表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しい自分がやるべき事  作者: かもめ
第十三章
16/37

~試験~

「自宅で、どんな事をやっているか話しても大丈夫?」

レンフィールとの音楽の勉強が終わり、俺はいつものごとく聖堂長室にてメルリと話をしていた。

ミラを含めた家族が、学び舎と違う学習を聖堂で行っている事もあって、どんな内容なのか聞きたがっている為に、お伺いを立てていた。勝手に話して、実際は禁止事項でしたなんて事であれば、後々厄介な出来事に巻き込まれても困るからである。

「魔術の事以外は話しても大丈夫。東区や南区の人達に魔術の事を話すと、必ず自分もやってみたいと言葉に出るし、それにライトもまだ魔術に関しては勉強中の身。間違った教え方をすると、下手したら死人が出る可能性もあるから」

「わかった。一人一人魔術を持っているのにねぇ」

「魔力と言う力に目覚めるか、魔力の方から外に出てしまうか…とにかく、自然に何かの兆候があったときに初めて使い方を教えるのが決まりになってるからね」

死人が出るほどであれば、魔術に関しての話は伏せておいた方が安全。それ以外の事でも学び舎ではやらない事だらけだから、剣術と音楽の事だけにしておこう。


「ただいま」

寒くなった夕方、俺は足早に自宅へと急いだ。特に何か用事があるわけでは無いが、とにかく寒い。のんびり歩いていたら風邪引きそう。

「お帰りライト、寒かったでしょう。こっちで暖かいミルクでも飲みなさい」

迎えてくれたのは母さんだった。予め準備していてくれたのか、ミルクを出してくれたのは、すごく有り難い。体が暖まる。

間もなくミラと父さんも帰宅。二人とも寒さのせいで顔が真っ赤。この数日でグッと気温が下がったのは気のせいじゃ無いだろう。

「ライト帰ってたんだね?今日は話し聞かせてね?」

「うん、昨日は貰った薬のせいで眠くなったんだ。今日はまだその薬飲んでないから…夕飯食べながら教えるね」


「聖堂はどうなの?」

夕飯を食べながら、口を開いたのはやっぱりミラだった。その言葉に父さんと母さんも俺の方を見る。こうも三人に見られると、身内の人達でも緊張するな。

「う、うん、剣術と音楽が中心にやってるよ」

「ほう、剣術か。兵士や騎手としての養成もやっているんだな」

父さんは学習院を卒業した訳では無いが、関所には兵士も常駐しているため、そう言った類いの話も聞くのだろう。前以て、兵士の人達にでも、聞いたかも知れない。

「ねぇ、音楽ってどんなの?歌?」

「まだ、父さんと話しているんだから、待ちなさい」

母さんとミラのやり取りも横から割り込んで来る。普段聞きなれない『剣術』と『音楽』の勉強って聞いただけで、眼を輝かせているのがわかる。

「音楽は…楽器だよ。歌も教わる予定になってる」


ただ、それだけの会話なのに家族は喜んでくれた。両親は不安を抱えていたようだが、多少は和らいだのか緩んだ表情になっていた。不安な中、聖堂に通わせてくれたのは間違いない。少しでも安心させる為にも、しっかりと学習院を卒業するまで勉学に励まなくては…。竜一であってライトの姿をしている俺は、せめてそれくらいの事をしてやらなくては、本当のライトに顔向け出来ない。…この家族に心配させないという事が、また一つやるべき事として増えた。…いや、やるべき事じゃなくて、家族として当たり前事か。


翌日、新たな気持ちと共に聖堂へ向かい、俺に課せられた学習をこなしていく。少しずつ段階を上げながら、徐々に自分のレベルが上がっていくのを感じながら…そして、一月の時間が経っていた。


いつもより少し早く聖堂に向かい、本堂の椅子に座っていた。一緒にいるのは、エドガーとレンフィール。そう、とうとう試験日になっていた。

聖堂長室の扉が開き、メルリとミューレンが出てくる。

二人は俺達が待つ椅子の前までやって来ると、エドガーとレンフィール、最後に俺を確認し、重い空気が流れる中メルリが話し出した。

「とうとう、この日が来ました。この約一月ご苦労様でした。これから北側にある学習院へと向かいますが、引率者を二人決めなくてはなりません。そのうち一人は私。そしてもう一人は、エドガーとレンフィールのどちらかにお願いします」

「お言葉ですがメルリ様。ご両親ではないのですか?」

何かを疑問に感じたエドガーが質問する。レンフィール以外の一同はメルリに視線を向けるが、答えたのはミューレンだった。

「エドガー、通常は手続きさえ終われば誰でも入学出来る学習院ですが…今回は、試験を受けて合否を得られなくてはなりません。エドガーやレンフィールは試験等なく、すぐに入学を迎えましたのでご両親が出席した筈です。ですが、先程も言いましたが試験です。推薦者と講師代表と二人同行する必要があります」

なんとなく言いたい事はわかる。とりあえず、我が家は裕福ではない。むしろ貧困層の一家庭。入学するのに一定の金額を納付する必要があると聞いたが、我が家にはそんな大金あるわけがない。だから試験を受ける事になった。試験に合格すればお金を納付する必要がなく入学出来るからだ。

「試験だから同行の必要がある…と?」

「はい、ましてライトは東区の子供。東区の子供が自分から学習院に行きたいと言う訳がありません。家庭のため働いた方が稼げるからです。学び舎にて優秀な子供がいるとフォスターより報告を受けた私が確認し、学習院長に推します。そしてあなた方二人は学習に携わり、この子はこれくらい出来ますと推さなくてはならないのです。…別な言い方をすれば保証人ですね」

試験を、受けた事のない二人には少し面倒だと思ったらしく、一瞬、表情が苦いものを噛んだ様になっていた。

「それはライトが、東区出身の受験者だからですか?」

「いえ、中流以上の者でも、受験するとなれば必ず保証人は必要と、なります」

それが意味しているのは…現代で言えば推薦入試なのだろう。認められれば、授業料免除の特待生扱い。何か、俺の生きた時代と精通する部分があるように思った。

「ライト、私が同行します。聖堂では全面的にお世話する様にとメルリ様から申し付けられておりますから」

いつもの優しい笑顔でレンフィールが引き受けてくれた。まぁ、全面的にと言ってはいるが、授業以外には顔を合わせていない気がする。

こうして、推薦者がメルリ、講師代表者としてレンフィール引率者が決まった。これから一つの山場を迎える。なんとなく緊張してきた。なるようにしかならないから、一月分の時間を無駄にしない様にしなくては。

そんな少し重い空気の中、何かを思いだした口調でミューレンが声をあげた。

「そういえば…さすがに普段着では印象が悪いかもですね?」

皆が俺の格好を確認する。そして一斉に「う~ん」と首をひねった。そんな悩ましい顔をされても、俺には他に服はない。うん、どうしようもない。貧困層の東区ですよ?わかってますか?…と、言ってしまいたい。

「メルリ様、ミューレン様。少々お時間頂いてよろしいですか?」

「構いませんが、どうしたのですか?」

時間が欲しいとレンフィール。その言葉に怪訝そうなメルリ。笑顔を崩すことなく、俺の手を取る。

「ライトを着替えさせてきます。試験には間に合う様にしますので」

「レンフィール急げ。あまり時間が無いぞ!」

エドガーに急かされ、俺はレンフィールと共に勉強部屋へ。本来禁止事項なのだが、そんなのお構い無しで何処かに伝達魔術を送る。

勉強部屋に入ると、荷物を置きすぐに着替えられる様に準備しておきなさいと指示される。俺は言われるがまま、支度をして待つ。

いつになくせかせかと動くレンフィールによって、粗方服を脱がされた。寒い冬だと言うのに、下着姿にされたものだから、いくら建物の中とはいえ寒い。


「レンフィール様!お待たせいたしました!」

乱暴に扉が開き、聞きなれない声が響いた。彼女に支えている従事者だろうか?その手には着替えと思われる、東区では見たことのない綺麗な服を携えている。

「少し遅いですね?今は話している時間がありません。さぁライト、この服を着て聖堂へ戻りますよ」

「こ、こんな立派な服…」

何処かの学校の制服風。二つボタンの紺色ブレザー、グレーのスラックス、そしてワイシャツ。ネクタイこそ無いが、東区では見掛けない上等な物。一点一点の名称が合っているかは判らないが。

「私からの贈り物です。さぁ、早く」

半ば強引に着せられ、服装は整った。

再び廊下を足早に聖堂へ戻る。


「皆様お待たせ致しました。学習院へ参りましょう」

いつもはおっとりとしたレンフィールだが、この短時間はそれを感じさせない俊敏だった。

「ほぅ、よく準備できたな」

「これなら十分です。聖堂長、そろそろ…」

時間が差し迫っているのだろう、俺の服装を確認しミューレンが学習院に向かうように促して来る。

「では、参りましょう。ライトは、私達に着いて来て下さい」

その一言で出発した。


本堂の裏側になるのだろうか、本堂から出た後左、左と廊下を進んだ先に、一際大きい扉があった。予想するに、西区や北区に住まう、中流階級達が使う出入口。この先は同じ街でも足を踏み入れた事の無い領域。別に、街の中が壁や柵で仕切られていたりするわけでは無いが東区や南区の住民は、商人でもない限り立ち入ることがない。


「では、行きましょう。ここを出れば学習院は直ぐです」

「お留守中の聖堂は、私が見ます」

「メルリ様、私は一旦、本部に戻ります」

ミューレンが聖堂のお留守番。エドガーは団に戻ると言う事なので、予定通りに俺、メルリ、レンフィールの三人で学習院へ向かう。

同じ街なのに、西区に入った瞬間全然雰囲気が違う事に驚かされた。積もった雪はきちんと雪掻きがされており、道は石畳で、しっかりと区画整理が行われている事が積っている雪の上からでも判る。俺の住む東区も区画整理されているのだろうが、割と雑な感じでお世辞にも街並みは綺麗とは言えない。

「街が違い過ぎて驚いている様ですね」

クスクスと笑い緊張をほぐしてくれたのはレンフィールだった。

「同じ街と思えなくて…」

「今からそんなに緊張していては、試験でいい結果が出ませんよ?」

そんなやり取りをしている間に、学習院に着いたらしい。距離にして百メートルくらいか?あっという間だった。大雪とまでは言わないが、そこそこに積もっているため、寒い中移動する事は覚悟していたのだが。

「今日の試験はライト一人です。周りを気にする必要が無いので、出された課題を確実にこなせば大丈夫です」

「一つの山場だね」


通りに面した正面入り口と思われる所から中に入り、左側にある総合案内的なカウンターの女性に試験で来たことを告げると、間もなく案内人がやって来た。

俺達一同は、その案内人に連れられそのまま奥の待合室に通された。

「ここで少し待機ですね。ライト、この一月学習したことがそのままやれれば、結果は着いてきます」

冷静にメルリは言う。

「一番手強いのは、魔力の扱いです。初歩的な内容だと思われますが、試験を受ける大半が魔力の扱いが不十分だとして、不合格になります」

脅す様にレンフィールが続けるが、メルリもレンフィールもニコニコと笑みを浮かべながらフォローしてくる。

「教えてもいないのに、学習院で教わる伝達魔術が使える位ですから、問題ありません」

「そうですね、何も心配していません」

何か余計にプレッシャーを感じる。なるようにしかならないか。


コンコンとノックする音がなり、一人の男性が入ってきた。

「間もなく、入学試験を開始します。試験は学習院長立ち会いの下、文字読み書き、計算、剣術、魔力操作の順に行います。推薦者のメルリ様、講師のレンフィール様は壁際の椅子で待機願います。受験者のライトは中央の机にてお待ち下さい」

各々が指定された位地につく。試験が俺一人ってだけに変な緊張が襲ってくる。今更、どうしよもないのだが。


出入口の扉が開き、コツコツと靴の音だけが響き渡る。…一人ではない。振り返りたい気持ちを抑えつつ正面を向いたまま、その人物達が視界に入るのを待った。

目の前に現れたのは、法衣を纏っている長身の年配男性。短髪白髪て、いかにもって雰囲気を放っている。厳しい目付きで、赤茶っぽい瞳で睨むように視線が飛んでくる。そしてもう一人はブランドルだった。

「待たせたな。私がこのアウンティナルー学習院の学習院長ロックヴォルフである。そして、今日の助手ブランドルだ。短い期間で学んだ事を十分に発揮して合格出来るように」

野太い声でそう語った後、壁際に顔を向けビクッとなったのは見逃さなかった。

「これは、メルリ様、レンフィールも…まさか推薦者でしょうか?」

「はい、私が推薦者でレンフィールが講師です。ですが、贔屓はしてなりません。いつもの様に厳しく判断して下さい」

「学習院長、ライトに読み書きや計算の試験をしても…話になりませんよ」

この二人の組み合わせは恐ろしいかも知れないと感じた。常にニコニコと笑ってばかりいるから、こんな空気の重い場では何の気休めにならない。

「では、後は学習院長にお任せします。私達が物言いする場ではありませんから」

「では、メルリ様との挨拶も終わった事だ、早速始めよう」


ブランドルが、テキストの様な本を手渡してきた。それを確認し、学習院長が同じと思われる本を開く。

「最初の一項目から五項目まで朗読してもらおう」

「は、はい」

鋭い目付きで睨まれると、ドキッとしてしまう。別に悪いことをしている訳ではないが、学習院長が話すと緊張が走る。


一つも読み間違いする事もなく朗読終了。書き試験は単純。計算もせいぜい小学二年生程度。間違える筈ない。違うのは文字の形が違うだけで、やり方は同じ。現代社会から比べたら遥かに劣るこの世界では、座学が解らず勉強が進まなくて困ることはないだろう。

問題はここから。剣術と魔力の扱い。この二つはこっちに来てから教わった内容な為、不安要素はある。真剣にやらなくては山場を無事に乗り切れるのも難しいと感じる。

「読み書きは得意なのか?…ふむ、集中力が切れる前に次の剣術の試験に入る」

実はこの剣術が一番苦手だったりする。決して、運動が苦手で嫌いな訳ではないが、これと言って嗜みすらない。せめて剣道でも経験してましたって事なら苦手意識もないのだろうが…。

『メルリ様、ライトの表情良くないですね?』

『あまり得意ではないようですね…』

はい、お二方ひそひそ話聞こえてますよ。それでも、避けては通れない。


「剣術は、模擬戦とする。相手はブランドル。訓練用の剣…模造品を準備してある。ライト君は、ブランドルに三回当てられる間に一回でも攻撃を当てられれば良しとする」

その説明の間に、ブランドルは二本の模造刀(?)を準備する。一本は自分、もう一本は俺に。この部屋の中で模擬戦をやる様だ。

「判定は私が行う。では、始め!」

心の準備がまだなのに、急に始められてしまった。ええい、あたって砕けろっ!


…まずい、非常にまずい。あっという間に、二本取られてしまった。ここで、一本も取れなかったら不合格になるのだろうか?合否の基準を知らされていない。せめて善戦しなければ。

学習院長の厳しい視線を受けながら最後の立ち合いとなる。真剣であれば既に俺は二回死んでいる。流石に三回目は仕返ししなければ…。

「どうしたライト?私から行くぞ」

不敵な笑みを浮かべながら、ブランドルが間合いを詰めて来る。正直、公平じゃない。大人のブランドルと子供の俺では間合いが違い過ぎる。まぁ、実際の戦場では不利も有利もないのだろうけど。

ブランドルの初手をなんとか出来れば…。一本目も二本目も初手でやられてる。エドガーは模擬戦なんてやらなかったから、捌き方なんて教わってない。一体、何をやってたのか今更後悔。

鋭い縦振りの一太刀が、襲いかかる。どうする!?


無意識でブランドルに飛び込んでいた。俺は襲いかかる太刀筋から体を、微妙にずらしていたらしい。ブランドルの振るう模造刀の空を切る音を耳に感じた瞬間、手に握っていた模造刀をブランドルの首目掛けて振り抜いた。

手に鈍い衝撃が走り、ブランドルは悶絶の表情で咳き込んでいる。

ガタッと音をたて、乱暴に学習院長が立ち上がる。メルリとレンフィールも驚きを隠せない様だ。

周囲を確認した俺は、なんとか一本奪う事が出来たと確信を持てた。

「僕、当てること出来ましたよね?」

「そこまでだ。まさか本当に一度でも当てることが出来るとは…。何度となく、入学試験を行ってきたが、課題をこなせた者は数える位しかいない。しかも君は最年少だ。一体、騎士や兵士の親を持たない君がどんな訓練をしたら、そんな身のこなしを出来るようになるのだ…?」

考えてなんてやってません。って言える訳がない。無我夢中だった。それだけの事。エドガーからは振り方や握り方その程度でしか教わってないから。

「学習院長、小休止を入れてもらえないかしら?ライトは少し疲れが出てるようです」

少々重い空気の中、休憩を提案したのはメルリだった。確かに続けて試験を受けたからか、ちょっと疲れた。しかもこんな決して広くはない待合室の中で模擬戦をした訳だから尚更。

「では、少し小休止としましょう。私も小用を…」

「ライト…よくやった!頑張れ」

ガラガラの声を絞り出しブランドルに激励を貰った。その後学習院長に続き一旦部屋を出る。


残った俺達三人は、先程の模擬戦の話で盛り上がってしまっていた。

「ライト、よくやりましたね!お姉ちゃんは、びっくりしてしまいました」

ぎゅーっと抱き締められ、めちゃくちゃに撫でられる。俺以外の人の前では表情を崩さないメルリですら、満面の笑み。

「レンフィール苦しいよ」

「まさか本当にやり遂げるとは、想像以上です。次が最難関の魔力の扱いです。今のうちに気分を入れ換えて臨みましょう」

最後の試験前に、また集中するようにと言われるが、メルリには前にも話したがある程度イメージで魔力を操作出来る。たいして難しい事はない。

「うん…でも、魔力の扱いより、実は剣術の方が苦手だったんだ。実は模擬戦なんてエドガー様とはやらなかった」

「才能かしら?」

「才能って事にしておきましょう。魔力に関しては、油断するな、と、言っておきます」

勝って兜の緒を締めろ。この言葉が上手く当てはまる時だった。経験上、人間何か上手く行った時、必ず失敗が訪れる。油断大敵だ。


間もなく再び扉が開き、学習院長とブランドルが戻ってきた。助手であるブランドルは、首が少し赤黒くはなっているが大事には至らなかった様だ。いくら試験で起きた事とは言え、声が出なくなったとか、最悪死んでしまったなんて事になったら、結果合格しても気分が悪い。

「では、最後の試験。魔力の扱い。…ブランドル準備を」

「はい」

学習院長の合図で、ブランドルが準備している間に椅子に戻り、最後の試験を、待ち受ける。

机の上には、見覚えのある玉が転がり落ちない様に、ミニチュアな座布団に三つ並べられられた。

「最後は、その水晶玉を魔力で染める。ただそれだけだ。それだけだが…出来るだけ早く終わらせる事」

「えっ?それだけ…?」

内容が薄い。何か引っ掛かる。簡単には終わらない気がしてきた。

「始めよ」

また急に始められた。くそ、考える暇すら与えてくれないとは。

魔力を指先に集め、とりあえず玉に触れ送る。これは蛇口のイメージ。ひねれば勝手に出てくれるから、ただ放出するだけなら一番都合のいいイメージ。

しかし、予想通り染まらない。何か特殊な加工か細工がされているのだろう。恐らく中に何かが入っている。誰かの魔力か?表面張力を確認出来る位バケツに水を入れたら、それ以上水を追加して入れられない。それなら…

玉に手を添え今度は、掃除機のイメージ。するとほんのり玉が光り、俺の中に魔力が流れ混んできた。たいして強力な物ではない。玉が光を失ったのを確認し、次の玉へ。

「ライト、そこまでだ。もういい、頭の回転がいいな」

二つ目の玉から魔力を抜きにかかった時、学習院長に試験を止められた。

「よくわかったな、この最後の試験の罠」

「お言葉ですが、学習院長。理屈を考えたらすぐに答えが出ました」

「見事だ。追って合否は連絡する。メルリ様から結果を聞けばいい」

始まった途端に、終わったのだから引率の二人は何事かと目が点になっている。

二人は若干左後方の壁際に腰かけているため、俺の手元が死角になるらしく、何が起きたのかわからないのだろう。未だに状況を把握出来ずに、目を白黒させている。

「メルリ様、後にライトから事情をお聞きになってください。一体こんな頭の冴える少年をどこで見付けたものか、私がお聞きしたいですな」

学習院長は、今までにない笑顔でブランドルを引き連れ部屋を出ていく。結果はメルリを通してとの事。伝達魔術か何かで呼び出されるのは間違いない。


「さて、ライト。何があったのか聖堂に戻って報告してもらいます」

「お姉ちゃんも知りたいから、詳しくね?」

悪いことをした訳ではないのに、二人に連行されて聖堂へ戻るのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ