~裏切り~
「ゲーリッチ、姉上である聖堂長により命令が出ました。貴方を城まで連行します。思い当たる節があるはず。拒否は出来ません」
「何を根拠にそんな事を!?」
「下町の者達、そして貴方の弟であるシェイビーが証言しています」
私は姉のメルリより、任務を委譲されゲーリッチの連行及び取り調べを任された。全く、本来なら聖堂のお勤めもお姉様の仕事なのに、代わりに済ませたのだから少し休ませて欲しいって思ってたのに。仕方ないか、ライトがあんな事になったんだから。
「クソっ…!」
「話は後程伺います。レンフィール」
「はい」
聖堂に戻る際、同行した騎士は先に寮へと戻った為、私とレンフィールの所には騎士はいない。レンフィールと二人で彼を連行しなくてはならない。
「貴方とは魔力差が大きいのはご存じですね?抵抗すれば、拘束魔術の拘束力を上げます」
こんな時のレンフィールは、私もゾクッとしてしまう。あまりに警戒したり、威嚇する顔を見せずニコニコとしているから、どこまで本気なのかわからない。
薄い黄色に光る帯がゲーリッチの体に絡み付き、足以外は完全に身動きが取れなくなった。
拘束され城に連行された事で、ゲーリッチは大人しくなった。道中「何かの間違いだ!」だの「誤解だ!」等騒ぐものだから、注目を浴びることに。ただでさえ、何事だと街中は騒がしいのに…。
半ば強引に椅子に座らせ、椅子ごと拘束魔術をかける。ただ座らせただけでは何をするかわからない人物だから、これも仕方ない。
「では、伺いますが…、何故、ライトを襲わせたのです?」
「…」
はぁ、ホントこの人は面倒。
「貴方、自分が何故、聖堂の職についていられるかご存じ?わからないなら、説明してあげましょうか?」
「…それは…メルリ様が私の気持ちを…」
はっ?勘違い?間違い?キチガイかっ!?
当時、ゲーリッチが学習院の生徒だった頃、私達姉妹も在学中だった。でも元々、卒業と同時に聖堂長と修道院長の補佐として職につき、いずれ任せると領主である父から言われていた。もちろん、当時の聖堂長も修道院長も了承済みの話だった。その為、私達は基礎となる知識を学習するためだけに、学習院に通っていただけなのだけど…。
その頃、勝手な…一方的な想いを姉メルリに抱く様になってらしく、姉メルリに近づく人…それは異性だろうが同性だろうが、関係なく「何のためにメルリ様に近寄るんだ!?」と、騒いでいた。そう、ライトが聖堂で難癖付けられた様に…老若男女問わずって感じで。そのせいで、教師や他の生徒が姉に近寄れなかった事があった。
それを見かねて、「私が彼を聖堂に連れていき、監視します」と言い出したのだ。それがゲーリッチにしてみれば、自分の気持ちが伝わり、近くに置いて貰えると勘違いしたのだと思う。「私が我慢すれば、他の皆に迷惑が掛かることはない」と、唇を噛んでいたのを、私は思い出した。この事については、前聖堂長も前修道院長も…学習院長も、領主もみんな知ってるんだよね…。
周囲の人達も、逆に離した方がいいと言ったけれど、元々聖堂は、よほどの出来事でなければ、出入りする人間が限られているし、それに、あえて彼を離す事によって、メルリが見えない所で事が起きた方が迷惑するだろうって苦渋の選択だったと思う。それを、この男は自分がやって来た事が、正しいと思い込んで…。
「メルリは…聖堂長は、貴方が他で、他人に迷惑を掛けない様に、あえて自分の監視出来る聖堂に連れて来たのです!間違っても、貴方を傍に置いておきたくて連れて来た訳ではありません!私は双子の妹ですから、それくらいは聞かされなくてもわかってます!」
「そ、そんな事はありません!私の気持ちを…」
「まだわからないのですか!?では、学習院に在学中の自分の行動を思い返してみなさい!同じ事をライトに行ったのです!」
強く言い聞かせるが、ゲーリッチ自分の行いすら認めようとしない。自分の言い分ばかり主張する。
「わかりました、貴方は一切の責任は無いと…」
「そうです!」
「ここは尋問室。真実の鏡を使います。強制的に思い出させてあげます」
その言葉に同席していた騎士が、ゲーリッチの座る椅子の左側に、台座に乗せられた上半身が映るくらいの鏡を設置する。これに魔力を流せば、鏡から放たれる光によって壁に対象者の記憶が照射される仕組み。
私は鏡に近寄り、そっと魔力を流していく。次第に鏡自体が光始めゲーリッチを照らす。
ぼんやりと壁に、人影の様な動きのあるものが映し出されていく。映し出されていくものは、当人が考えていること、思い出そうとしている事が優先的に映される。そう、まさに学習院在学中の事をゲーリッチは考えていたらしい。
「丁度良かったです。さぁ、自分の行動を見つめ直しなさい」
次々と映し出されていく自分の記憶を見て、ゲーリッチは言葉を無くしていった。何かにつけて、メルリに付きまとう姿や、メルリに近づく者に対して無礼な態度。そして、メルリが聖堂の職につくことが決まった時の、気の狂い様…。
「そう、私はメルリ様を愛していた。離れたくなかった…私だけを見て欲しかった…。だから、周りの者達を遠ざけたかった」
少しずつ語り始めた。自分の思い。でも、許される事では無い。
「少しずつ周りの者は、メルリに近づく者は少なくなった。…しかし、聖堂にライトが来てからは、毎日の様にメルリ様と一緒にいて、悔しかった。あれだけ自分が壁を作ってきたのに、コイツは違う。世から消さなくてはならないと、殺意を感じ始めた。それで、弟を使い、下町の者を使いライトを襲わせた。死んでも構わないと思っていたから…。でも、領主一族の庇護下にあるとは知らなかった…」
もう隠しようが無いと観念したのか全てを話し、一連の事件に関わっていたことを認めた。一方的な感情の暴走が今回の事件の原因と思える。しかし、ねじ曲がった感情、間違った思い込み…それだけでは、どんな人間でも決して結ばれる事は無いんだよ…と、言いたい。
「自分自身を見つめ直しなさい」
うなだれるゲーリッチを、再び懲罰房へと送り、内容をまとめる為、城の自室に籠った。今頃姉のメルリはもう一人取り調べを行っているはず。それで全て調べ終わる…といいんだけど!
ミューレンに協力してもらっている頃、私はリリという少女に事情聴取していた。
「まさか、貴女の様な少女まで関わっているとは、考えてもいなかったです」
「申し訳ありません…」
ライトとは幼なじみで、一緒に学び舎に通っていたそうだ。そんな幼なじみが、関与してしまうのだから、下町は怖い所だと思う。
リリはずっとうつむき、静かに涙が流している。本当は声を上げて泣きたいのだろうけど、そうはいかないと、必死に堪えているのが伝わってくる。
「私に謝られても、被害を受けたのはライトです。どうしてこの件に関わったのかしら?」
「何も報せられませんでした…。ただ、『学習院が休みになれば、ライトが来るハズだから用事あるとか言って、誘いを受けるな。そして、ライトがどの方向に行ったかだけ教えろ』と、グラムから言われたんです。金貨数枚置いて行きました。そうしたらこんな事になるなんて…」
グラムが歳上だからなのか、それとも威圧的にリリに迫ったのかは解らないが、この子が嘘を付いている様には見えない。
「あの時、断る勇気さえあれば…」
「そうね…断る人を間違ってしまったわね」
「時間さえあれば、会いに来てくれた大切な友達なのに。それなのに…」
『ライト』がこのリリと親しかったと言う事は、リュウイチさんは知っていたのかもしれない。いや、本来の一人の人間になる事で知っていた。だから、少しでも繋がりをもっておいた方がいいと考えていたのだろう。以前のライトの為に。
「しかし、どんな形であれ、関わってしまった以上、裁きは受けなくてはなりません。重い刑なのか軽い刑なのか、それは今のところ私では判断出来ませんが」
「そうですね。私が、ライトを裏切ったんですから、仕方ないですね…。誠意をもって、償います」
しかし、下町の子供達は見た目以上に、目上と話すときの態度が出来ている。これは、フォスターが学び舎で教育していたものなのか?
「今日は、自宅には帰れません。今日と明日は懲罰房に入ってもらいます。そのあとに領主裁判が行われますので、待機するように」
容疑者に憐れな気持ちを向けるのは、いけない事だと解ってはいるものの、彼女はある意味被害者と言ってもいいのかも知れない。
だが、本の僅かでも荷担してしまっている事実は変わらない。刑の重軽は、領主である父の判断になる。これから、全ての調書をまとめて提出する事になるが、その内容で少しでも軽くなってほしい。
私は、リリを騎士に任せ城を後にした。
ミューレンがゲーリッチを受け持ってくれた事で、一つ仕事が軽減出来た。むしろ、ミューレンに担当してほしかったから、半ば押し付ける様な形になってしまった。
ゲーリッチは学習院時代から、執拗に私にまとわり付いて来ていた。周囲の人達にもかなり迷惑を掛けた。私には受け入れがたい、感情を持って居た彼を大人しくさせるために、聖堂職に就かせたが…、ライトを聖堂に招く際ゲーリッチ自体を、聖堂に居座らせておくのはまずい。と、気付くのが遅かったから、こんな事になったのかも知れない。まして、彼は酷く下町を憎んでいる。父親を亡くしたのは下町のせいだと思っているから。取り調べ中、その事には…その事に関しては何も話さなかったが、多少なりとも、そう言った感情も混じっているだろう。その件に関しては、父から明確に説明してもらおう。
今日一日は、今までに無いくらい多忙だった。調書をまとめる作業と、ライトへの報告は明日以降にしよう。私が、領主の権限を行使出来るのも、今日を含めて三日間。だいぶ調査は進んだし、一段落付いたと思う。とにかく疲れた、聖堂に戻ったら…寝る!




