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レナードの二人の友人

利の国でレナード・エリオットの処刑が行われてから八日後にタタールはその事を知った。バクスケークから使者が送られて来たというわけではなく、その前にアプトックに残して来た弓の国の兵が伝えに来てくれたためである。

タタールは心の中で

(少し遅かったか、アプトックに船が到着するのはおそらく明日か明後日辺りだ、約束したことの中には君が船の国へと行く手助けも含まれていたというのに本当に申し訳ない…)

と、レナードに謝罪した。

報告を聞いてからというものの、利の国に対する怒りがタタールの中でずっと込み上げて来ている。

レナードは敵国の将軍だったがタタールとは気が合った。

彼は軍人の不遇を改善するため、タタールは制圧した後に邪魔になるから、という違いはあれど、利の国の王と支配者層を倒すという目的は二人とも同じであり、ここ最近は互いに情報を共有するほどの信頼関係があった。そのため彼が処刑されてしまった事が非常に悔しいと感じている。

このままでは怒りでまともな思考が出来そうにないのでタタールは

「何か今後の方針があったら提案してくれるかい、今の僕では蹂躙以外の考えが出てこない」

と言って一緒に報告を聞いていたサンサルに任せた。

「最大の協力者がいなくなりその仲間の兵士達も船の国へと向かった、頼れるのはアプトックに残して来た約二千人の兵だけだ。まず、あいつらにオヅロッグは安全だと吹聴させる。流言飛語を飛び交わせ、信じさせるのは俺たちの得意分野だから利の国の支配者層とやらもたぶん問題なく騙せるだろう。そうなると、自然オヅロッグからは平民は追い出され支配者層だけが集まるだろうからそこを叩けばいい」

「あの国の支配者層は船の国のそれと違って基本何もできないから少しは平民を残しておく筈だよ、それはどうする?」

「二千人の内何人かを支配者層と王の側近の中に潜り込ませよう。そいつらには城に籠るか平民を盾にして逃げるように進言し、平民にはその場に留まっておけば襲われないという噂を流す。そうすれば逃げる連中だけを狙って攻撃できるだろう」

「分かったそれでいこう。僕には他に思いつかない」

方針が決まったので、タタールはそれを利の国に駐在している兵に伝えるべく、数人の兵士を呼び出し利の国へと向かわせた。


風谷七海がレナードの処刑を知ったのもタタールとほぼ同じタイミングであった。彼女の場合は弓の国の港町の片隅に軟禁されていたため、アブリスの酒場の店主の仲間が港町の長となったグラスに伝え、グラスが彼女に伝えるという形で伝えられている。

グラスは店主の仲間から聞いた事を説明した後、店主がレナードから受け取ったという手紙を彼女に渡した。

手紙には

(利の国で暮らすのは少々危険になるだろうから君は船の国に渡ってそこで平和に暮らしてくれ、俺が持っている家の地図を載せておいたから行く当てがなかったらそこを使ってくれて構わない。戦いに巻き込んでしまってすまなかった)

と書かれており、下の方に地図が載っている。

七海は降伏させられたことで既にバクスケークを少し敵視するようになっていたが、この報告と手紙によって完全に敵だと認識した。

(裏切んなっつったのにあの野郎はオレ達を見捨てたからいつかは片付けてやろうと思っていたが、それだけでなくあの野郎オレの恩人を処刑しやがった。絶対に許さねぇ)

レナードは七海がこの世界に飛ばされて来て困り果てていたところ、家や仕事道具の調達、人生相談、暇つぶしの相手などいろいろな事をサポートしてくれており、また彼女も軍に油を安く売ったり、彼の晩酌に付き合ったりして恩を返していた。つまり、レナードは毒親しか知らなかった彼女にとって親のような存在であり、心からの友人がいなかった彼女にとって初めて得た友人というべき存在であった。そのため、レナードと仲良くなって日が浅いタタールとは比べ物にならないほど怒りが強い。

七海はグラスに、

「利の国を叩き潰すのに協力させろ、オレの魔法であのクソ野郎を吹っ飛ばしてやる」

と言った。

「落ち着け、お前を仲間にするかどうかの決定権は俺にはねーよ。一応タタールに言ってはおく」

七海は落ち着くべく煙草を吸い始めると、

「分かりました、ご検討の方をどうぞよろしくお願い致します。利の国の王さえ私の手にかかり御逝去して頂ければそれだけで欣喜雀躍(きんきじゃくやく)にございますので。貴国の王に話を通して下さるだけでも恐悦至極にございますが、実際に王とお会い出来る機会を設けて頂けたらと思います。信用に足る人物か確認しておきたく存じますゆえ」

と言った。彼女はまだ落ち着き切れていない。

グラスは

(タタールとこいつを合わせるのは危険じゃないだろうか、こいつの機嫌を損ねた場合何をするか分からんぞ)

と考えたが最終的に決めるのはタタールであるので

「それも言っておく」

と答えて自分の屋敷に戻って行った。

七海はそのまま辛さが強くなった煙草を吹かしていたが、しばらくして短くなったので靴底で火を消し、空になった箱の中に捨てた。

(こっちではライターは重宝するかと思っていたが、思えば煙草に火をつける時にしか使ってないな)

そんな事を考えながら七海はこっそり埋めて隠していた自身の剣を掘り起こしに行った。掘り起こしてみたところ柄の文字が不老不死に変わっている。ここで初めて彼女は剣の呪いというもの何なのかがなんとなく分かったような気がした。確信に変えるため彼女は手の甲を少し傷つけてみたところ痛みが全くなく、傷は数秒で完治した。

(オレは既に呪いにかかっていたようだな。燕雀之志とはオレのような取るに足らない人間では大したことは出来ないだろうということなんだろうが、それがそのまま呪いになっていたようだ。燕雀之志はおそらく物事が円滑に進まなくなる呪いで、今回付加された不老不死は読んで字の如しだ。不老不死は欲しい奴にとっては喉から手が取るほど欲しい物なんだろうが、オレにとってはこれ以上無いくらいいらねぇな)

寿命を縮めるために吸っていた煙草が、あと一カートン程残っているがもう必要無い。さらに、その後数日間の生活の中で水や食べ物を摂取せずとも生きていける身体になっている事が分かったため、それらも必要無い。

そのため、十数日後タタールと会うため城へ向かう事になった際には剣と着替え以外は特に何も持たずに出発した。


七海はグラスの部下アラクに連れられてタタールの居館に来ていた。道中逃げられないように鎖をつけられていたので不死身の身体ではあったがそれでも疲れている。

居館に入ると、アラクはサンサルの館に向かったため部屋には七海とタタールの二人だけになった。

タタールはまず、

「遠路遥々ご苦労様です。お疲れでしょうから良かったら飲んで下さい」

と言って茶を彼女に出した。

(毒が入っていたとしても、もうオレには効かないし飲んでみるか。仮に入っていた場合はここでこいつを始末してしまえばいい訳だし)

そう考えると七海は少しだけそれを飲んだ。

彼女は飲食物を摂取する必要はない身体になっていたが、摂取出来なくなった訳ではなく、味覚も消えた訳ではない。

(美味いな)

今まで弓の国の飲食物は(ことごと)く七海の口には合わず、港町でチーズや羊肉などが出される度に彼女はげんなりしていたが、これは今まで飲んだ茶の中でもトップクラスに美味かった。

七海が少し落ち着いたのを見るとタタールは

「数日前、貴女が我々の仲間に加わりたいという事を言っていた事と、僕と一度会って話がしたいと言っていたという連絡を港町から受けました。しかし、利の国の将軍殿が処刑直前我々に、軍の人間と貴女を船の国へと逃してやって欲しいと頼んで来たので、僕としては貴女を船の国へと逃して差し上げるのが彼への義だと考えております。我々と一緒に戦うよりも彼の言う通り船の国へと渡ってはいかがですか」

と、言葉を選びながら言った。特に、彼女は裏切りを嫌うとの事だったのでレナードと内通していた事を言う際は彼の名誉の為に注意を払っている。

しかし、彼女はそれには突っ込まず、

「船の国へと渡して頂ける事には感謝致しますが、それは利の国の王を倒してからにして頂けると有り難いです。それはさておき、今回貴方に会いに来たのは貴方に聞きたい事があったからです」

と言った。

「そういえば僕が信用に足る人物か判断したいとの事でしたね。聞きたい事とはそれに関係する事ですか?」

「はい、貴方はどのような王なのかが気になりまして」

「僕の目指す王は人と人を繋ぐ王ですよ。今は剣の国や貴女のいた利の国なんかと戦っていますが、本来我々はなるべく戦わないようにしつつ仲間の国を増やしていくという方針で領土を広げてきました。戦うにしても、会合に会合を重ねて国内の意識を相手国に向かせてから戦うようにしており、どちらにしても人の繋がりは重要になってきます。これらの事は物流網を拡げる為にも役立ってきました。まぁ、非才の身なので今回のように武力に頼りっぱなしになったり、会合が不十分なこともまだ多いのですが」

「という事は戦いの後は利の国もその仲間に加えるおつもりですか?」

「そうですね。利の国は平民が優秀だと聞いていますし、何もできないと言われている支配者層も大勢の人の役に立つような方であれば仲間に加えようと思っています。ただ王だけは何としても倒さねばなりません。彼にはヘイトが集まってますので人質には使えませんが、彼を倒す事で平民を纏める為の信頼が作り易くなる」

今の話を聞いて七海は

(少なくとも、利の国の王よりはマシなようだ)

と考え、

「質問に答えて頂き有難うございます。今の話を聞いてより一層、利の国国王を倒すお手伝いをしたいと思うようになりました。軍に加えて頂けなくとも、せめて同行させて頂いて王を倒す役割だけでもお任せ頂けませんでしょうか」

と言った。

タタールは悩んだ。王としては戦力の強化になるので参加を許可しても良かったが、レナードの友人としては彼女を戦闘に参加させず船の国まで送り届けてやりたかった為である。

「貴女を危険に晒したとなると、将軍殿に顔向け出来ません」

「私の事なら心配する必要はありません、不本意ながら不死の身体になってしまったので死のうと思っても死ぬ事は出来ませんよ」

そう言うと七海は立ち上がり、

「少しお借りします」

と言って近くにあった矢を手に取ると自らの顳顬(こめかみ)に突き刺した。あまりに彼女が躊躇いなく突き刺したのでタタールは止める暇がなかった。

普通なら死んでいてもおかしくないが七海は何事もなかったかのように矢を引き抜く。

「この通り致命傷でも問題なく生きているので、どうか私に王を倒させてください。王を倒さなければ私は後悔を残したまま生き続けなければならなくなる」

「…分かりました、利の国攻撃の際に城に潜入して王を叩くメンバーの中に貴女を加えさせていただきます。そうと決まれば貴女達は味方という事になるので軟禁を解きましょう。港町はまだ工事をしている途中なので貴女のお仲間にも協力して頂けると幸いです」

「ではその時が来るまで私は港町におりますので、出撃の際はよろしくお願いします」

そう言うと、七海はグラスの部下と共に港町に戻って行った。来た時とは違い鎖は付けていない。

今回も話し合いの後にサンサルがタタールの館に来た。

彼はアラクが持って来た蜂蜜酒を持って来ていたので、二人はそれを飲みながら魔法使いの事について語り始める。

「奴はダライを倒し、港町を半壊させた奴だが倒そうとは思わなかったのか?正直俺はここにいる間に暗殺する事を考慮に入れて、グラスの部下のアラクって奴にあの魔法使いの弱点になりそうなものは無いかどうか聞いていたぞ」

「ダライが彼女の魔法でやられた事は彼女と話している間も頭を離れなかったよ。ただ、彼女は向こうの王の命令を受けて港町を攻撃したという事をレナードから聞いているから彼女に対してはそこまで怒りが湧いてくるという事はなかったかな。それに、彼女は不死の身体を持っていて矢が頭に刺さっても死にはしないから暗殺しようと思ってもどうしようもないよ」

「不死だぁ!?それは聞いてなかったぞ、サンドラやらあの魔法使いやらのせいで最近女に会うのが怖くなってきたな…」

サンサルのその言葉を聞いて、タタールもその二人の顔を思い浮かべた。さらに、彼の場合はもう一人現実離れした女性に心当たりがあった為、その女性についても思い出していた。

(ここ最近は全然会っていないけど、彼女はどうしているんだろうか)

もうすぐ弓の国は冬になる為、あの河畔の付近も過ごし難くなる。

タタールはその事が少し気掛かりであった。

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