~連行~
「…と、言うわけです。ですから、容疑者グラムを連行します」
私は、騎士団本部に向かい、同行してもらえるように打診していた。
現状は、ミューレンの指示により(厳密にはメルリだけど)各騎士団は各地域に派遣されている。
「だが、フォスター殿、そなたは騎士団では無い為、そこまでの権限は…」
「本部長、確かに私にはそこまでの力はありません。一教師ですから」
もう、何で本部長はこうも融通が利かないのだろう。事の重大さに気付いてないんだから!
「わかりました!メルリ様から指示を貰い、逆に私が騎士団に同行すればよろしいですね!?」
「そ、それなら、構いませんが…」
ぐいぐいと、詰め寄ったせいで本部長がやっと折れてくれた。伝達魔術で即座に指示を仰ぐが、なかなかの圧力を感じる言葉で返ってきた。
『本部長、今は一刻を争う時なのです。あんまりわからず屋な態度だと、本部長退任させますよ?フォスターと共に向かってください』
あぁ、イライラしてるなぁ、口調的に。メルリは態度と言葉に出やすいからなぁ。
「はっ、はい今すぐに!」
白い光に向かい、慌てた様子で椅子から立ち上がる。別にメルリが、目の前にいる訳では無いのに、相当びくついている。
「私は、東区に向かいます。本部長、東区は第三騎士団でしょう?」
「で、では、私から第三騎士団長に連絡します」
わざとらしく私も不機嫌な態度をとり、騎士団本部を出た。
騎士団本部は南区に近く、聖堂からも学習院からもそこそこ離れている。何か移動が楽になる魔術でも考えて見ようかな?事件が落ち着き学習院に戻ったらヴィンセントに相談してみよう。
「フォスター殿。お待ちしておりました」
聖堂前で待つようにと、本部長から連絡してもらった為に、第三騎士団団長フレバが、部下数名と待っていてくれた。
「フレバ、容疑者の情報はわかっています。東区内の二区画です」
下町の学び舎に派遣されていたおかげで、多少は区内の事は覚えていた。
東区も南区も数は違えど、複数の区画に分けられている。数までは把握出来ないけれど、一つの区画に何軒と纏められている。それで誰が何処に住んでいるのか管理している。
とは言え、全ての住民を完全把握は難しい。なので、一軒一軒尋ねるしかないのよね。
「後はここの並びだけです」
「参りましょう」
一軒ずつ立ち寄って既に二十軒は越えた。なかなか骨が折れる。何事かと無関係の人達は大騒ぎになっているが、一部の人達は、暴行事件が起きた事を知っているみたい。
「失礼する。こちらにグラムと言う少年はいるか!」
「は、はい、息子…ですが…」
とうとう見付けた。最後に立ち寄った家が当たり。三十前後の女性が玄関先で対応してくれたが、その顔色は悪い。何かに怯えている様にも感じた。
「では、こちらに呼んでいただこう」
淡々とフレバは語る。見た目から想像も出来ない野太い声が、威圧感を漂わせている。
「わ、わかりました…お、お待ちください」
言葉にならないか細い返事を残し、母親は、奥へと入っていく。どことなく震えている。まぁ、そうでしょう、私も同じ立場だったら嫌だ。
「はい…、グラムです…」
しばらくして、母親と共に本人が現れた。
「君がグラムか?君を領主反逆罪で連行する」
「待ってください騎士様!グラムはまだ十歳ですよ!?」
「それは…」
抵抗する母親に説目しようとするが、ここはフレバを制止して、私が説明する。
「いいですかお母様。十歳とは言え、彼は決して許される事の無い事件を起こしました。立派な犯罪です。これは、領主様により裁きを受けなくてはなりません。公に公表していませんが、被害者は学習院の生徒であり、領主一族の人間です」
二人とも更に顔色を悪くして、生唾を飲み込む。
「ライトが…領主様の一族…?でも、知らなかったんだ!やりたくてやったんじゃないし、それに…」
「話は後で聞きます。フレバ」
「はい。事情聴取もある。城の懲罰房に連行する。後日、あなた方両親も同席で領主裁判を受けることになるだろう。保護者としてな。追って連絡する」
泣きじゃくりながら母親親は「待ってください」と、フレバにしがみつくが、私達ですら仕事。心が痛むけれど、罪状も出ている。仕方ない…仕方ないよ。
懲罰房へ幽閉されたグラムは暫く喚いていたが、諦めたのか大人しくなった。
「フォスター様、今後は?」
「私は、メルリ様に報告しなくてはなりませんし、ここに居るわけにはまいりません。シャレン様を始め、領主一族の方々より連絡があるでしょう。それまでは、このままでしょうね。では、失礼しますわ」
看守に伝え私は懲罰房を後にした。私の仕事はここまで。これ以上はどうしようもない。連行する際、メルリ姉妹のどちらかが行ってたら何をするかわからないから、代わりに私が出向いただけの事。まぁ、騎士団に同行しなくても良かったのだろうけどね。
「あのっ!」
私がその場を離れようとした時に不意に、グラムから呼ばれた。
「どうしたのかしら?」
「俺はどうなるんです?」
「それを決めるのは領主様だから、私にはわからないわ。ただ、一つだけ言っておくわ。今日明日中に尋問が行われると思う。その時は全てを素直に…正直に話す事。それで君の罪が軽くなるか重くなるかが、左右されると考えていてもおかしくないから。ただ、私がこう言っても、最終的判断するのは領主様だから、勘違いしないように」
それだけを言い残し、さっさと外に出た。さて、メルリお嬢様の所に報告しますか。
「フォスター、お疲れ様でした。フレバから、身柄を拘束したと報告が来たわ」
「仕事が早いですねフレバは」
学習院長室に居ると聞いたので、城から学習院長へ。部屋に入るなり言われたのがこれ。来なくても良かったのでは?
「後は領主裁判だけだな。ライトが知っている者の犯行だったから、何も難しい捜索ではなかっただろう?」
「いえ、学習院長、容疑者は後四人いるのです。グラムを尋問して、他の者達も連行、拘束しなくてはなりません」
ミューレンの言う通り、まだ、容疑者がいる。さっきは勢いで私が行くと、言ったが、実に気分が悪い。騎士団の皆様にお任せしよう。
「そうだったな。今しがた、事件の内容を聞いたばかりだったな」
「他の者のの連行は、騎士団にお任せします。いくら犯罪者とはいえ、幼い子供ですから少し心苦しい気分になりましたので」
私の主張に皆が賛同してくれたので、そうすることにしよう。
主犯と思われるグラムを連行した事で、メルリとミューレンはいくらか落ち着きを取り戻している。すんなりと私の意見は取り入れられた。
「共犯者を連行しなくてはなりません。早速私は城へ行き、事情聴取して参ります」
「お姉さまが、事情聴取なら私は寮に戻り、ライトに状況を知らせますたあと、お姉さまの代理でお務めしなくては」
「ミューレンお願いするわ。エドガーかフレバを呼んでちょうだい」
こうして、各々次にやらなくてはならない仕事に向かって行った。…私も一旦寮に戻ろう。私の役目も終わったしね。
「お待ちくださいミューレン様。一緒に参ります」
学習院長室を慌てて退室し、私はミューレンと共に寮に向かった。
「ありがとうフォスター。私達姉妹では、冷静に判断出来なかったと思います」
「私の教え子と言う事実もありますし、一応、メルリ様やミューレン様と従姉妹になりますから、私やレンフィールが補える部分支えられる部分があってもおかしくないでしょう?」
「本当にありがとう」
学習院の廊下とあって、口調を崩せないのが少々苦痛だが、何処で誰が見ているか聞いているかわからない。階級にそぐわない態度は出来ないから。…密談の時は別だけど。
「ミューレン様、フォスター様お戻りなりましたか」
「ご苦労様。ライトに顔を出したら聖堂に戻ります。非常事態とは言ってもお務めがありますから。どちらか、聖堂までお供お願いできます?」
「私がお供します」
シュティッヒがお供することになり、中へ入った。
部屋の中の雰囲気が事件前と同じ和やかな感じに戻っていて、ライトとレンフィールが、くつろいでいた。その様子から、ライトはだいぶ回復したと思われる。
「ライト、もう起きて大丈夫?」
「大丈夫ですよ、予想より早い戻りでしたね聖堂長」
言葉は柔らかけど、どこか元気じゃない。ミューレンの『癒しの声』を施してもらっていて傷の回復は速くなっているが、心情的な事だと思う。なにせ、友人と言っても良いような人物に、被害を受けた訳なのだから…。
「私から状況説明したいのですが、あいにく聖堂のお務めがありますので、一旦レンフィールと聖堂に戻ります。その間にフォスターから話を聞いて下さい」
「ライトまた後で参りますね」
「あっ、うん、待ってます」
ミューレンとレンフィールが退室した後、私がライトに説明することになり、リビングにライトと二人になる。大した内容では無いけれど、セルジュとアイリスには席をはずしてもらった。
「私が戻って来たって事は、大体の予想はつく…よね?」
「うん、グラムが捕まったんでしょ?」
先程とは違い、ライトの雰囲気もピリピリしたものへと変わった。
「これからどうなるの?」
「まだ、わからないわ。今わかる事と言えば、グラムに対しての尋問が始まり、共犯者の連行ってところかしら?不安になるのはわかるけれど、貴方が気に病む必要はないのよ。被害者と加害者の立場になったのだから、そのあたりの区別はした方がいいわね」
「子供だからとか、大人だからといってとか…関係ないんだね」
「子供だからといっても、それなりの懲罰が与えられるわ。なにせ、領主関係者に手を出したんだからね」
ライトも子供だから、犯罪になる事とならない事が、まだ、区別出来ないみたい。学習院にて学ぶ事もあるだろうけど、世の中の常識等も、学んで貰う必要もあるかしら。それは、学習時間に少しずつ指導しよう。
その時、うっすらと白い光が飛んで来た。多分、尋問が始まると言う知らせだと、言わずとも私とライトは悟った。




