羽織るだけなんだが…。

「着替えたよ。あとさ、気を付けた方がいいよ?後で説明してもらうって言っても、ここじゃライトなんだから…竜一はまずいって」

「そうですね…。その部分だけお話ししてしまいましょう」

どんな理由で、どんな流れで俺を…ライトを知っているのか?そこだけ説明すると言う。今更ながらなに言われても驚く事はないだろう。


一息付いてミューレンは話し出した。

「今から十年後、ライトはこの聖堂の本堂で命を落とします。その際、記憶の片隅にあったもう一人の自分の存在を思いだし、リュウイチさんを召喚しました」

そこまでは聞いた。三途の川的な事言われた、あの場所で。

「実は、私に…いえ、私とメルリに神のお告げがありました。リュウイチさんの生きた世界とこの世界の違いがあるので、常識的な所から考えると、信じてもらえないと思いますが…」

「確かにそうだね…信じるのは難しいけど、既に事が起きているんだから、受け入れるしかないよね」

俺の言葉を聞いてミューレンは続ける。

「悪しき力を打ち払う、聖なる二つの御霊が彷徨っている。その御霊を救い新しい生を与えよう。お主達が道しるべとなり導きなさい。その様に神は仰いました」

次元が違う事を言っているが、世界が違う。散々理解不能な出来事ばかり続いているので、今更驚く様な事でもない。しかし、初めて会ったときには、主の為に祈りを…なんて事を言っていたが、今の話では少しずれた内容だが…それにあの場でミューレンが居たとするならば、彼女も一度命を落としているのだろうか?

「それで、俺とライトが助けられた…と。で、初めに言っていた主の為に祈りを的な事言っていたのは?」

「お二人の御霊を世に繋ぐ為、神は残された力を使い切りました。この地の平和と実りを司る神が、壊滅寸前のアウンティナルーを放棄しお二人を選んだ。と言う事です」

数多く存在している人々よりも、ここから見れば異世界の俺と、そして、命が尽きるその瞬間に俺を呼び出したライトが神に選ばれた…。一体それほどまでに価値があるのか?

「最後に…時を戻し、同じ過ちを犯すその前に、彼等の聖なる力を育む事を望む。それまで我々は深い眠りにつくことになるだろう。本来ならば時を戻す事は、神々の中でもご法度とされる行い。この地の…荒れ果てたこの状況では、力を使い果たし我々も消滅してしまうだろう。二度とこの地に花が咲く事が無くなるのならば、時を戻し、力を蓄え、同じ過ちを犯さぬ様、訪れる未来を変える。我が愛する子供たちの存続の為ならば禁止行為ですら行う…と」

ミューレンは目を伏せて、聞いたお告げとやらを話した。なかなか重い話ではあるが、そこまで期待されても困る。俺もライトも凡人。いたって普通の人間。ん?一つの体で二つの人格では普通じゃないか。

「眠りについた、神様に祈りをあげろと言う事だね。そして、復活させろと」

「それとリュウイチさん達には、少しずつ世の中を変えて欲しいのです」

「ライトの記憶からすると、ここの領主が戦を起こし、返り討ちにあって民が飢え死にしていくって結末だよね?それを止めるって事?」

俺にとっては、目の前で起きた現実ではないから、さらっと話しただけだが、ミューレンにとってはかなり辛い出来事だったらしく、表情を強ばらせた。

「簡単に話せばそうです」


「そこから先は私が話しましょう」

いつの間にかメルリが、衣装部屋に来ていた。ミューレンの話をどこからどこまで聞いていたのかは判らないが、続きはメルリが話すと言う。魔力を、吸われたと言っていたがもう大丈夫なのか?

「神のお告げを聞き、私達はどの様にすればお二人を世にお連れ出来るのか考えました。もちろん、そんなに時間がある訳では無かったので、一つの魔術を使いました」

魔術ねぇ。あのゲーリッチを、どっかに消し去った様なやつね。

「私達も食べ物をしばらく口にしてなかったので、魔力が尽きる寸前でした。そんな状況で行ったのが、魂霊天昇と呼ばれる術。学習院で話を聞いただけだったので、成功させられる自信はなかったですけど…」

そんなやった事ないもの使ったんだねぇ。意外とチャレンジャーだねこの姉妹。

「メルリ…術の話も辛いのでやめましょう…。内容は学習院で聞けるので、いずれリュウイチさんも知りますから…」

「そうね、やめましょう。リュウイチさん、学習院で聞いてください」

二人の表情からすると相当辛いんだろう。予想するに…生死が関わる様な内容だと推測する。

「話がそれたので戻りますが…学習院を上位で卒業し、ある程度権力のある職に付き、領主様を手助けしてもらえれば良いのです。それで、世が変わり未来が変わります」

「無理でしょ。色んな奴が妬む。この領地内で暴動が起きる。最下層の東区の奴が、上流階級の職に付いてるぞ!領地達は何を考えてるんだ!って」

必死に反論するが…彼女らは不思議そうな顔をする。

「無理じゃないですよ。ここは実力さえあれば、なんでも出来ます」

「それに私達を誰だと思ってますか?」

「えっ?」

予想していないこの場で、自分達が何者なのか知らないの?だと。

「双子のメルリとミューレン。聖堂長と修道院長…じゃないの…?」

それしか俺は知らない。ぶっちゃけそれをどこかのタイミングで聞き出そうとしていたのに。


一つ息を吐き、二人は俺の方を見直す。

「私達は、アウンティナルー領主の娘です」

「えー!?」

つまり、この領地の一番偉い人の子供って事ですよね?だから、ブランドル先生も下手になってたのか?それは驚きだ。

「なんで言わなかった…のです?」

「今更敬語なんていいですよ」

「リュウイチさんも、ライトも聞かなかったじゃないですか?」

メルリもミューレンもカラカラと笑う。聞かなかったから言わなかった。それだけらしい。確かに聞かれなかったら自分から何か助言ですらしないのは俺も同じだ。

だからか、ある程度権力のある職に付けと言うのは。でも、娘では何とも出来ないのか。同じ血が流れているのであれば、立場は多少の違いはあるとは言え、物言いくらいは出来るだろうに。

「領主が父親なら、二人が何とか出来ないの?」

「私達は、ほとんど聖堂と修道院に居ますので、城の事情はあまり解りません」

「メルリの言う通り、年に数回しか城に戻りませんので…」

そうか、聖堂と修道院を任されている以上、空ける事が出来ないのか。聖堂には聖堂の行事があるし、修道院はその行事がある度に聖堂のサポート等しなくてはならないのか。

「仕方ないね…希望に添えるか解らないけど、上位で卒業すればいいんだね?」

「引き受けてもらえますか?」

「神のお告げ通り、過ちを回避できたら…娶って頂いてもいいですよ?」

「今更断れないでしょ。ライトの意識が戻って無いから、勝手に話を聞いて進めたら怒られるかもしれないけど」

ミューレンの話はスルー。間違ってなければ娶れと。見た目は二人とも綺麗だが…。いやいや、これから大事な事控えてるのに、何を考えてるんだ俺は。


改めて経緯が解ったところで、メルリ、ミューレンと固く握手をする。過度な期待をされても困るが、出来るだけ応えてやろう。もう元の世界に戻れる訳じゃないし、やりたい事があるわけでもない。人に決められたレールの上を通るのは好きじゃないが、大層な出来事が裏で起きていた。それくらいは恩返し程度に思って我慢しよう。


「あっ、楽器は触りたい!それは、譲れないから!?」

「大丈夫ですよ、ちゃんと音楽のお勉強ありますから」

ニコッとメルリが微笑む。ミューレンは衣装部屋で別れまた明日来ると言い、修道院に戻って言った。

ここからはまたメルリと二人。この後は再び勉強部屋に戻り、残り二人の講師を紹介してくれると言う。

「勉強する内容は、座学の他に何がある?」

「座学は計算、魔力関連。その他は、音楽と剣術です。リュウイチさんなら大丈夫ですよ。適合色は金ですから」

音楽があるのはうれしい。でも、適合色って言われてもピンとこない。

「あの、解放とか適合色とかもちゃんと説明してくれるんだよね?全然解らないけど…」

「魔力関連の勉強を始める前に一通り説明します。むしろそれが解らないと、お話しになりません。…本来聖堂内の移動中は口を開いてはいけないのです。明日から気をつけてください」

そういえばさっき衣装部屋に移動するとき、一言も喋らなかったのを忘れてた。

軽くメルリに注意され、無言になった頃には勉強部屋に到着していた。

「あら、二人とも来ていたのですね?」

中に入ると、フューリーを抱えた赤髪を一つに束ねた女性と、灰色に近い短髪の青年が立っていた。

「こちらがライト君ですねメルリ様」

「この少年で大丈夫ですか!?」

なんか既にスケールが大きくなってないか?

「お待たせしました。エドガー、レンフィール」

エドガーとレンフィールと呼ばれた二人は片膝を付き頭を垂れる。間違いなくメルリ達の部下なんだろう。

「ライト、剣術の講師エドガーと、楽師のレンフィールです。明日は魔力関連の勉強をするので、二人は明後日以降から講師として勤めていただきます。剣術は中庭、音楽はこの部屋で行ってください」

「わかりました」

二人は深々と再び頭を下げ改めて俺の方を見る。先に近寄って来たのはレンフィールだった。

「明日以降よろしくね。音楽しか出来ないけど、少しでもあなたの為になるならばメルリ様からの命を全うしますね」

かなりメルリに忠実な人なんだろう。レンフィールは、赤髪でパッチリ二重の可愛らしいお嬢さんって感じ。目が合うとこっちが恥ずかしくなる。

「エドガーだ。よろしく頼む。必ず学習院に入学させてあげよう」

エドガーは、若いのに俺が子供であるからか威厳を発するように、堂々と上から目線だ。うーん、ブランドル先生っぽい。灰色に近い髪に、切れ長の目で彫りも深く…俗に言うイケメンとは彼の事といっても過言ではない。

「よろしくお願いいたします」

エドガーと握手を交わし、レンフィールともと思ったが…彼女とは何か恥ずかしくて握手出来ないな。


「エドガー、ライトはただの少年ではありません。ブランドルの様な態度は取らなくて良いのですよ?」

「あっはい。つい、舐められないようにと思いまして…」

どうやら作り物だったらしい。

「すまないねライト君。偉そうな態度をとってしまったね」

急に物腰が低くなった。これが元々のエドガーなんだろう。初めて会った俺にはわからなかったが、メルリにはすぐに解るのだろう。

「エドガーさん、わかりますよ。僕は東区の人間なんで、舐められないようにしなきゃって気持ち。エドガーさんの方が確実に階級上ですからね」

「いや申し訳ない。メルリ様の言う通りただの少年では無さそうだね。明日から私もライト君と一緒に修行出来るのが楽しみだよ」

改めて握手をする。レンフィールは部屋の隅に置いてあるフューリーの手入れを始めている。その指先はうっすらと光の幕の様なものに包まれている。

「聖堂長、レンフィールさんは手入れをしているだけではないのですか?」

急に俺から質問が飛んできたので、メルリは少々ビクッとなっていたが、他にバレないように平静を装っていた。

「フューリーを含めた楽器は複数ありますが、音を奏でるだけではなく、触れる為にも魔力を必要とします。奏でる時は魔力を流し、手入れの様に触る時は、楽器に魔力を吸われない様に、魔力を手袋の様に発動させなくてはならないのです」

何か面倒だなぁ。そんなの楽器じゃないよ。

不満そうな顔をしていると、レンフィールはニコッとしながら俺を見る。

「ライト君は楽器が好きなの?」

「大好きです!」

「早く魔力の制御覚えてね。そしたらいくらでも楽器さわれるから」

ちょっとやる気出てくる。可愛らしいレンフィールが音楽の先生ならいくらでも覚えられそう。


明日は座学。主に魔力関連の勉強。内容次第で明後日からの内容を考えるとメルリが方針を決めた所で、昼食の時間となった。

午後からは何をするのか?まだ言われては居ないが、大それた事は無いだろう。むしろ未だにライトの意識が戻って無い方が気になるが…。

まぁ、メルリとミューレンの正体は、領主の娘だった事ってのが一番の驚きだった。ちょっとやそっとでは、驚くこと無かったがさすがにビックリした。

午後以降、また驚くことの連続になりそうな予感もするが、イチイチ驚いていたら、身が持たなそうだわ。

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