~感動~
全ては想像で操作出来る。別に誰かに教わった訳ではない。だが、ヒントはあった。水瓶。その水瓶に蓋をするように…それがヒントだった。メルリもミューレンも、何度となく子面倒臭い事ばかり。拘束、放出、備蓄…正直うんざりしてた。そんなもの省けないのか…?
ミューレンは驚きを隠せない表情をしている。そりゃあそうだ。本来、今日はあの子面倒な放出やら備蓄やら教わる予定だったから。それを俺は、イメージ一つで伝達魔術を使ってみせた。これで確信を持てた。水瓶に蛇口とも考えた。でもそんなの無駄。だって、彼女等の言う拘束状態を保ってさえいれば、何かをイメージするだけで、魔力は言うことを聞いてくれる。余計な詠唱等要らない。難しい魔術でなければ。後は魔術の種類がどんなものがあるのかさえ、勉強すればいい。
「良くできたね、凄いねライト」
レンフィールは満面の笑みでベタ誉めしてくれるが、ミューレンは固まっている。
「どうやった…の?まだ、私何も教えてないのに…」
「想像。僕にしか出来ない方法。ただ、僕はどんな魔術が存在しているのか判らないから、今はまだ伝達魔術しか出来ないけど」
想像に当てはまるものが電話だったなんて言ったとしても、意味が通じる筈がない。俺が竜一として生きた現代社会において、言葉や文字を遠方に送る手段は沢山ある。その中でも電話は一番と言っても良いほど馴染み深い。
「それにしても…まだ何も…」
「それ以上は秘密。もっと沢山魔術を覚えたら教えるよ」
教えるって言っても後々なんて説明するか考えなくては。今までは当たり前にあったものがない世界で「これはこうで、あれはあれで」って説明しても解釈出来ずに終るだろう。
「ひとまず一旦休憩しましょうか?」
余程衝撃だったらしい。昼の刻まではまだ時間があるが、ここで休憩だそうだ。
「ミューレン様、ライトとお話ししててもよろしいですか?」
「構いません。休憩が終わったら…」
「聖堂長の所…でしょ?」
まぁ、そうだろうと思った。メルリとミューレンの二人に詰められるだろうな。
教師として教える項目が少なくなる方が、煩わしさも減って良いのではないのかと思うのだが。さっきのミューレンの表情は、どう見ても穏やかではなかった。あぁ、やだなぁ。
レンフィールと他愛ない話をしているうちに、ミューレンが戻ってきた。さっきよりも険しい表情で、軽く睨まれる。
「ライト、行きますよ?レンフィールは聖堂まで同行してください」
「かしこまりました」
その空気を読んだのか、レンフィールの雰囲気もガラッと変わった。もう、そんなにピリピリしなくてもいいと思うんどけどな。仕方ない、怒られて来るか。
「レンフィール、なんで、修道院長怒ってるの?」
「なんででしょうね?」
相変わらず手を繋ぎミューレンの後ろをついていく。後ろ姿だが、溜め息を吐いたのがわかった。すいませんなんか、余計な事しちゃった?
無言で移動する事数分、聖堂長室前に到着。レンフィールに手を振り一時的にお別れ、ミューレンと共に室内へ。
中に入った途端、ミューレンに抱き上げられ、強制的に椅子に座らされた。
「な、何かしました?」
二人に睨まれ言葉が出てこない。
「ライト、どうやったの?」
「世の中の常識を、狂わせるつもり!?」
あぁ~…あれか!?なんか凄い大問題?世の中の常識を知らない俺な、なんとも思わないが。
「私は何も教えてないのに、何故、伝達魔術を使えたの!?」
「その話をミューレンから聞いたときは、腰が抜けそうになったわ…。学習院に入学して、初めて習う基本魔術が伝達魔術なのに」
想像以上に詰められた。詳しく説明しても、こっちとあっちの常識が違うため、うまく伝わるか不安だが一応話す事にした。
「…って訳。まだまだどんな魔術があるか俺には判らない。それは、これから教わって覚えるつもり」
洗いざらい話した。
俺が生きた世界には、言葉や文字を遠方に送る手段が豊富にあること。その中で一番馴染み深い電話の話し。それを想像しただけで、魔力が動いてくれる事。うまく伝わったのかどうかは定かではないが、二人ともポカンと聞いていた。目が点になるとはこんなときに使うのか?
「そんな道具があったなんて…」
「正直、この世界には無くて、俺が生きた世界にある。なんて物は沢山あるよ。恐らく他の魔術で、俺が知っている物や道具に当てはまるものがあれば、難しく考えなくても無くても使えるだろうね。もちろん、メルリやミューレンの言う、放出や備蓄だって覚えなきゃいけないだろうけど、想像で魔力を動かせるのが解ったから、既に俺は出来てるよ」
右手の人差し指を立て意識を集中させる。そして、少しずつ蛇口を開いていくイメージを浮かべる。予想通り、魔力と思われるものが指先に集まる。うっすらと指先にモヤがかかった様に光る。
「ね?」
「確かにさっき言ってた通りに、ライトにしか出来ない魔力の制御方法ね」
その指先を見つめながらミューレンが呟く。一旦、表情を引き締めメルリが続けた。
「わかったわ。周囲に影響が無いなら、ライトの好きなようにしていいよ。ただし何かあったら、従来の手段を使う様にね。それと、この話は私とミューレン以外には喋らないで。…あまり長い事ここに籠っていると、エドガーやレンフィールが心配するからもういいわ」
「ミューレン、もういいってよ?」
「あっ、話し方が…」
「昨日、メルリがうなだれてたから大丈夫。じゃ、昼食にしますよ~」
怒られる事でなかっただけで気分爽快。さっさと聖堂長室から退散した。
しかし、俺にはたいした事と思って無かったが、ここまで二人に追及されるとは考えてもいなかった。素直に、従っておけば良かったと、つくづく思った。
昼食を挟み、エドガーと中庭へ移動。
「昨日の内容は覚えているか?」
「大丈夫です、バッチリ覚えてますよ。あれだけ同じこと繰り返してましたからね」
少し皮肉混じりに言い返したが、笑って誤魔化された。初日にしてはなかなか内容がハードだった為、体に堪えると思ったが、あの変な薬っぽい物体のおかげか、何処も痛くないし疲れもスッキリと抜けている。まんざら嘘ではなかった様だ。
「あの薬、眠くなります?」
「そうだな、効果が出始めると眠くなるな。その調子だと良く効いた様だな」
見た目は正○丸だけど、匂いはキツくない。代わりに相当な睡魔が襲ってくる。たが効果は抜群。似た者同士と言いたいが人ではないから、似た物同士と言っておこう。
「帰宅した途端に落ちました」
「そうかそうか、じゃぁ今日は一粒渡すから家に着いたら飲む方がいいな」
「そうします」
今晩は、ミラを含めた家族にこの数日どんな事を修道院で、やって来たのか話さなきゃならない。別に報告しなきゃならない訳ではないが、何をしてきてるのか家族は気になってるらしい。その為にも、帰宅と同時に落ちるのはマズイ。今朝だって散々言われたあとだし。
「今日は昨日の復習。とは言え、握り方は省くぞ。構えから振り方だ」
これがなかなかキツい。子供用と言ってもそこそこの重さが両腕にのし掛かる。これが何日続くのかと考えるだけで気が滅入る。エドガーの持っている薬がなければ、早々にリタイアしているに違いない。
「昨日を大分様になったな。よし、一旦休憩するか。その後はつぎの段階に進もう」
体を動かしているからなのか、今は冬だと言うのに寒さを感じない。乾布摩擦もこんな感じなのか?やった事ないけど。
「エドガー様は、どんな立場にある方何ですか?」
「私は、第一騎士団の副団長だ。そう言えば、私の事に関しては何も話してなかったな」
初めて会った時、割と砕けた感じに話す人だと思っていたが、少し話し方に気をつけろと言われてから、彼は威厳を放つ様な固い雰囲気になっている。なんか、偉い人達って面倒なのね。
「偉い立場なんですね?何かしら実績や戦績が無ければなれないんですよね?」
「まぁ、そうだな。東区や南区に配属されている兵士の管理、街全体の警護が主な仕事になる。もちろん、凶悪な魔物が出た時なんかは、各団から選抜されて出撃なんて事もたまにある」
「魔物…ですか?」
街の外に出たことなんてないから状況など知らないが、どうやら魔物がいるらしい。高く分厚い壁が街を取り囲んでいるが、それも相手の魔物次第で破壊される時もたまにあるそうだ。
「もちろん、魔物だけ警戒している訳ではないない、さっきも言ったが街の警護や、街の兵士の管理、援護要請があれば戦場へだって行くこともある。どんな状況下に置かれても対応出来る様に、様々な訓練を行うのだよ」
漫画やゲームのイメージだと戦っている事が多い兵士や騎士だが、こうして話を聞くとそれだけではなく、意外と仕事が多い仕事なのかも知れない。
「おっと、少し休憩し過ぎたな。続きを始めるか。話の続きはまた今度だな」
「一番聞きたかった事が聞けてないですけどね」
「楽しみは後に残しておくものだ」
笑いながらエドガーにはぐらかされた。少しずつ聞けばいい。講師役に選ばれた理由、今周囲にいる人達との関係等々。コミュニケーションもとれるしね。
剣術はほぼ体を動かしている。難しい事は無いが、体力が続かない。せめて高校卒業するあの頃の体と力が欲しい。今更何を言っても無理な話。この数日間で極端に筋力が付いたり、体つきがかわる訳がない。…頑張ろ。
夕の刻の鐘が鳴り、エドガーに聖堂の扉まで送ってもらい、疲労回復薬を受け取る。そんな名前じゃないだろうけど、なんて言っていいか判らないから、勝手に呼び名を付けた。
「じゃぁ、また明日な」
「はい。薬ありがとうございます」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ、髪がボッサボサになったところでエドガーと別れる。何もこんなにしなくてもいいと思うのだが…。
髪を整えつつ聖堂の中へ入ると、そこはレンフィールの美しい歌声が響き渡っていた。心地よく伸びのあるその声は、普段彼女と話をする時に聞く声とは全く別人の様だ。
フューリーを弾くその手元は、ぼんやりと薄い緑色に光を放っている。その事からレンフィールの適性色は緑だと確認できる。
「レン…お姉ちゃん」
一区切りしたところで声を掛ける。彼女も音楽に浸っている時は至福の時なのだろう。いつもより優しい笑顔で迎えてくれた。
「ライトこっちにいらっしゃい」
首を軽くかしげ、レンフィールに言われた通り近づく。ぐいっと抱き上げ、膝の上に座らされた。
「伝達魔術、良くできましたね?魔力の出し入れも出来ている様ですので、今日から楽器を使いましょうね」
その後は手を引かれ勉強部屋に移動した。
片隅に置いてあるフューリーを手元に準備し、昨日の譜面を机の上に広げる。レンフィールは自分の椅子の隣に、俺が座る椅子を並べて置き、決して狭い部屋では無いけどわざわざ隣にしなくても。
「隣にいた方が、説明するのが楽だから」
ニコッと笑いながらレンフィールは応える。イチイチ立ち上がらずに、一つ一つ話せると言う事ね。
「はい、フューリーを持って…」
言われるまま受け取り、フューリーの重量を確かめる。そう、これが初めてこの世界の楽器を触った瞬間だった。
手が震える、今自分の手の中に楽器がある。心臓の音が周りに聞こえているのではないかと思う位にドキドキと高鳴っている。あれからどれくらいの時間が経っているのか判らない。ただ言える事は、一日に一度も楽器を触らずに暮らしたことが無かった。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ?」
「い、いや…」
緊張している訳ではない。歓喜と感動が同時に押し寄せている為、手が震えている。
今までの見慣れた楽器とは違うけれど、実際に心地よい音色をレンフィールが奏でているのをみている。あの音を自分で響かせる事が出来るかと思うと、どれだけ幸せな事か。
「少しずつ魔力を放出して…、フューリーに流す様に。一つ弦を弾いてみましょうか?」
無言でコクっと頷き、蛇口をイメージして、少しずつその蛇口を開きフューリーに意識を持っていく。指先が淡く光を放つ。そして…
…ピーン…
鳴った。レンフィール聞こえた!?俺が鳴らしたんだよ!?
「お姉ちゃん!鳴った!音が鳴ったよ!」
ただの一本の弦を弾いただけの音。メロディーなんてまだまだ程遠い…いや程遠いって言葉ですら当てはまらない。
「上出来です。そんなに興奮しないで?魔力を制御出来なくなりますよ?落ち着いて」
レンフィールは優しく俺を撫で落ち着かせる。その彼女の手ですら心地よく感じる。
「一つでも音が出れば、後は弾き方を練習すればいいだけです。他の楽器は応用ですから」
俺は嬉しさのあまり興奮しっぱなし。レンフィールは多少呆れ顔になっていた。
ちょっと浮かれすぎた。事が進まないね。はい、反省します。
改めてフューリーを確認すると、ギターの様に持ち弦を弾く。ギターで言うサウンドホールはなく、ネックのフレットの数も大幅に少ない。ギターと箏を足した感じか?大きくこの二つと違うのは弦の数と形。ギターは六弦。箏は十三弦。フューリーは八弦。形は一般的なテレビのリモコンくらいの幅で、長さは一メートルくらい。よく見ると微妙に末広がりか?ギターで言うフレットは、三つ。もちろん、ポジションマークなど無い。かなり原始的な作りである。
「僕の知っている楽器とはやっぱり違うけど…自由自在に弾けたら楽しいよね?」
「そうね、これから沢山練習しましょう」
それからレンフィールの指導の元、基本となる音の出し方を教わった。
今日覚えた事…
一、魔力を通す強さで高低が変わる。
二、魔力を通す量の多少で音色が変わる
三、楽器を扱うのには最低、適性色は黄以上でないと、長時間の演奏は無理だと言うこと(単純に魔力の保有量の関係。ミューレンからは聞いて無いが、適性色が高いほど保有量も多くなるらしい)
「今日はこのくらいにしましょう。ライトの保有量が多いとは言え、ずっと放出し続けていますので、備蓄して補充しなくてはなりませんからね」
「うん、わかった」
終了の時間まで少し早かったため、残りの時間はレンフィールが机の譜面を弾いてくれた。
心地よい音色が勉強部屋を包み込む。聖堂で聴くより音の響き方が変わるが、それでもレンフィールの奏でる音色は優しかった。俺も学校や自宅、そう身近にある楽器は大体触ったが、これほど優しく透き通った音を出せるね、なんて事を言われた記憶は全く無い。
「レンフィールお姉ちゃんは、やっぱり上手だね…」
「そんな事ありません。全ては魔力の調節次第だから、ライトも出来る様になりますよ」
そうか、自分が音響機器になればいいのか。なかなか器用じゃないと上手く楽器を使いこなせないなぁ。目標はしばらくの間、レンフィールくらいのレベルを目指そう。




