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新しい自分がやるべき事  作者: かもめ
第十五章
18/37

~入学と入寮~前編

終了する。の、一言で各々が一礼し聖堂長室から出ていく。俺もそれに続き、出ようとしたがメルリに引き止められた。

「ライトお待ち下さい」

「フューリーを…」

「すぐ終わります」

エドガー、レンフィール、フォスターが退室するのを待ち、全員が居なくなったのを確認して席に座る。

「どうしたの?」

メルリはミューレンと一度顔を見合せ、申し訳なさそうに語りだした。

「ごめん!ホントは講師をレンフィールにしたかったし、レンフィールもそれを望んだんだけど…」

「いやぁ、おおよその見当はついてるから大丈夫。仕方ないよ」

そうレンフィールは聖堂で、決まった時間にお祈りをしなくてはならない。メルリやミューレンも空き時間等にお祈りに時間を費やしている。この三人は出来るだけ聖堂から抜ける事を、出来るだけ避けなくてはならない。

「だから、フォスター先生呼んだんでしょ?」

「お祈りの時間以外は寮に行くって言ってたけど」

彼女はなにかしら関わりたいらしく、そう言っていたらしい。でも、実の所、お祈りの時間以外、普段は何をしているのか知らない。聖堂を抜けられないとだけあって、聖堂内に常駐している事は確実だが。

「年明けまでもう十日も無いし、入学式までは自由に時間を使って。年末最終日から新年初日だけは、聖堂で催しがあるからそれ以外だったら出入りしても良いから。父を含めた最上流階級が集まるから、間違って入ったりしたら、今までの苦労が水の泡になるから」

偉い人達だけの会合でもあるのだろう。メルリに忠告され聖堂長室から解放された。

ミューレンからは、入学前の連絡事項があるとの事で最終二日前には必ず来るようにと伝達された。


聖堂長室を出ると、先程出て行った面々が本堂に揃っていた。うっすら聞こえて来る話の内容からすると、久しぶりにフォスターが東区から戻って来た事を喜んでいるようだ。レンフィールも笑顔で満ち溢れている。

「お姉さま東区でのお仕事お疲れ様でした」

「しばらく向こうに行っていたから、フォスターも東区の住民っぽくなったんじゃないか?」

レンフィールの労う言葉と裏腹に、エドガーは冗談を飛ばす。

「いえ、メルリ様とミューレン様からのご指示でしたから」

学び舎の時と違う雰囲気の言葉使いに、俺は違和感を抱く。本来は、こっちのフォスターが当たり前なのだ。でも、年内は学び舎に通ってる筈…。

「フォスター先生、年内は学び舎じゃ?」

突然の俺の声に一同がビクッとした。別にコソコソ出てきたつもりは無いのだが、そんなに驚かなくてもいいと思う。話に夢中で気付いて貰えてなかったか。

「驚かさないでください。もう、この子は」

レンフィールはそう言うが、驚かしたつもりは無いんだけど。少し呆れ顔をされた。

「今日、学び舎は臨時休暇にしました。メルリ様とミューレン様に呼ばれたので」

ここに来ているってことは、代理の教師に学び舎に来てもらうか、臨時休暇にするしかない。フォスター先生の性格上、新しい教師の紹介は最終日に、と、決めているだろう。

「そう言えばエドガー様、僕一言文句あります!」

ついさっきまで忘れていたが、剣術の講義をしてもらっている間、模擬戦に関しての訓練と話はさっぱり無かった。その為か、試験の時の、模擬戦では苦戦した事を報告がてらクレームを付けてやるつもりだった。

「試験で模擬戦ありましたけど、何も実践的な訓練無かったじゃないですか!?」

「ん?基礎的な事をしっかり身に付けておけば、何も問題ない。苦戦したと聞いているが、それはブランドル先生との実践的な経験の差。付け焼き刃の様に一月位しか訓練していない者と、学習院の教師として、そして以前は部隊に所属していたあの人から、未経験の君が一度でも当てられた事が奇跡だ」

…うっ、確かに実践的な訓練をいくら行ったと言っても、実力や経験の差は埋めることの出来ない大きな穴。それに対して文句を言う俺の方が間違っている。

「まぁまぁ二人とも、今は無事に試験も終わり合格したのですから、師弟同士でケンカしないでください」

こんな時にも場を和ませるのはやっぱりレンフィール。ただの世話好きで時にうっとうしいだけの女性ではないね。

「こうして笑い話の様に気が抜けるのも、今のうちだけですから。エドガー様もお姉さまも、私の弟を支援してくださいませ」

いつの間にか師弟関係にされてしまった。しかも堂々と弟宣言。大丈夫か?メルリに後で怒られても俺は知らない。

「そうだな、学習院卒業後にみっちりと鍛えるように、団長に報告しておくか」

ニヤニヤ笑いながらエドガーは冗談に聞こえない冗談を言う。まぁ、俺は騎士団になんて入らないよ。


和やかな雑談を終え、フォスターは片付け等があるため学び舎へ、エドガーはとりあえずの任務を果たしたため部隊へ戻った。

そんな俺は…いつもならレンフィールに手を引かれて移動だが、逆にフューリーを弾きたいと、年頃の子供の様にタダをこねて

、レンフィールの手を引いて、勉強部屋へと移動していた。

「そんなに慌てなくても、楽器は逃げて行きませんよ」

「せっかく聖堂に来たんだから、早く触りたいよ!入学まで数日しかないし、入学したら楽器を自由に触れる時間だってないでしょ?」

「そうね、自由時間は決まっていますからね」

それだけではない。あまり取れていなかった、家族との時間や友達との時間を作りたい。それが完全消滅してしまったのか、眠っているだけなのか未だにハッキリしない、本当のライトの為。しかし、そう考えていてもなかなか計画通りにはならない。


「何か良い事でもあったのですか?」

もうすぐ勉強部屋に着く。聞き覚えのある声が俺達を引き止めた。

後ろを振り返ると、予想通り言い掛り野郎のゲーリッチがニヤニヤしながらこちらを見ている。

「本堂で楽しそうに話していたのを見掛けたもので。つい聞いてしまいましたよ」

「ゲーリッチ、貴方に答える必要はありません」

いつになく厳しい表情で、レンフィールは威嚇する。今まで俺の前では見せたことの無い顔の為か、甘やかされてる俺自身もビクッとしてしまう。

「レンフィール様、そんな厳しい目で睨まなくてもよいではありませんか?私は質問しただけです」

「言ったはずです。貴方に答える必要はないと。さぁ、行きましょうライト」

先程とは逆に手を引っ張られ、その場を後にする。アイツが戻って来たその日に、二回も絡まれるとは思ってなかった。レンフィールもメルリ達から強く言われたのだろう。ゲーリッチには十分警戒するように、と。


あれから少し足早に勉強部屋へ向かった。それまで彼女の警戒の色はきえてなかったが、部屋に入った瞬間いつもの表情へと戻っていた。

「ちょっと面倒な人に絡まれましたね…。私や聖堂長、修道院長が一緒の時なら大丈夫ですけど」

フューリーの準備をしながら、少し困った声で小言を漏らす。

「ねぇ、レンフィール。ゲーリッチさんは何故絡んで来るんですかね?正直、聖堂に初めて来た時からですよ?」

軽くため息をつき、レンフィールは説明してくれた。その内容は簡単に言うとストーカーだった。

「ゲーリッチは、聖堂長に一方的な想いを寄せているのです。老若男女問わず、聖堂長に近付こうとする人達に嫌がらせをする様になりました」

「だから、初めて聖堂に来たとき、聖堂長に呼ばれたって言ったから言い掛りをつけて来るようになったんだね?」

「そうでしょうね。聖堂長は自らを犠牲にして、彼を監視出来る聖堂の職に就けました。他の所で問題が起きないように。…それでも、問題になったのですからどうしようもないですね」

メルリは知ってて聖堂に連れて来たんだ。それも勘違いされる原因になっているのでは無いのか?

どんな世界でも、間違った思い込みや勘違いは存在しているんだと、自分に言い聞かせ、ゲーリッチの話題からフューリーへと話をそらした。


それから数日が過ぎ、世間では明日で終わりだと言う雰囲気になっていた。そんなおり、伝達魔術にて俺の所に呼び出しが掛かった。

『明日で今年も終わりです。しかし話した通り明日は会うことができません。入学についての打ち合わせをしたいので、本日中にご両親と共に聖堂長室へ来てください。道中何かあったら大変なので、準備が出来次第連絡を。エドガーに迎えに行かせます』

エドガー様が迎えに来るのかよ…。これは父さん達には同行してもらわなくては。父さんの仕事は昼の刻まで。午後からは行けるな。

「母さん、父さん仕事昼の刻まででしょ?午後から聖堂に来てほしいって伝言あったんだけど…。入学についての打ち合わせしたいって」

「えっ?随分急ね。仕方ないわね。父さんが帰ったら向かいましょ」

伝達魔術にて伝えられた事をそのまま伝えたが、やはり母さんは急すぎると反応を見せた。でも、上流階級の方々に呼び出しされたら、下の者は従わなければならない。そう言う暗黙のルールがアウンティナルーには存在している。

「午後からなら行けます」と伝達魔術で返信したところ、更に「昼の刻に迎えに行きます」と返ってきた。これは父さんは慌ただしく出発することになりそうだ。


軽く準備をしてるうちに、あっという間に昼の刻になり母さんもそわそわし始めた。父さんが先かエドガー様が先かそんな時間帯だからかな。

「ただいま」

そんな時父さんが先に帰ってきた。

「あなたおかえりなさい。急なんだけど、ライトと一緒に聖堂に呼ばれたの!すぐ行けるようにして!」

「なに!?いくらなんでも…」

コンコン

父さんと母さんのやり取りの途中、ドアをノックする音が。エドガー様だな。

「我はアウンティナルー第一騎士団、副団長エドガーなり!聖堂長の命により迎えに参った!」

随分と大越町で派手なお迎えですね。近所の人達が何事かと集まっちゃうでしょ。

「はい、お待ちしてました」

一声掛けながら、玄関のドアを開くとエドガーと部下らしき人達が数人立っていた。悪い事をした訳では無いのに、なかなか物々しい空気が漂っている。

こんな状況で、ミラを除く家族がぞろぞろと歩いていたら、間違いなく逮捕されたと思われても不思議ではない。

「こんなに沢山で来たんですか?」

「仕方ないだろう。メルリ様からの指示だ。叛く訳にいかない」

慣れ親しんだ顔な為、普通に会話をしているが、両親や野次馬で集まった近所の人達は緊張の面持ちだ。

「お初にお目にかかります。父のディーダです。こちらが母親のウィルです」

「準備は出来ているようだな。では、聖堂へ向かうぞ」

エドガーを含め十人弱の騎士達に囲まれ聖堂へ向かう。道中何事だと色々な人達に見られたが、もう気にする事すら忘れていた。先頭でずっとエドガーと、他愛もない世間話に勝手に盛り上がっていたから、状況を忘れていたのもある。父さん達は終始緊張していたようだが。


「ここまで来れば問題ないだろう。お前達は本部に戻れ。私はこの者等と聖堂長に呼ばれている」

「はっ!」

エドガーの一言で部下達は一斉に居なくなった。

「では、ライト、ご両親。聖堂長室へ参ろう」

本堂の左奥が聖堂長室だ。しかしここでも両親は緊張の顔をしている。そう、二人は本堂に入るのですら初めてなのだ。母さんは、仕事の兼ね合いで修道院に行くことはあるが、それでも裏口のみ。父さんの仕事は関所に籠りっきりなので、聖堂に来る用事等ないからだ。

「そんなに緊張しなくていいよ?」

「いや、しかしだな…幼い頃から聖堂があって、外から眺める事があっても中に入るのは初めてだからな…」

「ディーダよ、そんなに重苦しい所ではないぞ?」

それでも父さんは硬い顔のまま。まぁ、帰る頃に慣れるでしょ。


コンコン

「開いてます」

ノックの後にメルリの声が聞こえた。

扉を開き部屋に入ると、見慣れた顔が揃っていた。しかし、父さん達は何故ここにフォスター先生がいるのか理解できていない。説明してないから無理もないが。

「お久しぶりですね。ディーダ、ウィル」

「お久しぶりでございます。息子がお世話になっております」

丁寧な挨拶の後、両親には改めて一人一人メルリより紹介された。その際にフォスター先生がレンフィールの姉だと言うことを知らされ、更に驚きをみせたのだった。


「さて、お二人をお呼びしたのも、入学と入寮についてのお話をしようと思いまして…」

「はい、お言葉ですがある程度息子から伺っております。下着関係の着替えのみ準備しろという事で間違いないですか?」

母さんには準備物は話していた。しかし、メルリが話そうとしている事はそれだけではなさそうな感じではない。

「準備物は間違いありません。そして、これはお願いと言うより、こちらで決めた事なので伝えるだけです」

俺も聞いていない事があるらしい。一体どんな…?当然、両親も不安で強張った表情に変わる。

「お父様お母様。そんなに硬くならないでくださいませ」

「そうです、全てはライトの安全を保証するなら計画ですから」

「そうでなければ、私が部下を連れて迎えに行くことなどなかった」

レンフィール姉妹に続きエドガーさえも、空気を和ませる言葉を掛ける。

俺の安全ってなんだ?

「単刀直入に言いますと…学習院に通っている間、ライトの全管理権を私とミューレンに預けて欲しいのです」

「なんとっ!?いくらなんでも…」

「それは困ります!ライトは私達の息子です!」

それってメルリとミューレンが、一時的に親代わりになるってこと?どんな意図が隠れているのか?

「誤解しないでください。あくまでも、学習院に通学している間だけです」

「とりあえずお伺いします。内容と理由を知らないうちは、いくら聖堂長のお願いでも了承できません」

説明する順番が逆だったと思う。メルリは先に言うべきだった。それでなければ、父さん達はこんなにも警戒しない。幾分張り詰めていた空気が緩んだかと感じていたのに、再び重い空気に部屋の中は包まれた。それに、この話は俺も聞いていない。

たが、メルリ達は冷静だった。こんな雰囲気になるのも想定済みだった様だ。

「説明しましょう。まず、今回ライトが学習院に入学する事…これ自体異例に近いのです。南区や東区から学習院に入学が決まったと言う事例が少なく、数年…いや、数十年振りの事になります。従って、学習院に在学中の生徒達や一部教師に嫌がらせや、見下された態度を取られ、何かしらの被害を被る可能性もあります。また、下町の人々にもライトが学習院に通う様になった事で妬みやひがみを受ける事も考えられます。そう言った事が無いように、私達が後ろ楯になります。と、言う話です」

そんな事あるのか?でもよく考えてみれば、あのゲーリッチは相当東区や南区の人を嫌っていた。立場的な部分もあるのだろうけれど、金持ちだろうが貧乏だろうが、自分が生きた世界にそんな差別はない。むしろ平等だ。

だが、この世界は違う。その話を聞いた父さん達は、先程とは違う面持ちで、メルリの話を整理している。

「学習院に通っている間…だけですか?」

「はい、そうです。その間、ライトはもちろん、家族の安全も保証します」

「卒業後はどうなりますか?その後も心配になります。人間の妬みなんかは、いつまで経っても無くならないですよ…」

「卒業までには、そう言った人々は居なくなるでしょう。常に警護が付いている状態で、一年二年と続けば周りも手出し出来なくなりますよ」

父さんとメルリのやり取りを黙って聞いていたが、そんなに怨恨的な感情を持ち続ける人達が多いのかと感じる。よくよく考えれば、家族にとってはかなり危険な橋を渡らせている様だ。


しばらくして、父さんと母さんが顔を合わせ軽く頷く。どうやら結論が出たらしい。まぁ、どう考えても委託するしかないだろう。ここまで来て、断ったりしたら今度はメルリ達を敵に回してしまう恐れだってある。

「わかりました。聖堂長にお任せします。ただ、学習院内での行事等がない週末に関しては必ず帰宅させて頂きたいと思います」

「それはお約束致します。当然、帰宅する際また、学習院に通学するその時も警護をお付けし、ライトの安全確保を優先します」

その二人の言葉で決定となり、父さんとメルリは硬く握手を交わした。

こうして入学前最後の打ち合わせを終え、あっという間に新年を迎え入学式となった。

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