~合否~
「さて、あれは何があったのかしら?ライトの手元が全然見えない状況でしたので、説明してくださりますか?」
聖堂に戻った俺達は、何事も無かったかのように、聖堂長室へと入っていた。厳密には入学試験を受けて来たのだが…。途中で試験が終わった事が不可解過ぎたのか、説明するようにとメルリ、レンフィールから要求されていた。
「学習院長の声は聞こえていたとは思うけど、仕掛けがあったんだ」
「仕掛け…ですか?」
怪訝そうにレンフィールが相づちをうつ。
「うん、水晶玉を三つ染めたら終わり。そう言っておきながら、実は渡された水晶玉は魔力で満たされていて、それ以上魔力を送りこむ事ができなくなっていたんだ」
「それでよく罠に気付いたなって言っていたのですね。でも、それと中断した事と繋がるのですか?」
それでもメルリは納得していないと見える。そこまで話したら、空気を読み取って欲しいものである。
「魔力を入れたいでも、入れられない。それなら一度、中を空にして再度送り込めばいいんじゃないかって思って、一つ魔力を吸出したんだ。二つ目に手を掛けようとした時…」
「そこまでだ。と。言うわけですね?」
「そう、そこで終わった」
そう言う事かとやっと納得してくれたみたいだ。嘘、偽りを言っている訳じゃない。実際の事を言った。これ以上説明出来ない。
「一つ疑問があるとすれば、渡された水晶玉は誰かの魔力が入れられていたはずなのに、色がついてなかったんだ」
「恐らくそれは、長期間に渡ってじっくりと時間を掛けてゆっくりと魔力を注いだのでしょう。フューリーの音色が魔力を通す量で変わるのと同じ原理です。じっくりと時間を掛けて魔力を放出すれば、色を消す事が出来ます」
なんだか色々あるんだな魔力って。出し入れなんかは簡単だけど、緩急が必要なんですね。言われてみれば、フューリーは流す魔力の量で音色が変わることは確認済みだ。
「合格は間違いないでしょうから、ライトはこれから色々学んで一流の楽師になってくださいね」
いつもの調子でレンフィールは言うが、想像以上に本気でやらないと学習院では、やっていけないかもしれない。
「ところで、合否はいつわかるの?」
「二、三日のうちに連絡が来るかと思います。その時は伝達魔術で呼び出します」
呼び出しか。まぁ、そうだろう。推薦者として引率したメルリを飛び越えて、俺の所に直接くるわけないし、それに、学習院長はメルリを通して、と言っていた。
「それまでは、どうしたらいい?自宅待機?許されるなら、僕は聖堂でフューリーを弾きたいんだけど…」
「メルリ様、私からもお願い致します。ライトと一緒に楽器を…歌を楽しみたいのですが…」
その話にレンフィールも食い付いてきた。これは好都合。許可が出れば彼女から、弾き方や色々な曲を教えて貰える。この約一月は弾き方が中心で、弾いた曲はこのアウンティナルー周辺に伝わる、季節の曲だけだった。
「まぁ、いいでしょう。許可します。楽器は勉強部屋として使ったあの部屋で弾いてください。本堂内では、神歌や神曲以外は認めません。わかってますねレンフィール。貴女は、聖堂の聖楽師なのですから。決まった時間は本堂で曲を奏でて貰わなくてはなりません」
「承知しております」
今初めて知ったがレンフィールは聖楽師って言う職に就いている様だ。聖堂の、専属演奏者なのだろう。あれだけ歌と楽器が巧ければ納得もいく。透き通った歌声、優しさの中に時折垣間見る力強い弦を弾く音。鳥肌が立った。
「では、朝の刻の演奏がまだです。お願い出来ますか?それと、後程お話があります。本堂で待っていてください。ライトはこのまま待っていなさい」
「はい、演奏が終わり次第待機しております」
待たされる俺、部屋を出ていくレンフィール。後で話しとは…?少し気になるが、明日以降レンフィールに聞いてみよう。
レンフィールが部屋を出て扉が閉まるのを確認したところで、メルリは力なくため息を吐いた。
「あぁ~疲れた。お疲れ様ライト」
「お嬢様も大変だね」
「大変ってもんじゃないわよ。ミューレンと二人の時か、ライトと二人の時だけだもの、力抜けるの…」
皮肉のつもりで言ったのだが、本気で愚痴られた。
「そうそう、ゲーリッチが懲罰房から出てくるわ。そしたらまた聖堂で、顔を合わせるかもしれないから気を付けて。レンフィールを側に居させるから大丈夫だと思うけど」
「あぁ、あいつか。忘れてた。」
この一月の間、ずっと勉強続きだったため、初日に噛み付いてきた奴の事なんて、自然と忘れていた。よく考えれば、試験頃に復帰してくるような話をされた気がする。
「まぁ、大丈夫でしょ?」
「一応気を付けて。レンフィールには私から話しておくから。合否の連絡が来る二、三日の間だけじゃなく、入学まで楽器弾きに、どうせ来るでしょ?」
「うっ…」
どうやら俺の考えは見抜かれていたようだ。そうなると約十日前後の日数になる。入学は年明けすぐ。それまでは、家族との時間、リリとの時間に使いたいが、それと同じくらい音楽に触れる時間も欲しい。
そうなると、ゲーリッチと顔を合わせる可能性が少なからずあり、また言いがかり的な文句を言われる事になるだろう。
「俺の音楽への愛は止められないのよ!ゲーリッチの事だって大丈夫!」
「それならいいけど…」
合否の連絡が来るまで、またその後の話し合いを終え、聖堂長室を出た。
聖堂長室を出てすぐ目に入ったのは、本堂の長椅子に座りフューリーを弾くレンフィールだった。何度聞いても彼女の演奏には心を奪われる。元々、聖堂の本堂と言う事だけあって、街の中や自宅等とは違う独特の空気、雰囲気を漂わせているのに、レンフィールの演奏が混じることでさらに幻想的に思える空間となっていた。
「あら、メルリ様とのお話は終わったのですね?」
一通り演奏が終わったらしく、扉の前で聞き入っている俺に気がついたらしい。俺は俺でせっかくレンフィールが音楽を奏でているのを、邪魔をせずに最後まで聞きたかった為、話し掛ける事をしなかった。
「うん、明日から合否の連絡が来るまでの間と、合格してたとして、入学までの間の打ち合わせみたいなものかな?」
「そうでしたか。私もメルリ様よりお話があるそうなので、そろそろお部屋から来られるでしょう。このあとライトはどうするのですか?」
「とりあえず今日の予定は終わったから、このまま家に帰るよ。その前にミューレンに、無事終わったって報告したいんだけど」
俺から言わなくてもメルリからミューレンに話は通るだろうけど、一応こちらから話すだけでも印象が違うだろう。そこまでして、帰るには何の心残りはない。試験に行っている間、ミューレンは聖堂のお留守番をしていたが、学習院から戻った事を知ると、修道院に戻って行った。
「そうですか、私は待機との指示が出てますので今は動けません。伝達魔術で事情を話したらいかが?」
そうか、忘れてた。この世界に携帯電話やスマートフォンは存在しないが、伝達魔術なんて似たようなものがあった。
「うん、そうする」
ミューレンをイメージし話したい事があると呟くと、仄かに白い光がすうっと飛んでいった。
伝達魔術を飛ばして間もなく、メルリが聖堂長室から出てきた。それと同時に見慣れない男性が勉強部屋や裏口へと向かう扉から入ってきた。
「貴方、どうしたのかしら?」
「恐れ入ります。ミューレン様よりライト様を修道院にお連れするようにと指示を受けました」
メルリの質問に男性は軽く頭を垂れ答える。
「ミューレンに?ライト、貴方何かありました?」
「一応、試験が無事終わったって報告した方がいいかと思って」
「そう言う事ですね。貴方、丁重案内しなさい。ライトの身に危険が迫る様な事があれば、二度と修道院には戻れませんよ?」
半ば脅しだ。男性は肝に命じますと一言言うと、俺を修道院へと案内してくれた。
修道院は聖堂と廊下一本で繋がっているらしく、外に出る事なく建物内へ入る事が出来た。
男性との会話はなく、ただ付いていくだけ。階段を上がると、廊下は無く、一つの扉が正面に見えた。
「ライト様、修道院長室です。私はこの扉の向こう側へは入れませんので、ここで失礼致します」
「ありがとうございます」
男性はそれだけ言うと、もと来た階段を下って行った。
「空いてますのでどうぞ」
知らない人の所へ行くわけでは無いのに、来たことがない建物の中で一人になり少し緊張していた。そんな様子を中から見えているかのように、ミューレンの声が聞こえた。
「失礼…します…」
「って、なに改まってるの?」
そこにはメルリ同じ顔をしたミューレンが、メルリと同じ様に素を露にしている。…やっぱり双子だな。
「無事、試験終わったよ?」
何か言われる前に、勝手に椅子に掛けながら話す。
「メルリも、リュウ…いやライトと二人の時はこんな感じでしょ?…試験は問題無く終わった感じだね?」
「詳しい事はメルリから聞いてよ」
また同じ説明をするくらいなら姉妹同士で話して、状況を把握してもらおう。どのみち顔を合わせるんでしょ?
「お茶でいい?」
「あぁ、うん」
試験に関する事はメルリから聞くとの事だった為、俺はここに来たついでに、質問しておきたい二つの事を聞く事にした。
ミューレンはお茶を準備しながら、何か歌を口ずさみ再び椅子に掛けた。
「で、質問って?」
「あ、二つあるんだ。一つ目は、レンフィールって何者?何者って言ったら失礼だけど…うーん、立場的にはどれくらい?って聞いた方がいいのかな?二つ目は、楽器や音楽を聖堂で教わって、祈りや魔力を神に送るって事は出来ないの?」
ちょっと俺の説明が悪かったのかミューレンは難しい表情になる。うーん…と、考え言葉を探している様子だ。
しばらく考えた後、ようやく口を開いた。
「まず、二つ目から。今の時点でライトに色々と学んでもらって、学習院に通わなく職務にあたって貰うことは、不可能ではないんだよね。でも、祈りの言葉の意味、祈りのを捧げる神の種類を正確に覚えてからお願いしたいかな。それと、前にも話したけど、出来るだけ好成績で卒業して、領主である父の側近位になって欲しいの。その為には学習院は必須なのよ。結果的には聖堂神官と、領主側近を兼任してもらいたい」
あの最悪な結果を、生んだ原因は…領主である父親が戦を起こした。神の力が弱まり、作物等の不作から次第に食糧難に。そして、近隣の領地に食料の援護を求めるが断り続けられ、最後は武力で解決しようと動いたが、返り討ちにあう。結果、農地、商店等食料が手に入る場所は取り上げられ…あの夢で見た事態になった。と言う事。攻めている訳ではないが、兵糧攻めみたいな感じか。
「今はレンフィールが、微量でも魔力を送ってくれているの。私やメルリも時間がある時は、祈りを捧げているわ。いくら毎日魔力を送っていても、赤や緑は…金の魔力に及ばない」
「それで俺に?ライトと俺が融合して一人になったから…?」
ライトと俺が一人になった事で、膨大な魔力を保有する事まで解っていて、さらに、三人で復活させられない神の力とやらを、補えと?
「メルリが適性色を調べたのも、職務を任せられる位の魔力を持っているか、確認の為。この世界に来て、まだまだ知らない事だらけの筈だから、魔力の事、神の事含めてこの世界の知識を覚えて欲しいの」
「それで、聖堂か学習院かって話が出た訳ね?」
つまり、知らないこの世界の知識を取り入れて来いって事か。猶予は十年って聞いた気がする。そのうちの、一年や二年使ってもまだ間に合うのだろう。その間に完璧にこっちの住民になればいい。そう言うふうにもとらえる事が出来る。
「領主の側近って話は?」
「それは、あくまでも一つの対策。ライトが、一人前の聖堂神官として職務を全う出来ず飢饉が訪れた時、父さんは武力で解決しようとする。それを武力じゃない違う解決法を助言出来る人物として、側近中の側近にしたいの」
念には念か。確かに戦争を起こしても、お互いにいい思いはしない。数多くの一般住民が巻き込まれ命を落とし、戦場でも兵士達が血を流す。勝った負けたで済む話では無くなる。
「責任重大だね」
「私達の力が腑甲斐無いせいでごめんね。でも、あの時ライトが祈った事で、貴方達は選ばれたの」
「乗ってしまった船から今更降りられないよ。未だに俺の頭では整理出来てない事が沢山あるけど…、協力してもらうからね」
ミューレンは、安心した表情を見せ、ニコッと微笑んだ。
「後はレンフィールの件だったよね?」
「うん、正直どれくらいの立場の人なのか聞いてないんだよね…?」
一月くらいは共にする時間はあったのに、気にしてはいたが聞きそびれていた。誰も教えてくれ無かったし、世間話をする余裕もなかった。
「彼女は…私たちからみたら、従姉妹になるのかな?何も難しく考えなくていいよ?」
あぁ~、従姉妹ねぇ。ん、従姉妹?
「従姉妹って事は、そこそこ偉い?」
「それなりに。で、学習院長がレンフィールのお爺さん」
繋がりがありすぎる。だからなのか?あの時、学習院長はレンフィールを呼び捨てだった。身内なら敬語じゃなくても不思議ではない。
「いずれ、うちの一族と知り合う事になるだろうから、その時は私か、メルリから都度説明するから」
「頭が痛くなるね」
ミューレンと会談を終え、修道院を後にした。試験は朝の刻までで終わり、聖堂と、修道院に寄った為、昼食を抜いていた。いつになく空腹で、フラフラとしながら学び舎に立ち寄っていた。
学び舎は、まだ終わる時間ではないので、リリを含めた同じ年頃の子供達が相変わらず机に向かって、熱心にフォスター先生の話を聞いている。
「レンフィールとミューレン達が従姉妹とすれば、フォスター先生も従姉妹だよな…。レンフィールのお姉さんだし」
独り言を呟きながら、学び舎の扉に手を掛ける瞬間、中から開いた。
「いらっしゃいライト。今ちらっと姿が見えたから」
「驚かそうとしたのに。先生、何か食べ物ある?今日お昼食べてないから、お腹空いちゃって…」
「全く…。レンフィール準備してあげなかったのね。私の食べ残しパンで、良ければあげるよ?」
背は腹に変えられないので、先生の好意をありがたく受ける事にした。間もなく学び舎も終わる時間になるので、それまでの間、隣の部屋でパンを食べて待つことにした。
「ライト~、試験今日だったんだよね?どうだった!?」
学び舎が終わり、リリが飛び込んで来た。その後ろから先生が入ってくる。
「結果はまだだよ?何日か後にわかるみたい」
「せっかくだから、合格して欲しいなぁ。でも、学習院入ったら寮生活なんでしょ?なかなか会えなくなるね」
期待に満ちた顔をしたり、寂しそうな顔をしたりリリは忙しいな。全く会えなくなる訳じゃないって説明した気がするんだけど。
「リリ、大丈夫だよ。学習院はお休みがあるから、その時は外出したり、帰宅したり出来るから」
後ろから入ってきた先生が、リリを撫でながらクスクスと笑う。ここでは言えないが、予想以上に身分が高いフォスターが、言うのだから間違いない。
「そうそう、フォスター先生は学習院卒業してるから、間違った事言わないよ」
「それならいいね!」
単純と言うか、物分かりがいいと言うか、リリはあっさりと納得した。
「リリ、申し訳ないけど、ライトとちょっとだけ話がしたいから、廊下で待っててくれる?」
なんだ話って?俺はとりあえず食べ物わけてもらって、リリと一緒に帰るつもりだったのだが。
「ライト、私、学び舎の教師は今年で終わりなの。新年からは違う教師が来ることになってて…。子供達には話はしたんだけどね」
「そうなんだ。年明けからどうなるの?」
少し言いにくそうに、困った顔をする。
「実は…学習院に…」
「学習院の教師!?」
随分と出来レースじゃないですか?どうせ、メルリかミューレンが手を回したのだろう。東区の学び舎では、フォスター先生は人気者なのに、わざわざ学習院に回収するとは…
「ライトの専属講師って…メルリ様から…」
「専属講師!?どういう事!?」
簡単に説明してくれたが…学習院では、決まった時間は学部毎の授業だが、それ以外の勉強時間は、寮の部屋で個々に設けなくてはならないそうだ。
中流階級以上の生徒となる者は、基本的に専属の講師を雇っている為、珍しい事では無いが、東区や南区は貧困層なので講師を雇うなど、考えもしない事。常にその日暮らしみたいな生活をしているのに、講師に定量の報酬を払える能力のある家庭など、商売でもしてない限り存在しない。
「でも、先生にとてもじゃないけど、報酬なんて出せないよ家では…」
「メルリ様とミューレン様に何かお考えがあるようだから、それを聞かなくてはならないのよ。まぁ、ライトが合格したら、の、話なんだけどね。一応、耳に入れておいた方が良いかと思ってね。ごめん、リリが待ってるから、一緒に帰ってあげて」
今ここで更に話し込んでも、ただただリリを待たせてしまう結果になる。今日はあまり食い付かないでおこう。いずれ、メルリから、回りくどく話されるだろうし。一先ず帰ろう。
「お待たせ」
「何の話?学習院の事?」
「いや、先生が今年で学び舎終わりって言われた」
そうだった!みたいな反応をする。みんなが寂しがったらしい。ずっとフォスター先生にお世話になった人達だから、お別れは辛いだろう。その分また俺がお世話になるんですが…。
「随分と長かったから、フォスター先生が学び舎に来なくなるのは不思議な感じだし。やっぱり寂しいなぁ」
俺は何も言えないまま、リリの呟きを聞くしかなかった。どんな事情で学び舎を離れるのか知っているし、言える事じゃない。
その後どう切り出したらいいのか、悩んでいるうちにリリの家に着いてしまい、「じゃ、またね」と別れた。
二日後、朝早くから伝達魔術が届いた。試験後、二日間は休んだ。レンフィールからは「来て来て」と何度か伝達魔術が届いたが、体調を崩してしまった為、外に出られなかった。
今回の伝達魔術は、メルリからだった。どうやら結果が来たのだろう。
『昨日の夕の刻に、結果が届きました。聖堂でお待ちしています』
やっぱり。堅苦しい言葉で起こされ、ベッドから降りる。朝食を摂りに部屋を出ると、父さんは仕事で出掛けて、残っていたのは、母さんとミラだった。
「もう大丈夫なの?」
「無理しちゃだめよ?」
二日間寝込んでいたから、二人は心配してくれているが、今日はどうしても行かなきゃならない。
「熱も下がったみたいだし大丈夫だよ。それに、聖堂長から試験結果が来たからって連絡きたんだ」
「どうやって!?いつ!?」
伝達魔術を知らない二人は驚きの声をあげる。そりゃぁそうだ。魔術の話は伏せてあるし、目の前で使って見せた事もない。
「聖堂長位になると、伝書鳩使えるんだ」
「デンショバトってなに?」
この世界には伝書鳩もないのか!?言われてみれば、鳩を見掛けた事ないな。
「あぁ、人の代わりに手紙を届けてくれる鳥だよ。どうやって相手の場所を教えるのか知らないけどね。上流階級の人達の間では普通に使われているみたいだよ」
嘘をつくのは良くない。でも、魔術の事は話してはダメだと言われている。このくらいは許容範囲内でしょ。
それが当たり前だと説明しながらさっさと朝食を済ませ、聖堂へ向かう準備をする。家は、上流階級との繋がりはないから、家族は調べたりすることもない。
「じゃ、行って来るね。夕の刻までには帰るから」
「ライト、待ってましたよ」
いの一番で迎えてくれたのは、予想通りのレンフィール。若干泣きそうな顔だ。意味がわかんない。
「二日間も顔を見れなかったんです、心配でした」
「ごめん、体調崩してて…もう大丈夫だから」
心配性と言うかなんと言うか、どれだけ想われているのか…。一応、レンフィールの中では本当の弟の様に扱われているのは非常に解る。逆にこっちが恥ずかしい。
「でも、安心しました。さぁ、皆さんお待ちです。行きましょう」
「皆さんって?」
「試験に関わってくれた皆さんですよ」
いつものニコニコとした笑顔で答えてくれた。やっぱり、笑顔のレンフィールは可愛いと思う。
レンフィールに手を引かれ、聖堂長室に向かっていた途中、うっすらと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「これはこれはレンフィール様、おはようございます。どうなさったのですか、そのような薄汚い子供を連れて。聖堂の秩序と風紀が乱れますよ?」
それは、メルリによって懲罰房送りにされた、ゲーリッチだった。また、言いがかりをつけてきた張本人である。その眼差しは、俺を睨み、憎悪に満ちている。俺、貴方に何かしました?
「お帰りになったのですねゲーリッチ。貴方の目に余る行動は伺っております。次に何かあった時は、懲罰房では済みませんよ?」
「それは、お断りさせていただきますよ。私はただ、そんなごみ溜めの様な街に住まう、子供を聖堂に入れたくないだけです。ここは神聖な場所ですから。では、失礼致します」
いちいち苛立つ言葉を吐く奴だと、つくづく思う。これは、少し警戒した方が良いかな?メルリにはなんとかなるって言ったものの、最終的には権力で潰されそうだ。
「ライト気にしなくていいですよ?私が着いていますから、心配無用です」
「うん…」
聖堂に通う時は気を付けよう。
間もなく聖堂長室に到着。部屋に集まっていたのは、この一月の間、お世話になった面々だった。
メルリ、ミューレン、エドガー、そしてレンフィール。結果はまだ聞いていないが、この四人が居なければここまでやれてなかったと思う。たが、後でエドガーには文句を言ってやろう。試験で模擬戦をやって苦労したから。
「朝からお呼び立てして申し訳ありません。結果が来たのでお伝えしなくてはならなかったので」
「大丈夫ですよ」
軽い挨拶の後、各々が椅子に座る。俺はレンフィールと、エドガーの間に座らされまるで、何か問題を起こした子供が親に連れられ共に怒られるみたいな感じだ。
メルリは全員が席に着いたのを確認し、静かに話始めた。
「結果から伝えます。試験は合格です。この面々で入念な準備をしてきたので、ライトは合格出来ると思って居ました。講師として、エドガー、レンフィールお疲れ様でした」
「私はライトと一緒に居られれば、疲れませんよ。合格おめでとうライト」
「良かったな。ライトは物覚えが良くて、教え概がありましたよ」
レンフィールと、エドガーにいつもと同じ様に頭をめちゃくちゃに撫でられ、髪がボサボサに。もっと優しく出来ないのかなこの人達。
「来週…年明け入学式があり、そのまま寮に入る事になりますので、ライトは準備をしておいてください」
「聖堂長、準備って何を…?」
「まず、私の話を聞くように。終わり次第説明します」
軽く睨まれ怒られた。とりあえず黙って聞いていよう。
「ライトが入学後、我々は全面的にライトを支援します。その事に関してはレンフィールからは了解を得ていますが、エドガー、貴方は可能ですか?」
「可能ですが…私は何を?」
「可能ならばそれでいいです。都度指示します」
メルリとミューレンの間では今後、どの様な計画なのかは決まっている様に見える。年明けから始まる二年間の学習院生活で、当初の予定通りに事が進むか、二人で話し合ったのだろう。
「そして、新しくライトを支援する人材を準備しました」
その言葉を合図にしていたのか、照れ臭そうにフォスターが仕切りにしているカーテンのかげから出てきた。
「お姉さま!?」
俺は事前に本人から聞いていたが、レンフィールは驚きだろう。せめて、メルリとミューレンみたいに、姉妹で話しないのかね?
「フォスターには、入寮中の専属講師として就いていただきます。初めはこのくらいの人数でいいでしょう」
俺を除いた全員が納得した様だ。そして、ミューレンが俺を見る。
「先程聖堂長がお話しした、ライトの準備の話をしましょう。そうは言っても私達がほとんど終わらせています」
「ほとんど?」
「はい。東区や南区の子供が学習院に入学した事例が皆無に近いでしょう?必需品の情報は学び舎の間でも出回らないですから、あれこれ準備しろと言われても、費用の関係上無理なので勝手にこちらで準備しました」
確かに買い揃えるとかとなると、費用がいくら掛かるのか想像がつかない。まして、ミューレンの言う通り東区や南区は貧困層だ。誰々が学習院に入学していくら掛かったなんて話は聞いたことない。
「必需品は…」
次のように述べられた。
責任者
専属講師
警護
秘書
料理人
世話人
衣類関係
だそうだ。
「責任者は聖堂長と私。講師はフォスター。警護はエドガー及びエドガーの部下となります。秘書、料理人、世話人は入寮の時に合流しますので。その三人も私達の忠実な側近ですので心配なく。衣類関係は下着類を揃えてあります。制服も二着準備しましたので、通学に困る事はありません。実質ライトが準備するのは部屋着のみです。また、エドガーを含む支援者に対しての報酬は責任者である私達姉妹からお支払いします」
なんか大掛かりな事になってきた。しかし、ここまでやる必要が俺にあるのか!?何度も聞かされた内容からは想像つかない状況になってきた。
「エドガー、隊長には許可を貰っています。入寮までに、二人抜粋してください」
「かしこまりました」
「では、合否報告及び方針打ち合わせは終わります」
こうして、段取りは終わった。来週には入学式。下手な事は出来ない。そんな状況になってしまったが、なんとかなるだろう。関わる人達がこんなにも多いとは思わなかったが、俺は俺なりにやるだけだ。




