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新しい自分がやるべき事  作者: かもめ
第六章
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~詮索~前編

いつもより早く目が覚めた。今日から聖堂に通う事になっている。その為、一度学び舎に行ってフォスター先生に挨拶して、リリにも説明して、それから聖堂に向かうつもりだ。

「父さんや母さんは、聖堂に入った事無いから

、聖堂長の言う事聞いてね」

「うん、大丈夫だよ。毎日帰ってくるんだから。じゃあ行って来ます」

心配そうに見送る母さんに背を向けて出発する。学び舎に行く前にリリの家に直接行って説明しなきゃ。


いつもより早いせいか、若干人が少ない感じ。これからみんな仕事に出たりする時間帯になるから、通りは何かしらのお店を営んでいる店主と思われる人が、開店準備をしているくらいだ。

「おはよう!いつもより早いな」

不意に声を掛けられ振り返るとグラムだった。なんとなく久しぶりに会った様な気がする。

「グラムおはよう。うん、今日は少し早く行ってリリを迎えに行くんだ」

リリを迎えに行くのは嘘。嘘は良くない事だけど、自分から「聖堂に行くから!」なんて宣言出来ないよ。聞かれたらで良い時だってある。あえて僕は、リリを迎えにと言う事にした。

「あぁ、そうか!今のうちに読み書き出来ておくといいぜ!俺なんか学び舎行ってないからよ、今の仕事しながら覚えてる所なんだ。苦労する前に覚えておけば、仕事する時には楽々だからな!」

学び舎自体は、強制ではない。その家庭の事情により、通えたり、通えなかったりだから。

「う、うん、大丈夫!リリと一緒だから。じゃ、グラムも仕事頑張って」

リリと一緒で何が大丈夫なのか、僕自身言った事に疑問を持ちながら、仕事に向かうグラムを見送る。


グラムと別れ間もなくリリ宅へ。

朝から慌ただしく、家族が支度しているのがチラチラと見える。

「おはようございます」

忙しくしている所に、お邪魔するのは気が引けたけど、大事な事だからちゃんと伝えなければならない。

『ライト、ちゃんと説明出来る?』

「うん、大丈夫!」

リュウイチとやりとりしている所に、リリの母親が出てきた。いつ見ても綺麗な顔立ちをしている。大きな緑色の瞳に短めの茶色の髪が良く似合っている。

「あら、ライトわざわざ迎えにきたの?少し待ってもらえる?中入って!少しバタバタしてるけど」

本当にこの人は母親なのだろうか?と、思うくらいに笑顔が幼く見える。僕も遠慮なく招かれるまま中へ。

「朝から珍しいな、ライト」

「あっ、おはよう、おじさん」

椅子に座ろうとした時に、後ろから頭をガシガシしてきたのはリリの父親のアイゼン。知らない人だったら間違いなく声を掛けない強面の持ち主。剃りあげられた頭に蓄えた髭、かなりガッチリした体つき。でも、優しく陽気なおじさんだ。

「アイラ、待ってる間にミルクでも出してやれ。俺は仕事に行ってくる」

アイラとは母親の事。

「はいはい、暑苦しい人は仕事に行ってちょうだい。リリ呼んで来るから」

しっしっと手を振って、アイゼンを仕事に追い出す。その仕草を見てアイゼンは荷物を持ち出掛けて行った。

僕は出されたミルクを一口飲んだ所で、アイラがリリを連れて戻ってきた。

「ごめんね、待たせちゃったね」

「たいして待ってないよ。ちょっと話があって…おばさんも少しいい?」

「どうしたの?ウィルには内緒?」

リリは気付いた様で早く聞きたいと言う雰囲気が出ている。アイラは面白がるように、母さんには内緒話なのかと煽ってくる。

「内緒にするのは、近所の人達かな。おばさんは母さんと友達だからいずれ判る事だから先に言っておくよ。リリには報告かな」


朝の忙しい時間帯だった為に、要点だけを説明した。アイラは、やっぱり驚きの顔。リリは少し安心した様な顔。会えなくなるのは嫌だって言ってたから、その部分に関してはいい結果だったと思ったのだろう。

「そうか、ライト聖堂通いかぁ。うん、わかったよ、周りには内緒にしておく。うちの人には話していいかな?あの人もペラペラ喋る事しないから黙っててくれるだろうし」

「おじさんには、おばさんから言ってて。僕もそろそろ行かないとダメだから、リリ途中まで一緒行こ」

リリの手を取り立ち上がる。出入り口までアイラが着いてきて、後ろから抱き締めてきた。

「いろいろ大変だと思うけど頑張って!」

「お母さんライトから離れてよ!」

リリに強引に引き剥がされ出発。軽く手を振った。


「でも良かった。もう会えないって思ってたから」

「さっきも言ったけど、学習院の寮に入っても、週一で帰ってこれるから、遊びに行くよ」

満面の笑みで首を縦に振る。よほど安心したのか、気分上々…そんな感じだ。学び舎に行くのは今日が最後…そう思っている僕とは逆にリリは笑顔のままだ。


フォスター先生は外で待っててくれた。学び舎の前でリリと別れ、先生と言葉を交わす。

「先生今までありがとう。せっかくだから僕頑張ってみるよ」

「ううん、私が余計な事をブランドル達にしなければ、こんな大騒ぎにならなくて済んだのに…ごめんね」

「先生のせいじゃないよ。それに、二度と先生に会えない訳じゃないんだから」

フォスター先生は未だに気にしているらしく元気がない。

『元気がいい先生の勉強の方が楽しいよって言ってやれよ』

「元気がいい先生の勉強の方が楽しいよ」

思わね所から助言が飛んできた。その一言をきっかけに先生の表情が変わる。

「そうだね、私が暗い顔してたらみんなに迷惑だわ!ライトも今日から頑張って!」

多少元気出たかな?挨拶をそこそこに今度は聖堂へ。学び舎からは一本道なので、迷うこもない。

聖堂への道は知ってても、近づいた事も入った事もない。ここから先どんな事が起きるのか楽しみであり、不安であり。


「ここだ…」

『とうとう来たな』

やっぱりリュウイチも気にしてた様だ。

近くで見る聖堂は初めてで、同じ街の中にこんなにも巨大な建物があったのかと、今更に思わせられる。

丁寧に刈り込まれた樹木、通りから続く整った石畳、雑草なんて生えてない芝生。どこを見ても同じ街の中なのか、と感じる。僕はおそるおそる門をくぐり、石畳に添って敷地内に入って行く。

「こんな朝から聖堂にどんな用件でしょう?」

「うわっ、すいません、勝手に入ってしまって…」

「怒っているわけではありません、どの様な件で聖堂に来たのかを尋ねているのです。貴方はそれに、答えればいいのです」

急に話しかけられ驚いているのに、冷静に質問に答えろ的なものの言い方…なんだろこの人…。警戒心の強い眼差しで僕を睨む。

「えと、あの、メルリ聖堂長に今日から聖堂に来るようにと…」

「聖堂長だと!?貴様が!?東区の者か!?そのような身なりの者は、商人以外は立ち入り禁止だ!」

メルリの名前を出した瞬間に、この男の人の態度が激変。僕の首もとを乱暴に掴み、敷地外に追い出そうとする。 なぜそんなに当たられるのか?

『なんだぁコイツ』

「ゲーリッチ止めなさい。その子は私がお預かりした大切な神童。場合によっては重大なる罰を科せますよ?」

聞いた事のある声が響き渡ると同時に、ゲーリッチと呼ばれた男の顔色が変わっていくが、抗議の言葉を返した。

「神童とは大袈裟な…。しかし、この神聖な聖堂に東区の者を招き入れるとは、聖堂長、正気ですか!?」

とれだけ東区を嫌っているんだこの人は…。南区の人も同じ扱いか?

「貴方が判断する事なのですか?私に意見するなとは言った事はありませんが…今の貴方は聖堂に相応しくない行動をしています…」

静かにメルリが何かを飛ばす様に左手を振る。その瞬間、黄色の帯の様な物でゲーリッチが縛られていた。両手両足を固定されその場に倒れる。何か嫌な事が起きそうな予感がして、僕の背中は冷や汗でびしょびしょになっていた。

「申し訳ありません!聖堂長、いくら子供でも、私の家族を死に追いやった同じ東区の人間は…!」

「彼を同じ扱いにする事も許しません。貴方はしばらくお休みしてください。城に送ります。あとは城に従ってください」

再び手を振ると、その場からゲーリッチが消えた。これが魔力なのか?ただ、目の前で最悪な事態になることはなかった為、少し安心した。

「いらっしゃいライト。朝から迷惑掛けてしまいましたね?私が聖堂の神官達に伝えきれてなかった事が原因ですね」

「いえ、僕もに勝手に入ってしまって…すいません」

一悶着があった後だし、なんか凄い威圧感を受け変な態度は取れないと、印象付けられる出来事は刺激が強すぎた。いろいろ詮索したい所だとリュウイチと話していたが、おとなしくしていた方が無難だろうか?


聖堂の中は様々な装飾が壁に施されていて、全てに意味があるらしいが、説明されても覚えきれないだろう。中央には祭壇がありここで祭事が行われるそうだ。それでも東区と南区の人々はごく一部しか参加しないとの事。聖堂は、東区や南区の人にしてみれば、一段敷居が高いと思っている事がわかる。


しばらく無言でメルリに着いていくと、一つの扉の前で止まった。

「この部屋をライトの勉強部屋として使います」

「は、はい」

静かに扉を開き中に入ると、見たことの無い物ばかり置いてあり言葉にならない。

机が二つ。それを挟む様に壁には大量の本が収納されている本棚。そして、窓際の隅に何かの道具らしきもの、宝石的な石が納められている木箱。後はなんか説明出来る感じては無い。

「基本的に学習院の試験に関しての指導をしていきます。私が空いてない時はミューレンが来ますし、各項目によって講師が来ます。講師と言っても、私含めて四人ですけど」

四人もいるの!?メルリさんにミューレンさん…あとは?

『予想以上の講師だな。それよりあの隅にあるやつもっと近くで見たいんだけど』

僕はリュウイチの呟きに、仕方なく部屋の隅に向かう。見たことの無い物で、丸みを帯びた箱の様な形に、取っ手なのか長い部分があり、そこに糸か数本張ってある。

「フューリーに興味があるのかしら?それは、聖堂で伝統的に使われている楽器よ。入学試験には関係ないけれど、やってみたいなら楽師をつけますよ?ただ、簡単には音は鳴らないの」

「楽器…?」

『楽器!?』

フューリーと呼ばれる楽器、置いて有るだけで不思議な雰囲気をしている。普通の人には触れない物なのは判るが、それが存在しているだけで、吸い込まれそうな感覚が襲い迫る。

そっと手を伸ばし触れてみる。ちょっと指先が触れたその時、ほんの一瞬なのに一気に力を吸われ脱力感が全身に広がった。

「あっ…」

「大丈夫?フューリーは魔力を吸い上げるのよ。だから、魔力を持ってる人しか扱えないの。もちろん、魔力が無くては音も奏でられない楽器なの」

メルリが話す間に僕はガクッと膝を付いた。全身に力が入らない。

『なんかすげぇな。立てるか?無理ならちょっと休め』

都合良いのか悪いのか、リュウイチに無理やり引き込まれた。中と外と替わる時「お前の記憶や意識が消えそうになってた」と言われた。…死にそうだったって事?


「大丈夫です。少し驚いただけで…」

「気をつけてくださね」

相変わらず可愛らしい笑顔だが…先程の出来事を思い返すと、とても穏やかではない。中からみてただけでも、血の気が引いた。

とりあえず、ライトは休ませなきゃいけない状況になってしまった。しかし、体は一つ。負担は大きいだろう。


「今日は初日ですので、ライト自身の検査をさせていただきます。魔力量の測定と適性検査です」

そう言い、机の上に両手でやっと持てる位のガラス玉を置く。竜一として生きていた頃の物で例えれば、バレーボールとかバスケットボール位の大きさ。

「先程、フューリーに触れた事で、魔力量は格段に落ちているでしょう。これは逆に魔力を入れてあげる物です。体内に魔力を注ぎ、保有出来る量を測るのです。同時に適性も調べます。この玉に両手を添えて…」

簡単に言うと、バケツか湯船か大きさを調べるって事か?言われるがまま、玉に両手を乗せる。ほんのり暖かさが伝わって来る。

「玉に集中して、全身の力を抜いて…」

少しずつ、無色だった玉が白っぽく濁り始め、次第に玉の温度が上がって来た。手を付けていられない訳ではないが、そこそこ熱い。

「結構熱いです…」

「ライトには熱く感じるのですね。今から魔力が入ります。もう少し頑張って…」

淡く光を放つ様な状態になった時、玉から熱と光が手を伝わり登ってくる。初めての経験に言葉すら出ない。

「メルリさん…これって…」

言い掛けたその時、ブツっと何かが切れる様な音が聞こえた。その音をきっかけに、玉からの熱と光が勢い良く流れて来るのが判る。

「ちょ、ちょっと待って…ライト、手を…手を離して!」

止めたい、でも手が離れない!メルリが叫ぶが俺にはどうしようもない。

でも、なんとかしなくては。川の流れを手で止めるイメージで、玉を睨み叫ぶ。

「止まれー!」

一気に熱が無くなり、光も消えて元のガラス玉に戻っていた。なんか体が軽い。それと体温が上がっている?

息を切らしメルリが俺を見る。

「私が…思っていた以上に保有出来るみたい…ですね。私の魔力殆ど吸われました。それなのにライトは平気…なんですね?まだ解放してなかったなんて…」

「解放…ですか?」

「落ち着いたら、詳しく説明致します。ライト…貴方は…適性、金ですね…」

適性が金とか、解放とか全然理解出来ない。後で説明してくれるって言うけど…一体。メルリ自身は何処と無く顔色が悪い気がする。

「顔色が悪いようですけど…大丈夫ですか?」

「少し休ませてもらえるかしら?その間ミューレンを呼んで、講師やこれから行っていく、学習について説明させます。ライト右手を…」

右手を差し出すと、メルリも右手で握り、握手するような形になる。そして、聞き慣れない言葉を呟く。何か呪文の様な言葉が進むにつれて、右腕が肩から手にかけて感覚が鈍くなっていく。

「うわっ…」

その言葉が終わった時、握られた手から光の玉が窓の外へ向かい飛んで行く。はぁっと一息ついてメルリは、俺を見つめてニコッと微笑む。

「今のは伝達の魔法。すぐにミューレンが来ます。私は昼食が終わるまで休ませていただきます」

「はい…」


間もなくミューレンが修道院からやって来た。少々急いできたのか、心なしか息が上がっている。

「あぁ、ミューレン。呼び立ててしまって…」

「いいんですよ。お休みになってください。重要な内容は伺いました。今後の説明等は私がしておきます」

双子だから仕方ないが、顔だけ見たら区別が付かない。おまけに、親族なのにも関わらず他人行儀な口調で…。学び舎で初めてみたときのブランドルとのやり取りは演技だったのだろうか?

そうこうしてるうちにメルリは自室に戻るとの事で、ミューレンと二人になった。

「メルリはお話してない様なので、私から今後の予定、そして、解放と適性に付いて説明しますね」

「ミューレンさん、それと…話せる事なら…なぜ僕は厚待遇になったんですか…?」

説明ついでに聞き出そうと、確信に触れてやった。でも、ミューレンは困った表情すら出さずに、やはりニコッと微笑むだけ。うーん、掴み所がない姉妹だな。

「一つ一つ順番にお話しますねライト…今はリュウイチさんですか?」

「えっ!?」

虚を突かれたのは俺の方だった。否定も肯定もしては居ないが、何故ミューレンが知っているんだ?誰にも話してないし、まぁ話した所で誰も信じないだろうが…。

「な、何言ってるんですか?ライトですよ?」

「隠さなくていいですよ?言いましたよね?私は神の仕いと」

もしかして…あの時、訳が判らないままこの世界に俺を連れて来た張本人なのか?使いでは無くて仕いだったんだ。確かに聖堂やら修道院やらと言われれば納得がいく。

「あの時の!?」

「はい。そうです。昼食が終わるまでと時間が限られています。質問は後日伺いますので、今は私の話を聞いてください!」

一方的に俺の質問コーナーは打ち切られた。言いたい事、聞きたい事は山ほどあるが、ここは一旦こらえてミューレンの話を聞こう。

「わかった。今後の予定とか?」

「はい。まず適性についてです。リュウイチさんは…いえ、ライトは金と聞きました。先程、水晶玉にて検査を受けたと思います。あれは、術者が被験者の魔力を映し出し、色を確認します。人により様々な色があります」

確かに、無色だったのに白っぽく濁ったな?ん?白っぽく?金って言ってたな。

「でも、さっきは白っぽく…」

「メルリは、貴方に魔力を吸われたと話していました。メルリと私の魔力は赤適性です。赤の上が金になり、保有可能な量も多い為に金の力が赤の力を奪ったと考えてください」

つまり、大富豪方式か!?貧民は大富豪に一番強いカードを渡すみたいな。なんか悪どいな。

「先程の一連の出来事で魔力を使う為の解放は完了しているはずです。これから、魔力の使用方法と制御方法を学ぶ事になります」

「また、話が判らない。ちゃんと今度は細かく説明してくれる?」

またしても次々と理解出来ない事ばかりズラズラと並べられて、それをどの様に理解しろと!?

明日以降、一つずつ説明してもらうことの確約を取り、別の部屋に移動することになった。

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