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新しい自分がやるべき事  作者: かもめ
第三十一章
36/37

~解決~前編

 やっぱり何回来ても、城と言うところは慣れない。周りの皆は「慣れ」だと言うが、俺はいつまでも慣れない。

 メルリに連れられ、俺はシャレンの所に来ていた。

 内容を聞いたシャレンの表情は、明らかに険しいものとなっていて、言わずとも「どうしようものか」と語っているかの様だった。

「それで、ライトの言う通り、本来使われるべき神曲の形に戻すにはどうしたら良いのだ?」

「恐らく、譜面の原本は何処かに保管されていると思います。災害などで紛失してしまったら、それこそ大変な事になりますから。その保管されている原本を見付け出す事が最優先かと」

「了解した。メルリより前の聖堂長ならびにレンフィールより前の聖堂楽師にも、本件についての調書をとろう。これが他領に知れ渡る事が無い様にしなくては。恥と汚点として晒されてしまう」

 予想通り、メルリやレンフィールが問い責められる事は無かった。順当に考えても、この件に関して二人を責めた所で何も解決しないし、若い二人が引き継いでいるのだから、それ以前の事となるし。

「メルリ、お主に責任を課せると言っても難しい問題だ。長として、聖堂に就く以前からの問題なのだからな。それをちょっとした事で、異変に感じたライトは実に素晴らしいと思う。もちろん、そのライトを見出だしたお主等もだ。聖堂としてあるべき姿、形に戻す様、全力でライトに協力、援護する様に」

「かしこまりましたお父様」

 こうしてある程度の報告を済ませ、俺とメルリはシャレンとの面会を終わらせた。その後、先日図書館への入室許可をレンフィールが取っていてくれたため、調査に向かう。

「ライトには本当に色々やってもらって…」

「ん?あぁ、僕は大丈夫。何とも思ってないから」

 図書館に向かう道中、ぼそっとメルリが呟いた。それに、この件に関してはほとんどの割合で、俺自身の趣味みたいなものだし。どんなジャンルだと言っても、音楽に関することは手を抜きたくない。ただ、それだけ。

「まさか、こんなにも負担になることが発生するとはね…。考えてもいなかったわ」

「気にしないでよ。それに、このあとだって聖堂の仕事あるでしょ?ここは任せてくれていいから、戻ってもいいよ?」

「でも…」

「レンフィールもいるはずだから大丈夫だってば」

 このくらいの時間であれば、レンフィールも聖堂にはまだ行ってないだろう。それなら手伝ってくれる。

「図書館にだけ送って?場所わからないから」

「うん、分かったわ。こっちの調査は任せる。せめてベルサリオくらい呼ぼうか?」

「いや、彼には聖堂の書庫を引き続き調べてもらうから」

 そんな話をしているうちに、図書館に到着した。

 ここでメルリと別れ、伝達魔術でレンフィールを呼び出す。やはり、まだ聖堂に行く時間ではなかったらしく、さほど待つこともなく彼女が来た。

「お待たせしてしまいましたね」

「全然待ってないよ。手伝ってもらえる?」

「ライトの頼みは断れません」


 城の図書館は聖堂の書庫に比べたら、少なくても倍はある。いや、倍では利かないだろう。聖堂の書庫でも結構な数が貯蔵されている。なかなか厄介だな。

「多いね…」

「ある程度、分類されていますから、聖堂や神曲に関する書物が、納められている所を探せば良いと思いますよ?」

 分類されているなら、まだいいか。モチベーションが駄々下がりするところだった。

「あら、レンフィール様、図書館に来られるとは珍しいですね」

「ライトの調べもののお手伝いです」

 レンフィールに声を掛けて来たのは、相当品の良さそうな男性。図書館を任せられている人物だろうか?

「ライト…様?…あぁ、レンフィール様のご婚約者様ですね。お話は伺っております。城の外では他言無用だとシャレン様やヴェイル様に申し付けられていますから、ご安心ください。遅くなりました、私司書のクロイツァーと申します」

「ライトです。よろしくお願いいたします」

 黒髪のボブと言ったところか?大人しそうで柔らかい笑顔が特徴的。年齢不詳な見た目。特に害はなさそうだ。

 そんな彼に連れられ、向かった先は出入口から見たら割りと奥の棚列。三段の棚が壁際にずらりと並んでいる。

「この壁際の棚が、聖堂や祭事、神事に関わる書物になります」

「…多い…な」

 これは何日掛かるかわからん。まして、休暇の時にしか来れないとなれば、下手すると年単位の作業になってしまいそう。せめて、ここから更に細分化されてれば良いのだけれど…。

「クロイツァー様、これは…ここから更に分類されているのでしょうか?」

「と言いますと?」

 質問が通じなかったのか、質問を質問で返されてしまった。仕方ないので、身振り手振りしてみた。

「例えば、ここからここまでが祭事関連、ここからここまでが神曲関連みたいに…」

「あぁ、そういう事ですか?それなら、棚二つで分けられておりますよ。向かって左側から聖堂の歴史、祭事、楽曲と言ったように分けられております」

 よく見ると、三段の棚が複数並べてあり、それが二つ分で内容事別になっているそうだ。これなら、何か一冊目を通せばどんな書物が収まっている棚なのか把握出来る。棚毎に見出しを付ければ、利用する人も楽なのにと感じるが、実際図書館を利用する人が少なければ、必要性も感じないのだろう。

「わかりました、ありがとうございます。寮に戻るギリギリの時間まで利用させてもらいます」

「かしこまりました。ごゆっくりなさってください」

 その一言を最後にクロイツァーはその場を去って行った。


「結構な数ありますね」

「確かに…」

 俺とレンフィールはあまりの数の多さに圧倒されていた。これを二人で調査するのかと考えると、気が滅入る。少しずつレンフィールと共にする時間が増えてきたせいか、考えている事も言葉に出さなくてもわかるようになってきた。表情を見ただけで明らかに具合が悪そうだ。

「楽器ならいくらでもいいですけど…」

「みな言わなくても、言いたい事はわかるよ」

「仕方ありませんね。これも領土のためですからね」

 二人でグッタリしながら、重い足を本棚に向ける。いくら量が多くても、棚一つずつ二人で調べれば、十日もあれば終わるだろう。ただ、俺もレンフィールもこれにだけ時間を費やしてはいられない。効率も考えよう。

「この棚から調べよう」


「あぁ、つかれた~」

 レンフィールと二人で夢中になっていたところ、メルリより伝達魔術にて、「今日は終わりにしなさい」と伝えられた。レンフィールも、聖堂に行かなくてはならないことを忘れてしまったらしく、軽くメルリから怒られしょんぼりしていた。

 それらしい書物を十冊程持ち出し許可を取り、自室で読むことになる。それに加え、ベルサリオが聖堂から持ち込んで来た書物もある。手分けして…と言ってしまった皺寄せがここに集まってくるとは…。

「ライト様、今日はちゃんと寝室でお休みになってください。それに明日は学習院もございます。寝不足だなんて言えませんから」

「わかってます…。アイリスは厳しいな」

 夕べの事を話に出されたら、反論出来なくなる。学習院終了後、聖堂に行かなくてはならなくなったが、調査する時間に変えてもらおう。それでなければ、いくら時間を作っても足りない。

 夕食後、寝室に三冊だけ持ち込み、寝るギリギリまで読んだがこれといって目ぼしい情報はなかった。


「おはようございます、ライト様」

 今日からまた学習院が再開する。はっきり言って休んでない。でも、疲れているような姿は見せられない。今週も頑張ろう。

「おはようございますセルジュ。ベルサリオは?」

「ベルサリオ様は…体調が芳しくないご様子で、まだ休まれております」

「どうしたのですか!?」

 慌てて着替えを済ませ、ベルサリオの様子を見に行く。

 彼はベッドの上で、静かに寝息を立てていた。休んでいるところを、わざわざ起こす必要もない。

 静かに退室するよう、手で合図をセルジュに送り退散。体調が悪くなるくらい休んでなかったとすれば、俺の指示の出し方が悪かったとしか言えない。ベルサリオには申し訳ないが、もう少し従者達の事を考えてやらなくては…。


「おはようございますライト様。浮かない顔ですね?」

「おはようございますアイリス。えぇ、ベルサリオに申し訳ないと思って…。皆も休みをとって構いませんから」

「ライト様が学習院に行っている頃、私達は休憩させて頂いてますから」

 ニコニコと返されるが、休暇と休憩では大きな違いがある。一日ゆっくり休んだだけでも、体も心もリフレッシュ出来るのだから。

「ライト様、ベルサリオは寝不足なだけですよ?」

 そこに準備を終えたフォスターが加わる。寝不足?夜更かし?

「ライト様だけに、ご負担を掛けられない。私は秘書ですから!って夜遅くまで書物を調べていたようです」

 …!?知らない所でベルサリオも、内容を調べてくれていたなんて。そこまでやってほしいって指示は出してないんだけど、彼なりの心遣いなんだと、感謝するしかない。

「そうだったんですね…。今日はベルサリオには休暇をとってもらいましょう。セルジュ伝えておいてくださいね?」

「かしこまりました」

「皆も、気を使わないで休憩をとってください。休憩と休暇では全然意味合いが違いますから」

 そう言い残しフォスターと共に学習院へ向かった。


 学習院では、パルノエルスに再び「忙しそうですね」と皮肉混じりの言葉を貰い、笑顔で対応したくらいで別段これといって何事もなく一日が過ぎて行った。

「そう言えば、メルリ様よりお父様とお祖父様がお呼ばれされたのですが、私も同行した方が良いのでしょうか?」

 選択講義を終え、帰り支度をしている途中に、声を掛けられた。恐らく、メルリを通してシャレンからの通達だろう。前聖堂学師までの者に、譜面について調書を取ると言っていた。

「パルノエルスさんは、同行しなくて大丈夫だと思いますよ?僕からは言えないですけど…」

 俺の言葉に怪訝そうな表情を見せるが、結構大事になりそうな事を、俺から話す訳にはいかない。それに、家庭内で何故呼ばれたのか話題になって、寮にいるパルノエルスにも自然と便りが届くだろう。

「そうですか…。後日お父様に、もうかがってみますね」

「はい、それでは…聖堂に向かわなくてはならないので、失礼します」

「また明日、ごきげんよう」

 ささっと帰り支度を済ませ、フォスターと共に音楽講義室を後にした。

 本当ならこのまま、聖堂ではなく城の図書館に行きたい所だが、夕べベルサリオが調べてくれた内容を確認したい。調べなくてはならない書物を一気に集めても、内容確認するだけでも膨大な時間が掛かりそうだ。同じ時間が掛かるなら、必要がなくなった物から、片付けしながら作業した方が、効率も良いだろう。

「じゃぁ、今日は図書館には行かないと言うことで、よろしいのですか?」

「どれくらいの書物をベルサリオが用意したかによっても、身動き取れなくなる可能性もありますので、状況によりますね」

 この後の段取りをフォスターと進めながら、騎士のふたりに誘導され自室に戻った。


「ライト様!今朝は申し訳ありませんでした!」

 部屋に入るや否やベルサリオが血相を変えて駆け寄ってきた。

「なんの事でしょう?」

「秘書として、学習院以外では傍にお付きしていなくてはならぬ立場にありながら、自分自身の管理も…!」

「ベルサリオ、僕はここにいる皆に、無理して欲しいとは言っていません。それに、調べものを手伝ってくれていたと、フォスター先生から伺っております」

「ですが…!」

 それ以上のやり取りは必要無いと思ったのか、フォスターが静止してくれた。戸惑いの表情だったが、それ以上絡んで来る事はなかった。


「この三冊を調べてくれたんですね?」

「はい、それらしい部分が記載されていた、頁を印しておきました」

 ベルサリオが言う通り栞の様に、紙が挟んである。彼は出来る子ちゃんだから、俺が探している情報は言わずとも感じてくれているはず。

 その三冊…マーキングしてある部分に目を通すと、最もと言ってもおかしくないくらいの、重要な情報が書いてあった。書物自体、なかなかの古さなので、所々文字が掠れてはいるものの、ある程度内容を理解するには十分だった。

 一つ目、オルガーの弾き方

 二つ目、譜面の原本及び複製について

 こんな短期間でここまでの事にたどり着くとは…ベルサリオに感謝しなくては。

「オルガーについて…譜面について…ベルサリオ!この二つはかなり重要ですよ!よく見つけてくれましたね!ありがとうございます!」

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