~裏と表~
昼食の時間になり、メルリはエドガーとレンフィールに一緒に昼食はどうかと勧めるが、エドガーは、一度部隊に戻らなくてはならず辞退した。レンフィールは、メルリが自分より階級が上なので身分の差の関係で悩み、最終的には柔らかくお断りした。
「では、私は自室で昼食を摂ります。せっかくですからレンフィールは、ライトと一緒に昼食にして下さい。料理人は連れて来てますか?」
「はい、聖堂の調理場で準備させております」
料理人?メルリとレンフィールの会話は東区では聞かない内容だ。都度、専属の料理人を連れて歩くのか…身分や階級が上だと、凡人には想像付かない事が当たり前なんだろう。
「僕は、勉強部屋で持ってきた物食べますから…気を使わず、聖堂長とレンフィールさん一緒に行って来て下さい」
そりゃそうだ、レンフィールがメルリに誘われて断るように、俺だってレンフィールと一緒に昼食なんて無理。まして、片方は料理人の出来立て料理で、片方は持ってきた固いパンのみ。生活レベルの違いにやる気が失せる事間違いなし。ここは断って正解。
「そうですかぁ、残念です」
レンフィールはしょぼんと肩を落として残念だと呟いた。一つ一つの仕草は可愛らしいが…身分が違います。
「では、昼食後すぐに勉強部屋に参りますね。少しお話しましょう。楽器や歌の勉強の事を含めて。お話してる間に、メルリ様やエドガー様も戻られますから」
「わかりました、お待ちしててよろしいのですか?」
「結構ですよ。私がお話しにお誘いしたので、私が参るのは当然でしょ?」
そうなのか?大体偉い人や、地位が上の人が、下の者を呼び出すんじゃないのか?まぁいいけど。
とりあえず、僅かだが一人になる時間が取れた。その間にライトの様子を見なくては。魔力の急な動きにライトが消えそうに見えたのは事実。なんでもなければいいが…。
一度解散して、俺は勉強部屋に残りさっさとパンを食べる。皆が再度集まるまで多少の時間があるのを見越して、軽く眠りに入る。俺もライトも今までは交代する際、お互いの手を引き合うようにして、一瞬で入れ替われたものの、今回は強制的にこっちから意識の中に戻らなくてはならない。
「強制的に外から戻るのは結構大変だな。ライト大丈夫か?」
一階に出入り出来る扉等が無くて、二階の窓から家の中に入るようなイメージで中に戻った。現実世界なら脚立やハシゴを使えば苦労しないが、何せ現実世界じゃない。いわば精神世界とでも言えばいいだろうか?
中は明かりを消した部屋の様に薄暗くなっていた。ライトの姿を確認したいが、なかなか見付けられない。たいして広い所ではない気がするが緊急事態だからなのか、確認まで至らない。
「ったく、どこに転がって…」
冷静にもう一度周りを見渡すと、自分が入ってきた窓の下に転がってた。
「おい、ライト!大丈夫か?」
「う…ん、大丈夫…じゃない…」
今にも消えそうな声、俺とライトが共有しているこの空間から消えたらどうなるのか?消滅しない様にするにはどうしたらいいのか?こんな状況を経験した人なんている訳がない。誰に聞いたらいいのかも解らない。
「もう少し…もう少しだけ頑張れるか!?そしたらメルリが来るから!」
メルリに聞いた所で解決するとは限らない。だが、メルリかミューレンしか頼れない。
「魔力って…なんだろう…?リュウイチのいた世界には無くて…僕のいる世界には存在してて…また、僕は…」
「いや待て、俺も解らないが、その魔力が今のライトに影響しているのであれば…フューリーに吸われてしまったせいでライトの魔力が無くなっているって事じゃねーか?」
それしかない。フューリーに触れた瞬間にこの様だ。なんとかしなくては…。元を正せばフューリーを見たい触りたいと言った俺に責任がある。
「すぐなんとかしてやる!」
今すぐ俺がなんとかしたいが、何も出来ない。至急メルリかミューレンに話をして助けてもらわなくては。
がむしゃらに外へ出た。気がついた時メルリが部屋に来ていた。エドガーとレンフィールはまだ来ていない為、都合がいい。
「お昼寝してたんですね?」
「メルリ!聞いて欲しいんだ!」
二人が来る前にと粗方の事情を話した。
「あの時フューリーに触れてからですね…恐らく元々、ライト自身の魔力保有可能量は大きくても、実際に保有していた量は微量だったのかもしれません。それなのにフューリーに大量に吸い出されてしまった。まだ魔力の制御が出来ない状態だった為に、強制的に放出させられた。と言いますか…」
「どうしたらいい?」
メルリは視線を反らし何か考え始めた。
あまり明るい表情では無いが何か思い付いた様に再び俺の
目を見る。俺も視線は反らさない。
「やった事はありませんが、可能な方法が一つだけあります」
「本当か!?」
自信は無さそうだが、ライトを助ける方法はあるらしい。
「魔力は急激に放出したり、吸い出されたりすると全身に力が入らなくなったり、精神的部分に対して相当な負担がかかります。その為にライトの精神は不安定な状況になってると思われます。リュウイチさんとライトがどの様に空間を共有しているのかは解りませんが…実体を持たない精神状態で自由に行動する事は不可能でしょう」
言われて見れば確かに動ける範囲は限られている。むしろ、交代するとき以外はほとんど自分で歩いたりする事はない。実際にはそれですら行動しているのかすら定かではないが…。動かなくても、お互いの記憶や知識を知ろうとすれば、必要な情報が入った引き出しの様な物だったり、光の玉だったりが目の前に現れるから。
初めは自分で移動していると思った。でも、逆だった。見えるものが近づいて来てた。そこから必要な物を取り出せばいい。
「今のリュウイチさんとライトは言わばお互いに…意思を持った実体を持たない精神状態のみ。ライトの体が家。そして住民が二人。人は…人の中身はやはり一人でなければならないのかも知れません」
「どう言う事…だよ?」
メルリの呟きにも聞こえる説明に、疑問が浮かんでくる。…昔、竜一として生きていた頃、漫画やアニメで二重人格の登場人物を描かれたものを読んだり観たりしたこともある。それとこれは何が違うのか?
「リュウイチさんとライトは、自分達の意思で入れ替わりが可能で、表でどちらかが体験した事は、裏で控えている片方も覚えていることが出来ているはずです」
「そうか…アレは結局、一人の中に別人がいるわけじゃなくて…一人の中身が別れているって事なのか?でも、俺達は別々の人格が同居している状態?」
メルリは静かに頷くと、懐から掌位の装飾が施された鏡を取り出した。
「前半は言ってる事がわかりませんでしたが、後半の言っている事は正解です。ライトの記憶、知識を失わず共に生きて行くには、この方法しかありません」
鏡を俺の方に向け、映る様に置いた。静かに呪文の様な言葉を幾つか唱える。
「出来事には必ず、裏と表があります。朝と夜があるように…。これは真実の鏡といい、犯罪者を裁く時に使われる物です。嘘をついても、裏側に潜んでいる真実を写し出します」
「俺は犯罪者じゃない!」
首を横に降り、話が続く。
「いずれリュウイチさんとライトを一つにする事は決ってました。ミューレンが言ったはずです。リュウイチさんがこの世界での生活に慣れて下さい。と…。その機会が早まっただけです」
「ちょ、ちょっと、ライトはどうなる?確かに、ライトに入り込んで、この世界の生活に慣れてきたつもりだけど…ライトは!?」
「時間がありません。エドガーとレンフィールが来る前に…全てはここからが始まりです」
一方的に話を終わらせると、メルリは鏡に向けて力を込める。次第に鏡には、うずくまり倒れているライトの姿が映し出された。それを確認すると、俺と鏡の間にガラス玉を置き直す。
「鏡に映るライトを魔力と一緒に玉へ連れ出し、それをリュウイチさんに入れ直します」
「待て待て…!ライトはメルリやミューレンより適性色が上なんだろ!?また、魔力吸われて…」
「ライトは適性色が金でも今は枯渇している状態。それに間にこの玉がありますので、多少吸われても玉の中に留まります。真実の鏡は、真実を取り出す為の道具ですから、外部からは何も入れる事はできません」
再び鏡に力を込めると、俺の体が…厳密にはライトの体だが…縄で縛られたように動かなくなった。どんなに抵抗しようとしても、指一本動かない。
「…っ!」
なんと言ったのか解らない。表現が難しいが、頭が真っ白になり、酷い脱力感を覚え、嘔吐感を発し、最後に心臓が一つ大きく鼓動の声を上げた。それら全てが突き抜けるまでは、ほんの一瞬。瞬きする位の一瞬…俺はそう思った。
『リュウイチ…僕は大丈夫…ずっと君と一緒だよ。僕の全てを君に託す…』
聞こえた…。
確かにライトの声だった…。
消えたのか…。
ライト…は?
ライトは…!?
ハッとして、現実に戻ってきた。鏡を…鏡にライトがいたはずたが、映っていない。
「メルリ!ライトは!?」
俺は、体の奥底から込み上げてくる何かを堪えている感覚だった。それは…怒り?絶望感?歓喜?欲望?ダメだ…どんな感情なのか自分でも解らない…。
「落ち着いて…。あえてライトと呼ばせて頂きます。今、私の魔力と共にお返ししました」
「返し…た?」
その言葉を聞いた時、さっきの言葉を思い出した。
『リュウイチ…僕は大丈夫…ずっと君と一緒だよ。僕の全てを君に託す…』
そして、自然と涙が溢れた…。消えた訳じゃない。俺がライトになったんだ。ライトの最後の思い出した時、 さっきまで込み上げて来ていたモノは、すぅっと消えていた。
「一方的に進めてしまって、申し訳ありません。ですが、遅かれ早かれいずれは…」
「うん、大丈夫。ライトは俺だから!」
「お待たせしましたライト君。あら、メルリ様もう来られてたのですね?」
昼食からレンフィールが戻ってきた。が、メルリが来ていた事に残念そうな態度をみせる。
「私が先に来てはいけなかったのかしら?」
「いえ、メルリ様やエドガー様が戻られるまで、お話ししましょうとお約束していたもので」
「そうでしたの?では、エドガーが戻るまでで良ければ、お時間を差し上げます」
メルリの言葉にレンフィールは気を良くしたのか、キラキラと瞳を輝かせ礼を言う。
「ありがとうございます!ライト君、僅かなお時間ですけどお話ししましょう」
「レンフィールさん、苦しい…」
勢い任せに抱き付いて来て、強制的に椅子に座らせられる。だが、ふくよかな胸に押し付けられていたのは内緒だ。
間もなくエドガーも戻って、これから午後の部が始まろうとしていた。でも、あの僅かな時間で、変化があったのを三人は知らない。むしろ知らくていい。ミューレンにはメルリから伝わるだろうけど。
学習院への入学試験の為の学習が行われる。メルリ、ミューレン、エドガー、レンフィール。この四人の講師によって。
…ん?音楽関係は入学試験に関係ないって言ってなかったっけ?
まぁ、いいか。




