~接触~
『やり直す』
その一言を思い出してから、僕はなんとなく気持ちが落ち着かないまま、一月ほどの時間がすぎた。
あれから、特に変わった事もなく、ただの思い違いとか、気にしすぎとかと考え始めて、またもあの出来事を忘れそうな感じだった。
いつもの様に、姉のミラと一緒に学び舎に向かってた。
「でもさぁ、本当にどうしちゃったの?学び舎で、居残り無しで帰る事が当たり前になっちゃって、私もびっくりだよ」
「そう言われてもなぁ、自分でもわからないよ。」
あんまり僕には干渉してこないミラですら、なんか気にしてるみたい。まぁ、学び舎に行く度に居残りしてたわけで…それがこの一月で「別人になったみたいだね」なんて言われる様になって。
「悪い事じゃないからいいんだけどさぁ。何があったのかなぁなんて気になってくるわけさ」
「やればできるんだよ、僕だって」
いやいや、なんて言っていいのかわからないから。逆に僕の方こそ教えて欲しいです。
一番疑問なのは僕自身なんだから。
途中でミラと別れ、通りを進むとリリに出くわした。リリも僕に気付いたようで手を振ってくる。
「おはようライト」
「おはよう。一緒に行こうよ」
まぁ、普通に他愛もない話をしながら歩き、いつの間にか学び舎に到着。見慣れない大人が数人いる。
「なんだろうね?違う学び舎の先生かな?」
不安そうな表情で、僕の方に視線を向けるリリ。
「なんだろうね?まあ、たいしたことないでしょ?フォスター先生が休みなのかも知れないし」
あまりフォスター先生が休む事は考えられないけど、それくらいしか考えられない。
「彼は学習院に通うべきです!」
「いやいや、修道院に入り、いずれは聖堂に勤める様育てた方がいいですわ!」
「本人の意思を確認しましょう!」
「じゃ、本人が来るのを待つか…」
何か揉めてるのか、三人は言い争ってる感じで話してるが、一旦部屋の片隅にある椅子に座り黙り込んだ。
「なんだろうね?ライト…。フォスター先生が来ればわかるかな?」
「多分、先生が来ればわかると思うけど。なんか見慣れない人が居ると落ち着かないね」
変な空気が、学び舎の部屋の中を染めていく。その為か、他の友達にも妙な緊張をしているみたい。重苦しい空気の漂う所に、いつもの様な満面の笑みで、フォスター先生がやって来た。
「みんなおはよう!今日も…」
いつもの笑顔、いつもの挨拶って感じだったけど、部屋の端っこに座る三人を見て、挨拶が途中で終わり、少し呆れた顔で話しかけた。
「何かしてるの?三人で。授業の邪魔になりますけど」
その声に三人はフォスター先生に目を向けた。
「いや、フォスターが言ってた、この一ヶ月成績が良い子と話をしに来たんだが…」
「そうですわ、今後の事につながりますから、今のうちに決めておかなければ…です」
…今後の事?まぁ、僕じゃないだろうけど…嫌な予感がするのは気のせいかな?
フォスター先生の視線は僕の方に向いているが、言い争ってる三人はその話題になってると思われる人物をさがしている。
「先生~、失礼ですけどこの人たちは?」
この微妙な空気の中、声を出したのはリリだった。
ハッとした様な反応を見せ、既に席に着いている僕たちの方に振り返る。
「あぁ~ごめんなさいね。こちらの三人は私の友人なの」
ただの『友人』じゃないでしょ。間違いなく。今まで来たことないし。
「学習院のブランドル先生。修道士のミューレン。聖堂神官のメルリです」
フォスター先生に紹介され改めて、三人の事を確認する。
ブランドル先生は、黒の短髪で割りとがっちりした体つき。教師よりも騎士か兵士の方が似合っているかも。
金色の腰まである長髪で優しそうな目で、修道士の衣なのか神様に仕えてますって綺麗な感じのミューレンさんとメルリさん。
「ミューレンさんとメルリさんって…」
『双子ですわ』
声が揃った。
ぼそっと呟いた僕に二人揃って返答。どっちかわからなくなりそうな程そっくり。身近に双子の友達や知り合いが居ないから、こんなにもそっくりなのかと見比べてしまった。
「ところでフォスター、お話ししてた子はどの子ですか?」
「目の前いるじゃない?ね、ライト」
その瞬間三人の視線が僕に向けられた。
「おぉ、そうか君か!ずいぶん成績が良くなったって、フォスターからきいてるぞ!」
がっと両肩をブランドル先生に掴まれガクガクと揺らされる。
「あ…いや…。そうだけど…」
恨むよフォスター先生。
「ライト君ですね?ちょっと、私達とお話ししましょう?」
「フォスター、隣のお部屋をお借りしますね」
「…あぁ、うん使って」
フォスター先生は僕に『ゴメン』って合図してるのは視界に入ってきた。
三人に連れられて隣の部屋に入った時だった。いや、正確には部屋に入る直前かな。
目の前が真っ白な光の様なもので包み込まれた。
「ここって…!」
さっきまで近くにいたブランドル先生達が居ない。
前も後ろも右も左も上も下も…あの時見たこと夢と同じ空間。ゆめ違うのは、頬に感じる空気が冷たく感じる。
「ブランドル先生!?ミューレンさん!?メルリさん!?近くにいますか!?」
声をかけても返ってくることはなかった。ただ、僕の声がその空間に吸い込まれて消えた。
「お忘れですか?ライト」
「ったく、あんたがちゃんと説明しないからじゃないの?こんなちっこい奴でも解るように話さなきゃ」
どこからか、人の声が聞こえる。何か話しているみたいだけど。女の人と男の人かな?
「あの、ここは…僕、夢で見た事あるんです、この場所…」
「私がお呼びしてます。本来の自分に目覚めてもらうために…」
恐る恐る話しかけたら、女の人の声で返ってきた。でも、何処にいて何処から聞こえるのかわからない。
暑くも寒くもない真っ白な部屋(?)の中に自分しか居ないのに、何処かに誰かが居るような雰囲気を感じて、周りを見渡すけど、その人っぽい姿が見えなくて、少し不安になってきた。
「な、なんですか本来の僕って…」
「やっぱり…。おい、使い!ほんとにちゃんと説明したの?これじゃ、俺、死んだ意味ないよねぇ」
えっ、今『俺死んだ』って言ったような…僕は自分のおでこから、すぅっと流れる汗を感じた。ここって、死んだ人が来る所なのかな!?
「ライト。彼がここに居る理由、そしてあなたがここに居る理由…知ってるはずです」
「そう言われ…うぅ…!」
何か今まで見たことあるような、見たこと無いような風景が、頭痛と一緒に頭の中をグルグルする。
目が廻った様な感じで、気持ちが悪くなり僕はその場に吐いてしまった。
でも、あの時…、僕は…、
ハッとして顔をあげると、そこには声の人と思う女の人がたっている。
「思い出しました?あなたが、呼んだんです…彼を」
長い金色に輝く髪、真っ白な衣を着て、髪の色と同じ金色の瞳の女の人が、声を掛けてくる。
「お前が思い出さないと、俺はお前の中に入れないらしい」
「思い出したよ。あの時、僕はあそこにいた。やり直しだって聞こえてた。何かの書物で読んだんだ。裏の世界にもう一人の自分が居るって…。」
そう、読んだんだ。みんなを…目の前で命が消えていく、街のみんなを救いたくて…。半信半疑であの時呼んだ…もう一人の自分を…。




