決戦直前
弓の国はいつでも剣の国へと攻撃を仕掛ける事が可能だった。同盟国である城の国からは協力できるほど余力は残っていないという報告が来ていたが、剣の国の戦力をある程度削いでおいたという報告も齎されており、港町には船の国からの援軍二千人程が到着している。さらに、城の国と剣の国の戦いや、フィラーナからサンサルが入手した情報等で、溶二の魔法では弓の国の軍を倒し切れないという事は既に割れているため、あとは剣の国に攻め込めば勝利する事ができるという状況だった。
しかし、元々は弓の国のエルティンの侵攻によって始まった戦だったためタタールは剣の国に対して少しばかり負い目を感じていた。そこで、旧鉄の国領をこちらに返せば攻撃はしないという旨の書簡を使者に持たせて剣の国へと向かわせることにした。
使者は剣の国国王に書簡を渡す事はできたが、王都で宿泊する中、溶二の魔法の力を信じている過激な集団に暗殺された。この際、王が使者を守るために用意した護衛も一緒に殺害されていたため、剣の国の本意ではないという事は弓の国側でも理解はしていたが、だからと言って厚意を不意にされたことには変わりない。一応、向こうから返答の手紙が送られて来たため、とりあえずそれに目を通しはしたが、結局タタールは軍を進める事にした。決戦の場は弓の国国外であり、且つ、開けた地形が多い槍の国である。
タタールはまず、旧槍の国領の代官ルーク・ボールディングに、貴国の領土が最後の戦いの舞台になるだろうが、どうか了承して欲しいという旨を伝えるために使者を出し、次に、国の東側に存在する各集落に出撃の連絡をすると、その後自らも軍を率いて東を目指した。
城の国から溶二が戻って来たのは、弓の国の使者が殺害された直後だった。そのため、彼が城の国との休戦が成立した事を報告するよりも先に、
「すまん、弓の国との戦いは止められそうにない」
という話を王から聞かされた。
王があまりにも深刻そうな顔をしていたため、その話は後回しにする事にして、溶二は
「こちらもあまり芳しくありませんね。捕虜が城の国で暮らす事を認める代わりに城の国との休戦は成立しましたが、かなりの人員が城の国に移動してしまいました。当初サンドラは、剣の国へと帰りたいという兵士も多いので、そういった者達はこちらへ帰すと言っていましたが、結局三割程しか帰って来ていません。ひょっとして無理矢理帰さないようにしているんですかね」
と言った。
「いや、彼女は人を騙しはするが基本的に嘘はつかないという噂だ。おそらく、国境で君が兵士達を保護するまでの半月で彼等を洗脳したのかもしれん。剣の国は槍、棍の国に勝って多少余裕ができたとはいえ元々貧しい国だから、兵士達も食い扶持を稼ぐために多芸である事が多い。そういった者達を彼女は欲したんだろう」
と王は溶二の疑問に答えた後、
「休戦後、未帰還の捕虜の事については殺されるなどという事はない筈だ、大至急どうにかしなければならないのは弓の国の方だ。君が帰って来る直前に弓の国から和解の為の使者が送られて来たのだが、その使者は継戦を望む集団に殺されてしまった」
と、話を自ら戻した。溶二の気遣いには彼も気がついていたが、触れない訳にはいかないと考えたためである。それを聞いて
(もう全責任を俺が背負って俺が戦うしかない。弓の国と全力で戦った上で俺が負ければ魔法に幻想を抱く者も消えるだろう。この世界から魔法を取り除くだけなら自害でも可能だが、自害では戦っていれば勝てたという派閥ができてしまう可能性がある)
と考えた溶二は全てを諦めたような表情をしながら、
「弓の国の攻撃に応戦したのも、弓の国の王城を落とすために城の国を攻め込もうとしたのも全て私です、王は以降戦いの事は考えず全て私に任せてくださりませんか。貴方は戦いとは何の関わりもなかった。その代わりと言っては何ですが、セーラとトラトスの町の事をよろしくお願いします」
と言った。
(溶二は死ぬつもりか)
そう察した王はできれば溶二の提案を拒否したかったが、彼が戦う以外に国民の魔法への期待を消す方法が見つからないのでどうしても受諾せざるを得ない。
「分かった、尽力しよう」
王は溶二にそう言うと
「感謝致します」
と彼は返して王の部屋を後にした。
その後、自室に戻った溶二はタタール宛に
(使者殺害の件、誠に申し訳ございませんでした。あの件に関しましては全て自分が原因となっております。剣の国には私の魔法に期待を抱く者が依然といるため、私があなた方と戦って負けない限り似たような事は貴国が戦勝した後も起こってしまうことでしょう。つきましては、私を完膚なきまでに叩きのめす事は構いませんが、私を倒し終えた後、剣の国には侵攻せずそのまま降伏する事を促して頂けましたら幸いでございます。貴国の提案を断った上で、この様な事を貴方に頼むのも変な話であると重々理解はしていますが、何卒よろしくお願い致します)
という様な内容の手紙を書いて使者を出した。
その後、セーラ宛の手紙書いて自室に隠したり、出撃の仕度をしながら夜を待った。
そして、出撃する時間となった。
辺りは彼等見送るために人々が集まっていたが、その人混みの中にセーラはいない。溶二は最後に一目だけでも会っておきたかったが、将軍が自身の都合で出撃を遅らせるわけにもいかないので、後ろ髪引かれる思いで兵を進めて行く。
彼等が向かう先は旧槍の国領であった。そこは、手付かずの草原が広がっているため、どちらかと言えば弓の国軍に有利だったが、溶二が市街地に被害を出さずに戦える場所はそこくらいであった。
弓の国領に侵攻をかける事も考えてはいたが、地の利がより弓の国軍にある状態で戦う羽目になる上に、辺堡を突破する際に目算二発は熱線を撃たなければならないのでやめた。




