~予感~
「ふぁ~…何か変な夢見たなぁ」
窓から入ってくるお日さまが眩しくて、僕は目が覚めた。でも、なんだったんだろうあの変な夢。
夢だから気にすることもないって思いながらもまだ、ベッドの上にいる。
「ちょっと、ライト!起きたなら、早く朝ごはん食べてちょうだい。母さんだってお仕事あるからのんびりしてられないの!」
ベッドで、モゴモゴしてる事に気づかれたらしくて炊事場の方から母さんの声が飛んできた。
「はーい、今行く」
寝室から、出ていくと朝ごはんを食べている姉のミラが、モグモグしながら僕の方を見てる。
「相変わらず起きるの遅いね」
「なんだよミラ、起こしてくれてもいいんじゃない?」
僕は、目一杯文句つけたつもりだけど、ミラは起きれないのが悪いって感じの表情だ。
「ミラ途中まで一緒に行こうよ?」
「いいよ!」
ミラは三年間の学び舎での勉強が終わり、今は機織りの見習いに行っている。まぁ、そのまま機織りの工房に勤める様になるんだろうけど。
「ねぇ、ミラ。なんか変な夢見たんだよね」
「どんな?」
今朝の夢の話をふってみた。あまり関心を持つような事はなさそう。そんな顔してるもん。
「なんかさぁ、…あれ?なんだっけ?さっきまで覚えてたのに、忘れちゃった」
「結局忘れたんだ。まぁいいや、早く食べて行くよ」
どうしてだろ?ミラに話そうとしたときまでは覚えてたのに。あんなにはっきり覚えてたのに…。
なんだっけ?と考えながら、ミラと出発する。途中、「まだ思い出せないの?」なんて言われたけど、思い出せないものは思い出せない。
「うーん、どんなだったかなぁ…誰かと喋ってる様な…感じだったかなぁ」
「ライトはあんまり物忘れしないのに珍しい事もあるね」
ミラの言う通り、僕は出来事や約束なんかは忘れたことはない。
霧がかかったように、ボヤけているような感覚で、思い出せそうな思い出せなそうな…
「帰りまで思い出すかも」
「別に、すごい聞きたい訳じゃないから、無理して思い出さなくていいよ。それより、ちゃんと字の書き取りや、計算の練習してこなきゃだめなんだからね?」
勉強したくないから、夢の事考えようって思ってたら、「そんな事よりも勉強だよ」って、母さんみたいな言葉を出した。
気にはなるけど、いつまでも考えていても仕方ない。とりあえず、午前中の学び舎をなんとか頑張ろう。そうしたらキレイさっぱり忘れられる…はず。
「ライト、今日の帰りは父さんが迎えに行くって言ってたよ。早番だから、お昼には終わるって」
「あっ、そうなんだ。別に迎えに来なくてもいいんだけどね」
父さんの仕事場は、人の出入りを管理する関所。商人やら旅人やらとにかく、人の行き来の確認等々色々忙しいみたいだけど。
「よう、ライトとミラじゃないか?」
後ろから声を掛けてくる男の子はグラム。僕の一つ年上でミラと同い年。
「グラムおはよう!グラムも今日お仕事?」
「あぁ、今日は親方や先輩達と森に行って、木を切るんだってよ。運ぶのに手伝えって言われたからな」
同い年だからなのか、ミラとグラムは仲がいいみたい。ミラは僕のお姉ちゃんだって言ってやりたい。
「なんかライトいつもと違う感じだな」
「いつもと一緒だよ。じゃ、ミラ行ってくるね」
「うん、頑張って。ライトももう少しで学び舎終わるんだから」
そう言って、ミラとグラムに手を振り別れた。でも、いつもと違うってなんだろ?ミラは何も言ってないし、自分でもどこか変わったような感じはないんだけど。
ミラ達と別れてしばらくすると、学び舎に着いた。この学び舎はほんとに基本の文字や、簡単な計算を学ぶ所で、近い将来仕事をする上で困らない様にするためにあるらしい。
成績が優秀だったりすると、もっと詳しく勉強する学習院や、お祈りする修道院に入ったりするみたいだけど、全くもって僕には次元が違うから、関係ない事だけどね。
「おはようライト!やっと来たね」
「おはようリリ」
学び舎から近い所に住んでるリリが迎えてくれた。母さん同士が友達だから、気付いた時にはミラと同じくらい一緒に居ることが多いんだよね。
そんなに広くない部屋入り、僕とリリを含めた十人が先生が来るのを待ってる。
「ねぇ、ライト。今日、計算の問題あるんだって。私得意じゃないから、心配なんだよね、ちゃんと答えられるか…」
「リリの方が、僕より出来るから大丈夫だよ。僕の方が心配だよ」
リリも計算が苦手みたい。それがわかっただけでも少し楽になった。でも、計算の問題かぁ、一昨日は何も言ってなかったのに。
「おはよう、みんな」
「おはようございます」
フォスター先生だ。
学び舎は、町のあちこちにある。そして、先生達もその数だけいるけど、同じ学び舎でずっと教えるって事は珍しい。
定期的に、先生が入れ替わるけどフォスター先生だけは、僕やリリがいるこの学び舎から離れたことがない。
「はい、今日は計算の問題をやるわよ!今までの教わった事覚えていれば、簡単に出来るから」
なんか、張り切ってるなぁ。実際教わった事って…数字足したり引いたりだけだった様な。
「問題を読むから、自分の石板に書いて解くの。わかった?」
「はーい」
その返事を聞いた後、先生が問題を読んでいく。
僕らは次々と読まれる計算問題をコツコツと音をたてながら石板に書き込む。全て書いた時には二十問くらいになってた。
「書き終わったら、計算してね。終わった人から先生に見せて」
そう言うと、パンっと手を叩く。それが合図だったらしい。
苦手な気分で、最後まで居残りを覚悟して石板の問題に目を向けると…
「えっと…ん?」
「どうしたのライト?」
そのちょっとした異変にリリが気付いた。
「あっ、いや、気にしないで…」
「はい、ライトー、早くやりなさいよ」
隣でリリが、ごめんって手を合わせてる。まぁ、いいよ、どうせ居残りだから。
「はいはいやりますよ。」
僕は改めて、書き写した問題に目を通した。
「やっぱり計算は…あれ?」
自分でもよくわからない。計算問題がじゃなくて、前もって答えが解ってる様にスラスラ解ける。
その瞬間何かが聞こえた。
『この…てい…だい…ねぇ…のかよ』
はっきりとはわからない。
先生に気付かれない様に周りを見渡したけど、他の人には聞こえてないみたい。
その声らしいものは一回きりだったけど、確かに誰か話してた。
なんだろう、今朝の夢の事もさっきの声も…そう考えてた。
「どうしたのライト?少し怖い顔になってるよ?」
帰る準備をしていたリリが、僕の顔を覗き込んで話しかける。
なんて言おうか?
「ん?うん、ちょっと考え事。気にしないで」
「考えすぎは良くないよ?私で良ければ相談のるよ?」
そうは言ってもなかなか言いづらいし、信じてもらえなそうだし。
「ライトー、まだ帰らないならちょっと」
急に先生に呼ばれた。嫌な予感がする。
一人で行くのが嫌だったから、リリの手を引いて一緒に行く。
なんとなく先生の顔がいつになく明るい感じだ。
「どうしたの?珍しく今日は居残り無しで終わったね?家帰ってから、勉強でもしてた?」
「いや、何もしてないよ?」
珍しい事もあるもんだみたいな言い方された。まぁ、それもそうだろう、学び舎来たら居残り無しで帰る方が少ないから。
「ライトだって、居残りしたくてしてるわけじゃないよ先生?」
「それはわかるけどね。あんまりにも今日は出来すぎだったから」
「偶然だよ」
リリがカバーしてくれるけど、僕は偶然としか言えない。
しばらくして父さんが迎えにきた。
「おじさんこんにちは!今日はライト頑張ったんだよ!」
「リリ余計事言うなよ~」
「ほぅ、ライトがねぇ。帰りながら聞こうか?」
今日あった事をリリが事細かく父さんに話す。父さんはその話を聞いて目を丸くする。
「だから、今日は居残りしなかったんだな。本当にそんな珍しい事もあるんだな。母さんにも教えないとな」
「ライトはやればできるんだよね?」
「もうやめてよ。本当に偶然なんだから。大騒ぎする様な事でもないよ」
本当はそうじゃない、あのとき誰かが喋ってたんだ。問題を見たときには、勝手に手が動いて答えを書いていた。
そう言っても誰も信じないだろうけど。何がどうなってる?自分自身が一番疑問に思ってるんだから。
気のせいだったらいいんだけど…。
「…ライト!聞いてる?何考えてるのよ?」
「あっ、ごめん。ちょっと考え事」
また?そう言いたげな顔でリリが睨んでくる。父さんも不思議そうな表情だ。
少しほっといて欲しいんだけどなぁ。
「じゃあね、あんまり考え事ばっかりしちゃダメだよ?」
「わかってるよ。リリ明日は一緒に行こうよ」
学び舎に一緒に行く事を約束して別れる。路地一本違うだけだから、リリの家と僕の家は結構近い。
家に着いた瞬間に、父さんはリリから聞いた話を母さんに言い出した。なんでそんなに話を広げて大騒ぎするかなぁ。とんでもない事件みたいになってるよ。
「それは大変だわ。勉強嫌いのライトがねぇ。ちゃんと聞いてればできるんだよ」
「ミラ、父さんと母さんなんとかならないの?」
「無理。ライトにはあり得ない事だもん」
いい加減にして欲しいと思いながら、さっさと部屋に退散する。
少し放置すれば、おとなしくなるだろうから、落ち着いたら夕飯の準備なりのお手伝いをしよう。
ベッドの上でゴロゴロしてるうちに眠くなってきた。少しお昼寝しよう。
そう思った時には、寝ていたらしい。そしてまた夢をみた。
真っ白な空間に僕だけが一人。自分以外の人の気配も感じない。
『ライト…は…君…だ。…したら…はっきり…わか…何か…う…事が』
はっきりと聞き取れないけど、間違いなく誰かが話し掛けてくる。
「誰?ちゃんと聞こえないよ!」
もっと聞こえる様にって逆に声をかけるけど、反応がない。
返答があるかもって少し待っていたけど、やっぱり何も反応無し。
さすがに溜め息も出る。
「今日、話し掛けて来たのも君?」
ふと、昼間の事を思いだし質問してみた。
『ライト…見て…ある…これ…俺…ならない…ある』
微かに聞こえた声。その瞬間目の前に見覚えのある、光景が広がった。今朝の夢と同じ様なもの。
聖堂や教会、または神殿の様な所で僕よりも年上のお兄さんが泣きながら叫んでいるものだった。周りには人が倒れているのがわかる。とても夢と思うには現実的。
『なぜ神々は我々人間を助けて…』
その言葉を聞いたとき、ハッとした。
全部ではないけど、思い出した夢の中での出来事。
『やり直し』だ…
その事を思い出したと同時に目の前に広がる光景がすぅっと消えた。
「何をやり直すんだ?」
汗で背中がベトベトになりながら、目が覚めた。思ったよりお昼寝してなかった様だ。
お昼寝したような気もしないし夢だったのかそれとも現実だったのか…。何かおかしい。僕のまわりで、僕の中で何かが起きようとしている事は確実だと感じる。
…いや、実はもう何かが起きているのかも知れない。自分でも気付いてないだけで。
『やり直す』
その一言だけ思い出したところで、見当が付かない。
一体何が起きるのか、起きているのか僕は不安になりながらその後、一月ほどの時間が過ぎていった。




