~決断~
少し時間が遡る。
僕は、もう一人の自分に「休憩だ」と言われた後、すぅっと眠るように意識を失った。でも、恐らく僅かな時間で気がついた。
「ここは…?」
そこは、あの白い場所に似ている所だった。だが、少々雰囲気が違い、窓の様な物がある。
「あれ?父さん達が見える…」
その窓の様な物を覗き込むと、そこには自分を含めた家族が話し合っている様子が見えた。しかも、何を話しているのか、内容までハッキリと伝わって来る。
「学習院の内容?父さん…調べたんだ」
あれこれと学習院がどんな事をするのか、僕(?)に話している。
「あぁ、待て待て。なんか、俺の事知れよみたいな事言ってたな…どうすれば…?話の内容は嫌でも聞こえて来るから、聞きながら彼の事を知らなきゃ、誰なのかすら解らないし」
彼に聞こえているのか解らないけど、一人言を言いながら、周りを見回す。
視線が止まったのは、窓の真後ろに位置する所にある、薄く青に光る石の様な物。恐る恐る近づき手を伸ばしてみた。
もうすぐ触れると思った瞬間、青い光が伸ばした手に飛んで来る。そして、全身を包み込んだ。
「これは…なに…!?…うぁ!」
一気に何かが入ってくる。なんて言って良いのか解らないけど、色々な風景が。それも見たことが無いようなものばかり。
灰色の道、その道に所々に白い線がひかれていて、見たことの無い四角い物が信じられない速度で通りすぎて行く。
『じゃぁ、また明日な竜一…』
ふと人の声が聞こえ、そちらに目を向ける。
黒髪の男の人が二人、不思議な乗り物にまたがりお互いに別の方向に向かう。
坂道になっているようで、片方の男の人は不思議な乗り物で下って行く。それを目で追うと先程の道にたどり着いた。
よく見ると、その道には三つ目の木なのか、赤い光を放っている。隣には縦に二つの目が付いた物もある。
「なんだろここ?見たこと無いものばっかりだ…」
しばらくすると、三つ目と二つ目が青い色の光に変わり、男の人が動き出した。が…道の中程まで進んだその時、四角い物とぶつかった。いや、四角い物が男の人にぶつかったと言う方が正しいかな。
想像以上に吹き飛ばされ、男の人は道に叩き付けられた。頭からは信じられないくらいの出血をして、ピクリとも動かない。
「うっ…」
人の死を目の前で初めて見た…。一瞬で彼は命を落としたとわかった。込み上げる何かをこらえつつ、なぜこんな出来事が見えるのか考えた結果、一つの答えが思い浮かんだ。
「もしかして、あの彼が…僕が呼んだもう一人の自分?」
それしか思い付かない。あの時、間違いなく「死んだ」と言ってた。
「リュウ…イチ?」
そう聞こえた名前を呟いたその時、元の場所に戻り、目の前にあった石の様な物は、光を失っている。
今見えた不思議な所は、彼…リュウイチが生まれ育った所に違いない。経験した事、知識や常識そういったものが、僕の中に入って来た。
『ライトは行くの?』
『家族と相談しないと解らないって答えてあるし…』
途中の話を聞くのを忘れてた!
「僕は行くのつもりはないよ!?」
思わず叫んでしまった。聞こえてるのかな?リュウイチには。でも、何か返ってくる前に話し合いは終わってしまったようだ。
父さんと母さんがブランドル先生達と会ってまた話し合いか…。一体リュウイチは何を考えてるんだよ。
『母さんおやすみ…』
話し合いの後、夜もだいぶ更けていたようで、ベッドに潜り込む所が見えた。そして、すぐ落ちた。
「よっ」
途中話し合いをちゃんと聞けてなかったけど、最後のやり取りの所だけモヤモヤした気分で考えていると、突然声をかけられ振り返る。そこには、声の主らしき男の人が。
「リュウイチ?」
「おっ、その様子だと、ちゃんと俺の事見たんだね」
やはり、リュウイチだった。ずっと声しか判らなかったけど、姿が見える更に不思議な感じがする。
「予定通りに、父さん達を先生達と会わせられる様になったよ」
「それは知ってるけど、一体何を考えてるの!?僕は何処にも行かないで、家族と一緒にいるって決めたんだ!」
初めて顔を会わせたのに、怒鳴りつけてしまった。が、リュウイチは、何も困った感じの雰囲気も出さず、静かに語り始めた。
「家族と相談しないと解らないって言ったのはお前だろ?それに、お前…何の為にこうしているんだ?」
僕にはリュウイチが言ってる事が解らない。
「俺は、お前が子供に戻るまでの出来事は、全て覗かせてもらったよ。お前が俺の出来事を見たように。あんな、悲惨な…」
「やめろよっ!」
リュウイチが少しずつ話をする度に、忘れていた記憶がうっすらと浮かんでくる。自分自身で何処かに隠すように消えていた記憶が…
「ライト、現実から目をそらすな!あの時、自分で何かしようとしたんだろ!?出来ること探したんだろ!?でも、何も無くて、お前は俺と同じく死んだんだ…そして、救われた。神によって」
どういう意味なのか…理解が出来ない。
「思い出させてやるよ!俺がライトの記憶を覗いて解ったこと!」
リュウイチはそう言うと、右手を伸ばして僕の頭に触れる。
様々な光景が入ってくる、
領主様が戦を起こす事
その戦に大敗する事
相手の領主様に罰として農地等の土地を取り上げられる事
それによって食べ物が無くなる事
飢えに耐えられず、人々が亡くなっていく事
「うわぁぁぁ!」
何処かに隠していた記憶が一気に甦り、涙が溢れてくる。
「戦の原因は解らない。でも、同じ事繰り返したいか?繰り返さない為に…変えたい為に…助けて欲しい為に、祈ったんだろ?でも、神の助けは無かった」
「うん…。もうどうしようもなくて…。聖堂に駆け込んでた。女神像の前で、叫んでた」
書物で読んだ話で、もう一人の自分と会うことが出来れば、何かが変わるのではないかと願い深い眠りについた。
眠りに落ちながら…神は助けてはくれないと恨んだ。
「でもさ、助けてって祈った所で、無理だろ」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、リュウイチを見る。少し溜息混じりに話を続けた。
「俺はさ、信仰心が強い訳じゃないし、神様の事なんて知らないけど…。お願いするなら、人も神様も、一緒じゃないか?」
「一緒?」
「あぁ、一緒だよ。困った時にばっかり頼って、助けてられて…ありがとうって感謝しなきゃ、次は助けてくれないよな?金品とか物品が欲しいとか、そんなんじゃなくて…感謝の気持ちだよ」
感謝気持ち…考えたこと無かった。思えば、感謝された事した事すらないかもしれない。リュウイチの言って事が、何となくだけど解る気がする。
「唯一、助けてくれたと言えば、もう一度やり直せる時間を貰えた事。黙って何もしなければ、これから起こりうる未来の出来事をまた繰り返す。だからそれを阻止するのが、俺とライトのやるべき事なんじゃね?覚悟決めろよ!」
「うん、過去は変えられないけど、未来は変えられる!」
リュウイチに手を伸ばす。その手をリュウイチはしっかりと固く握り返してくれた。
「ライトの為に出来ること手伝ってやるよ!」
「うん、ありがとう!未来の為にやってやろう!」
もう現実から逃げない。これから訪れる難関に立ち向かおう。そして、あの惨劇が…悲劇が起こらない様に未来を変えよう。それが出来るのは、一度経験した僕だけ。僕にしか出来ない。




