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新しい自分がやるべき事  作者: かもめ
~第二十二章~
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~取り調べ~

「さて、グラム。これから取り調べを行います。本来は騎士団本部長が行うのですが、領主の許可により、領主同様権限を行使する事が出来ますので、私が執り行います。全ての質問に対して、真摯に答えるように。また、嘘、偽りを言っても、この取り調べ室には『真実の鏡』と言う道具が設置されていますので、隠し通すのは無理だと思って下さい」

「は、はい…」

私は取り調べ室で、グラムと向き合っていた。今言った通り、この仕事は本来、騎士団本部長の役目。しかし、この件に関しては、私が白黒つけなくてはならないと感じた為、私が直々に取りべすると言ったのだ。

グラムはビクビクとしているが、犯罪を犯したのは紛れもない事実。大人も子供も犯罪者には変わりない。

「では、犯行に関わった人数は?」

「ぼ、僕を含めて六人です」

「六人?被害者からは五人と聞いていますが?」

「はい、東区では僕を含めて二人、南区では四人。実際に暴行してしまったのは五人ですけど…」

意外な答え。もう一人関わっているが、手を出していない。

「そうですか。全員の名前はわかりますね?」

「わかります。一人は…」

名前を言い出しそうな所で私は制止した。それを聞いてしまったら、詳しく内容が聞けない感じがしたから。もっと内容を把握してから、最後に聞こう。

「当事者の名前は最後に聞きます。その前に動機です。なぜこんな事件を?」

「名前はわかりませんが、『報酬と逃場は準備するから、手を貸してくれないか?』と言われたんです。目の前で金貨を数枚ちらつかせられて…。内容も聞かずに引き受けてしまいました」

「それから?」

「それから、『人数を集めてくれ』と。一人あたり、金貨を五枚ずつ報酬としてもらいました」

金貨五枚ずつ配るとなると、少なくても中流以上の人間が裏に潜んでいる。下町の家庭では、年間通して金貨一枚に届くか届かないかギリギリ位の収入だろう。商売を営んでいる者だったら別だが。仮に商売を営んでいる者だったとしても、一人五枚の金貨を六人分配るなんて事は不可能。間違いなく破綻する。

「随分と破格な報酬だこと。ご両親は知っているのかしら?」

「…知ってます。事件の事も…もちろん、ライトの事も…。南区の奴等はライトの事を知ってる奴は居ないですけど…俺…僕の知り合いです」

高額な報酬で買収され、その事を両親も知っている…。下町が貧困層と言われておかしくないと、改めて実感した。中流と下流、いわゆる貧困層とでは、相当な格差がある。年間通して得ることの出来ない報酬を提示されただけで、知り合いや友人ですら討てる。そんな現実に町の存続は大丈夫なのかと痛感させられた。

「そうですか…。具体的に、どんな内容の依頼をされたのですか?」

「…ライトと言う少年を…死んでも構わないから…集団で暴行しろ…と。大人がやれば簡単だが、見知らぬ大人が近づいて来たら、子供であれ警戒する。君がライトと知り合いなのは調べがついている。警戒されずに近づけるだろう?って…さすがに、断りたかった…でも、引き受けると言ったのだから、今更断るなんて言わせないぞって言われて。引き受けるしかなかったんです…」

「わかりました。では、最後に関わった人物の名前を」


一人の名前だけはなかなか言わなかった。隠し通すつもりはなかったみたいだが、その一人の名前だけはライトの耳に入れたくないかららしい。その名前に何の意味があってなのかは、私にはわからないけれど…『リリ』と言う名前らしい。


一通りグラムの取り調べを終わらせ、懲罰房に戻らせた。次は、先程グラムから出てきた人物を全員連行しなくてはならない。まず、取り調べ室を出ましょう。埃っぽい所から早く出たい。


早速、私はグラムから聞いた名前の者を連行指示を出し、裏で買収したと思われる、中流以上の人間を捜索する手立てを、領主である父を含め、各騎士団長達と考えなくてはならない。名前がわからない状況なのに、中流以上の者は決して少なくない。

「そうか、中流以上の者が絡んでいたか。私の言った通りだったな」

「ええ、お父様の読み通りでした」

取り調べをした内容の報告を済ませ、返ってきた言葉がそれだった。

「下町の者はすぐに見付かるだろうが、問題は中流以上の誰か?って所か…。しかし、ライトの事を知っている誰かだろう。それであれば学習院内にいるのではないか?」

「そうですね、学習院以外でライトの事を知っている者はほぼいないでしょうから」

言われて見れば、学習院以外でライトの事を知っている者はかなり少ない。そうすれば、的が絞られる。まさか…パルノエルス…?

とりあえず、聞いて見るだけの価値はありそうだ。

「フレバ、ルーチェ、下町の者は任せました。その紙に記してある者を連行するように。エドガーは、私と一緒に学習院長室へ」

『はっ!』

三人は同時に返事をした。ちなみにルーチェとは、第三騎士団団長で、アウンティナルー騎士団初の女性団長。エドガーは、副団長だが、第一騎士団団長は、本部長が兼任している。本部長としての仕事が沢山あるため、実質エドガーが団長を務めているに等しい。


下町の者を連行するのは他愛もなく完了と、フレバより報告が入った。その頃私は学習院長のロックヴォルフに事情を説明していた。

「前代未聞だが臨時休校としよう。あってはならぬ事態。私も一人の領主一族として協力しよう。まず、パルノエルスからしらべるのだな?」

「はい、パルノエルスの家系は、学習院長もご存じのように、元は聖堂楽師です。現在レンフィールがその職にあたっていて、なおかつ、ライトが楽器を学んでいる事を知っている事を考えれば、復讐心からライトを狙ってきても不思議ではないですから」

「確かにな…。しかし、的が外れていた場合はどうする?」

「同学年を徹底的に調べ上げます。真実の鏡を使えば簡単でしょう」

それしかない。パルノエルスでなければ、しらみ潰しに一人一人調べるしかない。時間はかかるが、同学年以外ライトを認知している者は少ないだろうから。


ロックヴォルフは、伝達魔術を特殊な水晶を通して、学習院全体に臨時休校を告げた。

『本日より、臨時休校とする。学習院内への出入りは禁止。各々寮の自室にて待機及び自主学習の時間にあてるように。再開の見込みは未定だが、追って連絡する。以上!』

騎士団やら聖堂長である私の出入りが頻繁にあったのでは、ただ事ではないと、学生達が大騒ぎしてしまう。臨時休校になっただけでも大騒ぎだと思うけど…最良の選択だと言える。

「私とエドガーは講義室へ行きます。パルノエルスを呼び出して下さい」

「わかった。伝えよう」

こうして私とエドガーは講義室へと向かい、パルノエルスを待つことに。

実際パルノエルスとは面識はないが、こんな大事件を引き起こす様な人物なのか?疑いをかけてしまうのは心が痛むが、考えられる可能性を潰してしまうしかない。


「メルリ様、よろしいのですか講義室で。聖堂長室の方が良かったのでは?」

「移動式するのが面倒ですし、なにせ聖堂となると、一旦外に出ることになります。その際に何かしら証拠隠滅などされたのでは、調べるのにまた手間がかかります」

私の回答に納得してくれたエドガー。ただ、出入り禁止とロックヴォルフからの御触れが出たところで、講義室だと誰が聞いているかわからないと言う恐れもある。講義室にしたのは、苦渋の選択と言っても間違いではない。

「お待たせ致しました」

その時、パルノエルスが姿を表した。突然の呼び出しに驚きと緊張があるのだろうか初めて顔を見るが、明らかに強張っている。

「貴女がパルノエルスですね?伺いたい事があります。そんなに緊張しなくていいですから、まずはこちらにお座りになって」

彼女は秘書により席に促され、私と向き合う形になった。

私は威圧的な雰囲気を出しているつもりはないが、席に座ることにより、パルノエルスの緊張感が強まったように見えた。

「早速ですが、パルノエルス、貴女は何か最近気になる様な出来事を聞きました?」

「はい、ライトさんが休日中、何者かに襲われた…と」

「そうですか、それについてです。もし何か知っている事があるならばお聞きしたくてお呼びしました」

私に!?と言わんばかりに目を見開き、身構える。

「私が関与していると?」

「そうとは言ってませんが、何か知っている情報はないかと」

「はっきりと申し上げますが、私は関わっておりません。ですが、親しくはないので詳しく聞いた事はないですが、シェイビーと言う者が、何か不穏な話をしているのを小耳に挟んだ事はあります」

シェイビーって誰?一応、領主一族だけれど、全ての民を把握している訳ではない。詳しく聞いてないと言う彼女を、深く追及しても、これ以上は有力な情報は出て来ないだろう。ただ、容疑者の尻尾は掴んだ。パルノエルスが、知っているとなれば新一年生だろう。

「そうですか。そのシェイビーとやらは、同じ一年生なのですか?」

「はい。入学当初から、彼はライトさんの事を、遠くから観察するように、睨んでいたのもちょくちょく見掛けてます」

これはかなり濃い線。後は本人を叩くしかない。こんなにあっさりと、黒幕の存在を確認出来るとも考えてなかったし、何よりパルノエルスに真実の鏡を使わなくて良かったと安堵した。自分の中では、忘れている記憶ですら探られる鏡は、知られたくない事ですら表してくれる。何も罪のない人間に使ったらそれこそ屈辱的な思いをしてしまう。

「ありがとうございます。もう結構です。十分有力な情報を知ることが出来ました」

「いえ、ライトさんと親しくさせて貰ってますし、あの…その…私の家系的に何かあったとしたら、疑われても仕方ないと思ってますので…」

本人的にも家系のしがらみは把握していたらしい。


お互いに軽く挨拶を交わし、その場で別れる。パルノエルスが、講義室を出ていくのを見送り、再びエドガーと二人になる。

「シェイビーって誰?」

「恐らく…文官家系の者ではないかと。家系的に、そういった職についている家族がいれば、人の繋がり等簡単に調べられるでしょう。そんな事よりも、学習院長にそのシェイビーとやらを、呼び出してもらなくてはならないのでは?」

「そうね、学習院長にお願いしましょうか…。面識の無い者には伝達魔術は送れないですからね」

エドガーの言う通り、ロックヴォルフに依頼しなければ呼び出す事が出来ない。ロックヴォルフに伝達魔術を送り、しばし待つことに。


おどおどとした行動で、それらしき人物が講義室やって来た。

初めて見るがやはり面識はない。私が知らないのだから、ライトが知るわけがない。学習院内で関わりがあるのなら別だが、先程のパルノエルスの話だけ聞けば、そういった事実は無いだろう。

それにしても、彼女が言うような行動をしていたのか?

「貴方がシェイビーかしら?」

「そうです」

「率直にお伺いしますが…」

話の途中、彼は急に学習院の生徒である証のベルトを外し、私に渡そうとする。

「なんのつもり?」

「聖堂長が言いたい事は察しがついています!こんなに大事になるとは思っていなかったのです!なので、私は学習院を辞めると決めて来ました…」

「そう。しかし、学習院を辞めるだけでは済む話ではありません。貴方は被害者であるライトが、私の庇護下にあることを知らなかったのでしょう?ですが、入学式や入寮式の際に、私が保護者代理として出席していたのは、他の生徒達は知っています。もちろん貴方もそれについてはご存じでしょう。その時点で気付くべきだったのです。詳しく事情を聞くまではそのベルトは受け取れませんし、そもそも渡す相手が違います」

シェイビーはガックリと肩を落とし、深くため息をついた。このまま連行して、再び取り調べを行わなくてはならない。私は、エドガーに視線を向けると、黙ったまま頷き拘束魔術を発動する。これにより、最重要人物を押さえた。

後は、各騎士団長達の協力を得て、下町の者を含めた大がかりな取り調べをすることになる。だが、グラムの言っていたリリと言う者に関しては、私がしなければならない気がする。


こうして、シェイビー達の取り調べが一斉に行われた。下町の容疑者となった子供達はグラムが言っていた通り、全員がグラム本人により召集された。と、口を揃えて答えたらしい。そして、全員がグラムの知人であり、ライトの事は知らないと言ったそうだ。内容も全く同じ。手を貸す代わりに、報酬と逃場…引っ越し先を準備してもらう約束だったと…。


「シェイビー、何故貴方はライトを襲う様に下町の者達をやとったのですか?」

「私も依頼されたのです…。兄上に…」

更に関わっている人間が?

「お兄様…ですか?」

「聖堂長ならご存じかと…ゲーリッチです…」

「…!!ゲーリッチですって!?」

ライトを聖堂にて学習させるために通わせた初日、一方的にライトに絡んで私が、懲罰房に送ってやった問題児。私の監視下に配置していたハズなのに…。

「ライトと言う小僧を消せって…。下町の者を使えば警戒されずに近づいて襲えるだろうって…。袋積めされた金貨を手渡されて、テックロウに全員引っ越しさせれば、誰も捕まることはないだろうって…。知らなかったんです、私も兄もライトが領主一族に関係しているなんて!」

「今更知らなかったとは言えないでしょう。それに、テックロウが皆の引っ越し先になっているとは…。そう言われると、ますます知らなかったと言うには厳しいのでは?知らなかったとしたら、わざわざ容疑が掛かる全員を別な土地に向かわせる必要なんて無いのでは?」

テックロウとは、このアウンティナルーの北にある別な領地の農村だったはず。事件を起こしても、別な領地に引っ越しをしてしまえば領地間の規約がある為、こちらから連行や拘束したり出来なくなる。

「ぐっ…」

「あまり、領主一族をバカにするなよ?小僧」

矛盾が多いことに、同席していた騎士の一人が声を上げる。イライラした感情が籠っているのも誰もが気付くだろう。

「貴方は下がって」

「失礼致しました」

「いいわシェイビー。貴方では話になりません。ゲーリッチを拘束します」

「聖堂長!貴女が悪い!兄上の気持ちも考えてくれない、そんなところが!」

何を言っているんだろう。そもそも、ゲーリッチになんてこれっぽっちも興味なんてない。それどころか、ゲーリッチ自身、私が…私の監視下にでもしなければ、周囲に迷惑ばかり掛けている為、いつ処分されてもおかしくないのだ。

「気持ちを考えない?では、貴方もゲーリッチも私の気持ちは考えた事があるのかしら?それすらも理解出来ない様では、救いようがないですね」

同席していた騎士に合図を送り、シェイビーを懲罰房に戻す指示を出した。

さて、取り調べ内容を父に報告して、ゲーリッチとリリと言う者の話を聞かなくては。この事件に関しては、随分と進行した。最終局面と言っても良いだろう。はぁ、骨が折れるわ。

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