~進路~
翌日、父さんから「二日後に都合付けた」と言われたので、ブランドル先生達に伝えてもらわなくてはならない。一体どんな話し合いになるのか?今から不安だ。あれからリュウイチは、表に出ようとしない。あれだけ生きている事に嬉しさと喜びを感じていたのにどうしたものか。
「リュウイチ、夕べの家族会議終ってからどうしたの?」
『ん?あぁ、ちょっと疲れたんだよ』
やっと回答が返ってきたが、疲れたって…中身しか居ないのに何を言ってるだろう。でも、言われてみれば体がダルい。一日中何かに集中してた様に、目の奥が痛い感じもする。
「と、とにかく今日学び舎終わったら、フォスター先生に話さなきゃだからね。知ってる出来事自体はここから先無いから、うまく話を進めないと…」
『いや、俺が自分の世界で読んだ事のある本には、多少出来事が違っても結末は同じ的なものもあったから、油断は出来ない。うまく話を進めないといけない事には変わらないけど』
何を言ってるか全然わかんない。後でリュウイチの記憶を覗いてみよう。
「ライトー?誰と話してるの?」
ひょこっとリリが現れた。気付くと毎朝リリと落ち合う所まで来てたらしい。周りから見たら、僕は独り言を言いながら歩いているのと同じだった。
「え?あっ、あぁ…独り言だよ」
「変な目で見られてたよ?大丈夫?」
カラカラと笑いながら状況を説明してくれた。声に出さなくてもリュウイチと話す方法は無いのか考えなくては。
その後、いつも通りに会話をしながら学び舎に向かった。
学び舎に到着後、普段と変わらない文字の書き取りと簡単な計算。途中、『毎回同じ事しかしないんだな』とか言ってきた様な気がしたけど軽く無視。あっという間に終わりの時間になった。
「フォスター先生」
「ハイハイ、どうしたの?」
後片付けをしているフォスター先生に声をかけ、両親の予定を伝えなければ。
「あの…例の件明日の午後からなら、両親都合いいって言ってました。ブランドル先生達に伝えてもらえますか?」
その言葉に、フォスター先生は苦笑いする。
「わかったわ。伝える。でも、ごめんね。元はと言えば私がライトの事巻き込んだみたいな感じになってしまって…」
「いや、大丈夫です。この際なんで聞きたい事聞いて、それから決めようと思ってるんで」
フォスター先生は自分が彼等に話した事が軽率だったと気にかけている様で、言葉を選んで話した。これで段取りは付いた。後は内容と、勉強の成績が良くなっただけでブランドル先生たちが大騒ぎしていることを聞ければ…。まぁ、勉強はリュウイチの手伝いがあったからなんだけど。
でも、これがあの未来を変える第一歩。真剣に考えなくてはならない。
「ライト…学習院とか修道院って…もう決めたの?」
帰り道、少し後ろを歩き心配そうにリリが口を開いた。
「うーん、正直まだ。明日もう一度話し合いしてから、かな」
「もう会えなくなる?私…嫌だよ。ライト居なくならないよね?」
「居なくはならないよ。でも、僕にはやることがあるんだ。将来の為に…」
居なくならない。そう言っただけでリリは安堵の顔を見せる。今はこんな姿な戻ってはいるが、ずっと一緒に過ごして来たのだから不安な気持ちにもなるのだろう。しかし、一定期間離れたとしても将来、家族やリリを失ってしまう方が僕には辛い。
「例えば、学習院や修道院に行く事になったとしても、二度と会えなくなる訳じゃないだろうから、心配しなくても大丈夫だよ」
「うん、わかった」
先程とは大分落ち着きを取り戻したらしく、いつもの可愛らしい笑顔が戻っていた。
そして約束の翌日、僕は両親と学び舎に向かっていた。今日はブランドル先生達との話し合いだから、学び舎は急遽休みになった。
「ところで、父さんこの前の家族会議の時、やっぱりそうかって顔をしたの?」
「ん?あぁ、あれは…。職場でな、東区と南区にほとんどいるはずのない、学習院と修道院の人を見かけたって噂になっていてな。もしかして、学び舎でも覗きに来たんじゃないかって思ってたからさ」
僕達が住む東区、父さんの職場がある南区、聖堂や修道院がある西区、学習院のある北区、この四つの区で一つの街となっていて、アウンティナルーと言う名前がある。
「ごく稀に、学び舎を視察する事があるって、随分前に聞いたことあったからな」
「そうだったんだ。もう話が父さんの耳に入ってたのかと思って…」
街の関所で仕事している関係上、父さんは実はかなりの情報を持っているのかも知れない。街の出入りをするための門だから、沢山の人達と接する機会が多いから自然とそうなるのだろう。
「フォスター先生が、待ってるわ」
母さんが指を指した先に、フォスター先生の姿があった。遠くからでもわかる位ソワソワしている。
「こんにちは先生。待ちました?」
「ちょっとだけね。もう待ってるわ付いてきて。お父さんとお母さんも忙しいのにすいません。こうなったのも私のせいで…」
やっぱり気にしていた様だ。
「いえ、いいんですよ。無理そうな話ならお断りしますし」
「妻もこう言ってますので、気にしないでください」
僕はほぼ毎日の様に来てるから解っているが、父さん達はわからないので、フォスター先生の後ろをスタスタとついて行く。
間もなく、先日僕が呼び出された部屋に辿り着いた。この扉の向こう側でブランドル先生達が待っている。無意識に顔が強張るのが自分でも解った。
『こういうのは慣れてる。俺に任せろ。終わった後はまた疲れるだろうけど…今後は入れ替わる事が多くなると思うから、ライトも俺も慣れなきゃならないな』
声に出さずコクンとうなずく。
それが合図の様に扉が開く。そして、僕はリュウイチと交代した。また話を聞きながらリュウイチの記憶でも覗いていよう。
「待っていたぞライト」
先日とは雰囲気の違う装いで来ていたらしい。竜一時代、学校の面談等で慣れていると、ライトと交代したが…独特の空気に呑まれてしまいそうだ。もちろん、ブランドルだけじゃなく、ミューレンもメルリも前回とは明らかに違う。
「すいません、遅くなってしまって…あっ、両親です」
「はじめまして、父親のディーダです。こちらが妻のウィル。貴重なお時間を頂きありがとうございます」
ごく普通の挨拶は何処の国も世界も変わらないんだな。心なしか父さんの顔色が悪い。
「改めて自己紹介しよう。私はアウンティナルー学習院、中等部長ブランドルだ」
「アウンティナルー修道院、院長ミューレンです」
「アウンティナルー聖堂、聖堂長メルリです。今日はよろしくお願いいたします」
ん?実はこの人達は偉いのか?
「お言葉ですが、中流階級以上の…」
「今日は、私たちがどうしてもライトの家族とお話がしたくて、都合を付けて頂いたので、階級がどうこう言わないで下さい」
ミューレンがそう話すと他の二人も軽く頷く。父さんと母さんはそれどころではないって顔をしているが…。まぁ、顔色が悪い理由はここにあったのかと思うと納得だ。
なんとも重い空気の中、各々が席につく。
少々大きめの机を挟み向かって左から、ブランドル、ミューレン、メルリの順。そして、俺はブランドルの前、父さんと母さんの順だ。フォスターは部屋の片隅で不安気な感じで話を聞こうとする様だ。
『使い』のやつは、主の為に祈りを…って言っていたが、ライトの記憶を探ってもそんな事は知らない。まずは、学習院と言われる所もしくは、修道院に行けば学べるだろう。このチャンスは逃せない。しかし、ちょっと計算の手伝いをしたやっただけで、これほどの大騒ぎになるとは…。やってる内容は、竜一時代の時を考えると、難しくてもせいぜい小学生一年生程度。基礎とはいえ、どうやったら居残りしなきゃならない位に難しいのかライトに聞きたい。
「ブランドル先生、お話の前に質問いいですか?」
「なんだ?」
大騒ぎの根底を明確にしておく必要があると思っていた。内容が解らないうち、逃せないチャンスとはいっても今後の道程を簡単には彼等に預けられない。
「少し気になっていたんですが、成績が良くなっただけで学習院や修道院に来ないかって事になるんですか?」
ブランドル達はその質問に不思議そうな顔をする。ただミューレンだけが質問の、意図を読めたらしい。
「そうですね、そこから説明しなくてはなりませんね。少々長くなりますがよろしいかしら?」
嫌な顔を見せる事もなく、優しい眼差しを俺に向ける。
「人は生まれながらに魔力を持っています。膨大な量、ごく僅かな微量と個人差はありますが。その魔力が、表立って判りやすいのが勉学と言う訳です」
「しかし、ミューレン修道院長、もともと勉学が得意な子供はいくらでもおられるはずですが…」
説明の途中なのに父さんが…俺が次に聞こうと思ってた質問を。
「確かに、勉学が得意な子供達はおります。ですが、ライトの場合は特殊。そう思いませんか?ある期間を境に、今まで出来てなかった、学び舎での基礎勉強が、他の子供よりも急にできるようになった事。人間は大人でも、子供でも、そんな事は起こり得ないですよ?」
確かに、昨日まで走るのが遅かった人が、翌日誰よりも速く走る事ができる様になりましたって事まずない。勉強だって同じ。竜一として生きたあの時、定期的な試験で毎回最下位の奴が、トップになってたなんて事は一度もない。
「話が逸れましたね。勉強で判りやすい理由としては、学び舎での訓練が基礎勉強だと言うことですね。考える能力に魔力が吸い出されて、脳を活性化する事で、本来持っている以上の能力を発揮していると考えられます。しかもその発揮量が普通ではないですね」
魔力ってなんか壮大な展開になってきた気がする。でも、ライトの記憶や知識を探っても魔力的な物は見たことないが…。それに続きブランドルが口を開く。
「何の事かと思ったら、そこからの説明だったんだな。…、ここからは私が話そう。魔力自体は本人に自覚がない。その為学習院にて色々な、学習や訓練を行い平均的に魔力を伸ばし、自在に扱えるようになって欲しい考えである。今のアウンティナルーには少しでも魔力を扱える者が欲しい現状にある。まぁ、決して不足している訳ではないのだが…。それは追々話しよう」
「学習院に入る事で、保有している魔力がどんな事に長けているのか、と言う所までわかるようになります。今ブランドルが話した様に、平均的に伸ばす事、これが本来の目的ではありますが、人の性格と同様、魔力にも得意分野が存在するのです。我々も、初めてライトとお会いした後、三人で綿密な話し合いを重ね、聖堂、修道院よりも先に学習院に入学し、様々な経験をしてほしいと言う結果になりました」
これが三人の結果…。学習院に入学し、その内容や成績によって就職先が変わるとでも言いたそうな感じだ。以前ブランドルは、「将来の生活は安定だぞ」と言っていた。
本来、ライト自身が保有している魔力が影響しているわけではなく、俺がちょっと手伝っただけの事だとバレた時はどうなるのか?バレる事はあり得ないが…
魔力の事は考えるのは後だ。今後はどうなるのか聞いておかなくては、
「あの、僕が学習院に入るとしたら、どうなりますか?例えば、その…学費とか…」
「入学後は、基本的には寮生活になる。だか、週に一度は帰宅する事ができる。学費の事なんだが…」
ブランドルは気まずそうに視線を逸らす。この数ヶ月ライトとして、生活してきた事を考えると決して裕福ではない。むしろ、貧困層。一月の生活がやっとやっとで、ギリギリの中から学び舎の学費を出している。
「ライト本人が、学習院に行きたいと思うなら、私達はこの子の親として行かせてあげたいのですが、ブランドル中等部長のご様子だと、難しい…のですね?」
家計を握るのはどの世界も同じようで、金銭的な話になったとたんに母さんがブランドルに質問する。だが、ブランドルもその部分に関しては考えてなかった。
ここまできて金銭的な問題か…。こればっかりはどうしようもない。学習院に通えば、少なからず何かしらの楽器があると思って、楽器に触れる事が出来ると思って話を進めたんだが…。
「ライト、本当に学習院に入学したいですか?」
「ブランドルは忘れているだけです。まだ、入学する方法はありますよ?」
双子の笑顔って癒される。いや、ミューレンとメルリの二人がキレイだからかな。
「ミューレン様、メルリ様…入学試験ですか!?」
「ご両親が許可さえしていただければ、私達が試験まで援護いたしますよ?」
突然の提案にブランドルはもちろん、両親も驚いた表情になる。
試験については再び説明された。
通常、学習院への入学は、入学する意志があり簡単な手続きと、年間の食費を含めた学費を先払いにて納める事で、入学可能となるらしい。中流階級以上の家庭の子供が入学するのが殆どなので、学費は先に支払うのが当たり前だそうだ。
それでも、ケチな金持ちは子供は入学させたい。でも、学費を支払いたくないと、文句を言う家庭もあるらしい。そんなケチな金持ち対策で、入学試験制度を取り入れたと言う。
超難問の試験が出るそうで、合格すれば学費を免除される。不合格なら、学費を支払うか入学を諦めるかになる。俺が入学するには試験に合格するしかない。
「それで、修道院長、聖堂長、許可というのは…?」
「学び舎は、今日まででいいので、明日から修道院に通わせてください。もちろん、修道士として通うのではないので、毎日帰宅できます。あくまでも試験に必要な知識を学ばせるためです。学費もお布施も要りません」
「なんでそこまで…私達は何もお返しとかできないです…」
確かに母さんが言うように、何故そこまでするのか?彼女達には何のメリットもないはずなのに。そして、ブランドルが二人に対して「様」を付けていたのも気になる。
「気にしないでくださいませ。ライトが将来出世したら沢山お返ししてもらいますので」
「わかりました。お二人にお任せします。明日から宜しくお願い致します」
「あなたがそう言うなら、私は従います」
両親の返事でこの話が決まった。
進路は学習院。その前に予備校修道院って感じかな。少しずつでも、彼女達の確信に触れて行こう。
「ブランドル。ライトの寮を準備して、いつからでも使える様にしてください。試験はこちらから学習院長に伝えます」
「わかりました…。しかし、良いのですか?そんな勝手な事を…」
「あなたが心配しなくていいことです」
絶対、ミューレンとメルリの方が立場が上だね。どれだけ偉いんだよ。
一通り話し合いが終わり、慌ただしくブランドルが引き上げて行った。
「明日から聖堂で待っています。ミューレンは修道院ですので、私が教育致します」
笑顔を絶やすことがない姉妹に見送られ帰宅する。
「本当に大丈夫なのか…?」
『大丈夫なのかな?』
二つの声が同時だった。母さんには父さんの声しか聞こえてないけど。どの部分に対しての大丈夫なのかは解らない。
「何が…?」
「聖堂に通う事。学習院に入学した後。ライトがやっていけるのかって事。聖堂長達が、なぜこんなに良くしてくれるのかって事…。不安、心配、疑問は消えないな」
父さんが言う事…気持ちが解らなくない。正直、いくら必要と言われた所で赤の他人。何か特別な事情があると考えても、今のところは何も思い浮かぶ事はない。あの場での空気、雰囲気に流されるまま勢いで「お願いします」と答えてしまった。そんな風に捉える事も出来る。
「まぁ、やっぱり止めますって言えないでしょ?どんな事情があるにせよ、今更裏切るような断りなんて出来ないわ。どうみても、彼女らは中流以上の階級様。断った後で何かされたりする方が、私は怖いわ。権力さえ使えば、うちらの様な東区の人間なんて…すぐ消されるわ…」
「そうだな…今更断れないな」
恐ろしい会話が聞こえて来たけど…。消されるって。中流以上の階級って呼ばれる人達にしてみれば、普通の事なんだろうか。
父さんと母さんの話を聞く以上、後戻りは出来ない。するつもりもないが。この不思議な世界で、ライトと共に必要とされるならば、突き進むのみだろう。ついでに楽器や音楽に関われればなお良いんだけども…。
「おかえり!ライトどうなるの!?学習院行っちゃうの!?」
自宅に到着早々、大声をあげながらミラが駆け寄ってきた。普段はあまりラストに干渉してこない彼女だが、やっぱり唯一の弟の事、家族として生活してきた訳だから、気にならないって事はないらしい。
「…と、言う訳だ」
父さんが大体の話をミラに告げる。先ずは、聖堂にて試験の為に必要な勉強をする事。入学試験までは毎日帰宅出来る事。学習院に入学したら寮生活になるが、週一で帰宅出来る事。それを聞いて多少不安が消えた様だ。
「べ、別にライトが心配だって事じゃないからねっ!まぁ、一応あれだよ!うん、そう家族だから聞いておかなきゃならないでしょ!?」
「素直に心配なんだって言えばいいじゃない」
クスクスと笑いながら母さんツッコミを入れる。俗に言うツンデレってやつだな。
「僕、明日いつもより早く起きて学び舎寄ってから、聖堂に行くよ。フォスター先生に挨拶しなきゃだから。先寝るね。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
父さんに声を掛け、部屋に入る。ライトとも話ししなきゃならないし。
ベッドに入り目を伏せる。行き先は『中』だ。
「いやぁ、疲れた」
「リュウイチ、話が大きくなってない?」
ムッとしたライトに睨まれる。睨まれた所で今更どうにもならない。
「少しくらい大きくなったって問題無いって。どのみち、先のわからない未来だろ?それより、メルリとミューレンが何者なのか?何故、待遇を良くしてくれるのか?気にならないか?」
その言葉にライトの顔が真剣になる。聖堂に通ってる間に聞き出したいと思っているが、簡単に話してくれるとは思ってない。
「まぁ、確かにそうだねぇ…上手く話が進み過ぎてると言うか。僕も見てたけど、普通じゃないよね。ブランドル先生よりは確実に偉そう」
話し方、立ち振舞いどっちを取っても、明らかに貴方とは違うのよ的な感じだった。明日からどれくらいの期間、聖堂に通う事になるのか判らないが、聖堂に通っているうちに聞き出そう。
まだ先の見えない新しい一歩を踏み出した。安堵と不安を感じながら、静かに日が登り、どことなく優しい風と日差しが部屋の中に入り込んできた。




