第14話 町を守ろう、一緒に!
事務所の中で、翔太さんは片手を額に当て、目を閉じて何か考えているようだった。感知魔法で見ると、床の光は、薄暗い灯りがかすんでしまうほど強かった。
私たちは扉の隙間から、慎重に中へ潜り込んだ。事務所の床を踏むと、靴底越しにじんわりと熱が伝わってきた。私は光の真ん中に座っている翔太さんを見た。
翔太さん、あそこにまだ座っていられるんだ。さっきの放送も、翔太さんが流したんだろうな……それなら、あの買い物リストにあった……!
「ごめん……みんな……」
翔太さんはうつむいていて、顔は見えなかったけれど、涙が数滴、机の上に落ちた。もし……私もみんなを守れなかったら、翔太さんみたいになるのかな。
隣の悠斗と千晴ちゃんを見てから、もう一度翔太さんを見た。今は机に突っ伏して、うう、と泣き声を漏らしていた。こぶしをぎゅっと握り、ときどき机をたたいていた。
「翔太さん」
私は透明化マントのフードを下ろし、目の前の男の人を見た。
「七奈!」
フードをかぶせ直そうとする悠斗を止めて、ゆっくり翔太さんのそばへ歩いていった。耳元でもう一度、小さな声で名前を呼んだ。
翔太さんが顔を上げた。目は真っ赤で、白目もひどく充血していた。それを見て、悠斗と千晴もフードを下ろした。
「き……君たちは?」
「俺たちは――」
悠斗が答えかけたところで、私はそばへ寄り、悠斗を少し後ろに引っ張った。そして、目の前の翔太さんに笑いかけた。
悠斗が、私たちは学生だって言っちゃったら……今の翔太さんの様子だと……絶対に手伝わせてくれないよね。
「私たちは、噴出の問題を解決するために、魔法学院から派遣された魔法使いです!」
私は魔杖を呼び出し、星光の呪文を唱えて、胸の前にきらきら光る小さな星を一つ呼び出した。腕で隣の悠斗を軽くつついた。
「そうだよね、悠斗」
「え、うん。そうです」
「本当ですか? お金とか、つてとかは、いらないんですか?」
翔太さんは勢いよく立ち上がると、両手で私の腕をつかみ、私の目を見つめた。腕を通して、翔太さんの震えが伝わってきた……今は、本当に誰かの助けが必要なのかもしれない。
「いりません、いりません。でも、翔太さん、腕がちょっと痛いです……」
「あっ、すみません、すみません。失礼しました」
翔太さんは数歩下がり、私たちに深々と頭を下げた。
「ああ、そんなにかしこまらなくても」
悠斗は歩み寄り、翔太さんを支えて体を起こさせると、床を見下ろした。
「翔太さん、この噴出口について教えてもらえますか?」
「ああ、それは、あの年に坑道を開発していたとき、何人かの技師が――」
翔太さんが話している間に、天井から吊るされた灯りがぐらぐらと揺れ、床から何度か激しい揺れが伝わってきた。私は足元の床を見た。この何日か、作業員たちは……まさか。
「悠斗、早く翔太さんを外へ! 噴出が始まるよ!」
悠斗は足元をふらつかせながら、私と千晴を見た。翔太さんの手をつかみ、ローブから小さなほうきを一本取り出した。ほうきはローブから出た瞬間、普通のほうきと同じ大きさになった。
「わかった。七奈も千晴も気をつけて」
「うん!」
◇
私は千晴ちゃんが描いたほうきに乗り、悠斗について坑道の入口へ飛んだ。坑道の中では、ときどき頭上から岩が落ち、地面にぶつかって、どん、どんと大きな音を立てていた。
「七奈ちゃん、気をつけて」
「うん」
千晴は後ろに座り、両腕で私をぎゅっと抱きしめていた。頭も、私の頭にぴったりとくっついていた。岩が一つ、すぐ脇に落ちて、土ぼこりが舞い上がった。目の前が黄色くなって、何も見えなくなった。
「七奈ちゃん、手伝うよ」
千晴は私の腰から手を離し、ほうきを操る私の手を両手でつかんだ。千晴ちゃんが操ると、ほうきは少し高く飛んだ。地面を見下ろすと、落ちてきた岩がいくつか、もう割れていた。
「ありがとう、千晴ちゃん」
「しーっ。もうすぐ外に出られるよ」
千晴ちゃんの操縦で、私たちは坑道の入口から、砲弾みたいに飛び出した。
◇
坑道の外の空き地では、松本さんと作業員たちが、飛び出してきた私たちを見ていた。松本さんは眼鏡を押し上げ、翔太さんを指さした。
「翔太、やっぱりこの子たちは中で行方不明になっていたんだな。これでもまだ、何か言うことはあるのか!」
「松本、まずはみんなをここから離してくれ。坑道で噴出が起きるぞ」
空き地では、小さめの石がいくつか、かすかに震え始めていた。少し離れたところからは、制服姿の警察官が数人、手を振りながら空き地へ走ってきた。
背後で、甘い匂いのする、どろりとした果汁が、坑道の上からひと筋、雲に向かって一直線に噴き上がった。
「悠斗、先にみんなをここから離して」
悠斗は何も言わず、魔杖を手に取って、人々に疾行魔法をかけた。ローブを少し引っ張り、目の前の作業員たちを見た。
「みなさん、押し合わないで! 順番に避難してください!」
松本さんと作業員たちは、悠斗と警察官に誘導され、ほどなく空き地から遠ざかっていった。
私は目を細め、高く噴き上がる果汁を見た。熱気が顔に吹きつけてきて、吸い込む空気まで熱く感じた。
私は千晴の手を引いてほうきに乗り、町の上空へ飛んだ。空から町を見ると、何軒かの小さな家は、噴き出した果汁に溶かされて、もう屋根が半分残っているだけだった。
記憶を頼りに、佐藤さんのお店があるほうを見た。店の前では、小さく見える人たちが何人か、水鉄砲を手に、溶け崩れた一軒の家に水をかけていた。あの人、きっと佐藤さんだよね……。
また、佐藤さんの笑顔を思い出した。佐藤さんは、この町が少しずつ大きくなるのを見てきたんだ。こんなふうに壊されちゃったら、すごく悲しむだろうな……。
私は振り返って、飛び散り始めた果汁を見た。ほうきを握る手は、力を入れすぎて少し赤くなっていた。翔太さんは、きっと安全ゲートでこの町を守ろうとしてたんだ……私も、何かしなきゃ。
「七奈ちゃん」
「千晴ちゃん」
私と千晴は、同時にお互いの名前を呼んだ。千晴は画杖を手にしていた。風に吹かれた髪が、リボンみたいになびいていた。
「私……私、この町を守りたいんだ、千晴ちゃん」
「じゃあ、一緒に」
「うん!」




