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新しい自分がやるべき事  作者: かもめ
第二十九章
34/37

~発見~

 やるべき事をやって、好きな音楽に没頭したい。ただそれだけなのに、なかなか上手くいかないものだ。それだと、今までの学生生活と同じで、張り合いも無いし、通うのが億劫になる。恐らく世の中の学生ってそんなもんだろうとつくづく感じる。

「はぁ、せっかく音楽を選択したのにまともに講師を受けてないよ…」

「今日からは少しでも受けられると良いですね」

 そんな俺の愚痴を聞いているのは、支度に寝室へとやって来たセルジュ。朝から愚痴を溢して申し訳ない。

「でも、今日から講師も変わるようですし。それに、何かにライト様から首を突っ込んでる訳ではないですから」

「そう言ってくれるのは、セルジュだけです」


「ライト様、ご準備はととのいましたでしょうか?」

 いつまでも愚痴ばっかり言っていられないので、ベルサリオが寝室に来るのと同時にシャキっとする。薄ら笑いをしているセルジュが気になるが放っておこう。

「今終わったところです」

「そうでしたか。では、朝食をお召し上がりながらで申し訳ないですが、本日の予定をお伝えします」

 今日の予定?あぁ、フォスター達と段取りするって言ってたな。どのみち、学習院へ行って、各講義を受けて寮に戻って宿題的な課題をやって、終わり。それしかないでしょ。


 学習院へ行く俺とフォスターが先に食事を摂っている傍らで、ベルサリオが予定を告げ始めた。物食べながら聞くのはちっとも美味しく無いよ。全くもう。

「本日の予定ですが、学習院が終わり次第、聖堂へ行きます」

「聖堂!?何かありました?」

「…ライト様、せめてお口の中の物を飲み込んでから、お話ください…」

 アイリスに叱られながら、口の周りを拭かれる。…はい、すみません。

「…コホン。内容までは存じませんが、メルリ様より来るようにと、指示が出ております」

「そうですか…。先生は何か聞いてます?」

「恐らく、祈祷に関する事ではないかと。メルリ様、ミューレン様とレンフィールの三人で現在交代で祈祷しておりますが、昨日の出来事…ライト様の魔力量から考えて、少しでも早く祈祷に使いたいと、夕べ帰られてから、伝達魔術にて申しておりました。その時に聖堂へ来るようにとのことでしたので」

 今日もパタパタするって事?でも、前に言ってたな、『お祈りには音楽と膨大なエネルギーが必要だ』と。すっかり忘れてた。

「なるほど。魔力量とか言われても自覚が無いのですけど。でも、聖堂長からの呼び出しであれば、無視もできないですから仕方ないですね」

 全員が俺の言葉に頷き、朝食と予定の確認が終わった。


 今日から講師が変わると聞いていたが、ヴィンセントみたいに面倒な人は勘弁してほしいよ。多少厳しくても、まともな先生であることを願う!

「最近色々あって多忙ですね?お顔がお疲れですよ?」

「確かに色々ありすぎです」

「無理はなさらないでくださいね」

「お気遣いありがとうございます」

 アレコレと巻き込んでしまっているのにも関わらず、嫌味一つ言わないパルノエルスは同じ年頃だと考えても、良くできた人間だと思う。内心はどう思っているかわからないけど。

「はい、お喋りはそこまでです」

 比較的若い声が突然講義室に響き渡った。今日からの講師だろう。

 銀色の長髪で、開いているのかわからないくらいの細目。色白のモヤシっ子と呼んでもおかしくない。しかし、長髪が多いな。流行っているのか?

「今日から皆さんの講師を担当するグノーシスです。前任のヴィンセント先生からは内容を伺っていますので、防衛術の講義からですね」

 グノーシスは、そんな軽い挨拶を済ませると、中央の教卓に向かい、一通り生徒に目を配る。そして、言葉を選ぶように謝罪をし始める。

「この度は皆さんに、不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。学習院長含め我々教員全員に責任があると認識しております。私的な感情を持ち込んでしまった事が多きな要因だと思っております」

 深く頭を下げグノーシスは謝罪をするが、生徒の中には納得しない者もいる。そりゃそうだ、自分には関係ない事でゴタゴタに巻き込まれたんだし、一方的に騒ぎ始めたのはヴィンセント。

「グノーシス先生、確かにここにいる皆さんが不快な思いをしたと思います。ですが、誰よりも傷ついたのはライトさんです。心身共に疲れきっているはずなのに、こうして講義に出席しているのにも関わらず、あの仕打ちはどうかと…。グノーシス先生に言っても仕方ない事だとわかっていますが…」

「パルノエルスさん、大丈夫だから。これじゃ水掛け論になってしまう」

「ですが…!」

「大丈夫だから」

 なかなか強情な部分があるパルノエルスを落ち着かせる。静かになったところで、講義に入ってもらう事をグノーシスに伝えた。

 グノーシスは今一度頭を下げ、改めて講義を開始する。

「防衛術は…」


 まどろっこしい説明が永遠と続き、あっという間に午前中が終わった。簡単にまとめると、身体を強化する方法と、魔力壁と言う二つがあるそうだ。身体強化は主に物理的な攻撃に対して、魔力壁は主に魔力攻撃に対して有効だと言う。ただし、傷一つ付かないなんて無いらしい。あくまでも、致命傷にならない程度に抑える為の代物なんだそうだ。


「オルデンも防衛術使えるのですよね?」

「そうですね。騎士に限らず、学習院に通えば必ず学びますから、メルリ様やミューレン様でも、もちろん領主様も使う事が出来ます」

 念のためオルデンに聞いてみた。やはり必須科目の様だ。

「騎士になれば、騎士専用の防衛術もありますから。ただし、魔力量によって効果時間は個々に差が出てしまいます。恐らく、防衛術に限らず、持続的に発動させる魔術は同じだと思われますが…」

「オルデンの言う通りです。持続的に効果を出せる魔術は、どの魔術でも魔力の使い方は同じです。発動させる呪文は違いますけれど。従って、魔力量の多い者が有利になりますね。持続的な魔術の数自体は、さほど多くありませんが、騎士のように、何かあれば前線に赴く者に魔力量の差はあります。なので、その差を埋める為に、剣技等の物理的な訓練も行わなくてはならないのです」

 フォスターが追加で説明してくれたおかげで、大体わかった。まぁ、防衛術を使わなくてはならない事態が無ければ、良い事なのだが、それで済む予感がしない。先日、ミューレンから「また声が聞こえた」と、言われたばかりだ。身に付けておかなくてはならない、知識や技術は早目早目にマスターしておいた方が、後々困らないだろう。


 気を取り直して、午後からはやっとまともに音楽の選択講義を受けることが出来る。ベルサリオに、午前中の講義…防衛術を予習したいから、何か資料を集めておくようにと、指示を出したから、夕方以降自主学習でフォスターから学べばいい。今は、音楽の事で頭がいっぱい。


「早すぎじゃない?」

「いいの、まともに音楽の講義を受けるのが初めてなんだから、楽しみで楽しみで…」

 さっさと昼食を済ませ、昼休みが終わる前に俺は講義室に移動していた。当然のことながら、まだ誰も来ていない。そんな誰もいない講義室をブラブラと眺めて歩く。フォスターからは皮肉を投げられるが、そんなのは無視。フォスターの皮肉よりも、講義室内にある楽器の方が、俺にとって最優先。

 様々な見たこともない楽器に心踊らせているその時、何か見たことのある楽器が目に入ってきた。

「これは…何処かで見た気が…」

 何処で見たのだろうか?よく確かめる為に、真ん中辺りから被せてある布を捲ってみた。そしてそこに現れたのは、鍵盤の様な物。

「あっ…!あれだ…」

 異変に気が付いたのか、フォスターが声をかけてきた。

「どうかした?」

「先生、これ何て言う楽器?」

「確か、オルガーだったと思う」

 ん?オルガンみたいな感じだな。どことなく似ているからあまり違和感がないけど。

「オルガーは、誰にも弾けませんよ?」

 楽器とフォスターとの会話で、人が集まっている事に気が付かなかった。だいぶ生徒達が集まっていて、ずっと俺とフォスターの行動を見ていたらしい。声の主はその中の一人の男性だった。

「講師のトンプソンです」

「トンプソン先生、誰にも弾けないとは?」

「講義を始めますのでフォスター先生、教師席へ…。音楽、楽器に興味を持つのは非常に嬉しいです。本日は講義内容を変更して、オルガーの説明をしましょう」

 トンプソンは表情一つ変える事無く、オルガーの説明を講義してくれると言った。

 少し固い雰囲気を持っていて金髪のボブと言ったところか?声自体は男性だが、黙っていたら女性に間違われても不思議ではないだろう。明らかに体育会系の体つきではなく、髪の色と同じ瞳をしていて、全て見透かれそうだ。

「先ず、ヴェイル様より命を受け、音楽の講師を務めるトンプソンと申します。皆様よろしくお願いいたします。さて、オルガーの出所ですが、いつ誰が制作したのかもはっきりとわかっていません。このアウンティナルー独自の物なのかそうではないのか…。詳しい書物が無いのです。領主城の図書館になら手掛かりになりそうな書物はあるかも知れませんが」

 城の図書館…。俺なら探せる。誰が作ったのなんかどうでもいい。音が鳴るのか?肝心なのはそこ。

「先生、誰も弾けないのなら、壊れているかどうかすら判断出来ないですよね?」

「確かにそうですね。ある程度の弾き方は予想出来ていますが。触れただけでゴッソリと魔力を吸われてしまいます。そういう部分でも弾く事が出来ないのです」

 大量の魔力を要する楽器か…自覚は無いがメルリとミューレンは「あなたの魔力量は多い」と言われている。それならなんとかなるかな?色々調べてみたい。そして、最終的には自在に演奏したい。あとは、この楽器オルガーは一体何処で見かけたのか?

「随分と熱心にお聞きになりますね?」

「えっ?あぁ、どんな楽器にも興味があるだけですよ」

 隣で聞いていたパルノエルスも、他の生徒も視線を俺に向けていた。いやいや、音楽を選択しているなら、興味持てよ?って思ってしまった。口に出さなかっただけ良かった。後々問題になりそうだから。

「先生、このオルガーについて調べてみたいのですけど、いいですか?」

「構いませんけど、先程言った通り詳しい書物等は見つからないと思いますが…それに、講義を疎かにしてしまう様な事になるのであれば、許可できせません」

「大丈夫です!どっちもこなします。オルガーを弾いてみたいので…」

「わかりました、確か…ライト君の保護者はメルリ様…でしたね。それならば城の図書館への立ち入りも認められるでしょう。可能であれば私もオルガーの音色は聴いてみたいですから」

 こうしてオルガー調査の許可をトンプソンから得ることが出来た。パルノエルスを始めとする、他の生徒からも期待の眼差しを送られる事になったが、これは誰のためでも無く自分の為。ただ、俺が弾いてみたいだけの話なのだが。


「いいのあんな約束勝手にして」

「約束じゃないよ、許可を貰っただけ。あっレンフィールに伝えよう」

 講義後、フォスターに不安がられるが、音楽や楽器の事でとやかく言われたくないおれば、意気揚々とレンフィールに伝達魔術で内容を伝えた。回答は「私もお手伝いします」すぐに返ってきた。

「全く貴方達は…」

 呆れて言葉を失ったフォスターと共に、一旦自室へ戻り予定通り聖堂へ向かう。

 聖堂に到着するといつもの面々が揃って、俺を待っていた様だ。

「オルデン、シュティッヒは外してくれるかしら?」

「かしこまりました」

 メルリは騎士の二人を払うと、いつもの崩れた姿を見せる。気兼ね無く話せる人物が揃っている時はいつもこの調子。

「本題に入る前に、オルガーを調べるって?レンフィールから聞いたわよ?」

 まぁそういう事だろうと思ったよ。自分の為だと言う部分が大半を占めているものの、何処で見た記憶があると言う所も気になっている。オルガーの実態を調査しつつ、確信に迫ってみたい。

「実は、ただ調べてみたいって訳でもなくて…」

 その先は声には出せない。レンフィールとフォスターは本来の俺を知らない。隠している事には物凄く後ろめたい気持ちが一杯だが、他言無用と言われている。

「わかったわ、大体の事は察しがついているから。一番肝心な所だと私も思うよ」

「図書館への入室も、お父様に許可もらいましょう」

 心強い二人が見方で良かった。

「ライト、今日から講義後は私と御祈祷ですからね」

 話の終わりに感づいたレンフィールが、後ろからギュっと抱きついて来て、嬉しそうに語る。まてまて一緒に御祈祷って?さっぱり教わっていないが大丈夫なのか?

「レンフィールの言う通り、今日から講義後は聖堂に来てもらうわ。以前話した様に、お祈りを捧げるには、音楽と魔力が必要なの。先日のヴィンセント事件の時、貴方の魔力量は尋常じゃないと、判断できたからね。死なない程度に魔力を絞りとってあげる」

 ニコニコと言う割りに、話している内容は穏便では無いですよ?

「それに、魔力の回復速度も私達に比べても異常な早さだしね。ライトが演奏して、詩を乗せれば今までよりも神に捧げる魔力も増えるし、効率が良いから。頼むわよ?」

「演奏すれば良いって事?」

「そう。譜面は渡すから練習してね?」

 演奏だけで良いなら楽すぎるでしょ?ようやく…ようやく俺の出番が来たって感じ!あっ…思い出した。

「いや、あれか!?」

「どうしたのライト?」

「ん?なんでもないよ」

 未だ抱きついたままのレンフィールが、後ろから顔を覗き込んで来るが、婚約者とはいえ余計な事は言えない。オルガーが、あの夢で見たなんて…言えない。

「そうと決まれば、レンフィール、ライトに譜面を渡して練習する様に」

「わかりました。じゃぁライト一旦城に行きましょうか?私のお部屋に譜面があるんです」

 本来はレンフィールが夕の刻に行うご祈祷をミューレンに任せ、俺とレンフィール、フォスターは騎士を連れ城へ向かった。


「いつ来ても城は緊張するね」

「いずれはここに住むようになるんですから、そんなに緊張しなくて良いんですよ?」

 レンフィールは言うが、城の中ではほとんどがレンフィールとの婚約話が伝わっているのだろう、すれ違う者、見掛けた者が次々と挨拶に来る。下町出身の俺にしてみれば、皆が上の階級者。それだけで緊張するのに、緊張するなと言う方が無理だ。

「こちらです。お姉様は…」

「はいはい、二人の時間が欲しいのね?オルガン、シュティッヒ、私の部屋で待ちましょう」

 さらっとフォスターを追い払い、俺はレンフィールの部屋に入る。

 何度か城に来ているが、レンフィールの部屋に来るのは初めてだ。

「お帰りなさいませ、レンフィール様。こちらがライト様ですね?」

「可愛らしいでしょう?私はライトが大好きなのです。粗相は許しませんからね?レミエア、しまってある譜面を出してくれるかしら?」

「はい、ただいま」

 レミエアと呼ばれた女性は、奥の部屋へと入っていく。譜面は頭に入っているためか、普段は使わずしまってある様だ。毎日同じ曲を弾くのであれば、嫌でも覚えてしまう。それが、上手に弾くか下手に弾くかは別の話だが。

「これから、学習院と聖堂を往復する生活になると思いますが、大丈夫ですか?」

「多分…。オルガーについても調べたい事があるから、空き時間はその調べものもしたいけど」

「ある程度、資料を揃えてもらう事はベルサリオにお願いしましょう。彼は、それが仕事ですから」

「そうだね、メルリが従者として付けてくれた人材だから、優秀なのは間違いないだろうし」

 いつもは、ニコニコしているレンフィールだが、一つ俺の負担が増えた事に対して不安そうな表情を浮かべる。元々、これがメルリより告げられていた事、それが想像以上に早く任されただけ。学習院に行って、聖堂に行ってと、毎日のスケジュールがキツキツになったのは確か。それでも、ここの人たちの笑顔の為にやらなくてはならない。

「無理はしないでくださいね?」

「うん、わかったよ」

 こうして心配してくれる人がいるんだ。悲しませるような事はしないようにしよう。

「お待たせいたしました。レンフィール様譜面をお持ちしました」

「ありがとう。ライトこれがお祈りの為の神曲です」

 レミエアが持ってきてくれた譜面を受け取り、一通り目を通す。所々、不自然な部分があり、どうも納得出来ない旋律だった。

「レンフィール、これ…恐らく主旋律じゃないよ?」

「…えっ?でも、今までこれをずっと…」

 確信は持てない。でも、いくら目を通してもおかしい所がある。これが主旋律だったとしても、他に譜面があるのではないだろうか?もし、他に譜面があるのならば、歌詞を含めたそれら全てを照らし合わせなければ、曲として完成しない。

「ハッキリとはわからない。けど、他にも旋律が存在すると思う」

「そんな…」

「レンフィール、大丈夫。僕が完成させるから。音楽しか取り柄がない僕だけど、ほんの少しだけ皆の力になれる事だから」

 オルガーを発見し、神曲の旋律が半端だと言う事を発見。この二つは姿形は全く違うけれど、偶然出くわしたとはとても思えない。こりゃぁ、骨が折れそうだ。

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