第13話 噴出の前兆?
私たちは坑道の入口へ戻った。空き地に張られたテントから、何人かの作業員が出てきた。松本さんもメガホンを持って、テントの一つから出てきた。
道理で昨日、私たちが逃げたことに気づかなかったわけだ……まだ鉱山にいたんだね。早く何とかしなくちゃ。私はこぶしをぎゅっと握り、地面をどん、と強く踏んだ。
「悠斗、先に鉱山の中を見に行こう」
「うん……松本さんのことは、後回しでいいの?」
松本さんは人々の前に立ち、メガホンを高く掲げて、作業を止めろ、安全を守れ、といったことを叫んでいた。私の口元が、思わずぴくっと引きつった。
この人……一昨日の夜、坑道の入口でこっそり罠を使って私たちを捕まえたくせに。邪魔だとか何とか言って……本当に嫌な人。
「二人がけんかした理由がわかれば、自然と解決するんじゃないかな。それに、ふんっ。今は松本さんの顔なんて見たくないもん」
相談がまとまると、昨夜と同じように千晴ちゃんに扉を描いてもらい、そこから中へ潜り込んだ。魔法より……千晴ちゃんの描く絵のほうがきれいだもんね。えへへ。
坑道の中は、昨日よりずいぶん暑かった。足を踏み入れた途端、熱気に包まれた。まるでサウナの中にいるみたいだ。
「うーん……どこへ行けばいいかな」
周りの岩壁を見て、ようやく気がついた。噴出が起きるかもしれないことと関係があるってわかっても……どこから手をつければいいかわからないよ! いきなり翔太さんに聞きに行くわけにもいかないし。
「あのさ、七奈。まずは噴出口を探してみよう」
悠斗は地面から石を一つ拾って手に持ち、足元を軽く踏んだ。
「なんだか、地面がずっと揺れてる気がするんだ。ちょっと嫌な予感がする……」
足元の地面を見た。理科の先生が授業で話してた気がする……火山が噴火する前って、確か小さな揺れがあるんだよね。でも、足元の揺れはこんなに小さいんだし、作業員の人たちが鉱石をたたいてるせいじゃないかな。
「じゃあ、まずは噴出口を探そう」
可能性がどうとかよりも……私は目の前の悠斗と千晴を見た。もし、噴出の話が本当だったら。もし、私の判断が間違っていたせいで、みんながけがをしたら……私……そんなの、絶対にだめ。
透明化マントを身につけると、私たちは坑道の奥の作業場へ入っていった。
◇
坑道の深いところにある作業場へ入ると、作業員はまばらに残っているだけだった。岩壁には、もう大きめの鉱石が見当たらなかった。
翔太さん、もう鉱石を掘り尽くしちゃったのかな? マントのおかげで、私たちは作業場にこっそり近づくことができた。壁の石に触ってみると、つるはしでたたいたような跡も残っていた。
もう少し先へ行こうとしたところで、隣の悠斗が私と千晴を引っ張り、脇の隅へ連れていった。
「七奈、千晴。今日の坑道、何かおかしいと思わない?」
私は作業場のほうを振り返った。前に来たときは、作業員たちが一生懸命鉱石をたたいていたのに、今は二人のおじさんが、台車で散らばった鉱石を運んでいるだけだった。
「うん。昼間なのに、みんなどこへ行っちゃったんだろう。上で松本さんと一緒に抗議してるのかな」
「そうじゃないと思うよ、七奈ちゃん」
千晴はそばにしゃがみ込み、台車を押しているおじさんを指さした。
「それだったら、上にもああいう服のおじさんがたくさんいるはずだよ。でも、さっきはちらほらとしか見かけなかったもの」
「えっ、千晴ちゃん、すごい。探偵みたい」
悠斗は顎に手を当て、少し離れた岩壁を見た。それから、私たちを振り返って言った。
「それなら、なおさら噴出口を見つけなきゃ」
悠斗は私と千晴に、バッジを一つずつ渡した。そして魔杖を掲げ、私と千晴ちゃんに向かって「感知」と唱えた。魔杖の光が目に当たると、周りが少しだけ明るくなった気がした。
「これ、何の魔法なの? 悠斗」
「感知魔法。光の強さで、周りにどれくらい熱があるのかがわかるんだ」
私は目を細めて辺りを見た。どこもきらきらしている。これ、本当に目を悪くしないのかな? 眼鏡をかけるようになるのは嫌だな……。
「千晴は北側、七奈は南側。ほかは俺が探すよ。探し終わったら、作業場に集合。何かあったら、バッジのボタンを押せば連絡できるから」
「うん」
私と千晴はそれぞれ返事をして、坑道の別々のほうへ駆け出した。
◇
どのくらい歩いただろう。私たちはそれぞれの方向から、作業場へ戻ってきた。私は少し息を切らしながら、服を軽く引っ張った。タンクトップはもう汗で濡れているみたいで、少しべたべたしていた。
隣に座っている千晴と悠斗を見て、腕で額の汗を拭った。
「今……今、何時? 千晴ちゃん、悠斗」
悠斗はローブから、切り株みたいな時計を取り出した。私はその切り株に顔を寄せた。悠斗が魔杖でこつんとたたく。そこには、16:20と表示されていた。
「えっ、もう午後なの……さっき佐藤さんのお店を出たばかりなのに……私のジュース!」
飲み終わっていないあのジュースが、また頭に浮かんだ。あのとき、全部飲んでおけばよかった……。私はバッグからカップを取り出し、ふたを開けた。
「あー……あれ、もう飲んじゃってた?」
飲み口に顔を近づけて中をのぞいたけれど、水は一滴も残っていなかった。千晴もバッグからカップを取り出して中を見て、小さくため息をついた。
「私のも、さっき飲みきっちゃったみたい」
「うう……二人は見つけた? 私のほうには何もなかったよ……」
私は地面の土も気にせず、そのまま寝転がった。悠斗も千晴も、見つからなかったと言った。坑道中、くまなく探したのに……一体、噴出口はどこにあるんだろう?
目を閉じようとしたとき、作業場のスピーカーから声が流れてきた。
「坑道内の従業員は、三十分以内に坑道から出てください。中にとどまらないでください!」
私は体を起こし、作業場のスピーカーを見た。変だな。こんな時間に、翔太さんが作業員たちに坑道から出るように言うなんて……待って。
「まだ一か所、探してないところがあるよ。悠斗、千晴ちゃん」
私は立ち上がり、作業場のそばにある事務所を見た。
千晴ちゃんの手を引いて事務所のそばまで行き、扉を描いてもらった。後ろについてきた悠斗が言った。
「もうこんな時間だし、翔太さんもそろそろ――」
悠斗が言い終わらないうちに、私は千晴ちゃんの描いた扉を押し開けた。
手で目をかばいながら中を見ると、翔太さんは事務所に座っていた。床からは、強烈な光が放たれていた。




