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新しい自分がやるべき事  作者: かもめ
第三十章
35/37

~調査~

「神曲が違うってどういう事よ!?」

「いやいや、レンフィールから渡された譜面が半端だと言っただけで、違うとは言ってないよ?少なくても二種類以上の楽器が必要なのではないかと思うんだけど…」

 聖堂へ戻り、一応聖堂長であるメルリに報告をした。が、やはり、知らなかった様でこの有り様だ。

 最重要事項の報告として、全員が部屋から追い出された。後にミューレンも駆け付けるとの事で、今はメルリとツーマンセル。突然の事に彼女も取り乱している。

「どうしたら言い訳?」

「聖堂に纏わる書物、神曲に纏わる書物、そして楽器に纏わる書物…これらを徹底的に調査しなきゃだね。で、この書物達が何処に眠っているのか…それが一番の問題」

「城の図書館と、聖堂の書物庫のどちらかしか無いと思うけど…」

 信仰心が強いこの街…この世界なら確かにその街の中枢になる所に保管されていても不思議では無い。

 調べる事は三つあるが、いずれもほぼ共通していると思われる内容だけに、城か聖堂のどちらに書物があるのかだけ判れば、然程苦労はしないだろう。

「今日はもう無理だし、明日からも普通に学習院にも行かなくちゃならないから、次の休暇にベルサリオにも手伝って貰って調べるよ。一日で結果が出るとは思わないけど…。実家にも次の休暇は帰れないと伝えておかなくちゃ…」

「そうね…私から使いを出しておくわ」

「ちょっと、神曲の問題って…!?」

 ある程度段取りが決まった所にミューレンが、飛び込んで来た。

 これまでの内容と問題点を伝えるが、ミューレンも腑に落ちないと言うような顔をする。

「大体の内容は把握出来たけど…いつからこんな事になったのかも調べなきゃならないと思うんだけど…。正規の曲にする事が、優先になるけど、お姉様と私は何処で変わってしまったのかを調べましょ?」

「わかったわ、全部ライトに任せるのはあまりにも負担過ぎるからね。私達で出来る事は私達で進めましょう」

 こうして次の休暇から調査が開始されることになった。それと同時に帰宅出来なくなった、と、いうオマケ付きだ。元々レンフィールと婚約関係になった以上、帰宅出来る機会は少なくなると、両親はシャレンから言われていた様な気がする。


 今晩は寮にレンフィールが泊まると言い始めたので、ついでだから今後の段取りを話しておくことにした。少なからず、レンフィールやフォスターにはお手伝いしたもらうことになる。何も説明してないより良いだろ。

「…と、言うわけです」

「なるほど…レンフィールとライト様が神曲について、メルリ様達はどう言った経緯で現状に至ったのか調べると」

「では、私も必要となりますか?」

「もちろん、ベルサリオにも手伝ってもらうことになるかもしれませんので、そのつもりでいてください」

「私はライトと一緒なら何も文句は無いですよ」

 …。最後のレンフィールの一言は皆スルーしたが、俺の説明にフォスターもベルサリオも納得し協力を得ることが出来た。

 俺は、聖堂や神曲と呼ばれる祈祷の唄に関しては全くの無知。下町出身でありながら、まして、ひょんな事からこの世界に新しく生を受けた。時代どころか、文化も暮らしも今までの環境では無くなったのだから、歴史的な部分を調べるのにも無理。ただ、音楽、楽器に関してならいくらでも労力を注ぐ事はできる。

「ですが、最優先は学習院となります。トンプソン先生との約束ですから」

「学業が本業ですからね」

 全てにおいて、手分けする段取りを終えた。

 明日からベルサリオは、メルリに許可を取り、聖堂の書物庫を調べると言っていたので、俺とフォスターも学習院終了後、合流すると伝えた。レンフィールは、学習院が終わる頃に祈祷があるので、祈祷後に城の図書館への入室許可を取りに出向いてくれると言う。

 表沙汰には出来ない、大事件の調査がこうして始まりを迎える。


「では、今日の講義はここまでです。休暇明けに試験を行いますので、各自今日までの講義内容を練習して、全員一発で合格出来るよう努めてください」

 今週最後の講義が終わると同時に、慌ただしくフォスターが声を掛けてくる。

「では、参りましょう」

「そうですね。せめて、パルノエルスさんにご挨拶だけでも…」

 後片付けをして、帰る準備を進めているパルノエルスに、「来週もよろしく」程度の挨拶をしようと足を向ける。

 パルノエルスもやはり、楽師の家系だけあって音楽は相当好きらしく、ここ数日は充実した顔で過ごしていた。

「パルノエルスさん、来週もよろしくお願いします」

「今週はお忙しいみたいですね?明日の休暇はゆっくりお休みできるのですか?」

「えぇ、まぁ、そこそこに。ですかね?ご存じだと思いますが、聖堂長が保護者代理ですから、聖堂のお手伝いもしなくてはなりませんので、皆さんの様にはゆっくりしてませんが、個人的には充実した毎日ですよ」

「お体にはおきを付けてくださいね?では、休暇明けにお会いしましょう」

 他人の俺にも気を使ってくれるとは、優しい人だパルノエルスは。

 挨拶を交わし、さっさと俺も帰る身支度をする。フォスターにも手伝ってもらい手早く終えると、そそくさと音楽講義室を後にした。


 少しの時間も無駄にしたくないので、寮にの入り口までアイリスに来てもらい、手荷物を部屋まで運んでもらい、そのまま聖堂へと向かう。

「アイリス、申し訳無いですが、よろしくお願いします」

「謝る必要なんてありません。それが私達の仕事ですからね。ライト様もお気を付けて。夕食の支度を済ませてお待ちしております」

「では、参りましょう」


 聖堂では、ベルサリオが俺の到着を今か今かと待っていたらしい。書物庫で資料を探してるはずだが、どうしたものか?

「どうしたのです?」

「お恥ずかしい事に、私の魔力量では鍵が開けられないのです。折角メルリ様よりお預かりしたのですが…。そんな事、メルリ様にも言えず、ライト様をお待ちしておりました」

 はぁ、なんとも言い難い理由から、「何をやっているんだ」とは怒れない。だって、ほとんどの事に魔力がなんたらかんたらって言われたら、個人差の関係上仕方ない。

「そうでしたか。仕方ありませんね。魔力を通して鍵を回せば良いのでしょう?」

「はい…お願いいたします」

 ベルサリオから鍵を受け取り、書物庫へ向かう。向かうと言っても、俺は場所を知らないから、ベルサリオやフォスターの後ろをついて行くだけ。書物庫に行く用事など無いと思ってたし、書物庫があることすら知らなかった。


「こちらです」

 ベルサリオに案内されたのは、聖堂での勉強部屋を更に奥へと進んだ所。外から見た感じとは裏腹に、学習院同様かなり広い造りになっている。目の錯覚なのかと疑ってしまう。

 預かった鍵を差し込み、例の如く魔力を少しずつ流していくと、突然カチッと音を立てて解錠された。

「鍵は私から聖堂長へ返しますので」

「恐れ入ります。そうしていただけると…」

 余程鍵を開けられなかった事にショックを受けているのか、心なしかベルサリオに元気が無い。気にするなよ、それくらい。

 警護騎士の二人には扉前で待機してもらい、俺たち三人で中に入る。

 ここで聖堂、楽器、神曲、これらについて記載されている書物、書類を手分けして探す。見た目はそんなに広くないが、貯蔵量はそこそこにある。一つ一つ棚を調べるしかないか。

「私にはどんな書物があるのかわかりません。なので、些細な事でも、聖堂や神曲、楽器に関わる言葉が記載されていたらこの机に集めましょう」

 パンパンと一つの机を叩き、二人に指示を出す。予め、指示を出しておけば判断に悩む事もないだろうし、いちいち呼ばれなくて済む。それだけでも、時間ロスを防ぐ事も出来るし。

「さて…と、この棚から調べるか…」

 今日一日で調べ終わるなんて事は不可能。ある程度、書物に目を通さなくてはならないし、そこそこの量が貯蔵されている。しかも、半日以上今日は終わっている為、行動できる時間にも限りがある。本格的な調査は明日からに成るのは明白だと言える。

 背の低い俺は棚の最上段には届かないので踏み台代わりに、ズルズルと椅子を引きずって準備しておく。…よし、バッチリだ。


 しばらくすると、廊下の方から足音が聞こえて来た。静かに扉が開かれると、メルリとレンフィールだった。

「順調に進んでますか?キリが良い所で、今日はおしまいになさったら?」

 書物庫に入ってどのくらい時間が過ぎたのかわからなかった。領主に城の図書館への入室許可を取り、聖堂にやって来たレンフィールが「まだ終わってないのか?」と言われて、二人で迎えに来たらしい。

「早目に事実を明らかにしたいですが、無理をしてはなりません」

「夢中になっててわからなかったです。今日はここまでにします。ベルサリオ、集まった分だけ寮に運びましょう」

 内容はわからないが、今日の収穫は五冊。今日のうちに内容を確認して明日には戻そう。

 レンフィールに手をとられ「無理はダメと言ったのに」と小言を言われながら、書物庫を後にした。


 寮に戻ったら戻ったで、小姑の様なアイリスにもあれこれ怒られ、少し遅い夕食を済ませた。

 アイリスとセルジュが一通りの仕事を終え、「先に休みます」と報告に来たから、咎める理由も無いので許可してやった。ついでに、フォスターにも休むように指示を出して、これで完全に一人の時間。レンフィールは城へ帰ったし、ゆっくりと確認作業ができる。

「これは…聖堂の在り方…?」

 その本は厚みこそそんなに無いが、内容は実に分かりやすいものだった。

『聖堂の在り方』と書いてあるだけに、聖堂の役割的な事がびっしりと記載されている。

 ー聖堂とは、人間が神々に最も近付く事の出来る神聖な場所であり、且つ、最も神々の力を受けられる神聖な場所でもある。よって、祈りを必要とする、冠婚葬祭、祭事は聖堂で行い、聖堂長が執り行う事ー

「う~ん、この世界ではもっともな内容だなぁ。探している情報とは少し遠い」

 その後一冊丸々読んだが、確信に迫る様な情報は無かった。薄い割りに、一頁の文章が長く、予想以上に時間に時間がかかってしまった。

 項垂れている時間ももったいないので、すぐさま次の資料に移る。

「これは…?」

 次に手にした資料は、かなり古いのか文字がかすれて読みにくい状態だった。たが、『神曲』と書いているのだけは読み取ることが可能で、期待にテンションが上がる。

 ー神曲は…聖堂…が定め…の…師が……い、……と共に……神…る…。…の…面は、災害……難…め、別…に…し………するー

「読めない…。何か重要な事が書いてある気がしてならない」

 文字がかすれている上に、破けてしまっている部分も多々ある。それでも、この一文を解読出来れば、簡単に進展するのではないかと思う。

 ひとまずメルリやミューレンにも読んでもらう事で、何か解るかも知れない為、手元に残しておこう。その後、残りの三冊にも目を通したが、これといって有力な情報は見付からなかった。そして、終わった瞬間に猛烈な睡魔に襲われそのままダウンした。


「…様!ライト様起きてくださいまし!」

 誰かに起こされ、まだ上下の瞼が仲良くしていたいのだが、なんとか目を開ける。そこには、なかなか怖い顔のアイリスとなだめようとするセルジュが立っていた。

「何故、こんな所でお休みになっているんです!?」

「アイリス、そんなに責めないでください。ライト様もお疲れなんですから」

「セルジュ、ダメです!私達はメルリ様からのご指示で、ライト様にお仕えしているんです!主であるライト様に何かありましたら、叱られるのは私達なんですよ!?」

「それはそうですけど…」

「アイリス…僕は大丈夫ですから…。そんなに怒らないでください」

 それが地雷だった。朝から永遠に続くのでは無いかと思うくらいの、長いお説教が始まり、気が付いたら従者全員がその場に揃っていた。

「わかりましたか!?二度とこんな事が無いようにしてください」

「…はい」

 アイリスは怒らせちゃダメだね。可愛らしいのだけれど、厳しい。


「朝から災難でしたね?」

「仕方ないです、テーブルで寝てしまったのですから」

 慰めにならないベルサリオの言葉を聞きながら一度聖堂へ。夕べ見付けた資料の内容を確認してもらうために、メルリに会いに行くと言うわけだ。俺の知らない、領主の血縁に解読出来る人がいるかも知れないからだ。

「先生も一応、領主一族ですよね?」

「そうですね。領主シャレン様は叔父になりますから。どうかしました?」

「いえ、確認しただけです」


「そろそろ来ると思ってました」

 メルリは聖堂長室の前で待っててくれた。

「いつもは待ってないのに、今日に限って珍しいですね?」

「私だって常に聖堂長室に籠りっきりではないです」

 少しムッとされた。大人気ないなぁ。

 昨日、書物庫の鍵は掛けずに帰ったので、ベルサリオには先に調査の続きを依頼した。聖堂長室に入ることも無く彼は書物庫へむかった。

「で、何か分かった?」

「これ…何か重要な事が書いてありそうなんだけど、所々が、かすれたり破れたりで、読めないんだ」

  『神曲』と記されている書物をメルリに手渡し、例の文章の事を説明した。メルリも険しい眼差しで文章を読んでいる。

「確かにこれでは、意味が全くわからないわね…。見出しですら神曲の文字しか読めないし…」

「メルリ、お祖父様ならわかるんじゃないかしら?」

「どうかなぁ。最近お祖父様も体調良くないし、聞いてみる価値はあるかも知れないけどね。ただ、お祖父様に聞くとなると、必然的にお父様の耳にも入るだろうし…」

「じゃぁ、僕がシャレン様に聞こう。興味本意でオルガーを調べているうちに、この件にぶち当たったって事にすれば、聖堂の管理を任されているメルリには、そんなに影響ないでしょう?それに、前聖堂長の頃にはこの状態だったのでは?と、言えば、表だった問題になったとしても、現職の皆には何も責任は失くなる訳だし」

 悩んでいても仕方ないので、俺が行動する。と、宣言してやった。この世界で最重要な祈祷関係は、旧職から新職の者に引き継ぎしている。だとすれば、今まで普通にこなしていた職が間違っていたとしても、誰も現職の者を責められない。一応保険は掛けたつもりだ。

「大丈夫かな?」

「ライトに任せてみよう」

 不安そうなメルリだが、フォスターは任せると言ってくれたおかげで、領主シャレンに面会する事となった。

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