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新しい自分がやるべき事  作者: かもめ
第二十五章
30/37

~判決~

一同を見渡し、シャレンは静かに話を始めた。

現代社会の日本と言う国で生きた経験を持つ俺にしてみれば、こんなにすぐに判決が出ると思ってなかったから、自分の気持ちにゆとりを持つことが出来ない。現代社会では、裁判を行って判決が出るまで、半月や一月後になる様な動きなのは、当時テレビ等で観たり聞いたりしていたため、そんな感覚しかなかったのだ。それが、即日…しかも終わった後の直後だと言うのだから、文化の違いを感じる。

「ゲーリッチ、お主はアウンティナルー領土内からの永久追放とする!」

ざわめきが起こる。それは、安堵の物なのか、驚きをの物なのかはわからない。

「本来ならば、処刑と言いたい所だが、命を詰んでしまったのでは、自身が何故こうなったのかを振り返る事、また、その行為に対しての罪悪感を持つことが出来ない状況になる。よって、これから生き抜いていく上で、生涯その罪を背負いながら余生を暮らせ!」

まぁ、俺は死んでないからそんなに罪悪感を感じることはないだろうけど。領土内からの追放とはね…。

「次に、シェイビー。間接的とは言え、経済的弱者の弱味に漬け込み、買収しゲーリッチの計画に荷担した事実は変わらない。また、そなたの行動で複数人の者達の社会的立場を、揺るがす結果となった。この事を深く反省するように。学習院退学、一族の資産の無期限凍結!」

「そんな…私達はどの様に生きて…」

ゲーリッチ、シェイビーよりも早く、彼等の母親と思われる女性が叫ぶ。その内容は下町の人間でなくても、恐ろしいものだと思う。お金を含む資産と思われるものを凍結されるのだから。

「仕方あるまい。それだけの事を引き起こした。生きていられるだけでも有り難く思え。発見が遅ければ、ライトは死んでいた」

淡々とシャレンは話すが、死にそうな位の重体だったの?俺は。

泣き崩れる彼等の母親を見てはいるが、シャレンにしてみればお構い無し。

「さて、南区の諸君。君達は、加害者でありながら、ごく僅だが被害者の部分もあるようだ。君達は家族もまとめてだが…五年間、東区、西区、北区への出入りを禁止する。また、この期間中は、万が一だが、学習院への入学は許可しない」

南区から出ることが出来ないって事か。意外と軽いと思うが実は、就職先が少ない。南区の人によっては、他区で仕事をしている者だって少なくない。今は、それしか考えられないが、その他にも弊害があるだろう。

南区の一同は、反論することもなく静かに受け入れた様だ。

「最後に東区の二人…。先ず、グラム。そして、家族。君達もまた、南区、西区、北区への出入りを同じく五年間の出入りを禁止する。且つ、この期間ライトとの接触も禁止だ。ついでリリ、君もまた、グラムと同じ内容とする。しかし、事件が起こってしまった後に内容を知らされていると言う、他の者とは違う状況にあった。この分を加味した上で、期間だけを三年間に短縮しよう。但し、荷担していることは変わらぬ事実。自分の意思、家族との疎通が出来なかった事を深く反省、償いの為に聖堂及び修道院にて住み込みの下働きに就く事が条件だ。決して昇進等はあり得ないがな」

「はい…かしこまりました」

住み込みの下働きが条件…実際どんな事をするのかは知らない。上に上がる事も出来ないと解っていながらの下働きか…。

これで、裁判、判決が終わった。俺もリリとは三年間、接触出来ない。命まで失くならずに済んだものの、間違いなく全員に弊害が出る。それだけはどうやっても避けられない。俺にもどうしようもない。受け入れるしかない…。

「以上だ。今日を含めた三日間の猶予を与える。各々処罰に対して、犯した罪と向き合うといい」

三日間だけの猶予…。彼らはその間で今後について考えなくてはならない。余りにも時間がない。厳しい。

「ディーダ、ウィル、君達は少し残りなさい。話がある」

「お話しですか!?」

「大したことではない。私からの提案だ。さぁ、退室させろ」

騎士団により領主関係者以外全員が退室し、俺の両親だけが審判の部屋に残った。


「今回は、本当に申し訳なかった。我々が、預かったライトの安全を守れなかった責任がある。許してもらえるだろうか?」

騎士団により、ゲーリッチ達全員が退室したその直後、シャレンは、深々と頭を下げた。この行動は誰も予想していなかったのだろう、残った全員が驚きの表情を隠せないでいた。

「領主様…領主様が頭を下げないでください!私と妻は領主様達には一切責任があるとは思ってもおりませんし、責めたりするつもりもございません!単純に、ライトの不注意だったに過ぎないのです。もちろん、親としては心配はしましたけれど…」

「いや、ディーダ。我が娘がライトの可能性を信じ、受け入れた事は、私が許可した事から始まっている。一族の一員として扱ってきたが、正統な血縁関係にあるわけでは無いため、軽視していた…申し訳ない」

入学式以来、シャレンとは直接会った事はないが、そこまで気にかけられていたとは知らなかった。もちろん、父さんも母さんも同じだろう。あまりに腰の低い対応に、戸惑っている事もうなずける。

「領主様。私達は誰も恨みません。ライトが無事だったのですから…むしろ、救っていただいた事に感謝しています。人間誰しも過ちは犯します。なので、関わった方々には、反省しきちんと罪を償ってもらえればそれでいいのです」

「そうかウィルもそう言ってくれるか。我々としても心が救われた。引き続き、我々の下でライトを預からせて貰っても構わないか?」

『是非、よろしくお願いいたします』

人を恨む事をしない両親で良かった。心底そう思う。同じ区内の為、リリ達の両親と町でバッタリ出くわすこともあるだろう。それでも、逆恨みなどしない。間違いなく。

「許してもらえるなら、こちらからの提案もしやすい。…まぁ、あれだ…ライトとお主達家族の安全を確保する意味が一番あるのだが…」

なにか、先程までと態度が違う。言いにくそうな事なのか?

「レンフィール、ちょっと来なさい」

「はい?」

突如呼ばれたレンフィールは、当然虚を突かれた顔になる。まさか自分が呼ばれるなんて思っていないだろうから。

「この娘は私の姪にあたるレンフィールと言うのだが、ライトの事も可愛がっているし、面倒もよく見てくれている。そこで…だ、今すぐではないが、このレンフィールと婚約の儀を交わさないか?」

「えぇ~っ!?」

シャレン以外の全員が、ぶったまげた。

何故そうなった!?まぁ、身の安全を考えるとなると、完璧な領主一族。身の安全は確実に保証される。が、全く考えて居なかったし、そんな歳でもない。

「おじさま…私はとっても感激してます…」

「レンフィールにとっても悪い話では無いと思うが。…但し、今までの様に、実家に帰省する機会は格段に少なくなる。本来ならば、下町から配偶者を選定することはないが、今後の事もある。また、何かしらの事件に巻き込まれる可能性も無いとは言えない。断ってくれてもいい。今すぐの回答で無くてもいい。少し考えてみてくれ」

レンフィールの顔は輝いているけれど、両親は複雑な感じ。急にそんな提案されても、「はい、わかりました」とは、普通の人、どこの人だって答えられない。恐らく、今回の事件の事もあり、選択する余地を与えてくれたと考えれば、かなりの譲歩と言えよう。領主位のトップになれば、下町の人間には「提案」より「命令」ってイメージしかないから。

「わかりました。妻とよく考えて回答します」

「了解した。申し訳ないが、ライトとも話さなくてはならない。今日は預からせてもらう」

「はい、よろしくお願いいたします」

複雑な表情のままシャレンと父さん達の話も終わり、両親は帰路についた。このあと、話し合いが始まるんだろうな。


両親を見送り、完全に領主一族だけが部屋に残った。沈黙が続いたが、ようやく言葉が出た。

「お父様、私は何も伺っていませんよ!?」

「そうです、私だって…」

保護者代理の双子が血相を変えた。しかし、シャレンは動揺することもなく、「まぁ、座れ」と一言。皆が何か言いたそうな空気を出してはいるものの、渋々椅子に座る。

「何か言いたいのは解る。だが、これは、ミストリアとも弟であるヴェイルとも話済みだ。無論、口外するなと釘を刺してある」

俺はヴェイルと言う名前にピンと来ないが、他の皆は解っている様だ。まぁ、弟って言っているし、レンフィールもシャレンを「おじさま」と呼んでいる事から、レンフィールの父親だろう。

「ライトが、学習院に入学し、卒業までにメルリ達が考えている以上に、実績を残せたのなら、メルリ、ミューレン、レンフィールの誰かと婚約させると決めていた。しかし、メルリとミューレンは少なくても領主である私の娘。やはり、領主の娘となれば、流石に下町の者と…とはいかない。経緯的には、ライトが、聖堂に通う様になった時に、レンフィールが世話役、講師として時間を共にしているうちに、将来を考えるようになった…。と、公表すれば不思議ではない。だが、領主一族が下町から…と言われる可能性がある。それは私から学習院での実績について、他の者の追従を許さない程圧倒的なものであれば、レンフィールとの婚姻を許す。と言う、条件だった。と、付け加えればなんとでもなる。その話を皆にする機会が、早いか遅いかだけで、後々にはこうなることは決まっていたのだ」

シャレンの話に喜んでいるのはレンフィールだけで、他の皆は言葉が出ない。果たして、当初の目的はどうなるのか不安だ。

驚いてばかりもいられないので、重要事項として、頭に入れておこう。シャレンの中で決まっていても、父さん達の意見を聞かなければ、無かった事になるからだ。


ーコンコンー

一同が落ち着き始めた頃、誰も来るはずのない審判の部屋の扉がノックされた。その音に一瞬で静まり返る。

「第一騎士団エドガーです!入ります!」

かちゃりと軽い音と共に扉が開き、エドガーが入室してきた。

「どうしたエドガー?」

「はい、先程裁判を受けた者の一人、リリよりライトへ預かりものを届けに参りました。被告からですが、よろしいでしょうか?」

「よかろう。ライトの幼なじみと聞いている。そのぐらいの心情は汲み取ってやる」

シャレンからの許可で、俺はエドガーから四つ織りにされた紙を受け取った。手紙のようだ。

『ライトへ。今回は、こんな事になるとは思ってもいませんでした。私はライトの事をずっと信頼していたし、ライトにも信頼されてたと思います。でも、裏切る形になってしまって…ごめんなさい。大切な友人を失う事になってしまった代償なのかも知れないですね。今頃悔やんでも、過ぎた時間は戻らないので、現実を受け止めて、三年間と言う期間を…三年間与えられた刑を全うします。三年経ったらまた、今まで通りの友人として会えたらと思っています。三年過ぎたら、ライトも学習院を卒業して、私の届かない存在になっているかも知れませんけど…。許して貰えるのなら、また、会いたい…』

「リリ…」

急に涙が溢れて来た。それは、『ライト』へ対しての申し訳ないと思う気持ちなのか、リリからの手紙によるものなのか自分でも判断が付かない。色々な感情が混じってしまっている。


「部屋に帰りたい…」とシャレンに告げ、俺はメルリ、ミューレン、レンフィールの三人に回収され自室に連れて行かれた。

部屋で控えていた者達には、メルリが事情を話してくれた様で、誰も声を掛けては来なかった。

しばらくは、話し声も聞こえていたが、次第にその声も聞こえなくなった。窓の外を見るとすっかりと真っ暗。物思いに耽っている間に、相当な時間が過ぎ夜中になっていたようだ。

「はぁ、ここに来たことまでは覚えているんだけどなぁ…」

こそこそと寝室を出る。隣の寝室にはベルサリオとセルジュ、更に隣はフォスターとアイリスが寝ているはず。起こしてしまっては申し訳ない。とりあえず、水が飲みたい。ただそれだけで、部屋を出た訳だから尚更気を使わなくては。


「ライト…?」

「レンフィール?何故ここに…?」

静かに寝室を出て厨房へ向かうつもりだったが、寝室前のリビングにレンフィールがうたた寝していた。

「落ち着いた?幼なじみですからね…。」

「ごめんなさい心配させちゃって…」

静かに首を横に振るレンフィール。

「そんな事ないですよ。少しでも、心の傷を癒せるなら、いくらでも傍にいます。私には、楽器とライトしかありませんから」

優しく微笑むレンフィールはいままでよりも、ずっと大人びて見えた。いつも俺の事を甘やかしてくれる彼女とはまた違う一面に出会った感じ。

「でもね、ライトはそんな事しないと解っているけれど、覚えていて欲しいことがあるの」

「うん、それって…?」

「自分が傷付いても、人を恨まず笑い飛ばせる位の大きな心をもって欲しい。人を傷付けて大切なものを失う事の方が、何倍も怖いから」

「わかった、約束する。絶対に」

レンフィールは、ずっとそうして来たんだと思う。だから、今まで怒ったり厳しい事を言わなかったりしたのだろう。警戒する仕草は見たことあるけど。

「人を傷付けて大切なものを失う事の方が、何倍も怖いから」この言葉は、忘れないずっと…。


あのあと、一旦城に戻ったレンフィールだが、翌朝には再び寮に来たらしい。

「おはようございます、レンフィール様。夕べはライト様はお元気になりました?うっすらとお話しされているのが聞こえましたが…」

「大丈夫ですよ。セルジュも心配されてたのですね。では、起こしにいきましょう」

俺は寝付けなくなったため、ベッドの上でゴロゴロしていたが、そんなレンフィールとセルジュの話し声に、慌てて寝たふりをする。

「ライト、起きる時間ですよ。学習院に遅れます」

「ライト様、おはようございます」

「…おはよう…」

二人に起こされ、ベッドから出る。相変わらずセルジュは、自分に自信が無い様な顔をしているし、レンフィールはいつも通りの笑顔。夕べのシリアスな雰囲気は微塵も感じなくなっている。

「とりあえず、皆に謝らなきゃ…。セルジュ、オルデン、シュティッヒを含めた全員、集めて下さい。着替えて皆に挨拶します」

「あっ、はい、でも、お着替えは…」

「レンフィールがいるから大丈夫」

「レンフィール様は、女性ですから…」

「特別な事情があるからいいの!」

俺とセルジュのやり取りに、クスクスと笑うレンフィールだが、もう俺の中では決まっている。

「セルジュお願いしますね。こう見えてライトは頑固ですから」

そんな頑固じゃないけど。

レンフィールの一言で、セルジュは皆を集めに退室していった。レンフィールに手伝ってもらい、さっさと着替えを済ませ、皆の待つリビングにへ。


「おはようございます。皆さんご心配をお掛けしました。今日からまたお世話になります」

ただそれだけなのに、皆が涙ぐんで安心してくれた。そう、この事件に関して、友人が二人も関わっていたことを全員が知っていたから。

「このまま学習院を辞められるのではないかと心配しました…」

大泣きするアイリスをベルサリオと、セルジュが慰める。いつもピリピリしてるアイリスが大騒ぎなのは面白い。

「アイリス、主であるライト様の前です。そんなに大泣きしないでください」

「そ、そうですよ、別にライト様が問題を起こしたわけじゃないです。ただ、ちょっと事情が事情だったのですから…」

「だって…だって…ずっとお部屋から…」

「はいはい、アイリス、私と少し散歩に行きましょう!貴女にとっても、嬉しい出来事を教えてあげるから!そうそう、許可貰ってるから、あなたたちからちゃんと報告しておきなさいよ」

見かねたフォスターが、アイリスを連れて外へ出ていく。「学習院の時間までは戻る」と言い残したが…、その前の話はまだ早くない!?つか、ここが、それが最終目的では無いし。全く…

「報告とは…ライト様、我々が聞いて問題ないのでしょうか?」

「ライトからは言いにくいでしょうから、私から話します。但し、あなた方の家族ですら他言無用でお願いしますね。ここにいる側近たちだけです」

レンフィールは全員の顔を見て、その言葉に同意してくれた事を確認する。

「今すぐではありませんが、私レンフィールとライトは婚約をすると思われます」

「ほ、本当にですか!?」

「おめでとうございますライト様、レンフィール様!」

まぁ、そんな反応になるよね。口をパクパクしているのはセルジュだけで、盛り上がってる皆々様。補足は俺がしておこう。レンフィールは多分、肝心な説明はしないだろうから。

「補足しておきます。まず、私の両親からの回答がまだなのと、今回の事件に関して、シャレン様が私と家族の安全を考慮された結果、正当な領主一族のレンフィールと婚約。とした方が、重大な事件事故に巻き込まれる可能性が低くなるだろうって事です」

俺の補足に皆が思い出したのか、表情を曇らせる。一体、俺はどんな状態で運ばれたのか解らないが、相当なものだったのだろう、。顔色が良くないのをみると想像がつく。

「それなら安全ですね。せめて学習院を卒業するまでの間だけでも、回りに周知させておくだけでも、多少でも問題を起こそうとする者が少なくなるでしょう」

冷静なベルサリオの言葉に皆が頷く。喜んで貰えている一方、そういった裏の事情もあるとなると、側近達も一層警戒しなくてはならない事も考えているだろう。出来るだけ今まで通り、接してくれる様に、周りに振る舞う様に徐々に言っておこう。

「さて、今日から学習院です。支度しましょう!」

俺のその一言で、考えを切り替えてくれた皆が、キリッとした顔つきで各々の仕事に戻った。

「じゃぁ、今日は前祝いの為に、メルリ様から予算を貰って豪勢に夕食ですね!レンフィール様も楽しみにしていてください!」

「楽しみにしてますねマキシス」

マキシス、そんなに頑張らなくていいよ…!


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