~学習院と修道院~ 前編
呼んでた、僕は彼を。
書物には記されていた。
本来在るべき自分の姿。
信じてなかった。でも、もう頼れるものが無かったから。
「…!」
ひゅっと音が出たか出なかったのかわからないほど小さい音で、女の人の隣にいた男の人の影が消えた。
信じられない光景が目の前に広がり、助けたくても助けられない…。神に救いを求めた…でも、応えてはくれなかった…。薄れて行く意識の中で祈り続けた…。気がついたときには、あの真っ白な空間に…。
「ライト、お願いします…。あの時とは違う時を過ごし、我が主達の為に、そして、救えなかった人々の為に…」
『俺も、なんでこんな事になったのか解らないけど、必要なんだろ?散々説明されたから、少しは理解出来たつもり』
『使い』と呼ばれていた、女の人の声は震えているようだった。そして、消えたと思った男の人の声が、頭の中に響いてくる。それを確認した瞬間、パッと元の場所に戻っていた。
今一度周りを見渡す。そこは見慣れた学び舎の一室。
「ライト、どうした?顔色が良くないぞ?」
ブランドル先生の問いかけにビクッとする。未だに信じがたい出来事だったので、動揺を隠しきれてない。
「いや…大丈夫です。先生達は、ずっとここに居たんですよ…ね?」
僕のその言葉に三人が顔を見合わせる。「何をおかしい事言ってるんだ?」って表情で僕を覗きこんできた。
「す、すいません、何か変な事言って。大丈夫です…。で、お話しって?」
話を逸らしてブランドル先生達から、呼び出された内容を確認しなくては。まぁ、おおよその事は予想がつく。先程、三人が言い争っていた事だろう。学習院か修道院、どちらかに入ってくれと。まさか自分の事ではないと思っていただけに、どんな内容の話になるのかと考えると、自然と身構えてしまう。
「簡単に言いますと、ライト君には学習院か修道院のどちらかに来る気はないですか?」
やっぱり。予想通り。
「学習院に入り、いろいろな項目の勉強をすれば、いずれ城の騎士や文官になれるぞ」
「修道院なら、将来的に聖堂や大聖堂の神官として勤める事ができます。どちらにせよ生活は安定です」
ミューレンさんとブランドル先生が近い!
でも、それは僕が勝手に決められる事じゃない。
「あ、あの、どっちにしろ、僕が勝手に一人で決められる事じゃないので…家族と相談したいんですけど…」
その一言で三人が、僕の事を解放してくれた。でも、相談したところで、家族は理解してくれるのだろうか?もともと、どちらにも行くつもりはないけど、あの出来事から時間が巻き戻されてる感じ。忘れていた事を思い出したけれど、他の人に話してみても誰も信じないと思う。
学び舎から帰る時間になり、知らず知らずのうちにこわばった顔になっていたらしい。
「ライトー、さっきから何を考えてるの?話しかけにくいんだけど…」
恐る恐る覗き込む様にリリが話しかけてきた。
ハッとしてリリの顔を見る。少しばかり困惑した様な表情で僕の方を見ていた。
「あっ、ゴメン。今日、話しされた学習院と修道院の事考えてて…」
「まぁ、突然の事だもん。急に言われても答えなんてでないだろうし。家族が何て言うかだよね」
僕が考えていた事とほぼ同じ事をリリから言われた。そう、そこだよね一番の問題点は。家族との話し合いだよ。…ん?ちょっと待て、一体僕はどんな流れで、あの場所に居たのだろうか?凄惨な光景の中で自分も意識を無くし、子供の姿に戻り名前は知らないが、もう一人の僕だと言う人物(?)と接触し、神の使いと呼ばれてた女性らしき人物(?)に大体の経緯を説明されたが、断片的にしか思い出せない部分がある。
「リリはどう思う?学習院か修道院に行くこと」
「どうって聞かれても…ん~、ライトと会えなくなるのは寂しいかなぁ…毎日、一緒に学び舎に行ったり帰ったりしてるのに、それが急になくなるわけだから…」
リリは少し寂しそうな表情で俯く。そうだよ僕の事なのに、聞かれても困るのは確かだ。せめて、もう一度接触出来ないかな話し合いするまでに…。
それから「また、明日。話し合い頑張って」と言われリリと別れた。
自宅に向かっているのに、なかなか足が進まない。何を言えばいいのか、何て言えばいいのか、僕は未だに話し出すキッカケを見つけられないまま自宅のドアを開けた。
「ただいま…」
『ただいまじゃない。ったく、ライト君って奴は』
「うわっ!?」
まただ。いや、願ってた通り!少し話し合いに役立つ事聞ければ、それでいい。
「僕は何て言えばいい?」
『何てって…俺はこの世界の事は全然知らないけど…スカウトされたって言えばいいんじゃね?』
ん?、なんだ「スカウト」って。
『あぁ、勧誘されたって言えば?それとも、俺が話してやろうか?』
「どういう事?」
『いや、ライト少し休憩だ』
そう言われた瞬間に意識を失った。




