サンドラ
タタールは城から港町へ行く時は急ぎ気味であったが、船の国との交渉をダライに任せた結果余裕ができたため帰りはゆっくり帰った。
港町を出て二日目の昼間にサヨと出会った河畔周辺に到着した。タタールは薬の礼を言おうとサヨを探してみたが見つけることはできなかった。姿は見えないもののこの周辺にまだ滞在しているらしく、川には魚を捕らえるための仕掛けらしきものが沈めてあった。これ以上探そうにも他に手がかりになりそうな物もないため礼を言うのはまた今度にして再び城へ向かうことにした。
河畔を出発して数日後に城に到着した。タタールは本来なら船の国へ向かっているはずなので城に戻って来た時サンサルは少し驚いた様な顔をしたが、すぐに港で何があったか察して
「なるほどな」
と、言いそれ以上は言及しなかった。
「すぐに城の国に向かう。僕が留守の間は万事君の判断に任せるよ」
と、タタールは言ったが、
「俺が付いて行かなくて大丈夫か?現在城の国とはこれ以上ないくらいの友好関係を築いているが、正直俺は城の国が一番警戒が必要な国だと思っている」
と、サンサルは不安そうに言った。
城の国の国王は代々賢王が多いと云われており、現国王のサンドラも大陸一優秀な王だと噂される程の人物である。城の国と弓の国とは深い友好関係がある事は他国でも知られており、王であるタタールが直々に協力を要請しに行っても不自然とは思われないはずであるが、交渉力等の力量は自分やタタールよりサンドラの方が上であり、サンドラと会って話をすることによって気付かないうちに弓の国が城の国の傀儡になってしまっている可能性もあるとサンサルは考えた。
「僕が城にいなくても問題ないけど、君がいなくなってしまうといろいろと支障をきたすから僕だけで行くよ」
「だが、あそこの王は何を考えているか分からないところがあると聞く。せめてどこかの長と一緒に行った方がいいと思うんだが」
「彼等には辺堡と界壕の整備を任せているからすぐには無理じゃないかな」
一向に話が纏まらず二人は困り果ててしまった。
「なかなか話が纏まらねぇし少し休憩を取るか。落ち着いてから話したほうがいい案も出るかもしれねぇし」
と、サンサルが言い井戸から水を汲み飲み始めたため、タタールも気分転換をしようと天守から外に出て草原を眺めた。草原にはどこかの部族のゲルや野生の馬などが見える。少し視線をずらしてみると、城に一直線に向かってくる騎馬が見えた。
(ハルからの使者かな?)
と、タタールは思ったがよく見ると違うようだった。
タタールは天守に戻り、サンサルに使者が城に向かってくるという事を伝えると、使者を出迎えるために山麓に下りた。
使者はハルからではなくサンドラからであった。
使者が持って来た文書には、剣の国と貴国の関係が悪化したと聞いたため城の国も協力したいという旨が書かれており、さらに、話をするためそちらに向かうとも書かれていた。
タタールは、
(僕が他国への協力要請を慎重にやっていることを考慮してわざわざ向こうから来てくれるのかな)
と思い少し関心したが、サンサルは、
(どういうことだ?こちらに来るよりは向こうで待っていた方がサンドラは有利に話を進める事ができるはずだ)
と、困惑した。
使者が来てから九日後にサンドラが城に到着した。
サンドラは常に微笑を浮かべており穏やかな炎が燃えているような眼差しをしていた。
サンドラの顔を見てタタールとサンサルは一目で、
(これは大器だ)
と、判断したが、ボロ切れを身に纏っており奴隷のような姿をしていたため、城にいたほとんどの人間は
(これが城の国の女王か?)
と、虚をつかれる思いでいた。
タタールが最後にサンドラに会ったのは十年近く前で、先代国王が病死してタタールが王に就任した時であった。当時は十歳前後の物静かな少女で常に退屈そうな顔をしていたのがタタールの印象に残っていたが、久しぶりに会って、
(面白い成長をしたなぁ)
と、感慨に耽りつつ少し恐怖を抱いた。
タタールはこのままでは話しにくいと考えサンドラに着替える事を勧めると、サンドラは了承し、別室へ着替えに行った。
ただでさえ五日前にハルから交渉が決裂したという連絡が入ってタタールとサンサルは少し余裕が無くなっているというのに、サンドラから妙な先制攻撃を受けてしまったため二人は、
(こんな状態で、サンドラと話ができるのだろうか?)
と、思った。
ちなみに、交渉が決裂したとはいえ弓の国と剣の国はお互いにまだ目立った事はしておらず、やったことといえばせいぜい偵察の人数の増加や、国境の警備の強化ぐらいである。
サンドラが着替え終わったため、タタール、サンサル、サンドラで話し合い始めた。
「お久しぶりです、この度は大変な事になりましたね、我々も貴国になるべく協力したく存じます。ところでなぜ剣の国とここまで関係が悪化したのですか?以前は良くもなく悪くもないというような状態だったと思うのですが」
と、サンドラが聞いて来たが質問には答えず、
「ええ、僕もまさかこんな事になるとは思っていませんでした」
とだけタタールは答えた。
するとサンドラは、
「私達の他に協力要請している国はありますか?」
と、誤魔化されないように短く質問をして来た。
(言った方が良いのかな)
とタタールは少し考え、サンサルの方を見た。サンサルは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、
(任せる)
とジェスチャーでタタールに伝えている。
少し悩んだ結果タタールは、
「船の国へ使者を出しております」
と答えた。
「そうですか、でしたら我々も船の国と話しを合わせておきたいと存じます。今後の作戦で船の国との連携もあるかも知れませんしね。つきましては港の一画を我々に少しの間貸して頂ければと思うのですがいかがでしょうか。無論船はこちらで用意致しますし、剣の国との戦いが終われば港をお返し致しますが」
と、サンドラが言ったためサンサルは、
(この女、城の国と船の国との間にパイプを繋ぐ事が目的か)
と、思ったが最早断る事は出来なかった。サンドラは既に協力すると言ってしまっており、城の国に港を貸すよう提案しているのもその一環である。断ってしまった場合、城の国の協力は必要ないという事になってしまい、最悪の場合、これだけ貴国の事を考えて提案をしているのに断るとは何事か、などと言われ城の国が敵に回るという可能性も発生してしまう。
城の国と船の国は今は友達の友達という状態であり直接関わり合いがない。しかし、サンドラは船の国の技術力に目をつけておりなんとか船の国とのコンタクトをとりたいと思っていたため弓の国と剣の国の対立は絶好の機会であった。
(この際仕方がない、船の国と接点を持つ本当の目的が少し気になるが、ひとまず協力を得る事はできた)
と、サンサルは考えてタタールに、
(許可しろ)
と、ジェスチャーで伝えた。
タタールもサンドラの意図には気づいており、サンサルのジェスチャーを見た後もどうにかならないか少し考えていたが、結局
「分かりました港の一画を自由に使ってください」
と、答えた。
話し合いが終了しサンドラが帰った後サンサルは、
(こちらの余裕をなくすために、わざと交渉が決裂した後に来たんじゃねぇのかな)
と考え、サンドラに対して今までよりも一層恐怖心を抱いた。
一方、タタールは
(船の国が崩壊するかもしれないことを見越して、今のうちに船の国の技術を手に入れておこうとしているのであれば大した王様だな)
と、思った。
翌朝、タタールは港に向かう準備をした。昨日決まった事を伝えるだけなので、サンサルが使者を出せばいいだろうと言ったが、城からは各地に間者を出しているため人手が不足気味である。さらに、タタールはサヨにも礼を言い損ねているため自分で行く事にした。
以前港に行く際に乗った馬は調子が良くないようなので今回は別の馬を用意している。
タタールは馬に荷物を積み込むと港町へ向かって馬を駆けさせた。




