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ハルとエレル 2

オルトから連絡が入り、ハル達は剣の国の城へ向かった。

城へは二日で到着した。

城へ入るとハル達は大きめの部屋に通された。そこでハルは今まで着てきたボロボロの服を脱ぎ捨て、持って来ていた綺麗な服を着た。エレルも華美な衣装から普段着ている質素な服装に着替えようとしたところ、

「城にはなんとか入れたけど、なんとなく僕が長だという事は王以外にはまだ知られない方が良い気がするからそのままでいいよ」

と、ハルが言ったが、

「普段着ている服の上からこの装飾だらけの服を着れば問題ないだろう」

と、言い普段着へと着替え、上から今まで着ていた華美な衣装を着た。

しばらくして迎えの兵が来たため、ハルはエレルと二人の配下を連れて王の間へ向かった。

王は玉座で書類を作成していた。

ハル達が王の間に入ると書類を作成する手を止め、

「遠路はるばるよくぞ参られた」

と、言った。

「弓の国の国王の使いとして参りました、弓の国の東部をまとめているハルと申します」

と、予想外の者から声が上がったため王は少し驚いた。

「どんな要件があって剣の国まで参られた」

「実は今回、剣の国が鉄の国を陥落させたことについて王が激怒し鉄の国を返さなければタダでは済まないと申しておりましたので、事情を知っている私が穏便に済ませるため志願して使者として参りました。こちらが王からの文書です」

と、言ってハルは文書を渡したが、この文書はタタールが書いたものを参考にハルが書き直したものであるため実際にはタタールからの文書ではない。タタールはどちらかといえば善良な人物であるため、文章も相手を気遣った丁寧なものになっている。しかし、これでは激怒している印象を相手に与える事ができないため字体を殴り書きのように変更し、文章の内容を威圧的なものに変更している。

文書を見て王は、

「どうしたものか」

と、呟いた。

ハルは、

「現鉄の国の代官のチェスター殿は弓の国出身であり、王との面識もあります。鉄の国の代官が交渉すれば上手く事が運ぶかもしれませんし一度王の元にチェスター殿を派遣してみてはいかがでしょうか」

と言った。

この助言にも狙いがある。一見剣の国にもメリットがあるようにも思える助言だが、チェスターに似ている弓の国の人間はハルが知っているだけでも五人はいるため、サンサルが弓の国の城でチェスターを始末し自分の息のかかった似た人間を鉄の国に戻すだろうと考えた。さらに助言する事でハルに二心があると思わせ二重の間諜にでもなろうと考えた。実際に、王はこの子供の長は二心あるのではないかと一瞬考えたが、詐謀かもしれないと思い直し、

「助言は不要、自分で考える」

と、言った。

正直、王としては鉄の国など不要であり、返せるものなら返したかった。しかし、剣の国では、槍の国、棍の国を倒した事により大勢の国民が昂ぶっている。つい先日も、弓の国と講和を進めようとしていた大臣の一人が暴徒に殺されるという事件があったため講和などを結んでしまえば国内は内乱状態になりかねない。それならば、弓の国と戦って勝てば大量の食料と優秀な兵を獲得できるためそちらの方がいいかもしれない。

王は戦う事を決意し、ハルから受け取った文書をハル達の目の前で破り捨てた。

「分かりました」

と、ハルは言いエレル達を連れて王の間をあとにした。


ハル達が出て行った後、ハル達を城まで連れて来たオルトを呼び、

「奴らが国境を越える前に始末致せ、特にあの子供の長だけは確実に仕留めよ」

と、指示を出した。

オルトは、エレルが弓の国の使者だと思っていたため混乱し、

「子供の長とはどういうことでしょうか?あの一行の中にはエレルがおりました。あの中では彼が最も厄介ではありませんか?」

と、言った。

「使者はあの少年だ。おそらく子供ではまともに取り合ってもらえないと考え、自分は裏方に徹し、君との交渉をエレルにやらせたのだろう。あのハルと言う少年は、エレルどころかひょっとするとタタールやサンサルと同程度に警戒しなければならないかもしれぬ」

「私にはとてもその様には見えませんでしたが」

「確かに、あの少年は助言が唐突であったりと少々甘いところがある。しかし、問題なのは彼の若さだ。タタールやサンサルも二十代後半から三十代前半くらいのはずだから若いと言えば若いが、ハルの若さはそれを遥かに凌駕しておる。まだ十代の少年が、君を出し抜き、私を騙そうとしたと考えると警戒しないわけにはいかぬだろう」

オルトは納得し、

「委細承知致しました、彼等を始末致しましょう」

と、言い、

「実は城へ来る前に既に所々兵を配置しており、エレルの一行が城から帰る際、私と一緒でなければ攻撃しろと指示を出しております」

と、付け加えた。

「その兵は、リトネスから城の間に配置しておるのか?」

「はい」

「それでは足らぬな、槍の国に出たら逃げ切られてしまうかもしれぬ。追撃の兵を出されよ、城にいる兵も連れて行って構わんから奴らを必ず倒してくれ」

「承知致しました」

と、オルトは言い、王の間から退室した。


ハル達は追っ手が来る事を想定していたため、必要な荷物だけをまとめてすぐに出発した。

剣の国の将は治安の維持などのため各地へ出ていると城下で耳にしていたためひとまず安心してしていたが、地の利があるためか将がいないにもかかわらず追っ手は予想以上に速かった。さらに、所々で兵が待ち伏せており思うように進めずにいた。

ハル達は、追っ手に対しては背面騎射を駆使して逃げながら戦い、伏兵に対しては弓騎兵全員で一斉に矢を射掛け、伏兵が怯んだところを槍騎兵を先頭に突破するという方法で戦っていたが、()ちすぎて剣の国を抜ける前に矢がなくなりかけていた。敵の放った矢を使い回せれば問題なかったが、追っ手は騎射が出来ないため弓を使ってこず、伏兵は大臣オルトが用意した兵で弓の練度が低いためかクロスボウを装備している。そのため矢の補充が出来ず、戦い方も、倒した敵兵の槍や剣を奪って装備し、それを持って突撃するという単純な事しかできなくなっていった。

エレルは、華美な服を脱ぎそれに火をつけ、敵へ向かって投げつけながら、

「今、二つ思いついた。一つはどこか堅固な施設を乗っ取りそこで籠城する方法、もう一つはこちらも兵を点在させて追っ手や伏兵と戦わせる方法だ。ただ、籠城は後詰があってこその戦い方だし、剣の国を抜けてないから敵がどんどん増える可能性がある。二つ目の方法も置き去りにした兵は確実に戦死するし、兵を点在させる度にこちらの人員は欠ける事になるから守りも弱くなっていく」

と、言った。

「どちらも却下だよ、今ここにいる全員が助かる方法を考えている」

と、ハルは答えた。

ここまでの敵の攻撃でハル一行は二十人程にまで減っており、見知った顔がどんどん減っていく状況に慣れていなかったハルは先程から泣いていた。

提案は却下されたがエレルは不満そうな顔はせず、穏やかな顔をしている。

しばらくして、剣の国の宿駅に到着するとそこでも何人か伏兵がいたためクロスボウの弦を引く隙をついて槍や剣で攻撃した。

宿駅にいた伏兵を全滅させ、非戦闘員を脅してある程度逃がすと、

「ここに火を放って敵の進行を遅らせよう」

とエレルが提案したため、ハル達は散開しあちこちで火をつけた。

味方が散開してハルが一人になったところを見計らい、エレルはハルの背後からゆっくり近づいた。

エレルはハルに、

「お前は生き延びろ」

と、言い首を絞めて気絶させた。

エレルは散開していた味方を集め自分の考えた作戦を話し、ハルを一行の中で二番目に若いオルゴフという青年に引き渡した。

エレルの考えた作戦は、先程提案した二つ目の作戦に宿駅を放火するというものを加えたものだった。今まで倒して来た伏兵はリトネスの町で見た顔が多かったため、伏兵はオルトの兵である事にエレルは気付いており、リトネスの町を過ぎれば伏兵はいなくなると考えている。伏兵がいなくなれば槍の国へ入る事は容易であり、平地が多い槍の国へ入ってしまえば追っ手は弓の国の馬にはとてもついてこれないためリトネスを越えることを優先し、後者の作戦を選んだ。

話がまとまると、一行は宿駅を後にしリトネスの町へ向かった。

次の宿駅では三人が残り、その次の宿駅では四人残りというようにハル一行は徐々に人数が減っていった。

一行はやっとの思いでリトネスに到着したが、そこではオルトの屋敷がある町だけあって多数の敵兵が待ち受けていた。

(ここは俺が引き受けるしかないな)

と思ったエレルは、十人程の仲間と共にハル達を逃がすためリトネスに残った。

ただでさえ人数が少ない上に、城からリトネスまでの間ほぼ休憩を取らず馬上で食事をし、馬上で眠るということを繰り返していたため、エレル達は疲れきっておりまともに戦える状態ではない。

オルゴフは、

(今まで残ったものは恐らく死んだ、エレル殿もこれでは助からないだろう)

と、力になれない事に申し訳なさを感じながらリトネスをあとにした。

エレルの予想通りリトネスを過ぎてからは伏兵は現れず、追っ手も撒くことができたため無事に槍の国へ入れた。しかし、リトネスの時点では四人いた仲間が極度の疲労で一人死亡し、残った者はハル、オルゴフとアガールという若者だけになった。

一行は槍の国と、弓の国の中間あたりにある廃墟で休憩を取っていた。

ハルは疲れていたためかずっと眠っていたが、この休憩中に目を覚ました。

オルゴフはハルが気絶してからのことを説明すると、

「そうなんだ…」

と、だけ小さく呟いた。

三人は二日後に弓の国に到着した。

ハルは、城への使者を出し終わるとエレルのゲルに入った。

エレルのゲルには彼の愛刀が数本立て掛けられている。

エレルが最も大切にしていた剣は今回装備して行かなかったためゲルに立て掛けられていた。

ハルはその剣を抱えると泣き始め、しばらくして泣き疲れて剣を抱えたまま眠りについた。

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